△ 「ロスト・ピーチボーイズ」第1幕第2場


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濃い霧の中で臼杵は目覚める。

臼杵 「ここは、、、どこ?」写真

霧が晴れてくると、臼杵は傍らに鋳子が横たわっていることに気がつく。

臼杵 「大丈夫!ねえ、しっかりして!」
鋳子 「(ハッと目を覚まして起き上がり臼杵を見るが)お母さん、、、お母さんは!?」
臼杵 「知らないよ。何かすごい音がして気がついたら霧に囲まれていた。」
鋳子 「使えないわね。」
臼杵 「大丈夫?怪我はない?」

その時、野々木が姿を現わす。

野々木 「おおっ!みんな無事かあ!榎木田先生、こっちですよ!臼杵と鋳子も!」
鋳子 「先生!どこいってたんですか!?」

榎木田がよろよろしながら登場。

榎木田 「生きてたかあ、みんな!良かった!それにしても、一体、体育館で何があったんだ。」
野々木 「分かりません。突然、目の前が真っ暗になって、、、夢か。」

榎木田、野々木の頬をぎゅっとつまむ。

野々木 「何すんですか!」
榎木田 「夢じゃない。そうすると、、、。」
野々木 「まさか爆弾が仕掛けられたんじゃ!」

鋳子、野々木の頬をぎゅっとつまむ。

野々木 「何すんだよ!」
鋳子 「そしたらみんな死んでます。」
榎木田 「しかし、ここはどこなんだ、、、。みんな、いますよね?」
鋳子 「あの場にいたのは、ええと。こいつとお母さん。榎木田先生、野々木先生、そして私。」
野々木 「合計5人ですね。番号1!」
臼杵 「2!」
鋳子 「3!」
榎木田 「4!」
イワン 「5!」
野々木 「はい、全員います!」
鋳子 「お母さんがいません!」
野々木 「おかしいな。番号1!」
臼杵 「2!」
鋳子 「3!」
榎木田 「4!」
イワン 「5!あのー。」
野々木 「全員いるんですけど。」
イワン 「お願いがあります!」

皆はそばに見知らぬ者がにこにこしながら立っている事に気がつく。

榎木田 「君はだれだ?」
イワン 「えっ?」
榎木田 「いや、だから、君はだれだ?」
イワン 「あのー。、、お願いがあります。」
榎木田 「君の名前を!教えてください!」
イワン 「おいら、イワンだ。」
野々木 「イワンって、君、どこから来たんだ?」
イワン 「えっ?」
野々木 「君の、おうち、どこなの?」
イワン 「なに?うーん、あっち!」
野々木 「あっちって、どっち!」
イワン 「うーん、、、わかんね!」
野々木 「先生、こいつ、馬鹿ですよ。」
イワン 「よく言われるんだ。イワンのばかって!」
野々木 「ああ、さっきので頭をどこかにぶつけた。」
臼杵 「違います!お願いって何?」
野々木 「えっ?」
臼杵 「この子、お願いがあるって。」
榎木田 「ああ、何なの、イワン君?ご両親に連絡したいの?」
イワン 「おいら、逃げてきたんだ。」
野々木 「警察だっ、警察呼びましょう!」
イワン 「けーさつって何だ。」写真
野々木 「警察って、君何年生だ?けいさつ知らないの?」
臼杵 「悪いやつを捕まえてくれるんだ。僕らを守ってくれる人たち!」
イワン 「、、、僕は学校にいたんです。」
榎木田 「学校にいたって!やっぱり学校で何か起こったんだ。」
イワン 「でも周りの人たちはずっと泣いていた。
立ち上がろうとすると怒鳴り声がして固いもので小突かれた。」
野々木 「君!君はどこの生徒なんだ?」
イワン 「そして気がついたらここにいた。
、、、おいらは農夫だ。学校ってなんだ?」
榎木田 「きみ、やっぱり頭ぶつけた?」
イワン 「おいらこの通り小柄だろ。だから子供と間違われて、人さらいに追われていたんだ。」
野々木 「そういうことは早く言え!」
イワン 「言おうとしてたんだけどよ。」
臼杵 「大人が聞かなかかったんじゃないか。」

その時、荒くれた格好の4人組:夕凪、稲妻、黒雲、荒波が手に手に武器を持って現れ、臼杵たちを囲む。
教師たちは子供を後ろにかくまって前に出る。

榎木田 「ちょ、ちょっとあなたたち。人さらいのくせして、白昼堂々と!警察をよびますよ!」
荒波 「(榎木田を無視して)子供が1、2、3、、、。夕凪!お前が見つけた奴は『イワンのばか』じゃねーか!」
夕凪 「ありゃーこりゃ、やられた。でもまずいぜ荒波!まだこの国に来てから変化してない!悪い予感がするぜ、黒雲!」
黒雲 「見た目は元気そうな子供たちだが心はどうか分からない。稲妻!」
稲妻 「おう、黒雲!船長からの命令だ!疑わしきは疑え!そして、捕まえろー!」

