探偵小説の形をとり第二次世界大戦末期のベルリンとナチ、国防軍、ヒトラーユーゲント、市井の人々を描写する。戦局が危いにも関わらずアーリア至上主義、アーリア人の生産(生命の泉:レーベンスボルン)、帝都ベルリン大改造計画「ゲルマニア」とナチの妄想は限りがない。内部では権力闘争、足のひっぱりあい。V2ロケットを「報復兵器」と名付ける姿は隣国の独裁者のよう。
オッペンハイマーの娘が幼くして亡くなったのにも「ユダヤ人として生きるよりもよかったかも」と思ってしまう過酷な時代。
爆撃でSS(親衛隊)将校フォーグラーとオッペンハイマーは地下室に閉じ込められ、ふたりでブレヒトの「三文オペラ」のレコードを聴く場面がいい。
非情なSS将校であるフォーグラーが、「自分たちSSには捜査の技術と経験がない。力では無理」と悟るかしこさと権力闘争に生き残る知恵があり、夢想家として天王山の前線に身を投じ時代に殉ずるある種魅力的な人物に描かれている。