△ 「時空の異邦人」プロローグ


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暗転の中、ラジオのチューニングをいじるザッピング音とともに、様々なセリフが聞こえて来る。
照明も色々変わる。ある場所で音が落ち着く。照明は再び暗転。字幕とナレーション。写真

「『タイムトラベル』。人類の夢。数々の科学者達の様々な理論は、あたかもサイエンス・フィクション上のものであるかの様な時代が続いた。しかし2015年。突然天才になり一年以内に死ぬという奇病『ジニアス・シンドローム』に犯されたの2人の患者によって、その夢は実現されることとなった。研究開発は2人を中心に、国の最重要機密として進められたが、実験が開始されて間もなく、2人の命は尽きてしまった。プロジェクトチームはその意志を継ぎ、実験を続け…」

再びザッピング音になり、字幕もナレーションも消え、またある場所で落ち着く。童謡の『桃太郎』のピアノ・インストゥルメンタルが聞こえて来る。と同時に桃太郎のお話の語りが始まる。母親が幼い息子に読み聞かせをしている。(母、子供、声のみ)ゆっくり明転すると舞台上におじいさんとおばあさんがいる。

「むかしむかしあるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。」
子供 「むかしむかしって、どのくらいむかし?」

おじいさんおばあさん、子供の声に反応して芝居を止める。

「むかしむかしは…むかしむかしよ。」
子供 「あるところってどこ?」
「え、えっと、どこだっけ…あ、そう、確かあそこよ、岡山。」
子供 「おかやま?」
「そう、岡山。岡山県。」
子供 「おかやまけん?」
「そう。」
子供 「ふ〜ん。」

おじいさんおばあさん、うなづいて芝居に戻る。母,咳払いして語りに戻る。

「おじいさんは山に芝刈りに…」
子供 「おかやまけんってどこ?」

おじいさん、おばあさんまた止まる。

「え?えっと…あっちの方。」
子供 「あっちのほう?」
「そう、あっちの、遠くの方。」
子供 「と〜くのほぉ?」
「と〜くのほぉ。」
子供 「ふ〜ん。」

おじいさん、おばあさん、またうなづいて芝居に戻る。

「おじいさんは山へ芝刈りに。おばあさんは…」
子供 「三和とどっちが遠い?」

おじいさん、おばあさん、また止まる。さすがに怪訝な顔。桶を出そうとした黒子が慌てて戻る。

「え?何?三和?」
子供 「スーパー三和。」
「あぁ、スーパー三和…と、岡山?」
子供 「うん。」
「も、全然岡山。ずっとずっとず〜っと遠いから岡山。」
子供 「ふ〜ん。」

おじいさん、おばあさんまた芝居に戻る。黒子が桶を運んで来る。

「お婆さんは川に洗濯に行きました。すると川上から、大きな桃がドンブラコ〜ドンブラコ〜っと流れて来ました。」

黒子が、学芸会で使う様なダンボール製の大きな桃を運んで来る。

子供 「大き〜っ!」
「大きいねぇ。…ここは大丈夫?」
子供 「何が?」写真
「あ、大丈夫なんだ…じゃ,続き読むね。おばあさんは大きな桃をおうちに持って帰り、おじいさんと割ってみました。するとどうでしょう、桃の中から元気な男の子の赤ん坊(キューピー人形)が出て来たではありませんか。子供のいなかったおじいさんとお婆さんはたいそう喜び、この子を「桃太郎」と名付け、育てる事にしました。」
子供 「どうして桃から生まれたの?」
「やっぱり来たか…」

ムッとしたおばあさん包丁を構えて前に出ようとするが、おじいさんに抑えられる。

子供 「桃太郎は人間なの?」
「え?うん、多分…」
子供 「桃から生まれる人間っているの?」
「いないけど…」
子供 「桃人間なの?」
「も、桃人間…?」
子供 「岡山にはいるの?」
「岡山にもいないけど…これはほら、おとぎ話だから…」
子供 「おじいさんとおばあさんは何歳なの?」

