△ 「ロスト・ピーチボーイズ」第2幕第5場


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辺りは日が暮れて、三人組の周りに影たちから抜いた刺の山ができている。
影となった子供たちの声が辺りに満ちている。

「ああ、いやだいやだ、もういやだ!もうたくさん!これ以上辛い思いしたくない!」
「(影の刺を抜きながら)あきらめないでくれ!まだまだ傷ついた子供たちがいるんだ。」
「傷が、手の傷が私を責めるの!
こんなことも出来ないのか!子供たちを助けることも出来ないのか、
って。それがつらい。」
「影たちはこの国自体をむしばんでいる。ここで頑張れば、娘さんを助ける事にもなる!」
「娘、、、ムスメ?」
「しっかりしてくれよ!鋳子のことだよ!」
「鋳子、、、イルコ。ああ、鋳子!大丈夫かしら。人前じゃがんばり屋さんなんだけれど、本当はとても弱い子で、、、甘えんぼで馬鹿な子なのよ。」
「様子が変ですよ。」
「誰でも暗い感情は持っているが、、、雉はそれが強いのかもしれない。」
「このままだと、、、嫌な予感がしますよ!」
「あの子時々すごく怖い目で私を見るの。
まるで『お前はダメなやつだ』って言っている様な、、、。」

その時、唐突に『扉』が出現する。まるで雉の心からわき出て来た様に。
雉はふらふらとその『扉』に近づいて行く。

「なんですか、あの扉は!?」
「今は開けない方が良い気がする。行くな!」写真

雉が開け放った『扉』から影2が現れる。
影2は雉に向かって助けを乞う。
その姿は雉の以前の姿、嶺の面影がある。

「もうよして!」
影2 「お母さん、本当のことを知ってますか。知りたいですか。」
「、、、やめて。」
影2 「5歳の時、幼稚園に誰も迎え来なかった。
だから一人で帰ったのに、あなたは『心配させて』といって、私をぶった。
6歳の時、家出をした私を物差しでぶちながら『産まなきゃよかった』
って言ったことを覚えていますか?」
「あんたは誰?」
影2 「ずっと助けを求めていたのに。」
「あなたは誰!?あなたは、、、私!」

その時、雉は苦しみだす。

「おい、どうした!大丈夫か!」

雉はものすごい形相の鬼女、黒衣をまとった鬼子母神に変化する。

「どうなっちゃったの!?」
「別の者に変化したんだ。もっと恐ろしい者に、、、。」
鬼子母神 「我はハーリーティー。」

物語の国に生暖かい風が吹く。

鬼子母神 「わが苦しみは癒えず。
また、私のいとしい子供がいなくなった。
末の子を見つけるのです。
もしも、再び我が子をこの手に抱く事ができないなら、
この国を怒りの炎で焼き尽くす!」
「なんなんだ!?この唐突な展開は!?」
「ハーリーティー!確かインド神話の女神!」
「なんで雉がそんな神様に変化するんです!?」
「ハーリーティーにはもう1つ別の呼び名があったはずだ、、、。そうだ鬼子母神!」写真

物語の国では大騒ぎとなる。

ヘンゼル 「どうしたらいいんだ!」
グレーテル 「この国が燃やされちゃう!」
三年寝太郎 「一体なんでこうなった!?誰のせいだ?」
鉢かづき姫 「あいつらよ!あの者たちを生け贄にして女神に差し出しましょう!」

物語の住民は殺意を込めて、猿と犬に詰め寄る。
怯える二匹。

三年寝太郎 「だがよ!どう考えてもこのむさい奴らを鬼子母神様に差し出したって、怒りはおさまんない!」
鉢かづき姫 「子供が誘拐されて悲しんでいる親に、むさい中年を差し出してもね!」
「僕はチュネンじゃありませーん!」
北の魔女 「この者らは桃太郎の家来!」
三年寝太郎 「それに免じて、生け贄にするのは止めましょう。」
「良かったあ!」
「いいがかりだったもんね!」
鉢かづき姫 「けれど、誰かが鬼子母神の末の子を見つけ出さなくてはなりません。」
「そりゃ、そうだ!」
「早くみつけなさい!」
鉢かづき姫 「元はお前たちの仲間がでしょ!お前たちが見つけなさい!もし、末の子を見つけることが出来なかったならば、(首を切るゼスチャア)!」
犬、猿 「そりゃないよーっ!」

(作:大村国博/写真:はらでぃ・星谷好慶)

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