△ 「ヴァンパイア・ブリード」シーン13


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字幕『鬼太朗の記憶 1944年5月 南太平洋 ニューブリテン島 ズンゲン』
明転。暗い戦場のジャングル。けたたましい銃や爆音の音。一人の日本兵が飛び出して来る。

武良 「中隊長!中隊長!まずいなぁ…津田ぁ!小嶋ぁ!みんなどこだぁ!…山田ぁ!あぁ…もうダメだ…みんなとはぐれた…もう進めない…」写真

武良、舞台の隅っこにへたり込む。水筒の水を飲もうとするが水がない。

武良 「あぁ、…我が強運も尽きにけり…ボクはこんな所で死ぬのか…人知れず骨になるのか…あぁ、死ぬ前にたらふく白い飯…くいたかったなぁ…」

外から声。武良、慌てて隠れる。

鬼太朗 「こっちです!」

鬼太朗を先頭に、時止めが疾風を引っ張って入って来る。

鬼太朗 「ここなら大丈夫そうです。」
疾風 「離せ!まだ予定の半分も来てないんだぞ!休んでる暇はない!」
時止め 「無理だ、外はもう日が射し始めている。」
疾風 「俺はまだ行ける!。」
時止め 「逆だ!お前だけはもう行けない。ヴァンパイアだからな。」

武良、驚愕するが声を抑える。

鬼太朗 「そのためにボクたち妖怪を雇ったんだろ?」
疾風 「人間を殺せないお前達を雇ったのは失敗だった。」
鬼太朗 「ボクたちの妖術のお陰でここまで来れたくせに。」
時止め 「悪いがお前にも人間を殺させない。それが条件だからな。」
疾風 「くそっ。忌々しい。」
時止め 「とにかく、バイエンの仲間の船は沈められた。危険だがラバウルに戻って船を盗むしかない。」
鬼太朗 「いっそその剣を僕らに預けてくれれば、昼間のうちに島から出してやるのに。」
疾風 「断る。」
鬼太朗 「頑固だなぁ。」
疾風 「時止め、鬼太朗、お前らは妖怪だからそんなのんきな事が言えるんだ!ヴァルドルの剣が日本軍に渡ったら、ヴァンパイアがどんな目にあうかわかるだろ?」
時止め 「日本のヴァンパイアはみんな、日本軍の兵器として使われちまう。」
疾風 「やっとの想いでヒットラーに渡るのを阻止したんだ!そのために何人の仲間が死んだと思う?ここで日本軍に奪われたら、死んだ仲間達に申し訳がたたない!」
鬼太朗 「だからもっとボクたちを信用してくれよ。」
疾風 「絶対に渡さん。」写真

武良、物音をたててしまう。鬼太朗達警戒し、武良の隠れている方へ。

鬼太朗 「誰だ?」

武良、たまらず飛び出し、銃を向ける。

武良 「く、来るな!」
疾風 「追っ手か?」
時止め 「違うな。」
鬼太朗 「お前、誰だ?」
武良 「ぼ、ぼくは、歩兵第二二九連隊第二中隊。武良二等兵だ!」
時止め 「奴らとは関係ない。普通の兵隊だ。」
武良 「貴様こそ何者だ!妖怪とかヴァンパイアとか、いったい何の話しをしていた?!」
疾風 「聞いてやがったな…」
武良 「スパイだな?!スパイなんだろ?」
疾風 「面倒だな、始末してやる!」
鬼太朗 「やめろ!」
武良 「うわっ!」

武良、驚いて引き金を引く。銃弾が鬼太朗の後頭部に当たり、鬼太朗ぶっ倒れる。

武良 「…き、急に出て来るからだ!お、お前らもこいつみたいになりたくなかったら…」

鬼太朗、飛び起きる。

鬼太朗 「痛ったいよ!!」
武良 「うわぁああ!!」

武良、腰を抜かす。

疾風 「こいつを生かしておいたら俺たちの作戦が奴らにバレるぞ。」
鬼太朗 「バレる前に脱出すればいい。」
疾風 「万が一ばれて剣が奴らに渡ったら、結局お前達も困るんじゃないのか?」
鬼太朗 「え?」
疾風 「日本軍がヴァンパイアを兵器にしたら、間違いなく戦争が長引く。その分大量に人が死ぬぞ。」
鬼太朗 「だから協力してるんじゃないか!それにこいつを殺す理由にならない。」
疾風 「だが生かしておけば…」
時止め 「人間を殺さないことが条件だ!」
疾風 「状況が変わったんだよ!」