稲妻、黒雲、荒波は子供たちとイワンを追いかけ、夕凪は大人たちを見張る。

榎木田 「な、なんだ!こいつらは!」
野々木 「不良!ヤンキー?チーマー?今、なんて言うんですか!?こういう奴ら?」
榎木田 「ヴィジュアル系じゃないですか。」
鋳子 「(稲妻に追われながら)絶対に違うと思います!」
野々木 「はっ、これはまさかおやじ狩り!?おやじはこの人だけです。(夕凪に向かって堂々と)この人をお狩りなさい!」
夕凪 「あんたの服のセンス、オヤジだよ(と、剣で脅す。)!」

追われる子供たちとイワン。

鋳子 「この人たち、何!?」
イワン 「海賊だよ。」
鋳子 「海賊、あんたバカなんじゃないの!」
イワン 「おいら、イワンの、、、。」
鋳子 「それはいいから!海賊なんている訳ないじゃない!」写真

すると海賊たちがピタッと止まって

荒波 「俺の名は荒波。旅する船に容赦なく襲いかかり。」
稲妻 「俺は稲妻。逆らう奴は電光石火で返り討ち。」
夕凪 「あたしは夕凪。金銀財宝大好きで!」
黒雲 「おいらは黒雲。空の船は沈めちまう!」
荒波 「俺たちは泣く子も黙っておじぎする!」
海賊全員 「ネバーランドの海賊さまだ!」

三人、ミエを切ると再び子供らを追い回す。

荒波 「お前たちを野放しにしておくと、俺たちの命が危ないんでな!」
鋳子 「きゃー!」

臼杵が悲鳴のする方向を見ると鋳子が稲妻につかまり悲鳴を上げている。
臼杵は隙をついて、鋳子を助けにいく。
しかし、相手は剣を持った大人であり、臼杵が鋳子の前に現れても少しも動じない。

稲妻 「わざわざ来てくれてありがとうよ!二人捕まえる手間が省けたぜ。」

その時、行方知れずだった嶺が現れて、敢然と海賊たちの前に出て行く。

「ちょっと、あんたたちなんなのよ!子供を襲ったりして、恥ずかしくないの!」
稲妻 「これはこれは!威勢の良い御婦人だ。」
「何なのよ!やるならやってご覧!」
榎木田 「お母さん、止めたほうがいい!」
稲妻 「俺が一見紳士だからって、なめてもらっちゃ困るぜ。」
夕凪 「奥方様、あんまりこいつをあおらねえでくんな。暴れると手が付けられないんだ。こっちが迷惑すんの!」
「いきがってんのはどっちよ!」
稲妻 「(腰の剣を抜き、嶺に突きつけ)冷静に刻んでやってもいいんだぜ。」
夕凪 「奥方、こいつは俺たちの中でも一番の使い手だ。お刺身にされちゃうよ!」
臼杵 「君のお母さん、気が強すぎ。」
鋳子 「止まんないわ。病気なのよ。」

嶺の挑発がとうとう稲妻の怒りに火をつけようとしたその時、イワンが稲妻と嶺の間に無邪気に割って入る。

イワン 「お前、かっこいい剣持ってんな!」
稲妻 「なんだ!お前は!」
イワン 「いい剣だよ!持たせてくんな(稲妻の剣の刃を持とうとする。)。」
稲妻 「こいつ、ばかなんじゃねえか!そんなとこ持ったらあぶねえだろっ!」

と、稲妻は突きつけた剣を思わず引っ込める。

荒波 「稲妻、イワンのばかなんだから、バカなのは当たり前じゃないか。でも、俺はこいつを見てるとほっとするぜ。」
イワン 「なあ、借しておくれよ!そうだ!おいらの弁当やるからよ!(と、ポッケから食べかけのパンを取り出す。)」
稲妻 「この野郎!、、、ケッ!」

