△ 「双月祭」シーン2


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少女が消え、後を追おうとした宮田、
出てきた女とぶつかる。
女は入神真穂。手に如雨露をもっている。転ぶ二人。

宮田 「あたたたた…あ、す、すみません大丈夫ですか?」
真穂 「…」
宮田 「参ったな見失ったか…。あのォここら辺で女の子、見ませんでしたか?」
真穂 「…女の子?」舞台写真(海老沢)
宮田 「10歳くらいの、白い、変わった服着た子で…髪の毛はこの位の…」

真穂、宮田を見つめる。
徐々に表情が変わる。
二人の目が合い、真穂、目をそらす。

宮田 「どうしました?…あれ?俺なんかあなたにも見覚えが…」

宮田、近づこうとする。
一瞬早く、真穂、宮田に
如雨露投げつけ、逃げる。

宮田 「冷てぇ!な、何すんだよ、待てこの…」
阿部 「宮田さん!何やってンすか!!」
宮田 「阿部さん…いや、小さい女の子見かけて、追いかけようとしたら、今度は変なジトッーとした感じの女性に…」
阿部 「女性に?」
宮田 「如雨露、ぶっつけられた…なんなんだこの村は…」
阿部 「そいつですよ…」
宮田 「何が?」舞台写真(広安)
阿部 「そいつが、入神真穂。入神村の厄病神です」
宮田 「え…」

と。
拡声器から女の声。同時に音楽。

「アーアーマイクテストマイクテスト、本日は火曜日なり明日は水曜日なり」
宮田 「な、なんなんだ今度は…」
阿部 「出たなついに…奴らのリーダー、女護ヶ島聖子です!」
宮田 「はい?ごめんアタマのところもごもごしてきこえなかった…」
阿部 「ニョゴガシマセイコ!」
宮田 「ニゴガシマ?」
阿部 「ニ・ヨ・ゴ…」
女護ヶ島 「ニョゴガシマ・セイコ、です。人の名前は、正確に発音して頂きたいわ」
宮田 「ハハァ…ニョゴガシマ、さん…失礼ですが、本名で?」舞台写真(海老沢)
女護ヶ島 「当り前です」
宮田 「どんな字を」
女護ヶ島 「女が護る島の聖なる子あり、それが私女護ヶ島聖子。以後よろしく」
宮田 「承知しました。ところで女護ヶ島さん」
女護ヶ島 「なんです?」
宮田 「これだけ近い距離なんですから、直接、お話ししませんか」
聖子 「いいですよ」

聖子、拡声器を置く。

宮田 「初めまして。私、建設省中部…」
聖子 「入神さん」
真穂 「はい?」
聖子 「(ラジカセを指差し)切って!」
真穂 「…はい。」
宮田 「(気を取り直して)私、建設省中部…」
聖子 「ストップ!」
宮田 「は?」
聖子 「その石垣よりこちらには、入らないで下さい。もしも入った場合は、不法侵入と見なし、それ相応の処置を取ります」
阿部 「バカヤロー!てめぇらが不法侵入してンだよ!」

阿部、つっかかるが、聖子になぎなたで刺される。

阿部 「いてえっっ!!」
聖子 「それ相応の処置」
宮田 「…じゃあ、ここに名刺を置きますからね」

宮田、名刺を置く。

聖子 「入神さん、持ってきて」
真穂 「はい」

真穂、走り出て名刺をひろう。

宮田 「あ、ホントだ、さっきの…」
真穂 「(呟くように)ごめんなさい」

真穂、逃げるようにその場を離れ、聖子に名刺を渡す。

聖子 「フゥン…ようやく建設省のお出ましってわけね…良かったわ、山ザル相手じゃ話も通じなくて」
阿部 「黙れコラァ!」
宮田 「まぁまぁ」
聖子 「霞ヶ関じゃないのが残念だけど」
宮田 「ブッ殺すぞてめえ!!」
阿部 「落ちついて落ちついて」
聖子 「とにかく、私たち、ザ・グリーン・レボリューションズは、入神ダムの建設が中止にならない限り、私たちがここを離れることはありません」
宮田 「しかし女護ヶ島さん、10年前、入神村及びこの近隣のダム建設予定地は、全て県の土地収用委員会により収用されているんです。つまりあなた方は、国により強制的に排除されても仕方のない立場にいるんですよ」舞台写真(広安)
聖子 「強制的な排除、ねェ…」

