△ 「ロスト・ピーチボーイズ」第2幕第2場


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猿、犬、雉は旅を続ける。

「いったいいつになったら着くのよ。ネバーランドに!」写真
「あっあそこに人がいます!あの人に道を聞きましょう!」

と、道ばたに寝転んだ男がいる。

「すいません!ネバーランドにはどう行くのですか?」
「う、うーん。」
「あのーっ!」
「うーん。」
「あの、すいませーんっ!」
「、、、はい、何か?」
「あの、ネバーランドには、、、。」
「グーっ!(寝てしまう。)」
「三年寝太郎だ!あきらめよう。」

と、そこに兄妹の二人連れが現れる。

「すいません、迷子になってしまったのですが!」
ヘンゼルとグレーテル 「僕たちもです!(と言って歩きさる。)」
「ヘンゼルとグレーテル。使えないわね!」

再び歩き出す二匹と一羽。と、そこに鉢を被った女が現れる。

「すいません。道を教えてほしいのですが?」

鉢を被った女、そのまま直進し、犬にぶつかる。

「痛っ!」
鉢かづき姫 「あっ、ごめんなさい!前がみえないものだから。」
「痛ーっ!道を教えてください。」
鉢かづき姫 「私もこれ(頭の鉢をさして)のせいで迷っているんです。都はどちらです?」
「鉢かづき姫!分らないです。ごめんなさい!」

すると、二匹と一羽にはなしかける声がする。

「え!あっ、(地面を指しながら)こんな所に小さな人が!」
「一寸法師だ!あの、よろしいですか、教えてくだい!、、、うん。、、、うん。、、、はい。はい。、、、はい。、、、なるほど。声が小さくて聞こえない!」

と、そこに北の魔法使いが現れる。

「あなたは見るからに、魔法使い!どちらにお住まいですか?」写真
北の魔法使い 「オズの国です。」
「東ですか、北ですか?」
オズの魔法使い 「ぐえへっへ!北でーす!」
「北の魔法使いと言えば!良かった。良い魔法使いさん!僕らをネバーランドに連れて行ってください!」
北の魔法使い 「ならば、この靴をお履きなさい(と言って、真っ赤な超ハイヒールを取り出す)。そして、かかとを三回合わせて『ネバーランドが一番!』と唱えなさい。」
「えっ、自分がですか!?、、、雉が履いてよ。」
「いやよ。あんたが言われたんでしょ。」
「、、、分かりました。(恥ずかしげに赤い靴を履いて、かかとを鳴らそうとする)。」
「はっは!(笑)」
「いま、笑ったでしょ!」
「いえ、別に。」
「いや笑った!」
「まさか!」
「、、、(再び、かかとを鳴らそうとする)。」
「ぷっ!(笑)」
「また笑ったな!」
「そんなことないよ。」
「ゼッタイ笑った!」
「そら耳、そら耳!」
「、、、(再び、かかとを鳴らそうとする)。」
北の魔法使い 「あっはっは!」
「お前が笑うな!もう、やんねえ!あんたらがやれば!」
北の魔法使い 「まあまあ、そういわず!」

猿はあきらめて、かかとを三回鳴らし唱える。

「ネバーランドが一番!」

すると辺りの光景が一変し、二匹と一羽はネバーランドに到着する。

「わあい!ネバーランド!珊瑚礁の入り江。ウミガメのいる砂浜。美しい島。子供たちの楽園!、、、ネバーランドってこんなに寂しい所でしたっけ?」

二匹と一羽の前に広がった光景。
そこはくすんでしまって、うら寂しい廃棄工場の街のような光景である。

「期待させといて何よ!これじゃ、廃れた温泉街じゃない!」
「こりゃ、、、ひどい。ここで何かおこっているんだ。何かとても悪いことが。」
「子供たち無事なのかしら!」
「そうだ!だけど、、、この島にはもともと子供たちがいるはずだ。ピーターパンに率いられたロストボーイズが!彼らはどうしたんだ?」

