△ 「ロスト・ピーチボーイズ」第2幕第6場


トップページ > ページシアター > ロスト・ピーチボーイズ > 第2幕第6場 【公演データ

<前一覧次>

荒波 「おーい、見つかったか!?」写真
稲妻 「だめです!世界樹どころか、森や山ががれきになっちまってる!」
黒雲 「影がどんどんこの国を黒く染ちまう。ここももう危ないぜ。」
夕凪 「それにしてもひどい天気だ!」
荒波 「こりゃ、ただことじゃないな。何か悪い事がおこっている。よしっ!みんな出発するぞ!」
海賊ども 「おう!」

嵐が吹き荒れる天空の中へ、海賊船は帆を膨らませて出発する。

黒雲 「帆を上げろ!」
夕凪 「みんなロープをたぐるんだ!」

船上の海賊どもは嵐への警戒態勢をとる。

ティンク 「さっき、降りた場所でもぜんぜん見つからなかったし、方角がちがうんじゃないの?」
稲妻 「お前の相方が指したんだぞ!少しは責任を感じろ!」
ティンク 「相方ってだれよ?」
稲妻 「あのずんぐりウス様だよ。」
ティンク 「あんなの相方でも友達でもないわ!」
夕凪 「じゃ恋人か?お似合いだよ!」
ティンク 「ふざけろーっ!」
荒波 「船は喜びの方角を目指している。(舵輪を固定して)それに『日没の時、その影が最も高い山をも隠す』と言われる世界樹だ。方向が少しぐらい間違ったって目に入るはずだ。」
ティンク 「おいウス!あんたのせいよ!本当にこっちの方角であってるの!?」
ウス 「そんなの僕に言われたって、、、。フックが勝手に決めたんだから!」
イワン 「方向は間違ってねえよ。」
ティンク 「そうなの?」

イワンは自分の懐から神々しく光る木の根を取り出し、皆の前にかざす。

黒雲 「まぶしいなー、こりゃあ!こりゃイグドラシル、世界樹の根だ!」
荒波 「こいつはお手柄だ!お前、これをどこで見つけた!?」
イワン 「さっき、地上に降りた時!おいら『扉』を見つけたんだ。その『扉』をくぐったら世界樹を見つけた。」写真
荒波 「それはどこだ!」
イワン 「うーん、森の奥へがむしゃらに歩いて行って。」
稲妻 「おう!」
イワン 「で、幹の大きな樹に突き当たったら左に曲がって。」
黒雲 「近づいた!」
イワン 「さらにさらにどんどん奥地に進んで行き!」
夕凪 「来た、来た、来た!」
イワン 「それで、うーん、、、忘れた。」
荒波 「このバカ!本当にばかだな。」

その時、世界樹の根が急速に輝きを失い、枯れ始める。

稲妻 「おい、大変だ、世界樹の根が!」
夕凪 「枯れ、、、ちまった。一体どうしたんだ?」

その時、甲板に唐突に『扉』が出現する。内側から開いた『扉』の中から鬼子母神が現れる。

鬼子母神 「あの子時々すごく怖い目で私を見るの。まるで『お前はダメなやつだ』って言っている様な、、、。」

すると、ティンクが電気にでも触れたかの様に、激しく反応する。
そして、なぜか突然うれしそうに語り始める。

ティンク 「ウェンディと迷子たちが海賊にさらわれてしまいました。」
ウス 「ティンクどうしたの!」写真
ティンク 「ティンカーベルがピーターパンに知らせようとすると、ピーターは今にも、海賊たちがこっそり用意した毒薬を飲もうとしています。ティンカーベルはそれを止めずに黙って見ていました。なぜなら、ウェンディにピーターパンを取られるくらいなら、いっそピーターなんか死んでしまった方がいい(舵輪を解除する)。」

船はバランスを崩し、船上は大いに揺れる。
あわてて舵輪に飛びついて制御する荒波。
鬼子母神は現れた時と同じ様に唐突に『扉』と共に姿を消す。

ウス 「何が、何がおこったの!?」
荒波 「書き換えだ。」
ウス 「書き換え?どうなっちゃたのティンクは?」
フック 「、、、残念だ。」

その時、フックが現れて言う。

フック 「心に大きな闇をかかえているな。」
ウス 「心の闇って!?」
フック 「ティンクは、、、ここに来る前によほどつらい過去を背負ってきたようだな。」
ウス 「、、、!」
稲妻 「心に闇を抱える者は自分の所属する物語を悪い話に変えて語りだす。いつの間にか、この国の物語は悪い物語だらけになっちまう!」
ウス 「悪い物語って?」
夕凪 「今のティンクは嫉妬で人を憎くむだけになってる!」
荒波 「お頭、こいつをどうしましょう?」
フック 「このままではティンクが変えた悪い物語が広がっていく。、、、海に放り込め!」
ウス 「何言い出すんだ!彼女はティンクだよ!今までみんな仲良くやってきた!」
フック 「ティンクは変わっていく、我々の敵にな。」
ティンク 「、、、それのどこがいけないの。」
フック 「何?」
ティンク 「みんなそうじゃない。」
フック 「本当のティンクはウェンディに嫉妬しながらも、ピーターパンを助けるために自ら毒薬を飲んで死ぬんだ。」
ティンク 「ばかばかしい。」
フック 「ところが、子供たちが拍手する事でティンクはよみがえる!『ピーターパン』は子供たちの純真さが自己犠牲を讃える物語でもあるのだ。
それを変える事は許さん!」
ティンク 「あなたは裏切られた事はない。微笑まれながら、打たれた事が!私にとって愛とはそういうもの。その怖さを味わうくらいなら、いっそ愛を語る物語なんてなくなればいいのよ。」
フック 「それでは物語が変わる!」
ティンク 「変わって当然よ!」
フック 「この国の物語が変われば、お前たちの世界の物語も変わるぞ。
憎しみは力を欲する。権力を餌に憎しみはさらに太りだす。
そうなったら、もう人は人を信頼できなくなる。」
ティンク 「もうなってるわ!」

