△ 「Postscript」第十一場


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ロッカーは前場から引き続き舞台に乗っている。

ロッカー 「こんにちは、あかねさん。」
あかね 「あ、あなた…。いつからそこにいるの?」
ロッカー 「ずっと前からここにいたよ。」
あかね 「…。」
ロッカー 「この前は、どうも。」
あかね 「どうして、あんな嘘の住所のチケット…」
ロッカー 「あの公園…ほんとに俺の仕事場なのさ。」
あかね 「なんで命日のことを知ってたの?」
ロッカー 「あんたら3人から聞いた。」
あかね 「嘘よ、だってミドリも藍も…、話してないって言ってた。」
ロッカー 「死人に口無し…。藍はもういない。」
あかね 「ひどいこと言わないで!」

ロッカー、首を横に振る。

ロッカー 「あかねさん、あんたの方が、よっぽどひどいことしてるんじゃいの?」
あかね 「…どういう事?」
ロッカー 「都合の良いように、自分の本音を他人に言わせる…、たとえば夢の中で死んだ友達まで利用してね。」
あかね 「あれは夢だったのよ、あたしだって藍があんなこと言うなんて思ってない!」
ロッカー 「そう。あれは、あかねさん、あんたの本当の心だ。」
あかね 「私の本当の心…。」
ロッカー 「そう…。本当の心と偽りの心。どちらを取るのもあんた次第。」
あかね 「…。」

ロッカーの部分の照明ダウン。

あかね 「私の本当の気持ち、心…。中学の時、私が失ったもの。」

上手より草剪登場。草剪、あかねに話しかけようとするが、あかねがうわのそらであることに気付く。突然、一発芸をする草剪。一瞬、びっくりし、ひきまくるあかね。

草剪 「あーよかった。ようやく気付いてくれた。」

あかね。黙っている。

草剪 「あ、この前はすいませんでした…、あのー。怒ってますよね。」舞台写真

黙っている、あかね。

草剪 「これ…。ケーキです。俺、焼いたんです。なんかあかねさん、最近、元気ないみたいだから…。」

あかね、しゃべろうとした瞬間。

草剪 「ああっ、良いです、受け取れないんなら、このまま置いといてください。後で僕、食べちゃいますから。…あかねさん、休んでる時、他の人に聞いちゃったんです…、友達が亡くなってそれで休んでるって…。俺、そういう経験無いんで、良くわかんないですけど…。あかねさんに、やっぱり元気になってもらいたいっす。」
あかね 「…」
草剪 「じゃあ、これからまた、レッスンあるんで。ケーキ良かったら食べてくださいね。」

あかね、呆然とケーキを見ている。照明さらに転換して、ミドリ登場。

ミドリ 「ストーカー君?」
あかね 「ミドリ。」
ミドリ 「良いやつじゃない。」
あかね 「わからない…。わからないの。…私が中学の時に失ったもの。」
ミドリ 「ねぇ、あかね、中学のときに私にキスしたでしょ、覚えてる?」
あかね 「あの時、二人と話してて、何がなんだかわからなくなっちゃったの。」
ミドリ 「あの後、あかねとも藍ともあんまり話さなくなっちゃって…、私、ずっとさびしかった、何でこんなことになっちゃったんだろって。」
あかね 「私は…、怖かったの。ミドリと話すのがとても怖かった。」舞台写真
ミドリ 「あかね。…四郎さん、いえ、私のことは忘れなよ。」
あかね 「どうして、何でそんなこと…」
ミドリ 「失ったものの事、もう少し考えて見たいの、私も。」

ミドリ、去りかける、

あかね 「ミドリ…。ごめん。ごめんなさい…。」

うつむく、あかね。去るミドリ。反対から中年男現れる。

中年男 「四郎はんのこと、吹っ切れたかいな。」

あかね、首を横に振る。

中年男 「そうやなぁ、人間、そんなに簡単に気持ちは切りかえられへんしなぁ。」
あかね 「私は、どうすればいいの。」
中年男 「人間、わけがわからんようになることはあるもんや…。そんな時は、何もかんも一度全部放り出して、一から考え直して見るんや。自分って何やろ、何でここに生きてんのやろってな。それでも、わからん時はな〜んも考えへん。そのまま、あるがままに、自分を受け止めてみるんやなぁ。」

あかね、小さくうなずく。

中年男 「あせってみたってしゃーない。まぁ、ゆっくりやってみんのやなぁ。ほな、またな。」

中年男、去る。藍、登場する。

「やさしい、おじさんね。」
あかね 「藍!あたし、あなたに謝らなくちゃ…。」
「?何の事?」舞台写真
あかね 「あたし、あなたに夢の中でひどいことした…。」
「わたしこそ、ごめんね、二人に何も話さないで…」
あかね 「手紙…、P.S.って…、何を書こうとしていたの。」
「書かなくても、もうすぐわかるわ、いえ、もうすでにわかってるはずよ。」
あかね 「…」
「あなたの周りの世界…、素敵なところね。」

藍の周り、暗転。草剪が置いていったケーキにサス。
ケーキの箱を開ける。あかね。開けた瞬間にオルゴールの音が鳴り出す。その音ともに暗転。

(作:川村圭/写真:池田景)

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