△ 「ダンボールキッチン」第30回


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上手より覚。

帰ってたのか麻美
麻美 うん
夢子 (下手より戻り)あら。起きて大丈夫?
ああ。(出された茶を見て)…客か?
夢子 秘密

夢子 女だけの、秘密。ね
麻美
ナルコ
(胡散臭そうに)…ふん…
夢子 薬?
ああ…

勝手口が開き、アトムが顔を出す。

麻美 お帰り〜
アトム ただいま…あ、麻美さん。おかえりなさい…

夢子、麻美、ナルコ、それぞれの思いいれあってアトムを見る、間。

夢子・麻美 …はーん…
ナルコ
アトム な、なんですか
麻美 や。別に
夢子 おつかれさま(手を出す)
アトム は…(薬を渡す)
何やってる
夢子 誰かいるの
アトム それが…

アトム、後ろにいた俊を引っ張り出す。

麻美 ありゃ
夢子 俊!
…やあ
夢子 やあじゃないわよ、どこにいたの今まで!
…うん…
で。なにをやってたんだこの一週間
…探してた…二人を…
夢子 会ったんじゃなかったの
会ったよ。話もした。興信所の件…
なんと言ってた舞台写真
…嘘っぱちだって晃冶さんは滅茶苦茶怒ったけど…
夢子 けど?
…上京した親戚に会うって二人で出かけて…そのまま…
(苦々しげに)…帰って来なかった、か…

俊、悔しそうに頷く。

麻美 やっぱ騙されたんじゃないの
そんなわけないよ!
麻美 だって逃げちゃったんでしょ二人とも
忙しいだけなんだ、ビルの契約やなんかで…
生きてたのかその話
もちろん
金はどうした。確か向こうの親が…

何か渡したのか?え?

黙ってないで何とか言え!
…すぐに返すからと言われて…
夢子 貸したのね
麻美 いくら?
…三千万…

間。

…三千万?
麻美 …そんなお金どこから…

夢子、蒼白になり。

夢子 まさかあなた、あの口座を…
他にあるかよ
夢子 (喘ぐように)あれを?全部?
必要だったんだ、しょうがないじゃないか!
夢子 でも…でもあのお金は…
大した額じゃないだろ。母さんのCMのギャラ一回分だ
麻美 俊!あんたね…

夢子、俊の頬を平手で打つ。静まり返るキッチン。信じられないといった表情の俊。

…母さん…
夢子 …あなたが生まれたとき、お父さんが書いた小説…知ってるわね

…よせ
夢子 (無視して)初めての男の子…お父さんは大喜びだった。その感激を綴ってできた短編小説…印税が入り始めたとき、お父さんはこういったの。『この金は俺のものじゃない。小説を書かせてくれた坊主のものだ…』

夢子 『だから坊主の名義で貯めておこう。きっといつか役に立つ。それに坊主の金だと思えば…』

夢子 『…俺が飲んで使っちまう心配もないしな』…

(呆れて)自分の台詞で泣くな。それでも女優か馬鹿
夢子 …だって…だって…

泣きじゃくる夢子。覚、そっとその肩に手を置く。

…大丈夫…

…大丈夫だよ母さん。金は絶対戻ってくるって
夢子 俊…
お前、まだそんな…
そりゃ晃冶さんは俺を騙したかもしれない。でも、でも千里は俺の恋人なんだぜ。裏切るなんてこと…

間。

…なんだよ…まだ、なにか…
…これだけは、お前に知らせたくなかった…

俊。あの二人はな、兄妹なんかじゃない。…夫婦なんだ
…え?
もう10年連れ添った、夫婦なんだよ…

間。

嘘だ…

…嘘だ…
麻美 …警察、行きなよ俊

麻美 まだ間に合うかもよ
夢子 でもあなた…
麻美 (笑って)そん時ゃそん時。何とかなるって

麻美 …いつまでも逃げてらんないよね、あたしも
…アトム
アトム …へえ
車を回してくれ
アトム へえ(下手へ去る)

俊、ふらふらと立ち上がり歩き出す。
ナルコ、その前をふさぐように立つ。

ナルコ …駄目。警察なんか行っちゃ駄目だ!舞台写真

ナルコ、俊にむしゃぶりつく。慌てる覚たち。

夢子 何言ってるのナルコ!
ナルコ 千里さん好きって、あれ嘘!?ぜんぶ嘘!?
嘘なもんか!
ナルコ じゃあどうして信じないの!
信じたいよ俺だって!だけど…
ナルコ だけど何よ!
やめんか!

ようやく二人、引き離される。二人とも肩で息をしている。

夢子 (呆然として)どうしちゃったのよナルコ…
お前がムキになること…
ナルコ 気持ちがびろーん…
はあ?

ナルコ (俊の目を見つめ)あの時助けられたの、お兄ちゃんだけじゃない…

(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)

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