△ 「ロスト・ピーチボーイズ」第1幕第3場


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暗闇から獣の絶叫が聞こえる。

犬(元榎木田) 「わおーっん!」

(明転)

猿(元野々木) 「大変だ!子供たちが!」
「早く探しにいかないと!」

と、彼らはお互いの変わり果てた姿を見て驚く。

「化け物!」
「猿!巨大猿!」
犬、猿 「えっ!」
「、、、榎木田先生!どうしたんですか!?まるっきり、いっ、犬だ!」
「野々木先生こそ!ああっ、爪や牙まで生えて!猿だ。あんた、猿になってるよ!」写真

すると、そこに雉(元嶺)が現れる。
犬と猿、雉に気がつき、さらに驚く。

犬と猿 「きじーっ!」
「ケンケンッー!」
「ああ、鋳子のお母さん!大変なことになりましたね!大丈夫ですか?どこか痛むところなんかありますか?」
「全然、大丈夫!痛むどころか気分爽快!」

と雉はあたりを元気に動き回る。

「すごい!すごいわ!こんなに体が軽いなんて!」
「あいつらの言っていたことは本当だったんだ。ここは物語の国。コスプレ好きの頭のおかしい奴って思っていたのに。」
「あれを見たでしょ?あいつらの乗り込んだ船が空に舞い上がっていくのを!あの辺で気がつくでしょ!」
「そうだ、子供たちだ。子供たち!」
「軽ーい!」
「うるさい!おい、あんた!考えてみりゃ、あんた自分の娘を誘拐されているんだぞ!少しは心配したらどうなんだ!」
「あら、さらっていったのは海賊さんたちなんでしょ。いいじゃない!海賊にさらわれるなんてロマンチックで!」
「この馬鹿女!」

つかみかかろうとする猿を犬が抱きつき、止めに入る。

「ちょっと、だめですよ!乱暴しちゃ!どうしたんですか、こんなこと学校では絶対にやらないでしょ!」
「だからやるんですよ!この人にはずっと我慢してきたんだ。いつもくだらない事で苦情を言ってきて、あげくの果ては校長に言いつけるって騒いで!俺はこいつのせいで、胃を痛めてきたんだ。いいんですよ、問題になったら、『すいません、ただの鳥かと思ってなぐっちゃいました。』って言えばいい。いや、今なら言える!」
「気持ちはわからなくもない!わからなくもないが、やっぱりだめ!」
「離せ!(犬を払い飛ばす)だいたい、あんたがいつもはいはいって言うから、こういう輩の態度がでかくなるんだ。いい年しているくせに、いつも愛想笑い浮かべるしか能がなくて!」
「今度は八つ当たりですか。」
「事実をそのまま言ってんじゃねーか!(グーッとお腹の鳴る音がする。)」
「、、、腹減りましたね。」
「これから、どうなるんだ、、、。」

と、雉が二匹から離れて、何かをしている。

「ねえ、お母さん、いや、雉さん、すいませんでした。怖がらせるようなことしちゃって。まさか一生の内に動物になる機会がやって来るとは思わなかったので動揺しているですよ。先ほどの臼杵とのケンカのことも謝ります。今後はこのような事の無いように学校側も十分気をつけて、、、って何食べてんの!?」
「食べ物!ああ、それ俺が臼杵からもらったお菓子!」
「あら、そう。」
「そう、じゃないだろ!俺がもらったんだから俺が食べるべきじゃない!」
「だって落ちてたんです。」
「えっ、そうなんですか!?」

犬はそこらじゅう、地面をかいで、食い物を探し始める。

「そういう問題じゃない!俺がもらったの、臼杵から。だから俺が!、、、すいません、少しください。」
「、、、うーん、どうしよっかなー。あっ!」

猿はスキありとばかりに雉の持っていたお菓子を奪い取る。
がつがつと駄菓子をむさぼる猿。

「あっ、見つけた!」

と、犬は地面からジャムぱんを拾い上げほうばる。

「まあ、そんなにがっついて。よっぽどお腹がすいていたのね、、、このけだもの。」
「あんたに言われたくありません。ああ、臼杵さまさまだ!鬼が島でも、どこでもお供いたしますぜ!」
「よしっ、行こう。」
「へっ!?」
「行くって、どこに。」写真
「探しにいくんだ、子供たちを!(ジャムぱんを掲げて)もらったからにはお供しに行かなければ。」
「でもジャムぱんよ!きびだんごじゃないじゃないですか。」
「中身の問題じゃないんだ!貰ったっていう事実が大切なんです。僕は常々生徒たちに言ってきました。『人に良い事をしたらすぐに忘れ、良い事をされたら決して忘れないこと』って。そして犬の仁義も『恩は必ず返す』!」
「そんな律儀にならなくたって!」
「いいや、おかみさん!犬になった今、ようやく分かりました。自分は間違っていなかったと。義理が廃ればこの世は闇だ。男一匹筋は通させていただきます。そいつが犬家業の渡世ってやつだ。僕は今、思い出したんです。自分が教師になったのも、子供らの中に将来の英雄を見いだして、育て上げる事だったんだって。」
「ああ、なんか分かる気がします!」
「分かっちゃった。」
「正直、自分は子供があんまり好きじゃないんで、教師に向いていないんだって思っていたんですけれど。学芸会で子供たちと一緒に芝居を創っているうちになんか、楽しくなってきたんです。だから教師も悪くないなって。」
「子供たちは先生の事をしたっていましたよ。」
「だから自分も感謝しています。子供たちの笑顔に。さあ、行きましょう!」
「行くって、どこに助けに行くのよ?」
「海賊たちは必ず戻るでしょう。ネバーランドへ!」

(作:大村国博/写真:はらでぃ)

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