聖子、鼻で笑う。

阿部 「何がおかしい!」
聖子 「ねぇ宮田さん。10年前、この入神村にダム建設計画が持ち上がった時、一人の村民が強硬に反対していたのはご存知?」
宮田 「もちろん。私はその時、調査官として一部始終に立ち会いましたから」
聖子 「だったら、その村民が、とある環境保護団体と協力して、建設を阻止するために、自分の土地を“共有地”として提供したことも…」
宮田 「覚えています。頑なな人で話し合いにも応じてもらえず、数十人にのぼる共有者を作って、反対し続けてましたね」
聖子 「その方の名前を覚えてらっしゃる?」
宮田 「たしか村と同じ名前だった、そうだ…」
真穂 「入神総一郎。私の父です」
宮田 「入神さんの…。お元気ですか、お父様は」
真穂 「死にました」
宮田 「え?」
真穂 「死にました。3ヵ月前、自動車事故で。同乗していた母も一緒に。私だけ―――私だけ助かったんです」
宮田 「それは…お気の毒に」
聖子 「入神さんは一人娘でね、全ての遺産を相続することになった。もっとも、この土地が共有地だったために、大した遺産はなかったらしいけどね」
阿部 「当り前だ。村に迷惑かけたんだから…」
宮田 「阿部さん!」
聖子 「ところが、世の中は面白いものでね…。宮田さん」
宮田 「何です」
聖子 「土地の強制収用は、共有者全員の同意書がなければ、できないわよね」
宮田 「もちろんです」
聖子 「反対に言えば―――1人でも、同意していなかったら、収用は成り立たないわね」
宮田 「…何が言いたいんですか」

聖子、スッと紙をとり出す。

聖子 「これ、何だと思う?」舞台写真(海老沢)
宮田 「…」
聖子 「入神総一郎氏の、未署名の強制収用同意書。どうも何かの手違いでこの1通だけ、収用委員会に届かなかったらしいのよねー」
宮田 「う…嘘だ!!そんな単純なミス、あるわけがない!!例えあったとしても、この10年の間に必らず発見されて…」
聖子 「いると思うわよねぇ。けれど現実には、ミスが起こり、そのミスが気づかれないまま今日に至った。そして相続の手続き中に偶然そのことを知った入神真穂さんは、悩んだ末、かつての同志だった環境保護団体をたずねた。それが…」
宮田 「ザ・グリーン・レボリューションズ…」
聖子 「10年前の名称は“緑の革命軍”。ま、同じだけどね」
阿部 「宮田さん、どういうことなんです!?」
宮田 「―――もしも今言ったことが事実ならば…」
阿部 「事実ならば?」
宮田 「―――彼らには、ここに住みつく法的な根拠があるんだ」
阿部 「ええ!?」
聖子 「そういうこと。さ、おわかり頂けたならお引き取り願いましょうか」
阿部 「バカなこと言うな!俺たちがどんな思いで村を廃て、どんな思いでダムを作ってきたと思ってるんだ!それを今更…」
聖子 「きれい事言わないで。結局は金、金、金が欲しかっただけじゃないの」
阿部 「てめぇ…」

阿部、飛び出そうとする。
あわてて押し止める宮田。

宮田 「阿部さん、おちついて!」
阿部 「あの女ブッ殺してやる!」
宮田 「そんなことしたら相手の思うツボだ!」
阿部 「離せったら!」
聖子 「…やっぱり、山ザルには言葉が通じないわね。仕方ない。入神さん、B面」

真穂、カセットオン
勇ましい音楽

聖子 「遅くなりましたが最後の同志をご紹介するわ。その名も“ファイティング・ポエット”君」

スッと、【異様な】風体の男が表われる。
阿部の悲鳴

聖子 「じゃポエット君、心のたけを、どーぞ〜」

ポエット君の、【絶叫】。

ポエット君 「山は泣いている/川は犯されて/空からは血が/鮮烈な紅い血が/俺たちを狂わせる/百億の夢の中で/俺たちは狂っていく/何処までも/墜ちて行く」

宮田、失神する。
かろうじて耳栓をした阿部、宮田をかついで去る。

阿部 「ちくしょう…今に見てろ!」
聖子 「10年前の名前は“戦う詩人くん”。ま、同じだけどね」

暗転

(作:中澤日菜子/写真:海老沢直美・広安正敬)

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