△ 「ロスト・ピーチボーイズ」第2幕第4場


トップページ > ページシアター > ロスト・ピーチボーイズ > 第2幕第4場 【公演データ

<前一覧次>

船は白い絨毯の様に広がる雲海を下にして、のんびりと航海を続けている。
甲板では、ウスと稲妻が剣を向け合っている。周りでは荒波、夕凪、黒雲がその試合を見物している。写真
稲妻が先に斬りかかり、ウスはそれをかわし、突きを行う。
稲妻はそれをよけ、上段からウスに打ち込む。
鍔迫り合いになり稲妻はウスを押していく。

荒波 「それまで!」

しかし、稲妻は止めない。ウスの表情が強ばっていく。

荒波 「やめい!もういいよ。、、、稲妻、子供相手に熱くなるな!」

荒波はしょうがない、という風に剣を抜き、二人の間に打ち込む。
気がついた稲妻はウスを押しつつ、それを上手くかわす。
が、ウスは尻餅をついてしまう。

稲妻 「熱くなった訳じゃねえ。坊主、本番じゃ誰も止めてくれないからな。」

稲妻は剣を鞘に納める。
荒波が近づいて来て、倒れているウスに手を差し出し起きるのを手伝う。

荒波 「あいつはな真っ直ぐな奴だから、手加減ができないんだ。」
夕凪 「でも、ウスも悪くなかったよ。だいぶ腕をお上げなさった!」

稲妻は汗拭き用の布を黙ってウスに投げつけて、船内に去っていく。
後に続くその他の海賊ども。
エプロンを付けたイワンが甲板に出て来て、ウスに近づき、リンゴを投げ渡す。

イワン 「どうだ、調子は?」
ウス 「(ドサリと甲板に腰を下ろし)なんでイワンは剣術をやらないの?」
イワン 「おいらは鍬しか握ったことがねえ。刃物は性に合わねえの。それにしても海賊の奴ら!掃除、洗濯とこきつかってくれるわ。畑仕事よりもこたえるわ。」
ウス 「、、、イワンて、家族はいるの?」
イワン 「ああ、おいらには女房がいるよ。」
ウス 「どんなヒト?」
イワン 「お姫様だ。」
ウス 「そうなの!?」
イワン 「おう。」
ウス 「人は見かけによらないってホントだね!お姫様!」
イワン 「どんなにおいらがバカやっちまっても、おいらを信じてついて来てくれる。結局、女房もバカ。
二人ともバカで、、、それが良いんだと思う!」
ウス 「ふーん、、、ティンクはどうしたの?」
イワン 「食事係になって大奮闘さ!一生懸命やっているよ。」
ウス 「そう、、、もう料理が作れるんだ、、、えらいな。(と、リンゴを齧る。)」
イワン 「、、、お前、ティンクにほれているな。」

ウスはリンゴをのどに詰まらせ、むせる。

ウス 「何を、、、急に!」
イワン 「図星か!別に悪いこっちゃねえ!」
ウス 「別に、、、僕は、、、!」写真
イワン 「恥ずかしがんなって!言っちまえよ。」
ウス 「、、、年上だし!」
イワン 「関係あるかい!お前な、人間生まれたら最後、どんどん棺桶に近づくんだ。やりたいことがあるのなら、出来るときにやる。信じろよ、自分の直感を!で、どうなの、好きなの!?」
ウス 「、、、(うなづく。)」
イワン 「さっ、掃除、掃除!(と、船内に戻ろうとする。)」
ウス 「ちょっと!聞き出しておいて、何その態度!」
イワン 「いや、もう満足したから。」
ウス 「誰にも言わないでよ!」
イワン 「もちろん!」

一人甲板に残されるウス。
そこに夕凪がふらりとやって来る。

夕凪 「(いきなり一人芝居を行い)信じろよ、自分の直感を!
で、どうなの、好きなの!?(うなづく。)ティンクが好き?」
ウス 「イワン!」
夕凪 「まあいいじゃない。でも、あれでしょ。あっちは年上か。いいじゃない、姉さん女房!」
ウス 「女房とか、そういう段階じゃなくて、、、。」
夕凪 「いい、年上は甘えてかかるの。絶対上手くいくから(笑)。」

夕凪はそれだけ言い残し笑いながら去っていく。

ウス 「夕凪!誰にも言うなよ!」

すると、今度は稲妻と黒雲が甲板にやって来る。
ウスは警戒するが二人は、船の作業の話をしている。

稲妻 「黒雲、どうだ。空に異常はないか?」
黒雲 「順調に進んでいる。」
稲妻 「そうか、万事順調か。、、で、どこにほれたんだ!?」
ウス 「夕凪!」
稲妻 「おい、恋の悩みなら俺に言えよ。経験豊富な俺様の恋愛テクニックを伝授してやるからよ!」
ウス 「だから、そんなんじゃないから!」
黒雲 「いいか、誠意だよ、誠意!」
稲妻 「何言ってんだ!多少強引くらいがちょうどいいんだよ!」
黒雲 「ハートなんだよ。大切なのはハート!」
ウス 「ほっといてよ!」

その時、荒波が夕凪、イワンらと共に甲板に飛び込んで来る。

荒波 「おい!来た、来たぜ!お前のティンクが!いいか、恋の決め手はプレゼントだ!」
ウス 「もう、イワンのばかーっ!」
イワン 「がんばれよー。」
荒波 「そうだいいこと思いついた!稲妻、剣を構えろ!」
稲妻 「何を始めるんだ?」
荒波 「打ち込んで来るウスにやっつけられろ!男らしいウスにティンクはたちまち一目惚れだ。」
稲妻 「八百長じゃねえか!」
荒波 「いいじゃねえか!たまには若い季節の恋の成就を助けてやんのも!」
稲妻 「やだぜ、俺は!絶対やらねえ!」
黒雲 「そんな固い事いうな。」
稲妻 「やだよ、ばかばかしい!誰がこんなチビに負けるか!」
夕凪 「おい、来たぜ!頼むよ、稲妻!」

と、ティンクが甲板にやって来て、体をのばしたりし始める。

荒波 「はい、訓練初め!」

ウスは皆に押し出されて、稲妻と対峙する。
うんざりした顔で打ち込んで来る稲妻。
ウスは必死になって応戦。
と、剣を二、三手交わした時、稲妻はウスのうち込みで剣を落とす。

稲妻 「ウワー!手がしびれた!」
海賊ども 「すごいじゃん、ウス!」

ティンクも思わず声をかけてきた。

ティンク 「剣が上手になったわね!」写真
ウス 「あっ、ああ!」

ウスは剣を拾おうとしている稲妻に急いで近づき、

ウス 「ありがとう!」
稲妻 「今のは悪くなかったぜ。」

海賊どもはしらじらしく、その場から離れない。
ウスは動揺し、顔を赤くしながら、じわじわティンクに近づいていく。
素知らぬ顔のティンクに今にもウスが声を掛けようとしたとたん、フックが現れる。

フック 「ウス殿、恋の告白は上手くいったかな!?」
ティンク 「えっ!」

ウスは恥ずかしくなり、その場から走り去る。

(作:大村国博/写真:はらでぃ)

<前一覧次>


トップページ > ページシアター > ロスト・ピーチボーイズ > 第2幕第4場 【公演データ