△ 「トワの宇宙」シーン3


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映像と字幕。
木星 ガリレオ衛星『ガニメデ』宙域
地球軍アカツカ艦隊6番艦『ジュウシマツ』休憩ホール
薄暗い照明。艦内放送が入る中、ゾロゾロと人影が入って来る。艦内放送

パティ 「アテンション。艦長から全乗組員。アテンション。艦長から全乗組員。」
スマート 「艦長のスマートだ。本艦隊は予定通りガニメデの軌道に到着。小惑星クラーケンの影に潜伏中だ。降下殲滅作戦まで残り四時間。これより、二時間後の集合まで休息だ。しっかり取っておくように。以上。」

神白満二等兵(シンプ)、上手に座っている。そこにマサオ・クラウド初等兵通りかかる。

クラウド 「あの、すみません。ここ休憩ホールですよね?」写真
シンプ 「ええ。」
クラウド 「あ〜よかった。僕、方向音痴でね。」
シンプ 「はあ。」
クラウド 「それにしても広すぎですよねこの戦艦。全長1キロでしたっけ?…あれ?」
シンプ 「はい?」

クラウド、シンプの顔をじっとみる。

クラウド 「あなた確か、乗船する時の列で僕の前にいた!」
シンプ 「あぁ、ええ…」
クラウド 「うわ、奇遇だなぁ!だってこの戦艦だけで一万人近く兵隊乗ってんですよ!なのに、たまたま声かけたのがあなただなんて、これ、絶対なんか神様の思し召しですよ!どの神様かなぁ〜。」

クラウド、ぶら下げている沢山お守りや開運グッズを触る。

クラウド 「あ、これね、お守りなんです。」
シンプ 「全部ですか?」
クラウド 「いや、開運グッズとか色々。」
シンプ 「はあ。」

山田泰雄上等兵、キョロキョロしながら入って来て、クラウドとシンプの様子を伺う。

クラウド 「いやね、僕、無理矢理戦場送りになったんですよ。実は本職は小説家でしてね。ま、頭に『売れない』が付きますけど。最前線で取材して来れば、高額の手当てと、小説の仕事が貰えるってんで仕方なく…。でもやっぱり死ぬのは怖いじゃないですか。で、いつの間にか開運グッズコレクターになっちゃって。あ、良かったらお一つ差し上げますよ。」
シンプ 「え、いや、結構です。」
クラウド 「いや、遠慮なさらずに。」
シンプ 「いえ、ほんとに…。」
クラウド 「あ、これは駄目ですよ。これね、バージニアの僕の婆ちゃんがくれたお守りなんです。これホント凄いんですよ。受験とかコンクールとか、これを持ってれば全て合格!入選!さすがにこいつはやれないなぁ。」
シンプ 「いや、いりませんて…。」
クラウド 「あ、すいませんベラベラと。私、ブラウニー隊初等兵のマサオ・クラウドと申します。」
シンプ 「バジリスク隊二等兵の神白満です。」
クラウド 「実は私、今回が初陣でして。神白さんは?」
シンプ 「私は…」

山田、割って入る。

山田 「宇宙食に飽き飽きしていませんか?」
クラウド 「…は?」
山田 「ちょっとこれ食べてみてみて。」

山田、小さなパンの様な物を配る。

クラウド 「何ですかこれ?」
山田 「パンケーキです。」
シンプド 「あ、おいしい。」
山田 「でしょ!」
クラウド 「本当だうまい!」
山田 「これね、実は食材がいいんじゃなくて、これがいいんです。」

