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犬 「見つかったかー!?」
猿 「だめです!みんな顔どころか佇まいすらはっきりしない影たちだ!とても鬼子母神の末っ子なんて見つけることなんか!だいたい末っ子ってどんな顔してんですか!?」
犬 「知らないよ!」
猿 「どんな服着ているんですか!!?」
犬 「分からない!」
猿 「いくつなんですか!?趣味は!?好きな食べ物は!!!?」
犬 「子供だよ!母親はな。」
猿 「、、、だめか。、、、しかし、まさか鋳子のお母さんが鬼になっちゃうなんて。」
犬 「鬼じゃない女神だ。鬼子母神。」
猿 「鬼子母神ってなんですか?」
犬 「知らないの!?ほら、恐れ入谷の鬼子母神って、、、。」
猿 「入谷って、東京のですか?」
犬 「もういいです。そうそう、鬼子母神には有名な話がある。彼女は人間の子供が大好物で。」
猿 「ひどいなそりゃ!訴えられますよ!」
犬 「お釈迦様もそう思って、1008人いる子供の末の子を隠してしまうんだ。
鬼子母神は狂った様に探す。
『1008人のうちの一人がいなくなってもそんなに悲しいのにたった一人の
子供を食べられた人間の母親の悲しみはどんなものだろう。』
そう、お釈迦様は諭された。
それから、鬼子母神は子供を食べるのを止めたんだ。」
猿 「それが、なんでまた暴れ出したんだ?」
犬 「あの扉。」
猿 「えっ?」
犬 「雉が鬼子母神に変化する前に扉が現れただろう。」
猿 「そう言えば、もう変な事に慣れすぎて忘れてしまってましたけれど。そこから少女が出て来て、、、。あの時、雉は『あなたは私』って!」
犬 「あの少女は雉の思い出か。あのお母さんもまた犠牲者なんだ。、、、そうすると、あの扉は『心の扉』だったんだ。」
猿 「その人の心に直接通じる扉。そんなものまであるのか、この国には!」
すると、天空から黒い桃太郎とイワンが風を切って現れる。
あわてて物陰に隠れる犬と猿。イワンは地上にどさりと投げ出される。
イワン 「いてー!おめえ、もっと丁寧に扱え!頭打ったらもっとばかになるぜ!」
物陰からその様子を伺う犬と猿。
猿 「桃太郎とイワンのばか!どういう組み合わせですか?しかも、桃太郎は真っ黒だ。」
イワン 「これからどうするね?」
黒い桃太郎はいきなり腰に差した刀を抜いて、イワンに付ける。
犬、猿 「危ない!」
思わず声を上げた犬と猿は黒い桃太郎に見つかってしまう。
黒い桃太郎は刀で2匹を威嚇し追い立てる。思わず怯え叫ぶ猿。
猿 「やめてくれ!なんか僕、あなたに悪いことしましたか!?」
黒い桃太郎 「子供相手には威勢が良かったのに、先生。」
猿 「何だって。お前は僕らを知っているのか?」
黒い桃太郎 「子供相手に威張っているうちに、自分が王様だと勘違い。こっちがいい子になってれば、つけ上がって!、、、どこまでいい子にしていればいいの?」
犬 「鋳子!お前は鋳子なのか!?」
黒い桃太郎 「鬼子母神の末の子を始末すれば女神の怒りでこの国は終わる。」
イワン 「子供は飯時がくれば、かくれんぼをやめて帰って来るよ。」
黒い桃太郎 「末っ子はネバーランドに遊びに来て、荒んで行くこの島が怖くなった。そこで良い隠れ場所を見つけた。」
犬 「あんたは末の子の居場所を知っているのか?」
黒い桃太郎 「木の葉の一番良い隠し場所は?」
猿 「八百屋さんですか?」
黒い桃太郎 「森の中。子供の心を隠すには、一番汚れていない場所。イワンのばかの純真さ。末っ子はイワンのの心の中に逃げ込んだ。」
犬、猿 「何だって!!!」
黒い桃太郎は突然、二人に刀を向ける。
黒い桃太郎 「心の扉を開き、末の子を出せ。でないとこの二人は、、、。」
イワン 「やだよ。」
猿 「ちょっと、見殺しかよ!」
イワン 「こいつにやられるか鬼子母神にやられるか。早いか遅いかの違いだけさ。」
猿 「バカじゃない!でも、あきらめよすぎだよ!」
脅しが通じないと知ると黒い桃太郎は刀を納める。
黒い桃太郎 「それなら、閉じ込めよう。」
犬 「いったいどうやって!」
イワン 「おっ、手を変えて来たな。どうするね。」
黒い桃太郎 「イワンの心の闇を引きずり出せば、その心は黒い檻となり末の子を閉じ込める!」
イワンは急に怯えて後ずさる。
猿 「そんなことができるもんか!こいつは天下の大バカイワン様だ!心に一点のくもりもないバカだぞ。」
黒い桃太郎 「そう、イワンの心に闇はない!けれど、変化する前は?」
犬 「この子は学校で爆発に巻き込まれたと言っていた、、、。例えば、学校がテロに遭ったとか、、、。」
猿 「でも、僕らの街ではそんなことは起きていない!起きるはずがない!イワンは大丈夫!」
犬 「この物語の国には地球上の全ての子供たちの魂が集まるのかもしれない、、、。」
猿 「それがなんです!?」
犬 「学校でテロが起こっている、、、。」
猿 「えっ!?」
犬 「数日前に新聞に出ていました。ロシアの学校がテロリストに占拠されたと。僕たちが学校にいた日、まだそれは続いていたはずです。」
黒い桃太郎 「、、、あの時、お前は心底、家に帰りたがっていた。」
イワン 「、、、止めろ。」
黒い桃太郎 「、、、薄暗い体育館に押し込まれみんな息を潜めていた。」
イワン 「止めて!」
黒い桃太郎 「体が痛くなってちょっと体を動かしただけでも、銃口を向けられ突き飛ばされた。」
猿 「世界でこんなむごいことが、、、。」
黒い桃太郎 「世界では?私たちの街でテロは起きていないって言うの?」
猿 「、、、テロなんて!」
黒い桃太郎 「先生。私の両親は私を見ていなかった。」
犬 「鋳子、止めるんだ!」
イワン 「三日目の朝を向かえた時、突然ひどい物音がして、煙が辺りを覆った。
人々は一斉に逃げ出した。
方向なんかかまっていられない。僕も走り出した。」
黒い桃太郎 「ちょっとでも言う事を聞かないとすぐに手をあげた。弱い存在は逆らえないわ。」
イワン 「出口から差し込む日の光が目を射る。
その時、銃を持った黒い影とぶつかった。
見上げるとその人と目が合った。
黒い衣に身を包んだ者は女の人だった。」
黒衣の女が現れる。その姿は鬼子母神の姿に重ね合わさる。
イワン、黒い桃太郎 「追いつめられた者たちは鬼になるしかないの。」
(作:大村国博/写真:福田千聖)
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