トップページ > ページシアター > 双月祭 > シーン7 【公演データ】
雨音。
物置小屋。
パソコンにむかい、メールを打っている聖子。
ヨガを組むポエット君。読書する真穂。
ゲームボーイしているキョーコ。
たいくつしきっている保。
保 「なぁそろそろ貸せよ、キョーコ」
キョーコ 「ダーメ」
キョーコ、軽く振り払う。
ふっとぶ保。
保 「ケチ…」
保、のそのそと聖子のところへ。
保 「せーこーちゃーん」
聖子 「発電機はないわよ」
保 「どこへ隠した」
聖子 「ヒミツ」
保 「チクチョーこうなったらぜってー見つけてやる」
保、あちこちを探し回る。
せきこむ人々。
キョーコ 「ホコリ出るよ、カピィ」
聖子 「雨で窓もあけられないのよ、わかってるの!?」
保 「うるせーな、いちいち…」
保、聖子が机にしている道具箱をみつけ
保 「キョーコ」
キョーコ 「エーイ」
キョーコ、聖子をたたく。
聖子ふっとぶ。
保、道具箱の中を物色。
たて笛を発掘。
保 「あった!…何だこりゃ」
真穂 「あ…それ…小学校の時、私が使ってたたて笛です」
保 「ホントだ“4−2入神真穂”。よく取ってあったなこんなもん」
保、笛を真穂に投げてよこす。
保 「下にもまだ何かあるぞ」
保、ピアニカを発掘。
キョーコ 「うわー懐しーピアニカじゃん!」
保 「なんでこんなもんがあんの?」
真穂 「小学校のとき、吹奏楽クラブだったんです。それで父が…」
保 「一人でこんなに持ってたって仕方ねーだろ?」
真穂 「…楽器もってると、友だちが遊びに来てくれたから…」
保 「なーるほどねー、いじめられっ子を持つ親心と」
キョーコ 「カピィ!」
保 「確かにあるある…見ろよホラ」
キョーコ 「タンバリン!トライアングル!」
保 「それに…」
保、ウクレレひっぱり出す。
保 「…ハワイアンな吹奏学部だな…」
真穂 「ち、違います、それは父のハワイ土産で…」
保、ウクレレひいてみる。
キョーコもピアニカ面白がってならしてみる。
それを見た真穂も思わずたて笛を。
その光景みていた聖子、突じょ叫ぶ。
聖子 「これよ!!」
キョーコ 「は?」
保 「なにが?」
聖子 「これをマスコミに訴えない手はないわ!」
保 「これって…ウクレレ?」
聖子 「違うわ、コンサートよ!廃村に響く元村民たちの魂の調べ…これはマスコミが喜ぶわ!」
保 「元村民って…コイツしかいないんだぜ」
聖子 「いいのよ細かいことは。とにかく、どんな手を使ってもマスコミの目をひくことが大事なの」
キョーコ 「いいじゃないカピィ!メジャーになるチャンスかもよ!」
保 「そうか。これでオレの顔と名前が売れれば…」
キョーコ 「夢にまでみた“ザ・げっ歯類”CDデビュー!!」
聖子 「…売れなさそうなバンドね」
保 「よし、聖子ちゃん、やろうじゃねーか、コンサート!」
キョーコ 「あたしピアニカにしよっと」
保 「オレはウクレレだな」
キョーコ 「真穂は笛ね。あとタンバリンとトライアングルと…ぴったりじゃん」
聖子 「私はプロデューサー役よ」
キョーコ 「じゃあ、ポエット君!ポエット君はやるよね」
ポエット君、のそりと立ち上がり。
ポエット君 「―――私には」
全員 「私には?」
ポエット君 「―――この声がある―――」
間。
保 「あ、あーあーあー、わかったお前、ヴォーカルやれ」
ポエット君 「かたじけない」
キョーコ 「でもそうすると楽器は3つだけ?」
聖子 「ちょっと淋しいわね」
保 「せめて、あと一人くらい…」
そこへ。
宮田 「失礼しまーす。ヒャーすっげぇ土砂降り」
間。
