△ 「Postscript」第九場


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「あかね。」舞台写真

気が付かない、あかね。そのまま、倒れている。

「あかね…。ねぇ、起きて…。」

やっと目を覚まし、ゆっくりとおきあがる、あかね。静かに、陰鬱で重厚で静かな曲が流れる。

あかね 「藍…、あれ、何でここにいるの。」
「あなたに会いに来たのよ。ゴメンね、寝てたのに。」
あかね 「ううん。いいのよ、別に、ほら、昨日結局、公園で朝までいたじゃない…。家に着いたらなんだかとっても眠くって、一日中ずっと寝てた…。」
「そう。」

ちょっと、うつむく藍。

あかね 「どうしたの…、急に私に会いに来るなんて…。なんか話でもあるの?」
「……。」
あかね 「?話したいことあるなら、言いなよ。」
「ミドリとの事…、どうするの?」
あかね 「!。……。ミドリから聞いたの?」

静かにうなずく藍。じっとあかねのひとみを見つめる。

あかね 「やっと素敵な男の人に会えたと思ったのにね…、でもね、あたし、いいの。文字だけで会話していたけど、四郎さん…、いえ、ミドリの事ね、好きだったわ。」

じっと、見つめる藍。

あかね 「まさか、中学のときに告白した女の子に、10年もたってから付き合うことになるなんて、思っても見なかったけどね…。」

あかね、藍の方をちらっと見て。

あかね 「あたし、やっぱり男の人って好きになれないのかなぁ。」
「中学の時と、同じ気持ちなの?」
あかね 「…。あの時は、ミドリに憧れてたのよね…、ミドリ、カッコ良かったもん。輝いてた…。私は、ウジウジしてばっかりだったのにね。」
「今度は…?」
あかね 「私は…。四郎さんの事が好きだったの…。四郎さんがミドリじゃなくて普通の男の人だったら、良かったのにって思うこともある。」
「これからどうすの?」
あかね 「わからないわ…。ねぇ、藍はどう思う?あたし、ミドリと付合う方がいいのかな、それとも…。」
「別れなさい。」
あかね 「え…。どうして。」
「ミドリと付合うなんて、変よ。」
あかね 「なんで。どうして変だと思うの?」
「それば、自分自身が一番、良く分かってるんでしょ…。あかね。」
あかね 「そんなことない、私、レズでもいいもん。四郎さんがミドリなら、ミドリのことが好き。」

藍、意地悪そうに笑う。

「本当に、そう思うの?」

背後から、草剪、サングラスをかけ、ゆっくりと現れる。表情は無い。

あかね 「…」
「本当に、そう思うの?」

草剪、背後から、ゆっくりとあかねを抱きしめていく。

あかね 「誰?ミドリ?」

あかね、途中で抱きしめようとする手を止め振り向く。崩れ落ちる、あかね。ハケから走り込みあかねを抱き留める中年男。足早に去る、藍と草剪。

中年男 「大丈夫かいなぁ。」
あかね 「ごめんなさい…。ちょっとめまいがして。」

中年男、その場にその場にあかねを座らせる。

中年男 「しかし、あんまり思いつめんことやで、いちこはん。」
あかね 「でも、変な夢だったの…。すごく、リアルだった…。」
中年男 「夢なんちゅうもんは、だいたい変なんが多いよ。わしかて、たまに見る夢は、仕事先で大事な書類忘れとって、えらい汗だくになってたり、浮気ばれて上さんに平謝りしてたり、ろくでもないもんばっかりやで。」

あかね、ちょっと緊張がほぐれた様子。

中年男 「まぁ、夢のことは、あんまり考えんといてもええんやないか。まぁ、四郎のことはなぁ…、わしかてびっくりするばかりでなんもいえへんなぁ。」舞台写真
あかね 「ほんとに、ごめんなさいね…。でも、四郎さんのこと知ってるの、次郎さんと三蔵さんだけだし、次郎さんはわたしと四郎さんの関係、話してないし…。」
中年男 「そのことは、ええって。わざわざ、相談しに大阪まで来るくらいなんやから、イチコはんもよっぽど思いつめんとんのやろ。」
あかね 「仕事、大丈夫だった。」
中年男 「平気、平気。どうせ倒産したようなもんに、いまさらじたばた慌てたかて、どうにもならへんのや。そんな事より、遠くからわざわざ会いにきてくれた人の方が、なんぼか大事やで。」
あかね 「ありがとう…。三蔵さんに話し聞いてもらえて、少し楽になったわ。」
中年男 「さよか。わしは、なんもしてへんけどな。」
あかね 「じゃ、また…」
中年男 「四郎とのこといろいろあって、嫌やと思うけど、たまにはチャットルームの方にも顔出しや。次郎と二人やと寒いネタばっかりでかなわんで。」
あかね 「うん、わかった。」
中年男 「じゃあな。」

二人、上下別々のハケに消えていく。同時にスクリーンに会社のオフィスの一角が映し出される。給湯室やオフィスの机、ロッカールームなど。音響にひそひそ話をする数人の男女の声がする。

(作:川村圭/写真:池田景)

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