2022年1月のミステリ 戻る

脇坂副署長の長い一日 
集英社文庫 2019年 真保裕一著 421頁
あらすじ
午前4時5分、賀江出(かえで)署に「大破したバイクが道路に転がっている」と110番通報が入る。
地域課の若い巡査部長が事故を起こした、と思われるが本人は現場にいない。
4時35分、賀江出署の副署長脇坂は睡眠中、電話で起こされる。
夜が明ければ人気アイドル歌手桐原もえみの一日署長の日。マスコミも押し寄せる。なんとしても無事に一日を終えなければならない。
感想
アイドルがやってくるヤア!ヤア!ヤア!と浮足立っている署内。警備のため上の接待のため、人員は警備に駆り出され
所在不明の巡査部長を探すのは副署長の脇坂。刑事畑が長い脇坂はお昼も食べずひとりで走り回る。
という「ギデオンの一日」の様なモジュラー型と思って読み始める。
孤軍奮闘し色々あったけど、最後は「こともなし」で終わるんかなあと思っていたら違った。
物語は前半軽快に走りユーモアもあるんやけど、半分あたりから作者の余裕がなくなり、足取りが重くなって、
奇々怪々な行動をする人々で絡まっていく。
そしてどろどろした県警を揺るがす話に広がり無理に一点に収束していくねん。作者は大きな話が好きなんやろね。
正義の言葉が強く書かれていくんやけど、だんだん登場人物とお話は精彩を欠きつまらなくなっていく。。。。
 
だいたいアイドルがそんな理由で一日署長するの?我ごとやないのに?記者会見で根拠なくぶち上げて違っていたらキャリア終わるね。
その程度の仕事なの?
刑事希望やない警察官がそんな理由で独自の調査を始める?
脇坂副署長の家庭をむりくりはめ込み成功していないと思う。家族を信じていない妻と子供たちがあたふたするねん。
国を守る警察官の家族なら、ドンとしていて欲しい。
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署長・田中健一の憂鬱 
光文社 2015年 川崎草志著 269頁
感想
「署長・田中健一の着任」から
「署長・田中健一の帰還」までの
7編からなる連作短編集。作者は「長い腕」で2001年に第21回横溝正史ミステリ大賞を受賞した方だそうです。
「長い腕」(神の長い手から来てるんやろか)の呪いの話から一転して、本作はコミカルで楽しい。
東大出警察官僚田中健一署長の生きる目的は死ぬまでにプラモデル「連合艦隊」を完成させること。主要な艦だけで数百隻あるらしい。
暇な田舎の警察署にいる間はねじ巻いて制作にまい進するはずだった。
ところが小さな署に事件が頻発し、仕事中にプラモの事を考え上の空で「黒牢城」の黒田官兵衛のごとく何やらつぶやいていたら
それがペーペー刑事にヒントを与え事件解決に結びついてしまう。キャリア官僚は捜査に首を突っ込むなと県警の上司から釘をさされているのに。
本作は、大森署の署長になってからの竜崎伸也、隠蔽捜査2「果断」のパロディなんかな。
 
「署長・田中健一の宿敵」で田中健一署長は不本意ながらダイ・ハードばりの活躍(逃げ回っているだけ)をする。
加えて全編で語られる艦船ラブが面白い。
空母『赤城』の艦載機(ゼロ戦)に直径1ミリの日の丸シールを貼るシーンには笑った。そして病はさらに進み潜水艦にまで手を広げてしまう。
(関係ない話やねんけど、この間知り合いから、米軍戦闘機が空母に着艦した時衝撃でパイロットは上から(下もか?)出まくりなので、操縦席ごとホースでバアーって水かけるって聞いた)
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