△ 「Postscript」第五場


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舞台、上、下、中央に部分照明。3個所にそれぞれ藍、ミドリ、あかねが居る。上手の役者は下手奥向き、下手の役者は上手奥向き、中央は背中を向けて立っている。それぞれ対面するする向きで、草剪、ロッカー、中年男が立っている。(ロッカーは客席に座っている)それぞれ、無音で対面する人間と会話をしている。

ミドリ 「今回のキャンペーンの企画説明は以上の通りです。では、ご質問のある方はいらっしゃりますか?」
ロッカー 「あ、すみません。宣伝部の今田です。今回の新製品の宣伝資料の件ですがこれ、先ほどのスケジュールじゃちょっと無理ですよ。」
ミドリ 「と、言いますと。」
ロッカー 「ポスターやカタログといったいつもどおりのものは、大体完成してるんですけどね…、例のアクリル製のマネキンというのが…。完成はたぶん、来月中旬ぐらいの予定です。」
ミドリ 「ちょっと待ってください。宣伝部には今回の話は、ずいぶん前から連絡を入れてると思うんですが。」
ロッカー 「いや、私のところに連絡が来たのは、先月頭ですよ。」
ミドリ 「それ以前に小又部長宛てに連絡を入れてるんですけど。」
ロッカー 「その話は、私は聞いてないですよ。…とにかくキャンペーンには頭からは間に合いませんので中盤以降から展示という事でお願いします。」
ミドリ 「それは困ります。キャンペーンでは、京浜、阪神といった大都市圏を前半にPRするんです。今更、目玉の拡販材料が無いというのは困ります。それに、すでに大半の会場では展示スペースも確保していただいてるんです。」
ロッカー 「そう云われてもねぇ…。できないものはできないですし。」
ミドリ 「マネキンの作成はどの業者に。」
ロッカー 「高田工芸です。いつもうちが依頼している業者です。」
ミドリ 「ほかの業者はあたられましたか?」
ロッカー 「いや」

ミドリ、資料をさぐり始める

ロッカー 「ちょっと、無理ですよ。すでに発注かけてるんですから。今更、キャンセルはできませんよ。」
ミドリ 「ミツミアート。多分ここなら間に合うと思います。」
ロッカー 「ちょっと待ってください。いくらなんだって…」
ミドリ 「すでに発注をかけたものについてはうちの予算で買い取ります。」
ロッカー 「……わかりました。そちらの言う通りにしましょう。いいんですね、坂田さん。」
ミドリ 「責任は私が取ります。」