山田、フライパンを出す。

クラウド 「フライパン?」
山田 「そう!このグリップのボタンを押すと、空気中のプラズマを集めてあっという間に加熱できちゃう、キッチンいらずのプラズマフライパン!」
クラウド 「すごい。」
山田 「そしてこの素材!なんと特殊アルム合金製!この戦艦のボディーにも使われてるんですよ!(声を変え)え〜っ?それじゃお高いんでしょ?(声を戻し)お任せ下さい!今ならなんと、こちらのミニパンも付けてジャスト一万ユニブ!一万ユニブでご奉仕させて頂きます!」
シンプ 「セールスマン?」
山田 「いえいえ。私、バイラス隊上等兵の山田と申します。実は実家がこれの製造会社でして。休憩時間に皆さんにご紹介してまわってるんです。」
クラウド 「これから戦場に向かう人達に、フライパンって…」
山田 「いえいえ、皆さんにじゃなくて、皆さんのご家族にプレゼントしてあげてほしいんです。『帰ったら、これで作った料理を食べさせてくれ』ってね。なかなかいいでしょ?」
クラウド 「ええ、まぁ…」
山田 「どうですか一つ。バージニアのお婆ちゃんに。」
クラウド 「え?!どうして婆ちゃんのこと…」
山田 「立ち聞きです。」
クラウド 「立ち聞きね。」
山田 「送り先のアドレスさえ教えて頂ければ、あなたのメッセージ付きでお届けしますよ!」
クラウド 「あ…いえ…やっぱりけっこうです。」
山田 「あら…そうですか…。(行こうとするが踵を返し)じゃ、ミニパンもう一つお付け…」
クラウド 「けっこうです。」
山田 「…あ、そうですか。それは残念…。では、またの機会に。(さりながら)え〜っ、開運フライパンいかがっすかぁ〜っ。」
クラウド 「一つ下さいっ!!」
山田 「まいどっ!!」
シンプ 「立ち聞きだ…」

舞台中央。ランゼ、ミキが座ってモバイルをいじっている。スーザンはその前をうろうろ。

スー 「こんだけ人がいるのに、見つからないもんよねぇ、いい男。」写真
ミキ 「全然つながらない…。」
スー 「例の彼氏?」
ミキ 「ええ。」
スー 「この船に乗ってんでしょ?」
ミキ 「ええ。でも一昨日からパッタリ…」
ランゼ 「ミキちゃん!スーちゃん!ちょっと見て見て!凄いのハックしちゃった!」
スー 「なになに?」
ランゼ 「『6番艦じゅうしまつ。奴は必ずこの船に乗っている。』」
スー 「え?これって例の?」
ミキ 「『怪盗ルパン十三世』を追ってる『刑事ハマー』のメモ?」
ランゼ 「ビンゴ〜!」
スー 「うそぉ!よくハックできたじゃん!」
ミキ 「さすがハッキング・クイーン。」
ランゼ 「ランゼ天才!〜」
スー 「ちょっと待って。じゃぁルパンもハマーもこの船に乗ってるってこと?!」
ミキ 「この船って事は、この中にいるかもね。」
ランゼ 「ルパン様がすぐ近くにいるなんてぇ〜〜」
スー 「あれ?ランゼ、ルパン派?」
ランゼ 「うん〜え?スーちゃんは?」
スー 「あたしハマー派。」
ランゼ 「うそぉ!ミキちゃんは?」
ミキ 「両方派。」
ランゼ 「え〜っ。ゆ〜じゅ〜ふだ〜ん。」
スー 「違うって。ミキはダーリン一途なんだよねぇ〜っ!」
ミキ 「やめてよもぉ〜っ!」

3人娘がじゃれてる所に、山田が入って来る。

山田 「そこのカワイイお嬢さんたつうぃ〜。」
三人娘 「いりませ〜ん!」
山田 「…え?…いや…あの、お話だけでも…」

三人娘、山田に銃を向ける。

山田 「はい、どぉもぉ〜っ!」

山田、そそくさと立ち去る。

ミキ 「あいつかもよ。」
スー 「え〜っ。」
ランゼ 「イメージじゃ無ぁい。」
ミキ 「ルパンもハマーも変装の名人じゃない。」
スー・ラン 「でもあいつは無い。」

山田、座っている小嶋上等兵の近くへ。

山田 「くそぉ…売れねえなぁ…」
小嶋 「おい、フライパン屋。」
山田 「はい、まいどっ!…(小嶋だと気付き)てめっ!小嶋!」
小嶋 「まだやってんのか、そんなクソみてぇな商売。」
山田 「フッ。またてめぇと同じ船とはな。」
小嶋 「こんなとこでまでセールスかよ。頭おかしいんじゃねぇ?」
山田 「うるせえ!ちゃんと許可取ってんだよ!」

