疾患の関係因子

局所性修飾因子

咬合性外傷

 咬合性外傷(=こうごうせいがいしょう)とは過度の咬合力(かみ合わせの力)により、歯周組織に損傷が おきることをいいます。

 咬合力と歯周組織破壊の有無から、一次性咬合性外傷二次性咬合性外傷に分けられます。
 分類方法については、歯周病の分類の項目にある咬合性外傷を参考にしてください。

 力が加わる方向からは、矯正型ゆさぶり型に分けられます。
 力が加わった側の歯根膜に外傷性の炎症反応と、楔状骨欠損(=けつじょうこつけっそん)と呼 ばれる斜め方向の歯槽骨の吸収がみられます。これは、かみ合わせの強い状態から歯が逃げるために骨を吸収して移動するために起きます。

 一方向のみの力、例えば上の図で黄色または緑のみであれば、矯正型の外傷となりますが、口腔内では対合 歯(=たいごうし: かみ合う歯)と強く当たって動かされ、頬や舌の力によって戻されるというように、ゆさぶり型の力が加わります。

 強く当たる部分から歯が逃げきると、歯の動揺は残りますが、歯根膜の炎症は消えます。処置法としては咬合調整(か み合わせの高い部分を削ること)を行います。これにより、歯は逃げる必要がなくなり、吸収していた骨も再形成されます。

 

歯周炎と咬合性外傷の違い

 歯周炎と咬合性外傷に共通してみられる特徴は、歯の動揺歯槽骨の吸収で す。しかし、原因が違いますので、鑑別診断が必要になります。

  1. プロービング時の出血(BOP)
     プロービングとはプロー ブで歯周ポケットの深さを測定することです。このとき、歯周炎ではポケットの深さだけプローブは入っていきますが、同時にプラークによって炎症を 起こしている部分は擦過により出血してきます。
     一方、咬合性外傷では歯が動く分だけ上皮や歯肉線維が伸ばされているのでプローブは多少深く入っていきますが、歯と付着している部分は壊されてい ないため、「出血はしない」ということになります。

  2. 骨吸収の特徴
     どちらも骨の厚みがあるところでは楔状骨欠損となりますが、咬合性外傷では傾斜の力が加わるために、歯槽頂(=しそうちょう; 骨の一番高い部分)のみならず、根尖(=こんせん; 根の先の部分)の骨も吸収します(上の図で確認してください)。
     歯周炎と根尖病巣(虫歯から進んで根の穴を通り、根の先の骨に病気が進んだ状態)が併発している場合にも同様のレントゲン像にみえることもありますが、生 活歯(=せいかつし; 歯の神経が生きている状態)で楔状骨欠損と根尖部の骨吸収が認められたなら、明らかに咬合性外傷で す。

  3. 骨の添加
    歯周炎では歯槽骨そのものが吸収していきますが、咬合性外傷では歯が動くために無機成分だけが溶かされ、有機成分は残って います。したがって、外傷力を咬合調整で取り除けば、歯周治療をしなくても残った有機成分に無機成分が沈着し、骨の再生が起 こります。

 歯周炎と咬合性外傷の両方がある場合には、歯周炎の進行を促進することがあります。

 

2つの学説

 実は楔状骨欠損に関しては、2つの学説があります。

  1. Glickmanの学説(1965)
    死体解剖から骨吸収と咬合性外傷の関係を調べた研究です。その結果は、
     1)歯周炎のみでは炎症は歯槽骨のみに波及し、水平型の骨吸収になる
     2)咬合性外傷が加わると炎症は歯槽骨と歯根膜の両方に波及し、楔状骨欠損になる(共同破壊因子)
    というものです。すなわち、咬合性外傷=楔状骨欠損ということになります。

  2. Waerhaugの 学説(1979)
    WaerhaugもGlickmanと同様の研究を行いましたが、さらにプラークから炎症がおきている範囲、骨吸収までの距離も計測しました。その結果 は、咬合性外傷のあるなしに関わらず、プラークから炎症や骨吸収までの範囲は同じであり、2本の歯の間で片方にプラークが深く入り込んでいる場合、咬合性 外傷がなくても楔状骨欠損になることを示しました。すなわち、咬合性外傷=楔状骨欠損ではないということになります。


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参考までに、Glickmanの論文です(Medlineのオンライン上に登録されてなかったので)。

Glickman, I. : Clinical significance of trauma from occlusion. Journal of the American Dental Association. 70 : 607-618, 1965. 


最終更新2012.12.31