2022年7月のミステリ 戻る

ベイジルの戦争 BASIL'S WAR
扶桑社ミステリー スティーヴン・ハンター著 2021年 293頁
あらすじ
1943年の春、英国陸軍近衛騎兵連隊大尉ベイジル・セントフローリアンに特殊任務がくだる。
ドイツ占領下のフランスに降下し、”物”を持って帰るのがミッション。
ベイジルは平時は女と浮名を流し職は長続きせず父親をがっかりさせ続けてきたが、有事の際は水を得た魚。
感想
『極大射程』の作者スティーヴン・ハンターによる諜報員エージェント『ワンマンアーミー』小説。書いてはる著者も楽しそうやし、軽く楽しめる。
ヒッチコック作品の『三十九夜』や『バルタン超特急』の軽妙な映画を見ている様な読みごこち。洒脱でもある。
ベイジルに暗号の事前説明ブリーフィングをするのが『掟−ブレイキング・ザ・コード』の数学者アラン・テューリング、、などなど映画ファンにはちょっと笑えるサービスがある。
 
ドイツと英国の騙しあいは、英国に軍配が上がるやろなー。ホラふくのうまそやもん。アリとキリギリスならキリギリスに思える(冬にはアリを食べちゃうキリギリスね。)
サー・ローレンス・オリヴィエは懐の深い男・・・・として描かれていた。
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六人の嘘つきな大学生 
角川書店 浅倉秋成著 2021年 299頁
あらすじ
伸び盛りの尖った会社「スピラリンクス」の最終選考に残った就活生六人。
選考中事態は思わぬ展開となる。
感想
始めは例のごとくもたもた読んでいたんやけど、六人の大学生のグループディスカッションが始まってからは一気に読む。
制限時間2時間半の中30分ごとに「誰がこの会社に一番ふさわしいか」の投票がある(なぜか誰も自分には投票しない)。
陪審員協議のようなグループディスカッションが終わったところでやっと半分。濃かったわ。
 
これからの自分の人生が決まるであろう大事な就職活動。当事者ではなくなった時、選ばれる側選ぶ側の胸の内が吐露される。
新人の頃「面接の時に何を見てるんですか?」と先輩が人事部長に聞かはったところ
「返答の速さ」との答えやった。
その時はへえーと思ったけど、今考えると「(面接に疲れた)自分をいらだたせない」だけが理由やったんちゃうかな。と思う。
 
本作とはあんまり関係しない話やねんけど、コミックとか読んでいると主人公の会社員の職場は圧倒的に営業部が多いと思う。
あとは企画とお仕事小説なら総務かな。
華やかで書きやすいからと思うけど、頑張りました、新しい得意先獲得しました、企画が通りましたでどれもこれも一緒。
ちょっとつまらない。
漫画家さんに会社に勤めた経験がないから他の仕事は何をしているか想像もできないのかもしれない。
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サーキット・スイッチャー CIRCUIT SWITCHER
第九回ハヤカワSFコンテスト 優秀賞
早川書房 安野貴博著 2021年 274頁
あらすじ
近未来、自動運転車が8割をしめ安全は増している。一方ドライバーを始め職を奪われた人々の怒りは大きい。
(自動運転になった場合、自販機など商品を詰めないといけない作業はどうなるんだろう)
今はアルゴリズムはひとが作っているが今後はAIが作成することになるだろう。正しいのか?
それは誰がわかるのか? そして、だいたい正しいとはなんなん?
感想
前半お話は疾走し面白い。後半は・・・うーん。
作者なりの結論がよくわからない。難しい話やけど。
プログラミングはたぶん場合分けすることと思う。どれだけ必要かつ十分な場合を想定できるか。結果(動作)をどうするか。を書いていると思う。
それだけ選択肢があるということ。時代も進んで現実社会は自分で選ばなければならないことが増えている。
自分が選んだことには向き合えということかな。自己責任というか。
選評を読んでいると完成度の高い作品なのにけっこう厳しくて。突出したアイデアというよりストーリー展開で読ませる話。
才能があっても作家になるための最初のハードルを突破するのはどんだけ難しいか。屍累々みたい。哀しい。
 
 
 
 
 
 
 
 
読み終わってもやもやするのは、恐ろしい話ではあるけれど(当事者でなければ)そんなに悪なのか? という思いがぬぐえないからだと思う。
ひとが介入してはいけない神の領域なのか。
現実、生命保険会社なんかは命の値段は保険料や補償のロジックに組み込み済みやろうし
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准教授・高槻彰良たかつきあきらの推察 民俗学かく語りき
角川文庫 澤村御影著 2018年 284頁
あらすじ
3つの怪異
「いないはずの隣人」
「針を吐く娘」
「神隠しの家」に民俗学の准教授と助手が挑む
感想
ヘイセイジャンプの誰かと、キンプリの誰かが出ているドラマを書道のお稽古しながら聞いていて「あんまり怖くないけど原作どんなかな」
と興味を持ち、読んでみた。シリーズ物の1作目だそうです。
文学部史学科民俗学考古学専攻の教授高槻彰良たかつきあきらは、東野圭吾の湯川学をふにゃとさせたような人。
怪異を聞くと助手には人懐っこいゴールデンリトリバーがしっぽをふっているように見える。
助手は学部生の深町尚哉ふかまちなおや
軽く読めユーモアもあるミステリやねんけど、ふたりとも陽だけでなく陰も抱えていてこれも謎となっている。
助手のこの特殊能力の設定はミステリでは反則すれすれかもーーしれんけど、ホラーではオッケなので本作はホラーとなっとります。
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密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック
第二十回『このミステリーがすごい!』大賞 文庫グランプリ
宝島社 鴨崎暖炉著 2022年 404頁
あらすじ
三年前、密室で起きた殺人事件は、警察と検察が謎を解き明かすことができなかったことにより
「密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある」と判決が下され、被告は無罪となった。
社会は衝撃を受け、その後三年間で三百ニ件の密室殺人事件が起きる。
感想
「だって誰が犯人かなんて、密室の謎に比べたら遥かにどうでもいいことでしょう?」
探偵役が言い放った一言がすごい、「ハウダニット物」。
人物名といい作者が知恵を絞った工夫が凝らされていて、凝った各種トリックのサービスは最後のトリックを生かすための前座。
前半は少しもたもたしていたけれど、探偵役が前に出てきた後半は読みやすい。文章も割とじょうず。
「なんでここで叙述トリックの話がでてくるのかな」と思っていたら、最後に繋がる伏線やったのか
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かくして彼女は宴で語る 
幻冬舎 宮内悠介著 2022年 310頁
感想
第一回 「菊人形遺聞」
第二回 「浅草十二階の眺め」
第三回 「さる家族の屋敷にて」
第四回 「観覧者とイルミネーション」
第五回 「ニコライ堂の鐘」
最終回 「未来からの鳥」
の六篇からなる連作短編集
 
明治四十一年の十二月、第一回<牧神パンの会>が西洋料理屋「第一やまと」で開かれる。
核になるメンバーは詩人の木下杢太郎、北原白秋、吉井勇、画家の石井柏亭(はくてい)、山本かなえ、森田恒友(つねとも)
与謝野鉄幹、与謝野晶子、森鴎外の後の若手芸術家たち。