二人の様子を三人娘が観察している。

スー 「あっちの細いのは?」
ランゼ 「小嶋靖士上等兵。コジマ・ウエポンの御曹司。」
ミキ 「兵器会社のボンボンか。」
スー 「フライパンは?」
ランゼ 「山田泰雄上等兵。ヤマダ・キッチンの一人息子。」
ミキ 「ヤマダ・キッチン?」
ランゼ 「リサイクル素材のキッチン用品屋さんみたい。」
ミキ 「小嶋は素性が知られ過ぎてるわね。」
スー 「山田泰雄ってなんかルパン臭い名前じゃない?」
小嶋 「そんな口きいていいのかぁ?」写真
山田 「なにぃ?」
小嶋 「そのフライパン。うちの廃品あさって材料にしてんだろ。」
山田 「てめぇんとこは売ったもんの責任負わねえからな。宇宙をゴミだらけにしないようにうちらが拾って使ってやってんだよ。」
小嶋 「結局うちの製品のお蔭で飯食ってんだろうが。」
山田 「立派なリサイクル産業だ!無責任なてめぇんとこの尻拭いしてやってんだよ!」
小嶋 「元はカブトムシの養殖屋じゃねえか! うちが兵器会社始めたとたん、おこぼれもらう会社になったくせによぉ!」

ライアン大佐、フォックス中尉、ブルース中尉、入って来る。

山田 「カブトムシが絶滅危惧種になって商売できなくなったからだろうが!てめぇんとこだって元は殺虫剤屋じゃねぇか!ジニアスだった爺さんのお蔭で飯食ってんだろ?てめぇ自身には何の才能もないくせによぉ!」
小嶋 「何だとこらぁ!」
山田 「何だ、やんのかこらぁ!」
小嶋 「やんならやんぞこらぁ!」
山田 「表出ろこらぁ!」
小嶋 「望むところだこらぁ!」

二人、ハケるがすぐに戻って来る。

山田・小嶋 「表は宇宙空間だこらぁ!」
山田 「出たら即死だこらぁ!」
小嶋 「危なく出るとこだったぞこらぁ!」
ミキ 「どぉよ?」
スー・ラン 「どっちも無し。」
ライアン 「出撃前に漫才の練習か?」
山田 「何だとこらぁ!…」

山田、小嶋、ライアンに気付き敬礼。

山田・小嶋 「失礼致しました!」
ランゼ 「あ!あれライアン大佐だよっ!」
ミキ 「えっ?!」
スー 「うそ!あの人が『火星のライオン』? 初めて生で見たぁ!」
ランゼ 「ランゼもぉ〜!」

ミキ、こっそり退室しようとしている。

スー 「どこ行くのミキ?」
ミキ 「え?あ…トイレ。」

ミキ、退室。

ライアン 「所属部隊と名前と階級は?」写真
山田 「はっ!バイラス隊、山田泰雄上等兵であります!」
小嶋 「イリス隊、小嶋靖士上等兵であります!」
ライアン 「威勢の良さは兵士にとって重要な要素だ。だが、そのエネルギーは戦場で使うべきではないのか?」
山田・小嶋 「イエッサー!」
ライアン 「山田上等兵。」
山田 「はっ!」
ライアン 「ここはどこだ?」
山田 「はっ!休憩ホールであります!」
ライアン 「小嶋上等兵。」
小嶋 「はっ!」
ライアン 「ここは何をする場所だ?」
小嶋 「はっ!休憩をする場所であります!」
ライアン 「だったら!…休憩しなさい。」
山田・小嶋 「サー、イエッサー!」

ライアン、下手に向かう。フォックス、ブルース、ついて行きながら、山田と小嶋に。

フォック 「君たち、命拾いしたな。今日の大佐は機嫌がいい。」
ブル 「いつもなら放り出されてますよ。表に。」
山田・小嶋 「表…」
クラウド 「え?!あなた神父さんなんですか?!」
シンプ 「はい…」
クラウド 「うわぁ、なんかまた神様感じますねぇ!え?…でもどうして神父さんが戦場へ?」
シンプ 「それは…」
クラウド 「あ、待って!当てましょう。…戦士達に祈りを?」
シンプ 「いえ…」
クラウド 「じゃぁ…ガニメデに教会を建てに?」
シンプ 「いえ…」
クラウド 「まさか…エイリアンを信者にするため?!」
シンプ 「は?」
クラウド 「神父さん、そりゃいくらなんでも無理だ。相手は異教徒どころか異星人ですし…」
シンプ 「死にに来たんです。」
クラウド 「…は?…今、何て?」
シンプ 「死にに、来たんです。」
クラウド 「…ははは、またご冗談を!…まさか…本気でおっしゃってる?…」
シンプ 「一言宜しいですか?」
クラウド 「はい…神父様…」
シンプ 「神様は…いません。」

