2003年8月のミステリ戻る

葉桜の季節に君を想うということ

2003年 歌野晶午 文藝春秋 411頁
あらすじ
俺は成瀬将虎(なるせまさとら)。へへっ、セックスが大好きなんだ。でも心の中ではたったひとりの俺だけの女が現れるのをまっているんだぜ。テレクラで、出会い系サイトで、合コンで、路上で声をかけて。そしてついに麻宮さくらとめぐりあうことになったんだ。
感想
360頁目「えっ! えええええええ〜」と悲鳴があがる、心の中で。
たまげた。
 
 
バレあり
どの読者もいくらか違和感を持って読み進んでは来たと思う。麻宮さくらの言葉使いがいやに丁寧だとか、成瀬将虎は白金台育ちなのに何故アパート暮らしなのかとか。さぼてんは将虎の長兄竜吾が大学時代に亡くなったという所が不思議だった。なんかまあフツーみたいな書き方で。ちゃんと説明ついたじゃん。くやしい。今までケーキを食べていると思っていたら実は和菓子だったんだ、生クリームじゃなくてあんこの味やったんかい! という今まで築いていた世界の崩壊の音が・・・・ドタバタと・・・・・。しかしさぼてんを置き去りにはしない。そこから力強く立ち上がれるのである。(読者層を広げようという新しい試みなんだななんて事は思っておりません。はい)
おすすめ度★★★★1/2
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ノヴァーリスの引用

1993年 奥泉光 瞠目反(アンチ)・文学賞 第十五回野間文学新人賞 集英社文庫 179頁
あらすじ
恩師の葬式に集まった4人。榊原、松田、進藤、そして私。旧交を温める内に話は10数年前の学生時代に辿り着く。石塚という学生がリュートを弾いている中、図書館の屋上から転落死した事件。松田が「石塚は殺害されたのでは?」と言い出したのだ。
感想
難解。この本を1日や2日で読み終えた人って・・・・・信用できない。
 
つまりは「類的存在」たる人間の「自己疎外」状況が問題意識としてたてられ、疎外の克服と類的の本質の回復が企てられる。ただし一般のマルクス主義理論ならば、人間が人間性を獲得回復していく場は此岸の現実であり、当の過程こそが「歴史」の運動であるとされるのに対して、石塚はこれを魂内部の出来事として捉える点に、彼の独自性があるという事になろうか。
 
わかりますぅ? 『「歴史」の運動』あたりがさっぱりわや。「当然起こりうる事」と言っているのか? ずばりロシア革命の事?それとも労働運動?
英語が大嫌い→文学部はダメ→化学と地学ができない→理系は望み薄→数学がちょっとまし→経済学部と消去法で一応「経済学」とやらを学んだ筈でマル経も一応やったんやけど。古くさい 貧乏人の観念的哲学的経済学やなあと思っていたせいか元々学問や哲学といったもんには興味が皆無のせいか、今も昔も理解できない。元々経済学自体が機能しているのやらしていないのやらわからん学問やし。経済の法則が解明されていれば好不況の波なんてなくなっているって。後から「あれが原因だった、あのせいだ。銀行が悪いねん。政治が悪いねん。」とゆーてるだけやもんな。そうかといって無駄だと言い切れないのが学問。登場人物達はいくらかは役にたつだろう近経(近代経済学)でもない「経済史」というなんの役にたつんやらわからん学問をあーでもないこーでもないと思索している方達でそれに人生かけている。企業戦士となって世間の垢にどっぷり浸かっている人達から見たら青春が終わっていない幸せな人達なのだ。
 
始まりはミステリ談義で「亡くなった恩師が犯人やったんかも」と期待させたもんの止まらない屁理屈論議は、次第に難しい哲学論となり、最後はリュートの響きと月明かりを背景にドイツ浪漫派の古典的ホラーに形を変えていくといった贅沢な三部構成。
ラストに松田が言う「どっちみち本物の死には人間は触れられないわけですから、だったらいっそ明るく思い描くほうがいいですよね。探偵小説が面白いのもね、死に決して触れないからなんですよ。贋物の死を弄んで本物の死を回避するんです」が作者の言いたかった事のように思える。作者のミステリ観だと思う。
おすすめ度★★★★
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