△ 「ダンボールキッチン」第5回


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舞台上、森瀬家のキッチンに変わっている。ぴかぴかの大きな冷蔵庫、食器棚、流し、コンロなど。どれも綺麗すぎて生活感に乏しい。電話台の上にファックス兼用電話。家電に比べるとちゃちで小さなテーブルに数脚の椅子。
下手に玄関へつながるドアがあり、上手のドアは1階のほかの部屋につながっている。また下手よりに勝手口があり、小窓が切ってある。舞台ほぼ中央に、地下食品貯蔵庫の蓋がある。キッチンは平舞台より若干高さがあり、キッチンと客席の間は庭になっている。

舞台上の時間は<1>から数日後、時刻は午後3時頃。
森瀬家の家政婦(山田カヨ)が、鼻歌を歌いながらテーブルの上を片付けている。
コンビニ弁当のカラ、ビールの空き缶、開封済みのダイレクトメールなど、可燃物も不燃物も一緒くたに捨てていく。と、ゴミの中から男性週刊誌を発見。カヨ、開く。

カヨ (憤慨もあらわに)いい加減にしなよマリアン舞台写真

カヨ、仕事そっちのけで週刊誌を読みふける。
と、勝手口の小窓に男の顔。男(繁雄)、ひとわたり室内の様子を見回してから、じっとカヨに視線をそそぐ。カヨ、気づかない。

カヨ へえ。腰痛改善のストレッチ…

カヨ、眼は雑誌に向けたまま、椅子を使ってストレッチを始める。
体を反らした拍子に、小窓から覗く繁雄と目が合う。
繁雄にんまり笑う。本人的には親しみを込めた笑いのつもり。
反射的にカヨも笑い返す。カヨ、体を起こす。はっとして小窓の方を振り向く。
が、繁雄は消えている。カヨ、あわてて勝手口へ走っていき、ドアを開ける。

カヨ あれえ…

そのまま出て行く。
カヨが出て行ったのとほぼ同時に、夢子のマネジャー・西条由美子、下手から入ってくる。キッチンを見回し、カヨの捨てたゴミに眼を止める。大げさにため息をつき、ダイレクトメールをつまみ出す。そこへ、首をひねりながらカヨが戻ってくる。

カヨ あら。いつ来たんですか
西条 たった今。それよりカヨさん(と、ダイレクトメールを指し示す)
カヨ (読む)『貼って寝るだけで足のニオイすっきり!イオン樹液シート』。欲しいの?
西条 違います。ゴミ出しは気をつけてってあれほど言ったでしょう
カヨ 気をつけてますよ
西条 全然気をつけてない。不要な手紙や書類は必ずシュレッダーにかけてから出してください
カヨ でも、『イオン樹液シート』ですよ
西条 近頃はね、犯罪者すれすれの連中も多いんです。芸能人の出すゴミを漁って、それをネットで売買するような…
カヨ 何度も言うようですが、『イオン樹液シート』…
西条 (ついに切れて)清純派女優・森瀬夢子の足が実は臭かったなんてゴシップ流されたら困るでしょう!
カヨ (憤然と)奥様の足は臭くない!
西条 そんなの知ってます!舞台写真
カヨ じゃあいいじゃないですか
西条 …。(無力感を感じている)
カヨ なんでそんなにムキになるかね
西条 …。(非常な無力感を感じている)
カヨ 奥様、起こしてきましょうか
西条 …そうしてください

カヨ、上手に去りかけるが、思い出したように振り返る。

カヨ 西条さん、変な男、見なかった?
西条 (週刊誌をペラペラとめくりながら)変な男?誰に似てる?
カヨ (しばし考えて)…プレーリードッグ…
西条 見てないわね
カヨ そうですか…変だねえ…

カヨ、去る。西条、あるページで眼を止める。

西条 へえ。頭痛に効くストレッチ…

西条、週刊誌を目で追いながら、椅子を使ってストレッチを始める。
先ほどのカヨの動きと大した違いはない。そこへ、またも小窓から繁雄の顔が覗く。
西条、体を反らしたはずみに繁雄と目が合う。繁雄にんまり笑う。本人的には親しみを込めた笑いのつもり。反射的に西条も笑い返す。西条、体を起こす。はっとして小窓の方を振り向く。が、繁雄は消えている。西条、あわてて勝手口へ走っていき、ドアを開ける。

西条 いない…。顔のわりにはすばやい動きだわ…

(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)

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