トップページ > ページシアター > ロスト・ピーチボーイズ > 第2幕第5場 【公演データ】
辺りは日が暮れて、三人組の周りに影たちから抜いた刺の山ができている。
影となった子供たちの声が辺りに満ちている。
雉 「ああ、いやだいやだ、もういやだ!もうたくさん!これ以上辛い思いしたくない!」
犬 「(影の刺を抜きながら)あきらめないでくれ!まだまだ傷ついた子供たちがいるんだ。」
雉 「傷が、手の傷が私を責めるの!
こんなことも出来ないのか!子供たちを助けることも出来ないのか、
って。それがつらい。」
犬 「影たちはこの国自体をむしばんでいる。ここで頑張れば、娘さんを助ける事にもなる!」
雉 「娘、、、ムスメ?」
猿 「しっかりしてくれよ!鋳子のことだよ!」
雉 「鋳子、、、イルコ。ああ、鋳子!大丈夫かしら。人前じゃがんばり屋さんなんだけれど、本当はとても弱い子で、、、甘えんぼで馬鹿な子なのよ。」
猿 「様子が変ですよ。」
犬 「誰でも暗い感情は持っているが、、、雉はそれが強いのかもしれない。」
猿 「このままだと、、、嫌な予感がしますよ!」
雉 「あの子時々すごく怖い目で私を見るの。
まるで『お前はダメなやつだ』って言っている様な、、、。」
その時、唐突に『扉』が出現する。まるで雉の心からわき出て来た様に。
雉はふらふらとその『扉』に近づいて行く。
猿 「なんですか、あの扉は!?」
犬 「今は開けない方が良い気がする。行くな!」
雉が開け放った『扉』から影2が現れる。
影2は雉に向かって助けを乞う。
その姿は雉の以前の姿、嶺の面影がある。
雉 「もうよして!」
影2 「お母さん、本当のことを知ってますか。知りたいですか。」
雉 「、、、やめて。」
影2 「5歳の時、幼稚園に誰も迎え来なかった。
だから一人で帰ったのに、あなたは『心配させて』といって、私をぶった。
6歳の時、家出をした私を物差しでぶちながら『産まなきゃよかった』
って言ったことを覚えていますか?」
雉 「あんたは誰?」
影2 「ずっと助けを求めていたのに。」
雉 「あなたは誰!?あなたは、、、私!」
その時、雉は苦しみだす。
猿 「おい、どうした!大丈夫か!」
雉はものすごい形相の鬼女、黒衣をまとった鬼子母神に変化する。
猿 「どうなっちゃったの!?」
犬 「別の者に変化したんだ。もっと恐ろしい者に、、、。」
鬼子母神 「我はハーリーティー。」
物語の国に生暖かい風が吹く。
鬼子母神 「わが苦しみは癒えず。
また、私のいとしい子供がいなくなった。
末の子を見つけるのです。
もしも、再び我が子をこの手に抱く事ができないなら、
この国を怒りの炎で焼き尽くす!」
猿 「なんなんだ!?この唐突な展開は!?」
犬 「ハーリーティー!確かインド神話の女神!」
猿 「なんで雉がそんな神様に変化するんです!?」
犬 「ハーリーティーにはもう1つ別の呼び名があったはずだ、、、。そうだ鬼子母神!」
物語の国では大騒ぎとなる。
ヘンゼル 「どうしたらいいんだ!」
グレーテル 「この国が燃やされちゃう!」
三年寝太郎 「一体なんでこうなった!?誰のせいだ?」
鉢かづき姫 「あいつらよ!あの者たちを生け贄にして女神に差し出しましょう!」
物語の住民は殺意を込めて、猿と犬に詰め寄る。
怯える二匹。
三年寝太郎 「だがよ!どう考えてもこのむさい奴らを鬼子母神様に差し出したって、怒りはおさまんない!」
鉢かづき姫 「子供が誘拐されて悲しんでいる親に、むさい中年を差し出してもね!」
猿 「僕はチュネンじゃありませーん!」
北の魔女 「この者らは桃太郎の家来!」
三年寝太郎 「それに免じて、生け贄にするのは止めましょう。」
犬 「良かったあ!」
猿 「いいがかりだったもんね!」
鉢かづき姫 「けれど、誰かが鬼子母神の末の子を見つけ出さなくてはなりません。」
犬 「そりゃ、そうだ!」
猿 「早くみつけなさい!」
鉢かづき姫 「元はお前たちの仲間がでしょ!お前たちが見つけなさい!もし、末の子を見つけることが出来なかったならば、(首を切るゼスチャア)!」
犬、猿 「そりゃないよーっ!」
(作:大村国博/写真:はらでぃ・星谷好慶)
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