全員 「ないすちゅーみーちゅー!!!」
宮田 「へ?」
保 「よかったなーメンバーそろって…」
宮田 「はい?一体何の話…」
キョーコ 「それがさー廃村…」
聖子 「大したことじゃないわ。雨続きで退屈してたからみんなで楽器でも、練習しようってことになって。ね?」
保 「あ、ああ…」
真穂 「え、でも、それは…」
聖子、真穂を制して、
聖子 「入神さんは、たて笛の係なのよね」
真穂 「…」
保 「さぁ早く上がれよ」
宮田 「えっ上がっていいんですか!?」
聖子 「どうぞどうぞ」
宮田 「…説得するだけが、方法じゃないよな…わかりました、引き受けましょう!」
歓声。
ひとり、おどおどする真穂。
保 「で?タンバリンとトライアングル、どっちがいい?」
宮田 「あ、僕タンバリンがいいな」
キョーコ 「曲はどうしようか」
聖子 「昔の教科書ないの?」
真穂 「ああ、あった。これでいいですか」
古ぼけた『4年の音楽』
聖子 「4年の音楽」
保 「上等上等」
キョーコ 「何にしようか」
宮田 「カッコイイのにしましょうよ」
キョーコ 「(目次をみて)“運命”」
聖子 「いーわね、名曲よ」
ページ開く。難しそう。
全 「…」
保 「ちょっと…長いかな…」
キョーコ 「そ、そーね、それに暗いし…」
聖子 「じゃ、“翼を下さい”なんてどう?」
保 「それも、名曲だよな」
開く。さらに難しそう。
全 「…」
聖子 「この際、もう少しレベルをおとしてみた方が、いいんじゃないかしら」
キョーコ 「賛成。なにせ急ごしらえだし…」
真穂 「あの…じゃこれ、『1年の音楽』」
キョーコ 「そうねぇ…(パラパラとめくりつつ)じゃ“カエルの歌”あたりでとりあえず…」
聖子 「いいじゃない、練習曲にしては」
保 「よし決定!」
各自調音ののち
保 「…行くぞ、ワン・ツー、ワン・ツー・スリー・フォー!!」
“かえるの歌”
ポエット君、絶叫、
ポエット君 「かえるの歌が/聞こえてくるよ/グワッ/グワッ/グワッ/グワッ/ゲロゲロゲロゲログアッグアッガア」
物置の隅に逃げ込みおびえる一同。
ハアハアしているポエット君。
ポエット君 「…どうかな?現代文明に対するアンチテーゼを込めてみたんだが…」
保 「…あ…あァ、そう…そ、そう言われれば…」
キョーコ 「感じられなくもない、わよね…」
宮田 「そ、そうだね、特に、グアッグアッガア、の辺りとか…」
ポエット君 「嬉しいよ…わかり合えて」
ポエットからキスの嵐を受ける宮田。
一同悲鳴。
宮田 「あのさ、アンチテーゼもいいけどさ…こんどは曲に合わせて、込めてみないか」
ポエット君 「曲?」
保 「こいつ一切きいてなかったな、さては…」
キョーコ 「ポエット君、知ってるでしょ、ホラ、かーえーるーのーうーたーがー、ね?」
ポエット君 「了解した」
保 「じゃ今度こそ、セーノ」
ポエット君、悲愴感漂うヴォーカル。
泣き崩れる一同。
ポエット君 「今度はどうかな」
保 「今、込めたのは…」
ポエット君 「諌早湾のムツゴロウたちの気もちだ…」
保 「ムツゴロウ…」
宮田 「さすが自然保護団体…」
泣き崩れる一同。
なぐさめるポエット君。
少し離れたところで聖子。
聖子 「できた。(ケータイかける)もしもし?私です。今からそっちに送る書類を各マスコミにFAXしてほしいの…頼むわね。あ、それからダムの建設事務所にも、忘れずに…よろしく」
切る。
聖子、打出したチラシを見る。
聖子 「“よみがえれ入神村・コンサート、主催/ザ・グリーン・レボリューションズ、協賛―――建設省”」
暗転。
(作:中澤日菜子/写真:海老沢直美・広安正敬)