△ 「ロスト・ピーチボーイズ」第2幕第1場


トップページ > ページシアター > ロスト・ピーチボーイズ > 第2幕第1場 【公演データ

<前一覧次>

舞台は暗闇に包まれている。やがて、銀河の奥から星たちが目覚めて灯りだし、星空の海が広がる。
海賊船はその星海をゆっくりと進み、海賊たちはそれぞれの持ち場について仕事に励んでいる。
黒雲は望遠鏡をのぞき進路の確認。稲妻と夕凪はロープをたぐり、荒波は舵輪を操る。

黒雲 「楽しみの方角に雷が見えます!」
荒波 「よし!怒りの方角に迂回して前進だ!」
稲妻、夕凪 「おう!」

その時、甲板に美しい二枚の羽を生やし、妖精の衣装を身にまといティンカーベルに変化した鋳子が現れる。

荒波 「おお!立派な妖精になったな。ティンカーベル!」
稲妻 「こいつは大丈夫なようだな。無事に変化し終わった。」
夕凪 「大丈夫どころか、素敵な妖精になったよ!」
荒波 「お前と俺たちは同じ物語。いわば同僚だ!物語の国に歓迎するぜ!」
ティンク 「どうなの私。この格好いけてんのかしら?」
夕凪 「いけてるいけてる!ネバーランド一かわいい妖精だ。」

すると、次にイワンの声が聞こえてくる。

イワン 「おいらも出て行くぞ。」

とたんに海賊どもは警戒態勢になり中央入口に剣を向ける。
先ほどと全く変わりないイワンが現れる。
海賊どもはそれを見て大喜びする。

黒雲 「やっぱりお前はイワンのばかだったのか。素朴だなあー。実に素朴。今時いないよ、これだけ地味な人。無印良品で全身キメたって、もうちょっと派手にえる。」
ウス 「次は僕だ!」

海賊どもは大慌てで、中央入口に集う。しかし、なかなか声の主は現れない。
不思議に思い稲妻が近づき中をのぞくと、突然大笑いしだす。
突然、何かが飛び出して来る。
見れば、手足が丸太のようになり、見るからに動きづらそうな体型に変化したウスであった。
海賊たち思わず笑い出す。

稲妻 「こいつはなんだ!こんなみっともない格好滅多に見られねえや。」
夕凪 「『猿かに合戦』のウス!メジャーじゃないけど、なんかエコな感じでいいんじゃない。」
黒雲 「俺、好き。」

ウスはやはり自分が情けない姿になっていることを悟り、恥ずかしさのあまり、顔を歪める。

ウス 「うるさーい!」

と、ウスは船内にあったとおぼしき料理用のオタマを剣のようにかざして、海賊どもにぶつかっていく。
海賊どもはそんなウスがおかしくてしょうがなく、大笑いしながら剣であしらう。
ウスは荒波に向かっていくが荒波も思わず笑いながらウスのオタマをはじき飛ばし剣の切っ先をウスに向ける。

荒波 「楽しいショーはもう終わりにしてくれ!ウスになったか。お前も無事に変化したのでホッとしたよ!」写真
ウス 「なんだよ!勝手にに僕らをさらって、船の上でこき使い、体が変になったらバカにして!」
荒波 「無事に変化できてこの国の住人になったんだ!俺だったらシャンペンを抜くところだがな。」
ティンク 「ここに来ると物語の登場人物に変化するのね!」
稲妻 「まともな奴はな!」
ティンク 「どういうこと?」
夕凪 「最近ここに来る人間はまともに変化しないんだよ!」
黒雲 「特に子供たち!とうとう何にも変化せずに、影になっちまう。」
ティンク 「影?」
夕凪 「ネバネバした黒い固まり!気持ちが悪くて見てると気分が沈むよ。」
荒波 「心に闇を抱えている人間はこの国になじまない。だから、どこの誰でもない者になっちまう!あわれな奴さ。よっぽど自分の世界でつらい目にあってきたんだろ。」
稲妻 「それだけならまだしも、影はこの国をむしばむ。」
ティンク 「むしばむって?」
黒雲 「影が増え始めると、近づいた住人も影になってしまうんだ。」
ティンク 「それじゃこの国は滅んじゃうじゃない!?」
荒波 「だから俺たちは紛れ込んで来た人間たちには目を光らせているんだ。もしも変化できなかったら、、、。」
稲妻 「海へドボン!サメの餌になってもらう。」
夕凪 「でも、お前ら無事に変化できて、問題なしさ!」
イワン 「おいらもか?」
稲妻 「そもそもお前は子供じゃねえ!なんでこの船に乗っているんだよ!」
イワン 「お前らが乗せたんだよ。」
荒波 「まあ、いいや。人手が増えたのなら雑用が楽になっていいや。ティンクにイワンのバカ、そしてウス、見事に統一性ないなあ。」
フック 「ウス殿だと!」

