△ 「A1-PANICS!」第1回


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客入れの音が終わる。
客電が落ちる
同時に音、入る。舞台写真
盛り上がったところで、舞台にあかり。
役者、全員並んでいる。

越智 「本日は、劇団"寒気の吹き出しにともなうスヂ状の雲"第4回公演にご来場いただき、ありがとうございました。エー役者を紹介いたします。堀田美咲」
美咲 「ありがとうございました」
越智 「原敦子」
敦子 「ありがとうございました」
越智 「小川雅史」
小川 「ありがとうございました」
越智 「越智実」
越智 「ありがとうございました」
美咲 「そして、作・演出、岸野優作」
越智 「本日は、本当に」
「ありがとうございました!」

拍手。
暗転。
音大きく。

小田嶋 「お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした!」

明転。

安永 「1時間18分です」
美咲 「のびたね、5分位」
小田嶋 「岸野はどこいったんだ!? 途中から消えただろう」
越智 「いやそれが"すぐ戻るから代わり頼む"って言われて、そのまんまさいごまで…」
小田嶋 「アイツは演出で主役だろうが!?なのになんでゲネプロで抜け出す!?」
越智 「ンなの岸野さんに聞いて下さいよォ。俺は頼まれただけで…」
有川 「時間下さーい!それとこのあとの予定」
小田嶋 「6時23分です!6時30分から吊り直し、装置の補修、その他今のゲネでまずかったところ直します」
桑田 「小田嶋」
小田嶋 「なんだ」
桑田 「メシは」
小田嶋 「7時」
桑田 「小田嶋」
小田嶋 「なんだ!」
桑田 「メニューは」
小田嶋 「安永!夕食は何だ。安永!」
安永 「ハイ!?呼んだ!?呼んだ!?呼びました!?」

走ってきた安永、小道具を踏む。

小川 「あっー!バカヤロ踏むな!」
安永 「あっ、スミマセンスミマセンスミマセン!」
小田嶋 「雅史、そんなトコに小道具おいとくな。ウチはタダでさえみんなガサツなんだから、そのうち…」

手をついた小田嶋、小道具をこわす。

小川 「ああっー!とどめ差しやがって」
小田嶋 「悪かった!悪かった!しまえ、早く!で、メシは何だ安永」
安永 「あの、オニギリです。私、握ってきました」
小田嶋 「足りるのか、これだけ人数いて」
安永 「大丈夫です。私、昨日寝ないで…」舞台写真

倒れる安永。

敦子 「愛ちゃん!」
美咲 「ちょっと愛ちゃん大丈夫!?」
小田嶋 「どうしたんだ、一体」
敦子 「睡眠不足よ、きっと。徹夜したって言ってたから」
美咲 「太郎ちゃん、ちょっと愛、ねかせてくるね」
小田嶋 「ちょ、ちょっと待てよ。お前らには役者のダメ出しが…」
美咲 「何言ってるの!愛とダメ出しと、どっちが大事!?」
小田嶋 「ダ…」

美咲、ケリ入れる。

美咲 「行くよ、アッコ!」
敦子 「ハイ!」

去る3人。

越智 「あっなんかみんないなくなっちゃいましたね!じゃ、オレもちょっとだけバイト先に顔、出して来るっす!すぐ、すぐ戻りますから、じゃ!」
小田嶋 「…」
有川 「時間下さーい!舞監、時間!」
桑田 「小田嶋」
小田嶋 「…なんだ」
桑田 「メシは、それだけか!」
小田嶋 「…多分な」