海賊たちは大笑いする。

臼杵 「イワンは強いね。」
イワン 「おいら、バカさ。」写真
榎木田 「(嶺の腕をつかみ自分の後ろにさげ)もう止めてください!私たちはさっきまで小学校にいたはずなんです。それがなにか凄い音がして、気がついたらここにいたんですよ。いたくてここにいる訳じゃない。」
荒波 「そうだな。お前たち人間だな?」
榎木田 「(かなりひるみながら)特に意識した事はありませんが、、、はい。」
夕凪 「荒波!またあれが起こったんだ!」
荒波 「この国でえらい事が起きて、お前たちの世界でもどえらい事が起きる。そのタイミングが合っちまうと、時震がおきる。」
野々木 「地震って、、、地面がゆれるあれですか?」
荒波 「時空が揺さぶられるあれさ、タイムクエイクだ。その時、人間たちが時空の裂け目に落ちて、この世界にやってくることがある。」
榎木田 「それが我々だと、、。それじゃ僕らのいたところでなにか大変なことが起こったんだ!」
荒波 「今、この国はえらい事になっている。俺に分かるのは、こっち側に落っこちてくる間抜けがいるってことだけさ。」
鋳子 「この国って一体なんなの!」写真
夕凪 「お前たちは人が人に物語るでしょ。神話、伝説、昔話。」
稲妻 「人間は自分が物語を考えたと思っているが。」
黒雲 「どっこい!人間に必要な物語はここで生まれ、お前たち世界に送られる。ここは物語の国さ。」
「訳のわからない事、言わないでちょうだい。こんなところになんか1分1秒でもいたくないのよ!」
稲妻 「口の減らない女だ。」
夕凪 「きついなあ。(臼杵に)お前の世界じゃこういう奴が増えているのか?」
臼杵 「この人は特別、、、かな?僕たちをどうするの!?」
荒波 「子供たちは俺たちと一緒に来てもらう!」
鋳子 「それからどうなるの!?」
夕凪 「そりゃ、お前、変化しないってことになれば海へドボン、、、。」
荒波 「黙ってろ!俺たちはいま旅の途中なんだが、人手不足だ。船乗りとして迎えるよ。」

その時、奥から野太い男(フック)の呼びかける声が聞こえて来る。

フック 「子供たちを見つけたかい?」
海賊ども 「イェッサッー、キャプテン!」
フック 「明るく元気かい?」
夕凪 「インディアンみたいに生意気です!」
フック 「けっこうけっこう。」

無くなった左手の代わりにかぎ爪をはめ込んだ海賊の頭領、フックが現れる。

鋳子 「あっ、あなた!あ(フックのかぎ爪に注目して)ピーターパンの!」
フック 「おう!わたしを知っているのか?」写真
臼杵 「フックでしょ!海賊の!」
海賊ども 「おお!」
鋳子 「ピーターパンのライバルで。」
海賊ども 「まさに!」
臼杵 「ワニに片腕を食われ」
海賊ども 「そうそう!」
鋳子 「七つの海の大海賊たちが最も恐れた!」
フック 「そう!それがこの私、海賊の中の海賊、ジェームス.T.フック船長だ!」

海賊どもが盛り上がらないのに気がつき

フック 「拍手!」

海賊どもあわてて拍手する。

鋳子 「どこなの?」
フック 「ああ?」
鋳子 「フックが本当にいるなら、ピーターパンもいるんでしょ!どこに行けば会えるの!」
フック 「ピーターには会えないね。」
鋳子 「どうして!?」
フック 「ピーターは、、、おい、荒波!まだ何も言っていないのか?」
荒波 「はっ!見つけたばかりで。」
フック 「ふん!この子たちが無事に変化するかが心配だな。また、危険なことになったら俺たちの命が危ない。」
荒波 「その時は始末しましょう。」
フック 「それがいいね。(鋳子に)ピーターは逃げちまったよ!このフック様の逆襲をおそれてな。ハッハッハ!!」

海賊どもがついて来ていないのに気がつき

フック 「笑え!」
海賊ども 「ハッハッハ!!!」

その時、大人たちは身悶えしだし、その体に変化が現れる。

荒波 「ようやく変化がおきてきた!」
榎木田 「一体何が起きているんだ!」
野々木 「体が、体が熱い!」
「やだ、何これ、どういうこと!?」

(大人たちはもだえ苦しみながら退場。)

鋳子 「お母さんたち、どうなちゃうの?」写真
イワン 「おいらと同じさ。」
臼杵 「イワンと?」
イワン 「おいらもここへやって来た時はお前と同じ人間だった。」
荒波 「人間がこの国に紛れ込むと。」
稲妻 「変化が始まるんだ。」
夕凪 「この国の住人は何かを物語るために生きているんだ。」
黒雲 「だから、ここへ来た人間は、そいつに見合った物語の人物に変化する!」
イワン 「そうすると、おいらは人間の時からバカだったのかい。こりゃいいや!」
臼杵 「イワンはバカなんかじゃないよ。素直なのさ。」
フック 「紳士淑女の皆様!変化をゆっくりと楽しんでくれたまえ!子供らを船に乗せろ!」
海賊ども 「イェッサッー、キャプテン!」

海賊どもはウス、イワン、鋳子を無理矢理連れ去ってしまう。
(暗転)

(作:大村国博/写真:はらでぃ)

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