△ 「A1-PANICS!」第2回


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間。
ハアハアしている大須。

小田嶋 「…何だったんだ、今のは…」舞台写真
岸野 「大丈夫か、大須」
大須 「…済まない、岸野。おさえようと、したんだが…」
岸野 「気にするな。それより体は平気か」
大須 「ああ…少し、休ませてくれ…」
小田嶋 「勝手に話を進めるな!質問に答えろ!」
岸野 「これでお前にもわかったろ。このサボテンはな、一種のアンテナなんだ」
有川 「アンテナ?」
岸野 「ああ。このサボテンを頭に装着することで、眠っている超常能力がめざめる。いや、ふだんはか細い力でしかない能力が、増幅されると言った方がいいか」
敦子 「じゃ、大須さんはサボテンを装着したことで…」
岸野 「そう。秘めた力が現われ出たんだ」
大須 「欲しくなかった…こんな能力(ちから)…!!」
小川 「そらそうだな」
岸野 「まだ実験段階で、サボテンも数個しかない。言ってみればこのサボテンは突然変異の産物なんだ。しかも人体実験が済んでいるのは大須1人だけ。つまり、このサボテンによって、どのような能力が発現するのかは未だ謎の部分が多い」
安永 「そんな、だったら新聞かTVにバッーとDM送りつけちゃったらいいじゃないですか!」
大須 「それは…考えました、でも…」
岸野 「考えてみてくれ、みんな!こんな大発見をみすみすソ連が…」
小田嶋 「岸野」
岸野 「なんだ」
小田嶋 「芝居も大事だが新聞も読め。ソ連は、もうない」
岸野 「…。アメリカが」
小田嶋 「金がない」
岸野 「中国が」
小田嶋 「ヒマがない」
岸野 「北朝鮮が」
小田嶋 「ききんで大わらわだ」
岸野 「そうだったのか…みんな、大変だな」
小田嶋 「ああそうさ。だから元気出して仕込みを続けよう。ハイ散って――」
岸野 「最後まできいてくれ!とにかく、まだマスコミに発表できる時期じゃないんだ。何といってもサンプルが少なすぎる。大須一人だけでは。そこで…」
大須 「ぜひ皆さんに協力して頂きたいんです」
有川 「協力ゥ?」
小川 「どーいうことだよ」
大須 「さっきも言ったように、このサボテンは、ひとりひとりの潜在能力を増幅して発散させる、いわば脳ミソのアンテナです。人間が違えばもちろん能力も違う。そこで皆さんにサボテンを装着して頂き、一体どんな能力が発現するかを…」
敦子 「ウソッ信じらんないっそんな恥ずかしいこと、あたし達にできると思ってんの!?(かぶり物をつけて)」
「ダッ!」
大須 「もちろん無料で、とは申しません。もしもこの実験を引き受けて頂けるならば…」
美咲 「頂けるならば?」

大須、両手を広げる。

鴨志田 「エッ十円…」
桑田 「バカ、10万だろ」

大須、NO。

美咲 「ち、違うの?じゃ…ひゃ100万!?」
大須 「その10倍…1000万、キャッシュで差し上げましょう」
小川 「い…い…」
「1000万!?」
大須 「ええ」舞台写真
小川 「1000万あれば…」
有川 「もう、ヨソの劇団から黙って燈体借りたり」
敦子 「黙って衣装借りたり」
桑田 「黙ってベニヤ板はがしたり」
安永 「黙ってお金持ち出したり」
美咲 「しなくていいんだ…」
「アハ…アハハ…」
大須 「最後のは犯罪っていうんじゃないのかなぁ…」
岸野 「さあどうする!?早いとこ決めちまおうぜ!」
小川 「そりゃあ、もちろん」
小田嶋 「断わる」
小川 「エエ!?」
美咲 「ちょっと太郎ちゃん何言ってんのよ!」
小田嶋 「断わると言ったら断わる!」
敦子 「小田嶋さん、しっかりして下さいよ。1000万、目の前にぶら下がってるんですよ、それを…」
小田嶋 「馬鹿野郎!お前らこそしっかりしろよ!初日は明日だぞ、俺たちは今、仕込みのまっさい中なんだぞ!考えてもみろよ、こんなでっけえもん頭にのせて、仕込みができると思ってんのか?桑田、床にクギ、打てるか?アッコ…(かぶりものを見て)…有川、これつけて照明吊れるか??!」
桑田 「…」
有川 「そりゃ…でも…」
小田嶋 「俺だって1000万は欲しいさ。でも俺たちが一番大切にすべきなのは、この芝居と、明日芝居を観に来てくれるお客さんなんじゃないのか?巨大な幻想に惑わされて、目の前の大事なものを、みんな、見失わないでくれ!」
美咲 「太郎ちゃん…」
敦子 「小田嶋さん…」
小川 「…すまない…俺たち、どうかしてたみたいだ」
有川 「そうね…本当に、そうね…」
岸野 「お、おいちょっと、待てよ」
小田嶋 「さ、そうと決まったら、仕込みの続きだ。各自、持ち場に戻って」
「ハイ」
大須 「優作ちゃん…」
岸野 「待てったら、オイ」
有川 「時間下さーい。あとこのあとの予定」
小田嶋 「4時40分です。5時30分まで作業続行して下さい」
「ハイ」
大須 「ど、どうすんの優作ちゃん」
岸野 「落ちつけ!忘れたのか、お前には、この世の中で最も強い力があるじゃないか!」
大須 「エッ!?…愛?」
岸野 「愛は、ない。お前にあるのはパワー…」
大須 「パワー」
岸野・大須 「パワー・オブ・マネー!!」舞台写真