ロッカー、小声で。

ロッカー 「ちっ、一丁前に。」
ミドリ 「よろしくお願いします…。」

ロッカー、一瞬、伏し目がちにミドリを見る。深々と頭を下げるミドリ。映像OFF。
照明転換。あかね、ミドリ、藍の3人に照明当たる。

あかね 「おっはよう!」
ミドリ 「おはよっ!」
「…」
あかね 「あ〜い〜、その朝からよどんだ雰囲気なんとかならないの」
ミドリ 「無理無理、この子、昨日も彼氏と夜遊びしてんだから。ど〜せ家に着いたの終電よ。」
「終電だったら目の下にクマなんか作らないわよ。」
ミドリ 「えっ、始発!やるー」
「えへ♪家、帰ってない。」
ミドリ・あかね 「…」
「いやさぁ、最初は私だって帰るつもりだったのよぉ。でもさ、あいつの話、公園で聞いてたらさぁ、いつの間にか終電もなくなっちゃて帰れなくなっちゃった訳よ。そんでさぁ、朝までブランコ乗ってたってしょうがないジャン。だから、取りあえずあいつのアパートに行こうって事になったわけさ。」
あかね 「行ったって、始発で帰れるでしょ。」
ミドリ 「馬鹿ね。行ったら帰れるわけないでしょ。で、今日は彼氏の家からご通学ってわけ。」
「そんな、汚らしい物でも見る目で見ないでよねぇ。ミドリだって彼氏いるじゃん。」
ミドリ 「藍といっしょにしないでくれるぅ、私は“ご宿泊”なんてしてないからね。」
「あっ、そういう言い方って傷つく。」
ミドリ 「この位で傷つく位なら女子中学生止めるのね。」
あかね 「義務教育やめるのって難しそうね。」
「あかねは、もうちょっと“傷つく”ような事してみたら。」
あかね 「それってどういう意味よ。」
「ま〜たぁ〜。いっつも人の話し聞くだけ聞いて自分の事は、ノーコメントなんだからさぁ。」
あかね 「そんな事ないじゃん。私だって自分の事話してるジャン。」
ミドリ 「そおだっけ?」舞台写真
あかね 「話してるじゃん、レオ様の事とか」
「レオ様?ああ、ディカプリオ」
ミドリ 「違う、森本。」
「あかね。ひょっとして定期入れの中に生写真入れてるの。」
あかね 「(うっとりして)入れてるよ…」
ミドリ 「でも生写真ってよくよく聞くと変な言葉よねぇ。」
「なんで?」
ミドリ 「だってさぁ、普通、あたし達が撮った写真ってみんな、言ってみれば生写真なわけじゃん。でもさぁ、ゲーノー人の写真だけ、生写真っていってさぁ、アタシ達の写真は普通の写真ってなっちゃうんだよね。」
「もしミドリがアイドルになったらアタシ達が3人でとった写真も生写真になるのかぁ、そしたら、アタシ達も生写真の仲間入りね。」
あかね 「なんで、私じゃくてミドリな訳。どーせアタシはかわいくないわよ。大体、3人で生写真になったって、そんときゃあんたと私は、目のところに黒い線入ってるかはさみでチョキンって切られてるわよ。」
ミドリ 「だいたいなんで私がアイドルなの。」
「え〜、みっちゃんなら良い線いってると思うんだけどなぁ。」
あかね 「でも、ミドリがアイドルになる前に藍がお母さんになるほうが早かったりして…」
「縁起でもないこと言わないでよね。」
ミドリ 「それは言えてる。藍、気を付けなね。」
「2人ともなんで今日は、そんなに冷たいわけ。」
あかね 「別に。隣でそんな幸せそうな顔されてたら誰だって不機嫌になるわよ。」
ミドリ 「あたしは、別にいつもの通りよ。」
「ふーん。」

不満そうな藍。

「まあ、いいけどね。」

照明転換、同時に映像、生の藍を映し出す。照明、藍と草剪を映す。
草剪、カメラを持ち藍を被写体にシャッターを切り出す。

草剪 「…少しうつむいて下さい。そう、そうです。」舞台写真

草剪の指示に合わせて、動く藍。せわしなくシャッターが切られて行く。

草剪 「今度は、カメラを見て下さい。もっとリラックスして…意識しないで、自然な感じでお願いします。」

アングルをどんどん変えて行く。

草剪 「ちょっと、微笑んで下さい。あ、笑いすぎ。そうそう…良い感じ。視線カメラからそらして反対側見て下さい。」

カメラのフィルムが切れる。

草剪 「ちょっと、待ってて下さいね。フィルム切れちゃったんで交換します。」

藍、ふう、とため息をつく。

草剪 「疲れました?」
「ちょっと。写真のモデルなんてはじめてだから。」
草剪 「ゴメンナサイ、無理言って。…でも正直、山下さんが引き受けて下さるとは思いませんでしたよ。」
「私も思わなかったわ。」
草剪 「…いや、実は気になってたんです。…あなたを最初に見かけたのは、駅の南口にある公園でした。その時僕は、学校の卒業制作の題材を何にするか迷った。撮影モデルを雇う金も無いし、風景ってのも自分のテーマに合わないし、いっそのこと群集の写真にしようと思って雑踏でシャッターを切りまくってた。でも、なんだかシャッターを押せば押すほど気が重くなって…。」
「群集の写真って面白そうだけど。」
草剪 「僕は“人物”をテーマにしたかった。群集ってある意味では風景写真のと共通するところがある。俺のやってみたい事とちょっと違ってた。」
「ふーん。」
草剪 「テーマを変えようって思ったところに、山下さんがファインダーに入ってきたんですよ。」
「私、あの時もうすぐ旦那が帰ってきちゃうから慌ててバスに乗ろうとしてたのよ。」
草剪 「シャッターを切った一枚の写真を現像した時にこの人に、モデルになってもらおうって勝手に決めちゃってたんです。でも、自信は全然無かった。大体もう会えるかどうかもわからないしね。」

藍、ちょっと嬉しそうに微笑む。

草剪 「こうと決めたからにはとにかく何かをせねばと思ったから次の日に同じ時間に同じ場所に行ってみた。そうして、あなたが来た。」
「あたり前よ。私はいつも買い物とかしてあの時間に駅の前通るんだから。」
草剪 「僕は舞い上がってました。“これは奇蹟だって”ってね。で、怪しいと思われるか、なんてぜんぜん思わないで声かけちゃったんです。その後の、藍さんの怪訝な表情見て“やばいな”って思いました。」」
「あたし、新手のキャッチセールスかと思ったわよ。」

