△ 「時空の異邦人」シーン11


トップページ > ページシアター > 時空の異邦人 > シーン11 【公演データ

<前一覧次>

桃太郎、肩をおさえながらフラフラ出て来る。

桃太郎 「いててて…くっそお…」写真

犬吉、ざくろもふらふらと出て来る。

犬吉 「桃太郎さん!」
桃太郎 「おお、みな無事か?!」
犬吉 「あちこち打ちましたが、なんとか。」
ざくろ 「崖の下に川があってよかったのぉ」
犬吉 「桃太郎さん、その傷!」
桃太郎 「かすり傷じゃ。大事無い。吉山殿は?」

吉山も出て来る。

吉山 「僕も無事です。プロテクターのお陰で。」
ざくろ 「さて、いかがしたものか。」
桃太郎 「あじとは目の前じゃ。先を急ごう。」
吉山 「しかしさっきのやつら、我々の社に向かうって言ってました。」
犬吉 「なんじゃと?」
桃太郎 「犬吉、ざくろ殿、急ぎ戻られよ。」
ざくろ 「じゃが…」
桃太郎 「今向こうで奴らを迎え打てるのは大猿しかおらぬ。」
犬吉 「おきじは怪我をしとるしの。」
吉山 「瀬名さんも大林さんもイカズチを持っていますが、戦闘訓練点数低かったんだよなぁ…」
ざくろ 「じゃが、桃太郎さんも怪我を…。」
桃太郎 「かすり傷だと言っておる。それに、吉山殿もついておる。」

吉山、犬吉にインカムを渡す。

吉山 「これをお貸しします。」
犬吉 「これは?」
吉山 「ふもと辺りまで戻れば大林さんと話ができます。牙たちが向かっている事を知らせてあげて下さい。」
犬吉 「どう使うんじゃ?」
吉山 「これを耳にかけて、話す時はここを押して下さい。」
犬吉 「こうじゃな?」
吉山 「はい。」
ざくろ 「ここを上がればけもの道がありますじゃ。それを辿れば程なくあじとに着きますじゃ。」
桃太郎 「あいわかった。みなを頼んだぞ。」
犬吉 「御武運を。」

犬吉、ざくろ、走り去る。

桃太郎 「我らも参るぞ。」
吉山 「はい。」

2人が去ろうとした時、どこからか声か聞こえる。

「桃太郎…」
桃太郎 「なんじゃ?」
吉山 「いや,今のは僕じゃない。」
桃太郎 「え?じゃがここにはおぬししか…」
「桃太郎なのですね…」

桃太郎、刀を抜く。吉山は銃を抜く。

桃太郎 「何奴じゃ!姿を見せい!」写真
「そちの目の前の桃の木じゃ。」
桃太郎 「なんじゃと?」
吉山 「これは…テレパシー?でも桃の木って…」
桃太郎 「桃の木が我になんの用じゃ?」
「ほんに…ほんにそちなのじゃな?…ようやく…ようやく会う事ができた…」
桃太郎 「なんじゃ?ぬしはなんなのじゃ?」
「私は、そなたの母じゃ。」
桃太郎・吉山 「はぁ?!」
桃太郎 「今…母と申したか?」
「ええ。」
吉山 「ちょ…ちょ、ちょ、ちょっと待った!…桃太郎さん,まさか本当に桃から生まれたんですか?」
桃太郎 「なんじゃおぬし。うたごうておったのか?桃から生まれたのは本当じゃ。じゃが、母上が桃の木などとは…我はやはり…人間ではないのか?…」
「あんずるでない。そなたは人間じゃ。」
桃太郎 「じゃが、ぬしが母じゃと言うたではないか!」
「わたしも、元は人間だったのじゃ。」
桃太郎 「なんじゃと?」
吉山 「詳しく聞かせてもらえますか?」
「今から十と五つ程前のこと。私はそなたの父上と、七つになる娘と、山向こうの村で暮らしておった。」
桃太郎 「父上?我には父や姉もおったのか?!」
「そうじゃ。じゃがある日、私は牙たちにさらわれ、電光の元で「のちの目」という操り人形にされそうになったのじゃ。」
桃太郎 「のちの目?!母上ものちの目に?」
「じゃが、そなたの父上が私を奪い返しに参った。忍びの村で育った父上は電光達と渡り合い、私を連れてあじとを抜け出した。が、傷を負った父上はこの場所であやつらに追い詰められ殺されてしまったのじゃ。」
桃太郎 「なんと言う事じゃ…」
「父上の亡骸から離れようとせんかった私は、電光の妖術によって、ここに生えていた桃の木に取り込まれてしまったのじゃ。」
吉山 「そんなことって…」
「その時既にそなたを身ごもっていたわたしは、桃の実で十と二つの年の間育て、川に落としたのじゃ。」
吉山 「それでおばあさんに拾われた…」
桃太郎 「じゃが、いかがして我が名を知ったのじゃ?」
「そなたの姉上から聞きました。」
桃太郎 「姉上に?姉上はいずこじゃ?」
「ずっとそばにおる。」
桃太郎 「そばに?いったい誰じゃ?」
「そなたの姉上は、おきじじゃ。」
桃太郎 「おきじ?おきじが姉上じゃと?」
吉山 「おきじさんが…」
桃太郎 「なにゆえじゃ。なにゆえおきじは黙っとったんじゃ?」
「電光に悟られぬようにじゃ。そしてそなたを鍛え、共に仇をうとうとしておったのじゃ。」
桃太郎 「何ということじゃ…これは何と言うことじゃ!」
「にわかに信じられぬのも無理はない。じゃが、まことのことじゃ。」

吉山、足元に何かを見つけ、拾う。

吉山 「ちょっと待て!なんでこれがこんな所に?!」
桃太郎 「なんじゃ?」
吉山 「間違いない、次元エネルギー電池の残骸だ!」
「それはわたしが桃の木にされる時、電光が妖術とともに使ったものじゃ。」
吉山 「次元エネルギー電池を妖術に?」
「電光が化身を生み出す時に使っておった。化身と呼ばれる者達は、元は全て人間なんじゃ。」
吉山 「え?!」
「それを使って人間と他の生き物の魂を混ぜてしまうのじゃ。」
吉山 「この電池にそんな力が?」
「ううう…」
桃太郎 「いかがされた?」写真
「人間の意識でいられるのは一日のほんのひと時のみ。そろそろ時がのうなる。」
桃太郎 「母上!いかがすれば良いのじゃ?電光はいかにすれば倒せるのじゃ?」
「電光は山の神でも、もののけでもない。自身も化身じゃ。」
吉山 「電光も化身?」
「しかも狼ではない。狐の化身じゃ。」
桃太郎 「狐?」
「やつも元は人間。そなたなら必ず倒せる。」
桃太郎 「母上…」
「そなたに会えて…良かった…」
桃太郎 「母上?母上!」
吉山 「…確かに信じ難い…信じ難いけど、どんどん辻褄が合って来ている…」
桃太郎 「参るぞ、吉山殿。」
吉山 「桃太郎さん。」
桃太郎 「心情は由々しく変わり申したが、電光を倒さねばならん事は変わらぬ。」
吉山 「ええ。」
桃太郎 「参るぞ!」
吉山 「はい!」

2人、走り去る。

(作:松本仁也/写真:はらでぃ)

<前一覧次>


トップページ > ページシアター > 時空の異邦人 > シーン11 【公演データ