音楽!頷き交わす二人。
大須、走って荷物を取りに行く。

大須 「皆さんッ!これを、これを見て下さい!!」

ダンッ。大須、札束を1束、足下に積む。
間。

敦子・安永 「あ…」

よろける。

小川 「だ、大須さんこれは…」
大須 「今日の、この実験のために用意した金です。もちろん、全てではありません。が、…」
小田嶋 「そ、そうだ、こんな端金に惑わされるな!」
大須 「300万、在ります」

間。

敦子・安永 「あ…」

よろける。

小田嶋 「馬鹿者!腰抜かすな、このくらいで…」
敦子 「でも、小田嶋さん、300万、300万ですよ!」
安永 「50円切手6万枚分…」
敦子 「ビスコなら10万箱…」
安永 「スティック糊3万本分…」
敦子 「よっちゃん烏賊ならなんと30万枚…」
敦子・安永 「すごいすごいですよすごすぎます!!」
小川 「せこい…」
大須 「さあ、どうします、お二人さん。意地を張ってこの機会を逃すかそれとも…」
敦子 「…ごめんね、小田嶋さん」
安永 「先立つ不幸を、お許し下さい!」

二人、大須の元に侍る。

小田嶋 「アッコ!愛!戻ってこい!」
桑田 「無駄だ!あの二人に、今、なにを言っても…」
4人 「オーホホホホ!オーホホホホ!!」
桑田 「無駄だ!あの二人に、今、なにを言っても…」
有川 「なんて、なんて卑怯な手を…」
小川 「ビンボーなところから狙いやがって…」
岸野 「悪いことは言わない、さあ、お前らも、早く来い!」
小川 「馬鹿野郎!金で良心が売れるか!?」
美咲 「そうよ!馬鹿にしないで!」
岸野 「強がっていられるのも、今のうちだけ…」
美咲 「え?」
岸野 「引き続き見せてやれ、パワー・オブ・マネー!!」
大須 「イエッサー!」

ダダンッ!!大須さらに札束を積む。
ごくり。つばを飲み込む音。

小田嶋 「き、気にするな、たとえ300万が500万になろうとも…」
岸野 「甘いな。小田嶋」
小田嶋 「なに!?」
岸野 「見てわからんか。いまここにあるのは、倍以上…800万の現ナマだ!」
有川 「は、800万!?」
美咲 「あ、あたし初めてだよ、こんな大金、見るの…」
大須 「何言ってるんですか、美咲さん!もうすぐ、あなた達のものになる金ですよ、これは」
美咲 「あ、あたし達の」
有川 「ものに…?」

立ち上がりかける二人。

小田嶋 「馬鹿!罠だ!」
桑田 「そうだよ、しっかりしろ!」
有川 「(はっとして)そ、そうだよね、ごめん」
岸野 「本多劇場、紀ノ国屋ホール、青山劇場、天王洲アートスフィア、横浜アリーナ、武道館、そして東京ドーム…800万あれば、借りられるんだぜ。想像してみろよ。アートスフィアの照明を操作している自分を。そして、東京ドームの舞台に立っている自分を!」
有川 「アートスフィアに」舞台写真
美咲 「東京ドームに」
有川・美咲 「いる私!」

