2012年7月のミステリ 戻る

隠蔽捜査3.5「初陣」
2010年 今野敏(こんのびん)著 新潮文庫 291頁
あらすじ
「伊丹俊太郎目線で描く竜崎伸也」の8編からなる短篇集。
感想
伊丹俊太郎は、竜崎伸也の小学校時代の訳あり幼馴染だ。お前にいじめられたといつも竜崎に言われている。伊丹にその記憶はまったく無い。ゼロ。そして警察キャリアの同期。お互い気になる存在ではある。
 
伊丹俊太郎は、警視庁の刑事部長。私学出身で東大出のキャリアの中では異色な存在。王道は歩けない。冷や飯をくらいそうなこともしばしばある。そのため、庶民派、マスコミ受け派、現場主義を自らのカラーとしている。彼は、竜崎に比べ、普通人のため竜崎のように「びっくりする」よりも、先を読んで「ぞっとする」ことが多い。一番面白かったのはインフルエンザにかかりジタバタする「病欠」。笑える。ほんとユーモアのセンスがある。病を押して捜査本部にいる現場主義の伊丹は竜崎に「そこまでばかと思わなかった。今、お前がすべきことは何だ?」と言われる始末。伊丹は竜崎が結婚できた事が不思議。「彼女の方が積極的だったのかも」(なるほど。奥さん、竜崎よりもひとつ年上の姉さん女房やもんね)
隠蔽捜査3「疑心」の謎が解ける話「試練」もあるよ。
お薦め度★★★1/2戻る

隠蔽捜査3「疑心」
2009年 今野敏(こんのびん)著 新潮文庫
あらすじ
アメリカ大統領の来日が決まり、警察官一同落ち着かない。
そんなこんな日に、第二方面本部長を差し置いて、所轄大森署の署長の竜崎伸也に第二方面本部の警備本部長にと命が下る。
第二方面は羽田空港をかかえる重要な拠点。
なぜだ。これは誰かの陰謀か?
感想
竜崎伸也47歳、人生最大の危機に見舞われる。危うし竜崎! 「獅子身中の虫」とでも申しましょうか。
テロを阻止しつつ、己の煩悩と折り合いをつけようとする竜崎の運命やいかに。
この本は、次の番外編「隠蔽捜査3.5 初陣」と続けて読むと、裏話があって面白い。
 
「相棒」でも「踊る大捜査線」でも本部は現場の事をわかろうとしない、権力闘争をしているアホタレと描かれている事が多いが(日本人は判官びいきやし)、本来は「司令塔」というのは、とても大事なものなんだな。という事がわかるお話。「相棒ten 元日SP『ピエロ』」は、現場と本部が噛み合っていてとてもよかったよ。
お薦め度★★★★戻る

隠蔽捜査2「果断」 山本周五郎賞 日本推理作家協会賞受賞
2007年 今野敏(こんのびん)著 新潮文庫
あらすじ
竜崎伸也46歳は、家族の不祥事で降格人事をくらい、所轄大森署の署長を拝命する。
「俺の出世の道はついえた」とは思うものの、日々公務員として国に尽くすため判子押しに精を出す毎日だ。
そんなこんな毎日に、高輪署管内で強盗事件が発生。緊急配備(キンパイ)となる。
感想
警視正以上は国家公務員とか、SITとSATの違いとか、ほんと勉強になる。
「キャリアもノンキャリアも警察官の皆さん、まっすぐ元気に頑張ってください。」と願いたくなる物語。
このシリーズは続けて4冊読んで、出来すぎっぽいねんけど「二段重ね」になっている本作が一番面白い。
折れそうになった竜崎伸也が、「風の谷のナウシカ」や「攻殻機動隊」のアニメに勇気をもらい救われるところもよくできていると思う。
お薦め度★★★★★戻る

隠蔽捜査 (いんぺいそうさ) 吉川英治文学新人賞受賞
2005年 今野敏(こんのびん)著 新潮文庫
あらすじ
警察庁長官官房総務課長の竜崎伸也46歳。東大法学部卒の有能なキャリア警察官僚。
エリート意識を持つ官僚の中で、用心深いながらもまっすぐ有能すぎて、周りの理解を超え、「変人」扱いさえされている。
しかし、この「変人」はとても役に立つ良い変人であった。
感想
題材が日本人には忘れられない鬼畜の所業の事件なので、その分、気は重いが、竜崎伸也はとっても面白い。
彼は合理性を重んじ、原理原則を大切にする。それゆえに、周りの非合理な行動(彼にとって)やわけのわからん言葉(彼にとって)に驚く日々だ。
 
息子との会話で
「父さんにとって正しくても、俺にとっては正しくないこともあるだろう?」
「わからん」
竜崎は言った。本当にわからなかった。「正しいことというのは、誰にとっても正しいはずだ」
 
妻には、
「お前の仕事は家を守ることだ。俺の仕事は国を守ることだ」
とおおまじめに言う。
 
すぐれた警察小説であるとともに、この唐変木に、そこここ笑ってしまう面白さがある。
お薦め度★★★★1/2戻る

トネイロ会の非殺人事件
2012年 小川一水(おがわいっすい)著 光文社
あらすじ
「星風よ、淀みに吹け」SF 「くばり神の紀」SFホラー 「トネイロ会の非殺人事件」サスペンスの3編
「星風よ、淀みに吹け」は「バイオスフィア2」のような宇宙空間での生活実験のための自給自足の施設で起こった殺人。「くばり神の紀」は、いままで冷遇されていた外の子に屋敷が遺されたのは何故?の謎を解く。 「トネイロ会の非殺人事件」は、見知らぬ男女10人がひとつの目的のために集まり、事を起こす話。題名「tneiro」は有名なミステリ小説のアナグラム?になっているらしい。