フックが急いで甲板に現れる。

フック 「どこだ!?どこにウス殿がいる?おお、ウス殿!」

と、フックはイワンにハグしようとする。

イワン 「おいらじゃねえぞ。」

と、フックはティンクにハグしようとする。

ティンク 「全然違う!」
荒波 「(あわてて)船長、こっちです!」

フックは改めて、ウスを探し、彼と目が合う。
ウスはその鋭い視線を浴びせられて、すくんでしまう。
フックはウスを睨みつけながら近づいていくが、突然叫ぶ。

フック 「諸君!ウス殿に敬礼だ!」写真
海賊たち 「へっ!?」
フック 「早くせんか!全員整列!」

あわてて整列し、フックのかけ声とともに敬礼する海賊たち。

フック 「物語の国にようこそいらっしゃいました。敬礼!」
海賊たち 「ハッ!!」
稲妻 「でも、なんでこいつなんかを大切にするんです?」
フック 「無礼者!」

と、フックは右手にはめられたかぎ爪で斬りつける。
驚いて飛び退き、思わず尻餅をついてしまう稲妻。

フック 「貴様、ここにおわすを方をどなたと心得る?」
ウス 「(ずんぐりした姿を気にしながら)ウスだけど、、、。」
稲妻 「そうですよ!ただのウスじゃないですか。」
フック 「(かぎ爪で斬り付け)無礼者!(しつこくかぎ爪で斬り付けながら、ティンクに)ほんじゃ、ウスは何の木から造られている?」
ティンク 「ケヤキよ。」
フック 「おお、知っているな!そう。けやけき木、ケヤキ。つまり御神木である世界樹だ。荒波!我らの使命を言え!」
荒波 「はっ!影どもの抹殺であります!」
フック 「、、、もう一つは!?」
荒波 「えーと、(黒雲に耳打ちされて)ああ、我々の使命は世界樹の救出であります!」
ウス 「世界樹って、、、。」
フック 「その通り!世界樹は宇宙そのもの。この物語の国もその世界樹の枝の上に乗っている世界の一つに過ぎん。諸君!紹介しよう。世界樹の眷属、ウス殿だ!」
ウス 「眷属って、なんですか?」
フック 「しもべ、なかま。ウス殿は偉大な世界樹の物語につらなる素晴らしい存在なのだ。」

おおっ、と海賊たちはどよめく。

ウス 「僕が世界樹とつながっている?」
フック 「世界樹の威勢が悪くなれば、この国もただではすまない。ところが近頃、、、ここはおかしくなってきている。世界樹の力が弱まっているんだ。」
ティンク 「影が増えている、、、。」
フック 「そうだ!このままではこの国は滅びる。そこで我々に課せられた使命は世界樹救命だ!」
イワン 「一体どうやんのさ?」
フック 「世界樹に赴き、その近くにあるはずのウルズの泉という命の水を世界樹の根に降り注ぎ、再生させるのだ。」
ティンク 「それで世界樹はどこにあるの?」
フック 「知りたいか?」
ウス 「教えて!」
フック 「どうしても?」
ティンク 「早く言いなさいよ!」
フック 「実はな、、、我々も知らんのだ!」
ティンク 「何だそりゃー!」
フック 「いやね、世界樹なんてでかいし宇宙の中心にあるんだから、いつでも行けるよね、すぐ分かるよね、なんて思っていてさ。いざ行かん!っていう時になったら誰も場所知らないんだよ。あんまり当たり前にあるもんだと、かえって何にも知らないもんだ。」
夕凪 「ほら、東京の人は東京タワーなんてほとんど登らないでしょ。それと同じ!」
ティンク 「そういう問題か!じゃ、どーすんのよっ!」
フック 「そこでこのウス殿の出番なわけだ!さあ、ウス、倒れなさい!」
ウス 「えっ、なんでですか?」
フック 「お前はこのウスは世界樹から造られた、いわば世界樹の子供だ。親子はお互いの存在に引かれ合う。はい!倒れて。」
ウス 「ちょっと分かんない!」
フック 「こら、逆らうな!諸君!」

海賊たちがウスを取り囲み、ウスを囲んでぐるぐると回し始める。イワンもなんだか楽しそうと思い参加する。

ウス 「なんで、イワンも僕をまわすの!?」写真
イワン 「なんか楽しそうだ!」
フック 「お前が世界樹の眷属なら、母なる幹に惹かれ、導かれるだろう。おまえこそ世界樹への道そのものだ。磁石のように母親のいる場所を示すだろう。だから倒れる!」
ウス 「やめて!さっきと扱いが違う!」

