△ 「1/4 breed」シーン3


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暗転。テロップ『一年後』『2002年・秋』
明転するとアパートの一室。真ん中に男が一人、無気味な光の中、怪談話をしている。

クチグルマ 「それでさ、その山道にさしかかったらさ、いきなり背中がゾッとしてさ、おそるおそるバックミラー見たら…映ってんだよ、髪の長い女が。俺、運転中なのに思わず目ぇつぶって唱えたのよ『消えて下さい、消えて下さい!』って。そしたら車が道それて林に突っ込んじゃってさ、慌ててブレーキ踏んだのよ。車止まってからも手ぇ合わせて唱えてたら、フッと気配が消えてさ、バックミラー見たらもういないわけ。」舞台写真

みんなホッとした様子。

クチグルマ 「ところがさ、何か辺りの様子が変なわけ。よぉーく辺りを見回してみたら何と、俺の車の前輪が崖からはみ出てんだよ。もう少しブレーキ踏むの遅かったら、崖から転落よ。でさ、そこでフッと思ったのよ。もしかしたら、さっきの後ろの女が俺に危険を警告してくれたんじゃないかってね。きっと守護霊か何かでさ。だからすぐにまた、こう、手を合わせてさお礼を言ったのよ。『幽霊さんありがとうございました。』ってね。そしたらその瞬間、俺の耳もとで『死ねば良かったのに!』
全員 「ギャァァァ〜!」
アブラスマシ 「こえぇぇぇっ!」
カッパ 「(耳をふさぎながら)終わった?終わった?」
クチグルマ 「どう?怖かった?」
ロクロ 「怖いよ。あんたの話は臨場感ありすぎだよ、クチグルマ。」
クチグルマ 「へへへ、当たりめえよ。さてと、そろそろ始めちまおうか。」
ロクロ 「じゃ、あたしビール。」
クチグルマ 「カッパは?」
カッパ 「エビアンある?」
クチグルマ 「ボルビックなら。」
カッパ 「それでいいや。」
クチグルマ 「アブラスマシは?」
アブラスマシ 「油。」
クチグルマ 「だよな。」
アブラスマシ 「あ、紅花油とかある?」
クチグルマ 「一番搾り。」
アブラスマシ 「分かってるねぇ。」

アブラスマシとクチグルマでみんなに飲み物を配る。

クチグルマ 「え〜、まだメンバーが足りませんが、そろそろ始めちゃいたいと思います。乾杯!」
全員 「乾杯!」

みんな一斉に飲む。カッパはお皿に水をつけ、ロクロクビはビールを飲みながら、首が伸びていく。

全員 「あぁ〜っ!やっぱこれだよなぁ!」
ロクロ 「やっぱりビールはのどごしよね。」
カッパ 「のどごし長そうでいいなぁ。」
ロクロ 「(長い首の真ん中辺りを指差して)まだこの辺。」

マスクをした女が1人、入って来る。

クチサケ 「ごめんなさい、遅くなって。(と言ってマスクを取る)」
ロクロ 「遅いよ、クチサケ〜。今、乾杯しちゃったとこだよ。」
カッパ 「何回か携帯にかけたのにつながんなかったよ。」
クチサケ 「あーごめんなさい、さっきちょっと…」
ロクロ 「え…まさかあんたまた…」
「食べちゃったの?」

クチサケ照れながらうなずく
全員ため息

カッパ 「ベッコウアメだけにしとこうよ。」
クチサケ 「あ、あれあんまり好きじゃないんです。」
アブラスマシ 「でもさ、油ばっかし飲んでる俺が言うのもなんだけどさ、携帯は食うなよ。」
クチサケ 「いやお腹減っちゃって。」
ロクロ 「いやお腹減ってもさ。」
クチサケ 「すみません…」
アブラスマシ 「それより何でこんなに遅れたんだよ。」
クチサケ 「いや、それはちょっと…」
カッパ 「なになに?どうしても言えないような事?」
クチサケ 「言えません。」
ロクロ 「男?」舞台写真
クチサケ 「ち、違いますよ!今日は大先輩達と会うからどんな格好して行こうかな〜なんて考えているうちにいっそ服買いに行こう!って思ってデパートに行ったら知らないうちに100円ショップが出来ててついあれこれ買い込んじゃって幸せ気分で家帰ってテレビ付けたらちょうどサッカーいい所でつい見入ってしまって今しがたまですっかりここ来るの忘れてたなんて絶対に言えませんよ!口が裂けても!」
ロクロ 「言ってるし。」
カッパ 「裂けてるし。」
クチサケ 「すみません。」
アブラスマシ 「まぁまぁ。ビールでいい?」
クチサケ 「はい。」