明り、ライアン隊の三人に。

フォック 「ブル、本当に辞めるのか?」
ブル 「はい、兵役終わりますんで。」
フォック 「もったいないな。どんな乗り物でも操縦できるなんて能力、軍でこそ発揮できるんじゃないのか?」
ブル 「球場が僕を待っているんです。」
フォック 「言っちゃ悪いが、プロっていっても二軍なんだろ?軍に残ればもっといいポストが…」
ブル 「軍人は肌に合わないんですよ。根っからの野球人間なもので。」
ライアン 「根っからの職業軍人の私には分からん話だ。君には戦場が似合っていると思うが。」
ブル 「野球場だって、戦場ですよ。」
フォック 「平和な戦場だな。」
ライアン 「所属チームはどこだったかな?」
ブル 「オークランド・アスレチックスです。」
ライアン 「子どもの頃、親父に連れられて良く観戦しに行ったよ。故郷のシアトルでな。」
ブル 「マリナーズですね。」
ライアン 「ああ。もう200年以上前の話だ。日本人の強い選手がいてな。私の子ども時代のスーパーヒーローだった。あの頃のメジャーの選手の名前も、全て覚えている。」
フォック 「大佐の能力も凄いですよね。顔と名前を何億も記憶できるなんて。」
ライアン 「軍人には大して役に立つ能力ではない。逆に辛いものだ。死んで行った何千人もの戦友や部下達の顔が、いつまでも頭から消えんというのは。」
フォック 「どんなに凄い能力でも、それが本人の欲しい能力だとは限らない。」
ライアン 「贅沢な話だがな。」
ブル 「フォックスさんはどうなんです?」
ライアン 「どんな的も外さない天才スナイパー。まったく、うらやましい限りだ。」
フォック 「僕は感謝してますよ、この能力で食ってる訳だし。でも最近怖くなるんです。他に何の才能も無いし、ブルみたいにやりたい事もない。こんなんで人を幸せにするなんて事…」
ブル 「珍しく弱気ですね。もしかしてマリッジ・ブルーですか?」
ライアン 「そう言えばフィアンセもこの船に乗ってるんだったな。」
フォック 「ええ、でもモバイルの調子が悪くて連絡取れなくて。」
ライアン 「お前の不安は結婚への責任感から来ている。悪い事じゃない。おおいに悩め。」

艦内放送が入る。

パティ 「アテンション。全乗組員に緊急放送。アテンション。全乗組員に緊急放送。」
スマート 「艦長のスマートだ。我々艦隊に大統領からメッセージが入った。心して聞く様に」写真

全員起立。スクリーンに『SOUND ONLY・声のみ』の文字。

ランゼ 「大統領だってぇ!」
スー 「心して心して。」
大統領 「アカツカ艦隊五万九千六百三十三名の戦士の皆さん。長旅ご苦労様。世界連邦政府大統領ミツヨ・マクドネルです。この降下殲滅作戦は、半世紀に及ぶエイリアンとの戦争史上、最大の作戦になります。今やエイリアン最大の巣と化したこのガニメデを取り返す事は、今後の戦局を大きく……歴史の…が…」

通信が途切れ途切れになる。

山田 「なんだ?」
小嶋 「回線がおかしいな」
男の声 「…っている!聞こえるか!」
大統領 「…立ち上がっ…」
男の声 「…こんな事は許されない!この戦争は……だまされてるんだ!早く…」
ブル 「海賊放送か?」
男の声 「…パスワードはD・7・G・E・7・A・M…」
クラウド 「今、パスワードって…」
シンプ 「ええ、聞こえました。」
男の声 「…阻止して下さい!うああああっっっ!…」

回線が切れ、元の放送に戻る。

大統領 「…人類の未来は皆さんにかかっているのです。」
スー 「戻った。」
大統領 「心から健闘を祈ります。」

『SOUND ONLY・声のみ』が消える。

パティ 「以上で大統領からのメッセージを終了します。」

スクリーンに『只今の放送でお聞き苦しい部分があった事をお詫び致します』の文字。

クラウド 「あれですよね、大統領って居場所がばれない様に、専用の船で宇宙のあちこちに移動してるんですよね。なのにわざわざ我々のために…いやぁありがたい!」
ライアン 「さっきの放送、どうも気になる…」
フォック 「海賊放送ですか?」
ライアン 「ちょっと艦長の所へ行って来る。」
フォ・ブル 「お供します。」

ライアン隊退室。

ミキ 「ただいま。」
スー・ラン 「お帰り〜。」
スー 「聞いた?さっきの放送。」
ミキ 「ええ、トイレで。臭うわね。」
ランゼ 「トイレ?」
ミキ 「海賊放送。何か嫌な予感が…」

(作:松本仁也/写真:はらでぃ)

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