呆然と眺めている三人組の後ろを黒い影が走り抜け、物陰に隠れる。

「(影が走り抜けたのに気がつき)!」
「見た!?」
「見た。」
「いるな。」

影は三人組の様子をうかがうように、物陰から顔を出す。

「しかし、本当にここは良い島だなーっ!、、、捕まえろっ!」

三人組は一斉に影を追いかけだす。
影はあわてて逃げ出す。犬が行く手を阻むと、反対側に駆け出す。

「そっちに行った!しかし、、、こりゃなんだ!?」

反対側には雉が待ち構えている。

「いや、何なのこれ!?黒くて気持ちの悪い!できれば来ないで!」

影が翻って来たところを猿に捕まえられる。

「捕まえた!」
影1 「イタイ、イタイ!痛い!」
「えっ!(あわてて離す。)」

意外にも、その黒く不定形で輪郭の定まらない不気味な固まりは、子供のように幼い哀れな声を出す。

「おい!やり過ぎだよ。怪我をさせちゃったんじゃないの。」
「いや。そんなに力を入れてませんよ!」
「(可哀想に思い近づき)見て!これ!」

影には大きな刺が刺さっている。

影1 「近寄るな!」

そのとたん影は再び逃げ出して、方向をあやまり犬の懐に飛び込んでしまう。

「うわっ!(影1から逃げて)一体誰にやられたんだ?」
影1 「触るな!お前たちだよ!」
「何言ってんだ?(雉に)お前、こいつの知り合い?」
「冗談じゃないわよ!こんな失敗した目玉焼きみたいな知りあいはいません!
黒くてグニャグニャして気持ちの悪い。」
影1 「やっぱりなあ。そうなんだ!僕は変わっちゃった、、、。」
「おい、お前いったいなんなのだい?」
影1 「何だと思う!」
「うーん、失敗した目玉焼き!」
「失敗したホットケーキ!」
「失敗したお好み焼き!」
影1 「失敗した、付けるな!僕は、僕は、、、何でもない。」
「何でもない?どういうこと?」
影1 「犬、猿、雉。お前たち、物語の国に来て語るべき物語を身にまといやがって!
、、、僕が初めて来たときこの島はとってもきれいな島だった。
だけど、僕が触るとどんどん周りがかわって行くんだ。
白い砂も汚れ、緑に輝いていた森も枯れ葉の山になっていった。
ある日、ふと川に映った自分の顔を見たら真っ黒になっていた。
、、、どこのだれでもないものになっちゃった。」
「、、、君はどこから来たんだ?」
影1 「、、、僕のお父さんは仕事がなくって、仲間の家に居候していたんだ。そしたらそこのおじさんが僕をぶつんだ。だから僕は逃げた!走ってはしってハシッテ!でも捕まって、川に投げ込まれた。」
「こいつ、、、いや、この子は以前、いじめ、、、いや、虐待にあっていたんじゃ、、、?」
「居候して、、、川に、、、。まさか、まさか!」写真
「幼いうちにつらい目にあった魂もこの国くるんだ。」
「でも、ひどい悲しみを抱えたままだと影になっちゃうんだ。」
「(犬がひどく同様しているのに気がつき)どうしたんです?」
「僕は、、、その子を知っている。自分のクラスの生徒だった。」
「そんなことがあったんですか!?」
「とても元気な子だった。男の子にしては珍しく花や木が好きで。
だから、僕が世界樹の伝説を話して聞かせると目をきらきらさせていたっけ。
そんな大きな樹があるなんてかっこいい、って、、、。
樹をかっこいいなんて言う面白い子だった。
でも、ある時からどんどん顔色が悪くなっていった。
、、、僕はある朝その子の首にあざがあるのに気がついたんだ。
自分ではつけられない位置だった。
でも、でも僕は、、、そのまま何もしなかった、、、。」

犬はすっくと立って影の傍らに行き、刺をつかむ。

「止めとけよ。怪我するだけだ。」
「痛てっ!」
「言わんこっちゃない!これは俺たちにはどうしょうもないことなんだ。
やめろって!手が傷だらけじゃないか!」
「止める訳にはいかないんだよ!
今の子は苦しくてもどんどん自分を追い込んでしまう。
そんな時私はどうした!?
親身になってな話を聞いてやったか?」

犬は手に傷がつくのもかまわず、ふたたび刺をつかみ力を込める。
もはや、犬の手は血だらけであるが、犬は力を込めるのを止めない。

「、、、頼む!もうたくさんだ!」写真

やっと、刺が抜け、いきおいで犬は尻餅をつく。
すると影は少年の姿に戻り、喜び勇んで森の方に走り出す。
その時、少年は犬に向かってこう言う。

少年 「ありがとう!」

生き生きと走り去る少年の後ろ姿を放心して見つめている榎木田に向かって、猿は言う。

「、、、あの子、うれしそうな顔でした。先生があの子を忘れないで、一生懸命物語ったら、影から戻る事ができた、、、。」
「それが、たぶん、この国のルール。死んでしまった魂でも、その人の物語を語り直す事でよみがえらせることが出来るんだわ。」
「、、、良かった。」

その時、刺の刺さった影たちが次から次へと現れ始める。
口々に自分の苦しみを訴える影たち。

影2 「お父さんお母さん、私の本当のこと知ってますか。知りたいですか。」
影3 「お母さん、私が入院したとき『仕方ないから東京に行きます。』ってメールくれましたね。仕方ないからくるんだ、ってその時思った。」
影4 「お父さん、機嫌の悪いときはいつも僕が食事しているのを見て、ドカタだってもう少し上品に食べる、っていいましたね。」
影5 「お母さん、私がおやつを食べている時に必ず、親戚の子供の話題を持ち出して、その子はおやつなんか食べないで勉強しているって言いましたね。」

呆然とする三匹たち。

(作:大村国博/写真:はらでぃ)

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