その時、船に突風が吹き付け、さらに船上を揺らす。
嵐はますます激しくなる。

荒波 「さっさとやりましょう!」
フック 「、、、処刑の準備だ!」

荒波は苦みばしった顔でティンクをロープで縛る。

ウス 「止めて!ティンクのせいじゃないでしょ!」
夕凪 「やっぱり、やめましょうよ!ティンクがどんなに素直な子かみんな良く知っているでしょ!ここまで一緒に旅をしてきた仲間じゃないですか!こんなの間違っている!」
稲妻 「さっきからなんか面白くないと思ってた!この子が闇を抱えていたとしても、それはこの子のせいじゃねえ!」
黒雲 「そうだ。つらい目にあってきただけだ。船長、お願いします!」
荒波 「馬鹿野郎!船長に逆らう奴があるか!ほらっ、連れて行け!ほらっ、早く!、、、船長なんとかならねえですかね。」
フック 「、、、この国が乗っかっている世界樹が枯れ出した。私たちにできる事は、この国で影を見つけたら、排除していく事だけだ。それは皆分かっているだろう。、、、連れて行け。」
ウス 「ティンク!」
ティンク 「(一瞬ウスを見て)ここでも居場所がない。」

ティンクは海賊どもに連行されていく。

ウス 「許す事が大事なんじゃないの」写真
フック 「、、、本当に救いたいか?」
ウス 「もちろんだよ!」
フック 「自己犠牲の心はたいしたものだ。ティンクの心の分くらいの闇は追い払ってくれるだろう。どうする?」
ウス 「、、、!」

ウスが生と死の狭間に追いつめられたその時、イワンが前に乗り出して来る。

イワン 「おいらが代わる!」
ウス 「えっ!」
イワン 「おいらが身代わりになる。(フックに)連れて行けよ。」

なぜか、悲しそうな顔をして、二人に背を向けるフック。

ウス 「だって、イワンは関係ないじゃないか!」
イワン 「知っているんだ。」
ウス 「えっ?」
イワン 「友達を失うのがどんなに悲しいかを。ここへ来る前、たくさんの友達をなくしたよ。だから、今度こそ後悔しない。お前たちを助ける。」
ウス 「ばかなことしないで!」
イワン 「ばかなことするのはバカの特権さ!」

その時、稲妻が胸を押さえ苦しげに甲板へ飛び出して来る。
その後ろからティンクが甲板に姿を現す。
しかし、その姿は桃太郎に変化しており、その全身は暗黒色に染まっている。
海賊どもが追いかけてくる。

ウス 「鋳子!」
稲妻 「ちくしょう!影に変化しちまった!」
荒波 「まずい!野郎ども武器を構えろ!」
夕凪 「ティンク!戻ってよ!」
黒雲 「やるしかないか!」

船上は、にわかに戦場となる。海賊たちは武器を取り応戦するが、ティンク(黒い桃太郎)は海賊たちの間を、まるで妖精のように飛び回り剣をかわす。

ティンク 「さがれ!」
ウス 「鋳子、止めろ!」
ティンク 「もうがまんしない!」
フック 「(海賊どもを制して)待て、待て、手を出すな!久しぶりに手強そうな相手だ。ウス殿よく見ていろ。船乗りの剣捌きをご覧入れよう!」

剣を交えるティンク(黒い桃太郎)とフック。

ウス 「鋳子、僕がいけないんだ!あの時助けに行けば!」
ティンク 「私の虐げる者はすべて!」
フック 「なかなかやるな!」

フックの剣捌きが黒い桃太郎を追いつめ出す。

ウス 「鋳子、やめて!」
ティンク 「すべてこわす!」写真

フックがとどめを突こうとした時、ウスはティンクをかばって彼女の前に飛び出す。フックはウスをよけようとして、一瞬の隙をつかれ、黒い桃太郎の突きをまともに受けてしまう。
その一撃がフックに突き刺さる。

フック 「うーん(苦笑い)。丸腰で切っ先の前に出る奴があるか。修行が足らんな、ウス殿。船乗りたるもの、いかなる時も油断は禁物、、、。」

フックはその場に崩れ堕ちる。海賊どもは、一瞬何が起こったのか理解できないかのように立ちすくむ。

海賊ども 「お頭!」
夕凪 「船長が、、。」
稲妻 「そんなバカな、、、。」
荒波 「この野郎!」

荒波は猛然と黒い桃太郎に切り掛かる。
しかし、黒い桃太郎はその攻撃をかわして、イワンに襲いかかる。
そして、イワンを抱きかかえると、船から飛び去って行く。
呆然とウスは二人が消えていった夜空を見上げる。

(作:大村国博/写真:福田千聖)

<前一覧次>


トップページ > ページシアター > ロスト・ピーチボーイズ > 第2幕第6場 【公演データ