クチサケ、缶をばりばり食べる

クチサケ 「やっぱこれよね。」

全員ため息

ロクロ 「これで全員?」
カッパ 「去年は多かったからね。」
アブラスマシ 「去年は特別だろ。大パーティーだったんだから。」

一同、去年のパーティーの話で盛り上がる中。

クチサケ 「すみません、去年欠席しちゃって…」

みんな黙ってしまう。

アブラスマシ 「…いや、クチサケちゃんはしょうがないさ。死んだツムジさんに、あんなにかわいがってもらってたんだし、パーティーって気分じゃなかったよな。」
クチサケ 「…」
ロクロ 「(クチサケをなぐさめるように)あんたなんて、ましよ。あの子なんかもう20年以上顔出してないんじゃない?」
カッパ 「あの子?」
ロクロ 「あの子よ、ほら、いつもはじっこの方にいてさ。」
アブラスマシ 「え?誰?」
ロクロ 「あぁ〜もう、名前何ってたっけ?う〜ん(首の下の方を指差して)ここまで出てんだけどなぁ。」
カッパ 「しばらく出なさそう。」
ロクロ 「ほら、気が付いたら横に座ってるさ…」
アブラスマシ 「あぁ。」
全員 「ザシキワラシ!」
ロクロ 「そうそう!」
アブラスマシ 「でもさぁ、あの子ならうちらが気付かないだけで来てたのかもよ、毎年。」
カッパ 「あ、そうか、あり得るね。」
クチグルマ 「納得いかねぇぇぇ〜っ!!」
アブラスマシ 「おいおい静かだと思ってたら。」
ロクロ 「酔うの早すぎよ、クチグルマ。」
クチグルマ 「そうだよ、ツムジさんにトドメさん、四天王のうち2人も死んでんだよ、2人も!」
カッパ 「それだけ恐怖の大王が強かったって事さ。」
アブラスマシ 「2人の尊い犠牲があって、今の俺達は生きてるんだぜ。」
クチグルマ 「それはいい、俺達はいいんだ。俺が許せないのは人間だ!」
カッパ 「始まったよ。」
クチグルマ 「だってそうだろ?我々妖怪が命をかけて世界を救ったってのに、人間は何も知らずにのほほんと暮らしていやがる。」
カッパ 「それは仕方ないよ。」
クチグルマ 「仕方ないじゃ、すまねえよ!新聞見てみろ!テロだ、戦争だ、爆弾魔だ、しまいにゃ、原発で事故だぁ?これじゃ何の為にツムジさん達が死んだのかわかんねぇよ!」
アブラスマシ 「クチグルマ!酒癖悪すぎだぞ!」
クチグルマ 「なぁ、クチサケよ。これじゃツムジさんも、うかばれないよな?」
ロクロ 「やめなよ、あんたの話は相手をその気に…」
クチグルマ 「そうは思わねぇか?!」
アブラスマシ 「いい加減にしろって!」

突然、外から声がする。

ツムジ 「それはちょっと違いますよ。」

部屋の明かりが揺れる。部屋にツムジが入って来る。

ツムジ 「私は死んじゃいませんよ。」舞台写真
ロクロ 「うそぉ…」
クチグルマ 「あ、あなたは…」
クチサケ 「ツムジさん?本当にツムジさんなの?」
アブラスマシ 「ちょっと待て。違うぞ!」
クチサケ 「え?」
カッパ 「違う、確かに匂いが違う。」
ロクロ 「ま、まさか…」
ツムジ 「そのまさか。恐怖の大王ですよ。」
アブラスマシ 「そんな馬鹿な!」
クチグルマ 「何しにここへ…」
ツムジ 「ちょっと、人探しに。」

眩しい光と強風の音。みんなの叫び声が暗転にこだまする。

(作:松本仁也/写真:広安正敬)

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