おじいさん、おばあさん反応する。

「え?」
子供 「名前はなんていうの?」

おじいさん、おばあさん「あれ?名前なんだっけ?」的リアクション。

「ちょ、ちょっと待ってマー君…」
子供 「おばあさん洗濯ものどうしたの?」

おばあさん「あ!そう言えば!」的リアクション。黒子が急いで桶を片付ける。

「マー君?」
子供 「なんであれキューピーなの?」

おじいさん、おばあさん「おいおい、今度は小道具にダメ出しかよ。」的リアクション。

「マー君おちつこう。」
子供 「桃太郎はキューピーなの?」

おばあさん「もうやってられねーよ」的にふてくされて座り、おじいさんがなだめる。

「マー君。」
子供 「ねぇどうして?」
「マー君。」
子供 「どうして?」
「マー君。」
子供 「どうして…」

親子の会話はザッピングの中に消えて行く。元の画面に戻る。照明もゆっくり暗転する。字幕とナレーション。

「…2019年、『時空移動システム』はその移動に必要な『次元エネルギー電池』ともに完成。東京八王子の某所に秘密裏に作られた施設で実験が繰り返され、物体実験、動物実験も成功。しかし、人間を乗せる試作機の実験中、科学者の一人が錯乱し事故が発生。錯乱した科学者は事故に巻き込まれ死亡。試作機は『次元エネルギー電池』とその作成データと共に過去に飛ばされてしまった。」

スポットがともり、筒井が登場。

筒井 「大変な事故でした。これがその『次元エネルギー電池』。これが無ければ時空移動は不可能。ところが100本作られたこの電池のうちの95本と、電池の原理や作成方法データを納めた『ボックス』と呼ばれるケースが、試作機と共に過去に飛ばされてしまったのです。開発者にまた作らせればいい?いえ、それは不可能。なぜならこの電池はたった一人の天才科学者によって作られた物。そしてその科学者が、その事故を起こして死んだ本人なのですから。」写真
深町 「彼女は筒井チーフ。この実験の責任者。過去に飛ばされた電池とデータを取り戻すために、サルベージ作戦を計画。この計画を実行すべく、元々は『時空調査団』として秘密裏に集められていた学者や技術者の中から急遽五人が集められ、チーム『サルベージ・ワン』が結成された。」
大林 「彼は深町、生物学者で調査団の一員だが、残念ながら先行の『サルベージ・ワン』のメンバーからはもれ、『サルベージ・ツー』のメンバーとなった。ま、我々がしくじった場合の予備のチームってわけです。」
朝倉 「彼は大林。『サルベージ・ワン』のエンジニア。で、俺と隣のこいつは現役の特殊部隊の隊員。残された電池は5本。一回の時空移動に1本、往復での電池が2本必要。最大でも往復は2回しか出来ない。」
津田 「絶対に失敗の許されないミッションです。一応こちらが隊長の朝倉。ぼくが副隊長の津田です。過去の世界がどんな状況でも、必ず『ボックス』を回収し、みんなの命も僕らが守ります。」
瀬名 「過去と言っても移動できるのは500年以上前。それより現在に近い過去にはなぜか時空が通じない。はっきりした理由は不明だけど、多分過去に行った我々が何か未来に干渉する様な事をしでかしても、それを修正できるタイムラインが500年なんじゃないかって、あ、これ僕の説ね。」
吉山 「彼は医学者の瀬名さん。実は時空移動の理論を実現させたのは、彼のお父さんと僕の父。瀬名さんのお父さんは天才病で『精神や魂』を解明する能力者になり、僕の父は『時空移動』理論を確立させる能力者になりました。2人は、それまで絵空事だった時空移動を『科学とオカルトとの融合』と言うまさかのコラボで実現させてしまったんです。僕は吉山一樹。『サルベージ・ワン』のメンバーに選ばれた歴史学者です。」
深町 「かずき!」
吉山 「深町!」
深町 「いよいよだな。」
吉山 「ああ。でも、本当はお前の方が…」
深町 「厳選された面子だよ。お前のサイコ数値はズバ抜けて高いし。それに、親父さんの生み出したシステムだもんな。」
吉山 「ああ、すまない。」
深町 「別に今から代わってやってもいいけど。」
吉山 「いや、それは…」
深町 「ははは、冗談冗談。とにかく無事に帰って来いよ。何かあったら我々『サルベージ・ツー』が助けに行くから。」
朝倉 「そうならないために一年も訓練して来たんだ。」
深町 「朝倉隊長。」
朝倉 「なんだかんだ言って吉山もたくましくなったもんだ。」
吉山 「おかげさまで。」
津田 「歴史学者にしちゃ良く頑張ったよ。そっちの医者とエンジニアに比べればね。」
大林・瀬名 「すみません。」
間宮 「システム・オール・スタンバイ。スタートできます。」
筒井 「定刻通りね。皆さんなら必ず『ボックス』を回収し、無事に戻ってくると信じています。宜しくお願いしますね。」
隊員全員 「はい!」