2人ちょっと笑う。

「それにしちゃ地味なカッコしてるし…取りあえず話を聞いちゃったのよ。その時は引き受ける積もりなんて全然無かった。モデルなんて全然興味無かったし、私もボランティアするほど暇じゃないしね。」
草剪 「……」
「あの日、一人でボーッとテレビドラマを見てたの。そしたらなんか“このままじゃダメだ”って思った。なんかきっかけ作ろうって。」
草剪 「俺、運が良かったんですね…。さぁ、用意できました。今度は、窓の方に動いて下さい。」

舞台手前に移動する藍。シャッターを切る草剪。

草剪 「視線ちょっとさげてください…。そう」

さらに、シャッターを切り続ける。撮影中に携帯電話が鳴る。藍、小走りに携帯電話を取りに行き、電話に出る。

「はい。」

※ 以下、電話に向かっての会話(相手の会話は聞こえない)

相手 「あ、藍ちゃん。」
「そうです。」ちょっとよそよそしい感じで。
相手 「今、何処?待ち合わせた場所来てるんだけどさぁ。」
「ごめんなさい。今日はちょっと都合、悪くなっちゃったの。」
相手 「えつ、そうなんだぁ。なんだそうか…。旦那さん?」
「いえ、そうじゃないんだけど…。」

その間、男(草剪)は気を使って聞かないようにしている。が、自然と会話は聞こえてしまう。

相手 「そう…、じゃあ、また連絡してよ携帯の方にね。」
「はい。ごめんなさい。」
相手 「じゃあね。」
「それじゃ。」

藍、ちょっと表情が曇る。

「ごめんなさい、待たせちゃって。」
草剪 「平気なんですか?」
「平気よ。全然大丈夫。」
草剪 「そうですか…。じゃ、続き撮っちゃいますね。じゃ…さっきの続きから。」

また少しシャッター切る。

草剪 「すいません。ご主人に悪い事しちゃいましたね。」
「…え…。」
草剪 「今のご主人からですよね。」
「…。」
草剪 「じゃぁ…」といいかけて言葉に詰まる。

微笑む、藍。シャッターを切り続ける男(草剪)。途中で突然動きが止まりうつむく藍。

「ごめんなさい…。あたし、やっぱり帰ります。」
草剪 「え、どうしたんですか。」
「ごめん、ごめんなさい。」

そのまま、舞台中央からハケに飛び込もうとする瞬間に明かり転換、藍、ストップモーション。

ミドリ 「ちょっと、そんなに怒んなくてもいいでしょ。」
「ふーん、だってみっちゃんもあかねちゃんも意地悪なんだもん。」
あかね 「え〜、え〜、どうせあたしゃ、意地悪ですよ。」
ミドリ 「あたし、別に意地悪してるつもり無いけど。」
「みっちゃんってどうしてそんなにいつも冷静なのぉ?かわいい顔してかわいくないんだから。」
あかね 「どうせあたしは、顔もかわいくないわよっ!」
ミドリ 「あかねは今日は徹底的にひねくれてるわね。」
あかね 「…」
「な〜んかあったのぉ」
あかね 「…」
ミドリ 「そんなに膨れっ面してないでハッキリ言っちゃえば。」
「みっちゃんってどうしてストレートなの。あたし達、傷つきやすい、女子中学生なのよ、もっとNHKの中学生日記とか見て勉強しなさいよ。」
ミドリ 「あたしは、イレブンPMで勉強してる!」
「あんたなんの勉強してるのよ。良く人の事、朝帰りだって馬鹿にできるわね。」
ミドリ 「あんたこそ、何でイレブンPMの内容知ってるのよ。ほんとにもう、Hなんだから」
「みっちゃんってほんと性格悪いわ…」
あかね 「…ぼそぼそぼそぼそ…」←ボソボソ言ってて良く聞こえない。
「何、あかね、何が言いたいの?」
あかね 「…ぼそぼそぼそぼそ…」←ボソボソ言ってて良く聞こえない。
ミドリ 「へ?ひょっとしてまださっきのこと言ってるの?」
あかね 「言えるくらいならとっくに言ってるもん!!」
「何、急に大きい声出すのよぉ、びっくりするじゃん。」
ミドリ 「わかった。もう、聞いてあげるから。」
あかね 「…」
ミドリ 「うん?」