袖より、岸野とその友人大須、登場。

岸野 「いやー悪い。終わっちゃった?ゲネプロ」
小田嶋 「岸野!お前、一体どこに行ってたんだ!?」
岸野 「ちょっとヤボ用で、ハハハ」
小田嶋 「ヤボ用!?お前、わかってんのか。初日は明日だぞ!?たった1回最初で最後のゲネだったんだぞ、それを…」
岸野 「落ちつけよ小田嶋、悪かったと思ってる。でもな、決して劇団にとっても悪い話じゃないんだぜ」
小田嶋 「ゲネが満足にできなかったこと位、悪い話があるかァ!?」
岸野 「いいから落ちつけって。ちょっとみんな集まってくんない?」
小田嶋 「何をはじめる気だ。時間なんて、ちっとも余ってやしないんだぞ」
岸野 「わかってるって、5分でいいから。…あれ?越智と愛ちゃんは?」
有川 「越智は出かけてる。愛ちゃんは…」
安永 「ここにいます」
敦子 「愛ちゃん!大丈夫?ねてた方が…」
安永 「イエ!制作たる者、すべてに通じていなくては!ゲホッゴボッ。ウッ血!と思ったら梅干しの汁!」
岸野 「じゃ、これでとりあえず全員か。まず紹介しよう。俺の中学時代からの友人で、大須円蔵さん」
大須 「あ、は、はじめましてコンニチワ。お忙しいところおじゃましちゃって、その…」
小田嶋 「ホンッット、ジャマだよ、ケッ」
大須 「あう」
岸野 「小田嶋!…悪いね、良い奴なんだが口と顔が悪くて。だけど案外根性も悪くて性格ゆがんでるんだ」
小田嶋 「文章めちゃくちゃだぞお前!それでも作家か!?」
岸野 「こいつが舞台監督っていって、一応現場では一番エラいんだ」
大須 「…おもねるなら、コノ人!」
岸野 「うん」
小田嶋 「そーゆーことはカゲで言え、カゲで!」
岸野 「で、左から照明の有川、衣装の原、小道具の小川、装置の桑田、制作の安永、堀田。越智ってのがいるんだけど、今、出ちゃってて…」
大須 「み、皆さんプロなんですか?」
美咲 「真逆!もちろんこれで食って行けたら最高だけど」
岸野 「半分はプー、あとの半分は学生やってたり、公務員やってたり、俺みたいにフリーのライターやってたり…。そうだ、お前みたいなのもいるぜ」
大須 「僕みたいなの?」
岸野 「すねかじり!ホント親は可哀想だよ」
大須 「ハハ…スミマセン」
岸野 「今はまだ、マイナーな小劇団だけど、見てろよ、そのうち絶対超メジャーになって、チケット取りたくても取れないくらいになってやる…フフフ」
大須 「あ、あの優作ちゃん。僕、お芝居に関しては全くのシロートだけど、ひとつだけ、忠告したいことが…」
岸野 「おお!言ってくれよ!その純粋な一言が明日の大劇団を生むんだよ!」
大須 「長いよ、名前」
岸野 「…」
大須 「"寒気の吹き出しにともなうスヂ状の雲"だっけ?客は舌噛んで死ぬよ」
岸野 「…」
大須 「多分ね、僕、この劇団、一生メジャーにはなれないと思う!」
岸野 「誰か、大須さん、外にお連れして!気が変わられたようだ」

出そうとする桑田・小川。暴れる大須

大須 「わ、忘れたの、優作ちゃん!メジャーになる、最後のチャンスよ!」
岸野 「くっ。ヒトの弱みにつけこみやがって。…ハイ、戻して戻して」
小田嶋 「なんだよ、捨てちまえよそのまま」
岸野 「そうはいかねぇんだ。なにせすげえ話だからな」舞台写真
鴨志田 「…あのー」
岸野 「お前らきっと、腰抜かすぜ。いいか、落ちついて聞けよ」
鴨志田 「…スミマセン。あのー…」
岸野 「実はな、この大須がつい最近大発見をしたんだ。それこそ、世の中がひっくり返るような。その大発見というのが」
鴨志田 「……」

カモシダ、フルボリュームで音入れる。
あわてまくる人々。

岸野 「い、いたのかカモシダ!」
鴨志田 「ハイ」
小田嶋 「何度も言ってるだろう。音で自己主張するな!びっくりするだろうが!」
鴨志田 「だって」
小田嶋 「だって何だ!?」
鴨志田 「…淋しくて」