パアア。舞い上がる有川と美咲。そのまま大須のもとへ飛んでいく。

小川 「おーい!戻ってこーい!」
小田嶋 「美咲!有川!」
6人 「オーホホホホ!オーホホホホ!!」
桑田 「なんて、なんてことだ…」
小川 「ついにあの二人まで…」
小田嶋 「畜生。女は打算的だからな」
小川 「仲間より金を取りやがった」
桑田 「だが、俺たちは違うぞ、小田嶋!」
小川 「ああ、誰が、あんな嫌みなヤローに…」
小田嶋 「有り難う!有り難う二人とも!」
小川 「気にするな」
桑田 「これが本当の友情だ!」
大須 「くそう!」

ダダダンッ!!!大須、さらに積む。

小田嶋 「1千万か。それで1千万なんだな、大須さんよ」
大須 「う…」
小田嶋 「ははは!悪かったな!こいつらにはそんな脅しはきかねえぜ!」
小川 「当たり前よ!」
桑田 「見くびって貰っちゃこまるぜ!」

3人大笑い。

岸野 「ど、どうするんだ大須」
大須 「安心して、優作ちゃん!こんなこともあろうかと、事前にリサーチしてあるわ!」
岸野 「リサーチって、いったい…」
大須 「雛形あきこ、広末涼子!」
桑田・小川 「え!?」
大須 「いや〜偶然にもウチのお得意さんでしてねぇ。よく店に来られるんですわ、お二人とも。何度か顔を会わすうち、なんですか、まあ、おともだち、になりましてねぇ…。お二人とも、私のためならプライヴェートなお時間を、いささかさいてくださると、ま、こういうんですわ」
桑田・小川 「ごく」
大須 「いや〜正直、感激しました!なにせ当代きってのアイドルでしょう。そのお二人が、プ・ライヴェートにねぇ、お時間を、ねぇ…。しかも…おっといけない、これは秘密だったなぁ。これ言っちゃうと事務所がな、大変だしなぁ」
桑田 「一つだけ、聞いて良いか」
大須 「なんです?」
桑田 「水着も、ありか?」
大須 「それどころか。――ひと肌、脱ぐと」
小川 「じゃ、そういうことで」
桑田 「さようなら、小田嶋」
小田嶋 「まて!待ってくれ、桑田!小川!」
8人 「オーホホホホ!オーホホホホ!!」
小田嶋 「くそお!!」

そこへ。

鴨志田 「…私が」
小田嶋 「どわっ!!」
岸野 「しまった!鴨志田が、まだ…」
大須 「ど、どうしよう、彼女はリサーチに入ってなかったよ!」
小田嶋 「えらい!えらいぞ、鴨志田!俺は、今日ほど、お前が劇団員で良かったとおもったことは、ない!」
鴨志田 「…えへ」
岸野 「出せ、円蔵、ありったけ!」
大須 「で、でももう小銭しか…」

大須、ポケットをまさぐる。

大須 「あっ」

大須、誤って小銭をこぼす。10円玉が、1枚、鴨志田の足下へ。
鴨志田、拾い上げ。

鴨志田 「ギザ十…。…くれる?」
大須 「え!?えええ、あげますとも…」
鴨志田 「わ〜い…」

鴨志田、大須の方へ。
ボーゼンとしている人々。

鴨志田 「…やって、あれ」
大須 「は、あ、あれといいますと?」

鴨志田、ジェスチャー。

岸野 「そ、そうか、さあみんな元気だして」
9人 「オーホホホホ!オーホホホホ!!」
小田嶋 「くっ…」舞台写真
岸野 「これでわかったろう、小田嶋。いくら舞監のお前だって、多数決にはかなわない。円蔵に、協力してやってくれ」
小田嶋 「…」
岸野 「頼む。この通りだ」
小田嶋 「――勝手にしろ」

歓声とどよめき。

小田嶋 「ただし、今日1日だけだ。明日はムリだぞ、初日なんだから。それに、作業に支障が出たら即刻、外させる」
大須 「も、勿論結構です」
小田嶋 「それから、俺は、断わる」
岸野 「なんで?嫌なのか」
小田嶋 「当り前だ。あンなもんつけて舞監がつとまるか」
岸野 「わかったよ、いいよ別にお前一人くらい。な?」
大須 「ええ、ありがとう」

握手を求める大須。小田嶋、その手をはたく

岸野 「よし。交渉成立だ。大須、サボテン出してよ」
大須 「ハ、ハイ」

(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)

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