2016年8月のミステリ 戻る

二重生活
小池真理子著 角川書店 2012年 376頁
あらすじ
二重生活
感想
映画と小説は別物であった。
仏文学が哲学に変わっていた。うじうじした地味な話なんで映画化するのは難しかろう。
哲学者の篠原教授(リリー・フランキー)が何故「あんなことをする」のか理解不能やったんで、原作本を読むことにしたんやけどそんなエピソードなしっ! 教授は学生をそそのかす他人の迷惑顧みない自己中の愉快犯であった。これも研究、フィールドワークなんか。珠をフィールドワークしているみたい。
だいたい珠(たま)っていう猫のような名前の主人公を始め、魅力的な人物がいっこもでてこない。
 
  それは或る種の「倦怠」に近い感覚でもあった。早くも珠(たま)の人生には、生きていく上で以外にも厄介な、
    倦怠感が頭をもたげ始めているのだった。
 
高等遊民の陥る罠やわ。
お薦め度★★1/2 戻る

猟犬 JAKTHUNDENE
ヨルン・リーエル・ホルスト著 猪俣和夫訳 ハヤカワポケットミステリ 2012年 397頁
あらすじ
ヴィリアム・ヴィスティングは警察に勤めて31年になる。オスロから南西約100キロ、ラルヴィクという人口2万3千人ほどの小さな町の警察官だ、17年前20才のセシリア・リンデが行方不明になり二週間後アスケの森近くの道に捨てられていたセシリア事件の陣頭指揮をとった。セシリア事件ではリュードルフ・ハーグルンという男を捕まえ有罪となり男は服役していた。ところが有罪の決め手となった煙草の吸殻はねつ造されていたとヘンネン弁護士が再審委員会に申請を出す。ヴィスティング警部は停職を命ぜられ査問委員会での吊るし上げを待つ身となってしまう。窮地に立たされた警部は手をこまねくことなく、大手タブロイド紙≪VG≫(ヴェーゲー/ヴェルデンス・ガング)の記者をしている娘のリーネの助けを受けながら事件を再捜査する。証拠をねつ造したのは誰なのか。ハーグルンは本当に犯人なのかを追って。
感想
「ガラスの鍵」賞(スカンジナビア推理作家協会の北欧ミステリ最高賞)、マルティン・ベック賞(スウェーデン)、ゴールデン・リボルバー賞(ノルウェー)三冠のノルウェー警察小説。
警察小説と言いながら停職の身の上なので警察力はおおっぴらに使えない。引退し暇な元鑑識官に手伝ってもらったり、引退した精神科医から助言を受けたり、同情している犯罪記録係に資料を探してもらったりの上、こともあろうかもう一つの過去の事件の捜査ファイルを手に入れるため、勤めていたラルヴィク警察署に真夜中忍び込むという無茶をする。
はっきり言ってものすごう地味。ようよう読み終えた達成感あります。アクションは最初に娘のリーネが襲われるところと最後に犯人を追いつめる2か所しかなかったんちゃうかな。
そやけど捜査の道を一歩一歩進んでいくのが好み。作者は元警察官で2004年から続くヴィスティング・シリーズの第八作目だそうです。「ガラスの鍵」賞を受賞したので翻訳されたらしい。
 
食事のシーンが何度か出てくるんやけど、パンしか食べない。クッキーしか出てこない。 焼きたてのパンがごちそうらしい。一度コーラとミルクティがでてきただけでコーヒーしか飲まない。どんだけおいしいパンか知らんけど、ものすごう粗食やねん。ホテルのルームサービスも「果物、クッキー(またしてもクッキー)、チーズとワイン」。 肉、玉子、魚、野菜ひとつもなし。 一度パン屋さんでサンドイッチを買って食べるところがあったけど何がはさんであったんやら描写なし。パンはバゲット、クネッケブレッド(ライ麦パンらしい)、シナモンロールとか出てきた。
お薦め度★★★1/2 戻る

地上最後の刑事 THE LAST POLICEMAN
ベン・H・ウィンタース著 上野元美訳 ハヤカワポケットミステリ 2013年 304頁
あらすじ
発見当時地球に衝突する確率は212万8000分の1と推定されていた小惑星2011GV1「マイラ」が、1月3日に10月3日地球と衝突すると発表された。直径6.5キロの巨大小惑星が地球のどこに衝突しようと巨大地震、巨大津波が起こり、地球は粉塵で覆われ太陽の光はささず暗黒となり気温が20度下がる。人類も恐竜と同じく滅亡の道をたどる。9か月後にせまりくる運命を前に人々は煙草を吸いだした。そして仕事を辞め「死ぬまでにしておきたいことリスト」に走る人もいれば、じっと「その時」を待つことに耐えられず自ら命を絶つ人も続出の3月、ひとりの男がマクドナルドで首を吊る。自殺と思われたがヘンリー・パレス刑事は、首を吊ったベルトが男に似合わない高級品だった事から他殺の疑いを持ちひとり捜査を始める。
感想
だいぶ以前に聖路加(セイルカ)国際病院の小児科医の細谷亮太(ほそやりょうた)という先生が新聞に「子との別れ」という話を書かれていた。以前にも書いたけど「現代の医学では手を尽くしても助からない子もいる。」「親は最後まで毎日規則正しい生活をおくるようにしよう。顔を洗って歯を磨いて身だしなみを整え、勉強を続けよう。日々の充実と達成感をもたそう。」というようなことを言ってはったんを思い出すような小説。なかなかできるこっちゃない。
「死ぬまでにしておきたいことリスト」がイタリアで絵を描くことでもペルーのマチュピチュに登る事でも、そこに行くまでの交通手段も含めいつも通り働いている人の手助けなしにできない。自殺した人の遺体もほっとくわけにいかない。