疾患の関係因子

リスクファクターについて

 歯周疾患は多因子性の疾患と考えられています。それぞれの因子の関係は次の通りです。

 基本的には細菌因子(プラーク)が初発因子であり、単独でも歯周疾患は発症します。宿主因子、環境因子、局所性修飾因子が関与することにより、疾患の進 行を速めます。
 まずは初発因子について説明していきます。

細菌因子

 歯周疾患の原因はプラーク(歯垢)中の細菌により起こります。プラークが存在しない状態での歯肉炎、歯 周炎はありえません。プラークと炎症の関係については歯周疾患の疫学(Loeらの研究)を参考にしてください。

 プラークは1mg中に108(1億)個、約300種類の細菌を含んでいます。その中の何種類か による混合感染により、歯周疾患が起こります。

 歯肉縁(=しにくえん、歯肉の一番高い部分。歯肉炎と発音は一緒になります)より上の部分にあるプラークを歯肉 縁上(=しにくえんじょう)プラーク、歯肉縁より下(歯周ポケット内)の部分にあるプラークを歯肉縁下(=しにくえ んか)プラークといいます。歯肉縁下プラークになるほど嫌気度(=けんきど; 酸素を含まない状態)が高くなり、為害性の高い菌が多くなります。

 最初に歯肉縁上プラークがつき、歯周ポケットが形成されてから歯肉縁下プラークへと増殖していきます。したがって、ポ ケットの中だけ治療しても、歯肉縁上がプラークべったりの状態では、数ヵ月後に歯周病が再発することになります。歯ブラシや歯間ブラシなどで歯肉縁上を清 潔に保てるようにすることが、歯周治療を成功させる秘訣です。

 次の「バイオフィルム」と「歯周病の原因と考えられている菌」は少し専門的です。一般の方は読み飛ばしてもらっても結 構です。

 

バイオフィルム

 近年はプラークをバイオフィルムとしてとらえています。バイオフィルムとは多様で複雑な細菌の共同体が 粘着性のあるタンパク質ポリマーの基質により包まれている状態をさします。

 バイオフィルムが形成されると、単独の細菌に比べて抗生物質への耐性が約500倍高くなります。また免疫細胞に対して も、より強い抵抗性を示します。この共同体は普通では共存できないような菌種でも、共存が可能になるという特徴もあります。

 したがって、歯周病を薬(抗生物質)のみで治療することは困難といえます。歯ブラシやスケーラー(プラークや歯石を取 り除く器具)による器械的なプラークの除去が第一であり、もし薬を使用するのであれば、そのような器械的除去によって、バイオフィルム効果が減少した後に 用いるべきです。

歯周病の原因と考えられている菌

 現在、歯周病の病原菌は確定されていません。その理由を以下に挙げます。

  1. 複合感染であること
    ひとつの病巣に一種類の菌 がいるのであれば、それが原因菌と確定できますが、複合感染の場合には「どれが」と断定することが難しくなります。コバンザメ的に菌数が多くみられても病 原性が低い場合もありますし、菌数が少なくても病原性が高い場合もあります。単独では病原性が低くても、数種類が集まると高くなる場合もあります。現段階 で歯周病関連性細菌の研究は、この組み合わせについて焦点が当てられています。

  2. 必ずしもみられるとは限らない
    侵襲性歯周炎とA. actinomycetemcomitansの関連性が高いことは歯周炎の項目で述べましたが、この菌が検出されな い侵襲性歯周炎の患者さんもいます。慢性歯周炎においても、ある菌がいたり、いなかったり、患者さんによって異なります。

  3. 細菌だけでは論じられない
    歯周病の原因はプラークであることに間違いはないのですが、疾患の重症度は細菌のみならず、宿主抵抗性(患 者さんの病気に対する抵抗力)や環境(ストレスや喫煙など)が組み合わさっています。したがって、ある細菌が同じ数だけいたとしても、Aと いう患者さんでは軽症、Bという患者さんでは重症ということもありえます。

 これらのことをふまえた上で、歯周病と特に関連が強いと考えられている菌を表にまとめました。この項目では「歯学微生 物学 第4版 (医歯薬出版株式会社)」も参考にしました。

菌名

分類

関連が強いと考えられている疾患

Actinobacillus 
 actinomycetemcomitans

グラム陰性
通性嫌気性
桿菌

限局型侵襲性歯周炎
広汎型侵襲性歯周炎
慢性歯周炎

Porphyromonas gingivalis

グラム陰性
嫌気性
短桿菌

広汎型侵襲性歯周炎
慢性歯周炎

Bacteroides forsythus

グラム陰性
嫌気性
紡錘状菌

広汎型侵襲性歯周炎
慢性歯周炎

Prevotella intermedia

グラム陰性
嫌気性
短桿菌

歯肉炎
壊死性潰瘍性歯肉炎

Fusobacterium nucleatum

グラム陰性
嫌気性
紡錘状菌

歯肉炎
壊死性潰瘍性歯肉炎

Campylobacter(Wolinella)
 rectus

グラム陰性
嫌気性
桿菌

慢性歯周炎

Eikenella corrodens

グラム陰性
通性嫌気性
桿菌

抵抗力が弱った宿主での日和見
感染菌種とも考えられている。

Peptostreptococcus micros

グラム陽性
嫌気性
球菌

炎症部で菌数増加。
疾患との関連は不明な点が多い。

Selenomonas

グラム陰性
嫌気性
桿菌

炎症部で菌数増加。
疾患との関連は不明な点が多い。

Eubacterium

グラム陽性
嫌気性
桿菌

炎症部で菌数増加。
疾患との関連は不明な点が多い。

Streptococcus intermedius

グラム陽性
嫌気性
球菌

炎症部で菌数増加。
疾患との関連は不明な点が多い。

スピロヘータ

グラム陰性
嫌気性
らせん菌

深いポケット
壊死性歯肉炎
(その他に分類するテキストもある)

 グラム陰性嫌気性桿菌が多いのに気づかれたと思います。この菌種は細胞壁に内毒素(エン ドトキシン)であるリポ多糖(リポポリサッカライド=LPS) を含んでいます。これは急性炎症の惹起や骨吸収に 関与します。

 

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最終更新2012.12.29