2018年7月のミステリ 戻る

虚像のアラベスク
2018年 深水黎一郎(ふかみれいいちろう)作 角川書店 261頁
あらすじ
烏丸バレエ団の創立十五周年記念公演の一週間前に脅迫状が届く。「公演を中止しろ」という内容だった。
感想
ふたつの動作は、そう言われればもしかしたら同じことをやっているのかも。と惑わす作品。
最初の美しい作品「ドンキホーテ・アラベスク」が次の作品「グラン・パ・ド・ドゥ」の前ふりになっていたとは(驚)。
(ちなみに「パ・ド・ドゥ」とは二人一組で舞い踊ることだそうです。)
 
読み始めた時は、どさまわりしている裸の舞姫さんたちのお話かと思いました。作者の罠にまんまとはまった訳ですね。
しかし見目かたちによりこれほど違うものになるのかと。改めて感心いたした次第です。
見ていた光景ががらりと変わるという「葉桜の季節に君を想うということ」以来の衝撃ではないでしょうか。呪縛が解けた後は笑うしかない。
 
3作品目「史上最低のホワイダニット」
そういえば映画「シコふんじゃった。」で竹中直人がゆーてはりましたわ。
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AX アックス 斧
2017年 伊坂幸太郎作 KADOKAWA 312頁
あらすじ
表の顔は普通の会社員、営業職。裏の顔は凄腕の殺し屋「兜」
マイホームには妻と一人息子の克己がいる。「兜」にはもう一つ三つ目の顔があった。恐妻家なのだ。妻といると緊張する。
しかし家長として家族のために頑張るお父さん。家族を脅かすものには容赦しないんだぞ。
一人息子の克己は、妻に何か言われるたびに時間稼ぎしながら頭の底のない記憶をさぐって内心あたふたしている「兜」に気づいている。
「グラスホッパー」のスピンオフ作品。
感想
なるほど。
実に興味深い話やった。
 
会社に入った時から割と仲のいい人がいてこの春めでたく役員になりはったんやけど、たまにお茶すると「(自分は)とっても忘れっぽいから」と言いはんねん。
早稲田の政経出てはって海外長い人が何をゆーてはんねやろ、何の予防線なんやろと思っていたんやけど判明しました。
 
女子供のゆうてる事は憶えられへんって事やったん。
 
うなづいて聞いているふりしながら、聞いていない。 もしくは
聞いているけど、右から左。頭に残らない。 または
一生懸命聞いているんやけど、長期記憶に移らない。 つける薬がない。
 
女の人が、子供の事やら、親兄弟、近所のこと仕事の話をしてもどこか大事な事とは思えない。
生き死に関する大事なことだけ相談せーとおもてはるんかもしれん(深層心理で)。
そやけど普段の状況、状態を知らずして有事に的確な判断ができるのかー。 あー相容れないかみ合わないとこやねんね。
 
会社の年下の元上司が「(自宅の)リビングにいると緊張するねん」ってゆーてはったな。なんかかわいそうになってきた。
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夜の谷を行く 
2017年 桐野夏生作 文芸春秋 299頁
あらすじ
1971年から1972年の冬。あさま山荘事件の終結で明らかになった山岳ベースでの赤軍派と革命左派が起こした総括(反省)という名の集団リンチ事件(12名が殺害される)を元に生き残りの西田啓子の39年後の出来事。39年後の2011年は最高幹部永田洋子が病死し東日本大震災が起こった年だ。
感想
事件は断片的にしか覚えていないんやけど山には確か女の赤ちゃんがいた。外国の革命戦士の名前を付けられていた赤ちゃんだったと思う。
ほかに妊娠していた女の人(金子みちよ)が粛清(凍死、衰弱死)させられていたり、その赤ちゃんは生きて取り出そうという計画があったり、永田洋子がルックスに恵まれないため嫉妬して多くの女の人の命を奪っただの言われていた。10代の少年が2人(兄弟だったと思う)いた。確か3人兄弟だったと思う。
あまりに衝撃的で日本から一般人の政治への関心を奪った事件だった。
高い理想のはずがどうしてこんなことになるのか。永田洋子は「国家権力」に裁かれるのにどんな気持ちだったのか。
 
オウム真理教の死刑囚が執行されていく中、大事件の執行のたびに「まだ真実は解明されていない」という事を識者が言いはるけど、確かにそうやねんやろうけど、多くの人が関わっている事件には真実はその視点ごとにあるんやし、当事者すら気持ちが渦巻いているのにいくら時間をかけても明らかになることはないと思う。  
西田啓子が言う。
 
  「こういうことばかりなのです。誰が何を言って、誰が手をくだした。と。誰が知っていて黙っていた。と。
    あたしはそういう言辞にはほとほと疲れました。」
 
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