あかね。ちょっと、思いつめて。

あかね 「みっちゃんが好き。」
ミドリ 「うん。あたしもあかねのこと好きよ。」

あかね、ブンブン首を振る。

あかね 「そうじゃなくて、みっちゃんのこと愛してる!」
「へ?」
ミドリ 「ほ?」
「ほ…。“ほ”の字の愛してる…。」
ミドリ 「何でまた。」

照明転換。あかね、映像に映し出される。照明、中年男とあかねを照らす。

あかね 「四郎さんおそいねぇ…。」
中年男 「ほんまやで…。」
あかね 「三蔵さんの携帯に連絡入ってない?」

中年男、携帯を確認する。

中年男 「なんも入っとらん。まったく…次郎は急用できて来れんようになるし、これで四郎まで来いへんかったら、2人だけになってしまうやないか、無茶苦茶気まずいやん。」舞台写真
あかね 「きまずいってのは、ひどいんじゃないの。」
中年男 「だってそうやろ、初めて会うのにいきなり2人きりっちゅうのは、いくらなんでも気まずいやろぉ。」
あかね 「でも、もうちょっと言い方あるんじゃないの、これでも独身女性なのよ。」
中年男 「あかん、あかん、独身いうたって、好きな人おったら結婚しとるんと同じよ。」
あかね 「え?」
中年男 「あんたの彼氏。わかってのやで、四郎さんやろ。」
あかね 「何、言ってるの。四郎さんが彼氏なわけないでしょ。」
中年男 「隠さんかて、いいがな。わしは、次郎みたいな、気きかんやつとはちゃうねんで、3ヶ月も話ししとれば、いくら相手の顔知らんかってそれぐらいのこと、察しがつくがな。」
あかね 「それぇ、三蔵さんの思い込みだよ。ほんとに四郎さんと私は何でもないの。」
中年男 「じゃぁ、聞くけど、イチコさんは四郎はんのこと、嫌いなんか?」
あかね 「え…。」
中年男 「ほらみぃ、やっぱりそうやないか。」
あかね 「隠してもしょうがないみたいだから、三蔵さんには話すわ。でも、四郎さんには言わないでね。」

中年男、肯く。

あかね 「四郎さんの事は、好きよ…、って言ってもお互い会ったこと無いんだから、まだ誤解かも知れないけど。」
中年男 「なんや、この場所決めるのに四郎と2人で決めたんやないんか」
あかね 「四郎さん来なかったの。おかしいなぁと思ったら、メールが入ってて、急用で来れないって…」
中年男 「なんや、四郎に番号教えへんかったんか?」
あかね 「教えといたわよ。でも、携帯はならなかった。あたし、一時間も待ったのよ。」
中年男 「なんや、電話で話せへん訳でもあったんかいな。」
あかね 「わからないの。」

少々の間

中年男 「ところで、イチコはん、四郎はイチコはんのこと、どないに思っとるか聞いたんか?」
あかね 「うん…、メールでね。“まだわからないけど、付き合ってみたい”って…。」
中年男 「そやろうなぁ、わし、同じチャットしとってもなんや、この2人の会話見とって、ヤキモチ通り越して、微笑ましく思っとたんや。」
あかね 「変な話よねぇ、私は四郎さんの声すら聞いたことが無いのに…。」
中年男 「そーかぁ、ひょっとしてわしがここにおるから、四郎は出て来づらいんかなぁ…」
あかね 「まっさかぁ、今日はみんなで集まるはずだったんだから、四郎さんだってわかってるでしょ。」
中年男 「いやー、分からへんでぇ、東京の男っちゅうのは、どうもいじいじしたところがある。」
あかね 「えー四郎さんはそんな人じゃないよぉ。」

ちょっと、言い過ぎたなぁと思って反省する中年男。

中年男 「まぁ、このまま居ってもしゃあないし…、次郎も来れんしなぁ、今日のオフ会は中止っちゅうことしよかぁ」
あかね 「えー、でも四郎さんが遅れてきたらどうするの」
中年男 「遅れてくるっちゅうたってもう2時間近く、過ぎとんのやで。今度こそ電話きてもいいやんか。イチコはんも四郎の携帯の番号知らんのやろ。」
あかね 「知ってる…。」
中年男 「なんや!知っとるんっだたら早よ言うてーなー。四郎はんに早よ電話して頂戴。」
あかね 「番号教えるから、三蔵さんかけてくれない?」
中年男 「なんで?イチコさんかけたらいいやん。」
あかね 「…あたしね、四郎さんに電話かけるの恐いの…声聞くの恐いの。」
中年男 「なんか、四郎はんに怒られるような事でも言ったんか?」