『サルベージ・ワン』の隊員、一人一人チーフと握手して配置に付く。最後の吉山は深町と目が合い深町のグーに合わせて吉山もグー。
筒井に促され深町オペレーション・ルームへ。

筒井 「定刻通りフタマルサンマル、ゴー・オン」
間宮 「フタマルサンマル、ゴー・オン」
朝倉 「フタマルサンマル、ゴー・オン了解。」
筒井 「エネルギー・ドライブ・オン」
早坂 「エネルギー・ドライブ・オン」

タイムマシンのエンジンが機動。

大林 「ドライブ・オン・チェック」写真

吉山、胸元からお守りを取り出しにぎる。

朝倉 「お守りか?」
吉山 「はい。」
津田 「心配すんな、ちゃんと守ってやるから。」
吉山 「はい。」
大林 「システム・ゲージ・オール・クリア」
間宮 「システム・ゲージ・オール・クリア・チェック」
瀬名 「サイコ・メディカル・バリュー・オール・クリア」
早坂 「サイコ・メディカル・バリュー・オール・クリア・チェック」
間宮 「カウント・マイナス・エイト・セブン・シックス・ファイヴ、フォー・スリー・トゥー・ワン」
筒井 「ゴー・オン」
朝倉 「ゴー・オン」

凄まじい光と音と共に『サルベージ・ワン』が消える。

間宮 「『サルベージ・ワン』ドライブ・ダウン」
深町 「成功ですね!」
筒井 「1分後にちゃんと戻ってくればね。」
早坂 「サーチング・ドライブスタート」
深町 「チーフ、戻って来るまでここにいても…」
筒井 「いいけど、『サルベージ・ツー』のみんなは?」
深町 「万が一に備えて自主トレしてます。」
筒井 「深町くんだけサボって来た訳だ。」
深町 「必要ないですよ。無事に戻って来ますから。」
筒井 「吉山くんとは…」
深町 「幼稚園からの腐れ縁です。」
筒井 「ライバル関係?」
深町 「でもあるけど、なんていうか、兄弟みたいな…」
筒井 「兄弟ねぇ。」
深町 「お互い一人っ子だったし。でもほんと、かずきが先行チームに選ばれて良かった。」
筒井 「堅い友情だ。」
深町 「でもちょっと羨ましいです。」
筒井 「お、ちょっと柔らかくなった。」
深町 「アルデンテくらいです。」
筒井 「ちょうどいい。」

深町、筒井、目が合って笑う。そこに突然アラーム音。

筒井 「どうしました?」
間宮 「ドライブシステムに異常反応!」
筒井 「なんですって?!」
深町 「もうすぐ1分ですよ!」
早坂 「誤差30秒以内に帰って来なければ緊急事態です!」
間宮 「1分経過!」
深町 「30秒過ぎたら…」
筒井 「自力での帰還は不可能。」
早坂 「異常箇所判明!エネルギー・システムです。」
筒井 「そんなばかな!一番多くチェックしている場所じゃない!」
早坂 「ですが間違いありません!」
間宮 「残り20秒!」
筒井 「今まで一度もこんな事…」
早坂 「サイコ・メディカル・バリュー、反応消えました!」
深町 「そんな…」
早坂 「ドライブシステム反応もです!」写真
筒井 「サーチング・ドライブは?!」
早坂 「まだ生きています!」
間宮 「残り10秒!9、8、7、…」
深町 「かずき!」
間宮 「6、5、4、3…」
筒井 「だめか…」
間宮 「2、1」
早坂 「ノー・リターン…エマージェンシー。」
間宮 「エマージェンシー。」
筒井 「深町くん、すぐに『サルベージ・ツー』を呼んで。」

深町、呆然としている。

筒井 「深町くん!」
深町 「かずき…」

暗転。映像。オープニング・タイトル『不等辺さんかく劇団プロデュース公演』『時空の異邦人』

(作:松本仁也/写真:はらでぃ)

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