淋しい音、入る。

岸野 「…済まない。こんな方法でしか感情を表現できないんだ」
大須 「ハ、ハア…」
小田嶋 「いいから、お前もこっち来い。音、切って」
鴨志田 「ハイ」

これで、ブースには誰もいない。

美咲 「で、何なの話って」
岸野 「これを見てくれ」

岸野、サボテンをとり出す。

敦子 「サボテン?」
岸野 「そう。でもただのサボテンじゃない」
有川 「どういうこと?」
岸野 「サボテンの話の前に、まず大須のことをみんなに説明しとこう。大須はな、大須園芸と言う業界最大手の園芸会社の跡とり息子なんだ」
安永 「あっ知ってます知ってます大須園芸!たまにヨソの劇団からそこのお花頂きますよ」
岸野 「さすが愛、ダテに制作やってないな」
小田嶋 「で、その大須園芸の跡とり息子がウチの劇団に何の用なのよ」
岸野 「大須はな、たしかに跡とり息子なんだが、その、ハッキリ言ってあんまり会社経営に向いていない。どちらかと言うと、学者肌で、一人でとことん研究する方が合ってるんだ」
美咲 「もったいなーい。御曹司なのにィ?」
大須 「会社の方は、弟がいずれ…」
岸野 「で、彼はありあまるほどの財力と頭脳を、本当に自分の好きな分野の研究に向けることができたってわけだ。それが――」
敦子 「サボテンの研究?」
岸野 「当たり。半分だけ」
小川 「半分?あとの半分は?」
大須 「皆さん"サボテンには意識がある"って話、ご存知ですか」舞台写真
小川 「ハァ?サボテンに意識?何のこっちゃ」
有川 「あたし知ってる。けっこう有名な話よね」
大須 「ええ。サボテンには他の植物にはない力――それこそ"意識"や"自我"、そして"霊感"といったものが宿っている――そう、信じられているのです。一部の学者の間では」
小田嶋 「ホントかよ」
大須 「もちろん、表立って研究されている訳ではありません。でも、ここだけの話――某家電メーカーの研究所が、いわゆる超能力を持つと思われる人を集め、サボテンに手かざしさせ、そのサボテンの電圧変化を調べている、という…いえ、ここだけ、ここだけの話ですよ、皆さん」

〔実話〕。というプレート、出る。

小川 「サボテンに…」
敦子 「…手かざし…」
桑田 「…秘密めいた話のわりには、ほほえましい構図だな…」
大須 「と、とにかく、サボテンには、まだまだ解明されていない未知の力がある、ということです。そこで私は、先ほどの研究所の考えをさらにおしすすめ、研究に研究を重ねました。その結果がこれ、このサボテンなのです!」
美咲 「ふうん…別に普通のサボテンに見えるけどね」
大須 「その通り。このサボテンは、こうしている分にはごく普通のサボテンなのです。このサボテンが威力を発揮するのは…」
安永 「発揮するのは!?」

音。

敦子 「カモシダさん、またぁ…」
岸野 「あーカモシダいい、いい。気、使わなくていいから戻っといで」

その間に大須、サボテンを頭に装着。

大須 「こーした時なのだァァァ!!!」

間。
さらに間。

小田嶋 「…じゃ、みんな仕事に戻って」
小川 「うぃーす」
有川 「シュート直すから、美咲、立っててくれる」
美咲 「ハーイ」
大須 「まっ待ってくだい!私の話を、話をきいて下さいぃ!!」
小田嶋 「悪いなァ大須さんよ。どこのお坊ちゃんだか知らないけど、ウチは明日初日でみーんな忙しいのよ。ジャマしないでやってくれる?ン?」
大須 「そ、そんな私、邪魔なんか…」
小田嶋 「じゃ、どーいうこと?そりゃウチの劇団、バカよ。バカばっかりよ。都内屈指の低能劇団て呼ばれてるよ。でもね、だからってイキナリ、ソレはないでしょう、ソレは」
大須 「ち、ちが、違う、これは…」
小田嶋 「本番前のさ、一番忙しいときに来てさ、やれサボテンがどーの、やれ某家電メーカーがどうの、挙げ句の果てに…」
「ソレ」
小田嶋 「これじゃあいくらバカばっかりのうちの劇団員も怒るわな」
大須 「ウ…」
小田嶋 「さ、わかったらサッサと出てってちょーだい。あ、安永、チケットあげて。当日精算券でいいから」
安永 「ハイ」
小田嶋 「じゃ、どうも、大須さんお帰りでーす」
「お疲れ様でしたァ!!」
大須 「違うんだー!!」舞台写真

ゴゴゴ。地鳴りと揺れ。

小川 「地震!?」
美咲 「キャー!!」
小田嶋 「おちつけ!有川、照明おさえろ!みんな動くな!頭かばって伏せ…」

音楽!
そして、あの、懐かしの。
"OKダンサーズ"!!
来て、去る。

(作:中澤日菜子/写真:広安正敬)

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