あかね、急におちゃらけて。

あかね 「あたしね、彼氏いない歴24年なの。てへっ」
中年男 「はぁ?ほんまかいなぁ。まさかそれで男の人が恐くて電話かけられへんなんて、中学生みたいなこと言い出すんとちゃうやろなぁ」

あかね、うなづく。

中年男 「いちこはん、だったらなおさら自分でかけなあかんでぇ。…わし、帰るは。もし、四郎はんに連絡取れたら、二人で仲ようしたらええ。イチコはんもわしじゃなく、ほんとは四郎はんに話きいてほしんやろ。じゃあな。」

ちょっと微笑んで去る。

あかね 「あ…。三蔵さん…。」

三蔵ハケに向かい直前でストップモーション。目線で三蔵を送るあかね。思い直して携帯で電話をかける。すると、すぐ近くで携帯の着信音鳴る。ミドリの周り照明明るくなる。振り向いて、携帯電話をとるミドリ。映像OFF。

あかね 「ミドリ…。」

ミドリ、にっこりと微笑む。携帯を切りあかねの方に歩いていく。

あかね 「四郎さん?」

ミドリ、あかねを抱き寄せ、キスをする。あかね逆にぎこちなくミドリを抱く。照明転換。

藍、ミドリとあかねの方に走っていく。

「あかね!もうやめて!」舞台写真
あかね 「あたし、本気なの。」
「違うって、それ。あかねは、単に恋に恋してるだけだよ。」
あかね 「ちがうもん。ほんとに、ほんとにみっちゃんのことが好きなんだもん。」

しばし、呆然とするミドリ。

ミドリ 「あかね、あのさ、これ…。」

そういって、一通の封筒をだす。一目で分かるラブレター。

あかね 「みっちゃんが、わたしに…」
ミドリ 「違うの。名前見て。」
あかね 「“木村五郎”?」
ミドリ 「預かって来たの。その子から。」
あかね 「どうして…」
ミドリ 「その子と同じクラスだから…」
あかね 「どうして…」
「あかね、ねぇ聞いてる?」

あかね、ラブレターやぶる。

「あかね!落ち着いて、ね、おちついて。」

あかね、ミドリ同時に上手下手ハケに走り去る。
曲はいる。カラオケ。藍、歌う。男3人、徐々に動き舞台奥に歩いていく。やがて、等間隔に並ぶ。男3人後ろを向いたままで。音量下がる。藍歌うのを止める。

男3人 「はじめまして、あかねさん」

男3人、声をそろえて木村五郎のラブレターを読む。

男3人 「とつぜん、こんな手紙を書いてごめんなさい。」

藍、ゆっくりとあかねに破られたラブレターを拾う。

男3人 「ずっと前からあなたのことが好きでした。」

再び、歌う藍。男3人やはり後ろ向きで。再び音量下がり、藍、歌うのを止める。

ロッカー 「この前は、ゴメンね、無理矢理引き止めちゃって。…家の人に怒られなかった?」舞台写真

藍、身振りで首を横に振る。

ロッカー 「そう、良かった。今度の週末また、遊ぼーな。」

肯く、藍。ちょっと表情に曇りがある。

草剪 「あの、あかねさんはいないんですか…」

肯く、藍。

草剪 「あかねさんは、ぼくの手紙読んでくれたんでしょうか?」

首を横に振る、藍。

草剪 「そうですか…。いえ、良いんです。わかってました。僕もクラスの女の子に届けてもらうなんて意気地が無かったんです。」

うつむく藍。

草剪 「でも、ぼくはあかねさんのことがやっぱり好きです。これからもずっと。」

うつむく藍。

中年男 「何怒ってんだよ。」

顔を上げて膨れっ面の藍。

中年男 「え、何か気が付かないかって。」

ぶんぶんと縦に首を振る藍。

中年男 「分かった。髪切ったんだろ。う〜ん、似合ってるよ。」

ぶんぶんと横に首を振る藍。

中年男 「えー、ちがうのか。…え、ピアス。あー…。俺、そういうの嫌いだなぁ。」

うつむく藍。

中年男 「もうこれ以上、するなよ…。」

うつむく藍。

男3人 「もうこれ以上、するなよ。」

音楽、CUT OUT。照明、CUT OUT。3秒無音暗転。

(作:川村圭/写真:池田景)

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