話を聞いていた武良、急に立ち上がる。

武良 「しゃべりません!」
鬼太朗 「え?」
武良 「ぼく、このこと、しゃべりません!」
疾風 「信用できると思ってんのか?」
武良 「しゃべらなければ、みなさん助かるんですよね?戦争を長引かせずにすむんですよね?」
時止め 「…ああ。」
武良 「なら死んでもしゃべりません!」
時止め 「…ありがとう、武良くん。」
疾風 「おいおい、信じる気か?」
鬼太朗 「こいつはウソをつかない。それぐらい目を見りゃわかるだろ。」

疾風、納得いかないまま、舞台奥に行き、背を向ける。

武良 「正直、日本が勝とうが負けようがどうでもいい!こんな戦争が終わってくれるならもうなんでもいい!」

疾風、奥にあった大きな布を発見し、それを被り、気付かれない様にこっそり出て行く。

武良 「一日でも早く、うちに帰って、腹一杯飯が食えるなら…それでいいんだ…」
鬼太朗 「…あれ?」
時止め 「どうした?」
鬼太朗 「疾風がいない。」
時止め 「何?…まさかあいつ!」

鬼太朗、時止め、疾風を追う。

武良 「あ、あの?」
鬼太朗 「君はここにいろ!」
武良 「え?…いられないよこんなとこ!」

武良も飛び出し、暗転。激しい爆発音が響く。しばらくして明転。全員元の洞窟に倒れている。

疾風 「ううっ…いってぇ…どうなったんだおれ?…ここは…元の洞窟じゃねぇか…」

起き上がり、辺りをうかがう。

疾風 「みんな…寝てんのか?」

疾風、一番奥に武良が寝ているのを見つけ、拳銃を取り出す。武良、寝言。

武良 「んんあぁ…腹が減ったぁぁぁ…」
疾風 「ふっ。大丈夫。もう二度と、腹の減らない世界に送ってやる。」

疾風、武良に銃口を向ける。

時止め 「やめとけ。」
疾風 「…とめるな。」
時止め 「命の恩人を殺すのか?」
疾風 「何?」
鬼太朗 「いててて…覚えてないのか疾風?」
疾風 「何の事だ?」
時止め 「お前、ここ出て一キロ先で、砲弾の直撃くらってバラバラだったんだぞ。」
疾風 「え?」
鬼太朗 「近くにいたボクと時止めも、巻き添えくって身動き取れなかったんだ。」
時止め 「それをこいつ一人で全員ここまで運んだんだ。まずはお前から。日が当たらない様に袋に入れてな。」
鬼太朗 「半日かけて、命がけの往復を何度も。自分は栄養失調寸前って体なのに。」

武良、また寝言。

武良 「んんあぁ…バナナ…バナナ下さ〜い…」
疾風 「こいつが…そんなまねを…」写真
時止め 「確かに人間は愚かな生き物だ。だが、そう捨てたもんじゃないだろ。」
疾風 「ふっ。…そうかもな。」
鬼太朗 「日没の時間だ。動けるか?」
疾風 「ああ、なんとか。」
時止め 「よし、行こう。」
疾風 「ちょっと待て。」
時止め 「ん?」

疾風、荷物から筒状の箱を出す。

疾風 「お前、これ預かってくれないか?」
時止め 「何だこれは?」
疾風 「こいつもヴァンパイアにとっては危険な物だ。本当は仲間のヴァンパイアに預けたいんだが、俺の周りには信頼できるやつがいなくてな。」

疾風、時止めと目をあわせニヤリと笑う。時止めも理解し、ニヤリと笑う。

時止め 「わかった。…さ、急ごう。」

時止め、受け取り、去る。疾風、武良を見るが、無言で去る。

鬼太朗 「生きて帰れよ。」

鬼太朗、去る。疾風が戻って来て武良の傍らにバナナの房を置いて再び去る。
武良、目を覚ます。

武良 「あいてて…あれ?…みんなは?…そうか夢か…面白い夢だったなぁ…時止め、疾風、鬼太朗…のんのん婆の話とちょっと違ったな。…あれ?」

武良、傍らのバナナに気付く。ハッとして辺りを見回し、納得する。

武良 「はは…ははは!」

笑い声を残して暗転。

(作:松本仁也/写真:はらでぃ)

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