目がぐるぐると回って、とうとう倒れてしまうウス。(舞台奥の方角へ。)

黒雲 「お頭!喜びの方角ですぜ!」
ティンク 「(倒れているウスを起こしながら)喜びの方角?あっちは北じゃないの?」
黒雲 「この国では方角はこう示すんだ!(それぞれの方角を指差しながら)喜び、怒り、悲しみ、楽しみってね。」
フック 「世界樹の在処、喜びの方角とみた。」
イワン 「(ウスを助け起こし)喜びの方角だってよ。悪くねえな。」
フック 「諸君、出航準備だ!」
海賊ども 「イエッサー、キャプテン!」

海賊どもはそれぞれの持ち場に子供たちとイワンは船内に戻ろうとする。

フック 「ああ、ちょっと、ウス殿!」
ウス 「、、、?」

いきなり、フックはウスをかぎ爪を振り下ろす!
思わず、よけるウス。

ティンク 「危ない!」
ウス 「何するんだよ!」
フック 「身のこなしは悪くない。おい、稲妻、剣を!」
稲妻 「ハッ!」

稲妻が自分の剣をウスに投げ与える。

稲妻 「相手の腕の動きをよく見ろ。」

フックは自分の剣を抜き、ウスに向かって構える。

フック 「討ってきなさい。」

ウスは戸惑うが、フックは早く来いと催促する。

フック 「来なさい!」

ウスは覚悟してフックに打ち込んでいく。
その一撃をフックにあっさりかわされて倒れ込んでしまうウス。

フック 「勢いもある。ここで暮らすなら、お前はもう船乗りだ。良い船乗りは剣ぐらい扱えないとな。荒波!それからお前たちも!ウス殿に剣を教えて差し上げろ!」
海賊ども 「イエッサー、キャプテン!」
フック 「それでは出発!」
海賊ども 「ハッ!」

フックはと供に海賊たちとイワンは船内に戻る。
海賊船は夜空の中を静かに進んでいく。
ウスは気持ちが動転して甲板に座り込んでしまう。
ティンクはしばらくその後ろ姿を見ていたが、近づいて来てその隣に座る。

ティンク 「、、、一体どうなっちゃうんだろ、私たち。とても大変なことに巻き込まれたのは分かるけれど、それが何なのか分からない。あげくに妖精になっちゃうなんてね。、、、学校でのこと、ごめん。」
ウス 「(ティンクの思いがけない言葉にハッとするが)、、、僕こそ。、、、ごめんなさい。バカなこと言っちゃって。、、、今幸せ?」
ティンク 「(思わず笑い出し)なに、その質問!」
ウス 「、、、。」
ティンク 「、、、わかんない。何が幸せで何が不幸なのか、、、。でも、生きていくんだろうな。明日も明後日も。それだけね。、、、あんたはどうなの?しあわせ?」
ウス 「、、、僕は不幸せ。」
ティンク 「なんで?親と一緒じゃないから?」
ウス 「ううん。不幸せなものを見ちゃったから。」

その時、海賊船はまるで大海原のように星々が輝く満開の夜空に出る。

ウス、ティンク 「うわー、きれーっ!」

二人はそれまでの沈んだ気持ちを振り払い、星の海を眺める。

ティンク 「すごい、星の絨毯ね!といってもここがどこの空かも分からないんだけど。でも船って素敵!」
ウス 「僕のお父さんも船乗りなの。」
ティンク 「えっ。」写真
ウス 「うそ!、、、本当は船を造るところに勤めているんだ。今は出張で家にいないの。
前にね、お父さんが訪ねてきたとき、僕を船に乗せるっていってくれた。
大きな船に。
僕はその日がくるのを楽しみにした。
でも、約束の日が近づいてくるにつれて、会いに来るお父さんはなんだかイライラして怒りやすくなった。
その日、出かけてしばらくすると、僕はカメラを忘れたことに気がつき、何気なく言うと、お父さんは急に怒りだして海に行くのをやめてしまった。
自分のどこが悪いのかが僕にはわからなかった。
、、、でも僕が悪かったのかな。」
ティンク 「悪くないわよ。、、、お互い、親には苦労するわね。」
ウス 「でも、やっと船に乗れたんだ。」

海賊船は星の海の中を静かに進んでいく。

(作:大村国博/写真:はらでぃ)

<前一覧次>


トップページ > ページシアター > ロスト・ピーチボーイズ > 第2幕第1場 【公演データ