2002年11月のミステリ戻る

レイクサイド The Lakeside Murder Case

2002年 東野圭吾著 実業之日本社 244頁
あらすじ
夏休み4組の親子が別荘で受験合宿をしている。来春の合格を目指し親子で頑張っている。ひとりだけ異邦人なのは並木俊介。なにゆえここまでしなければならないかわからない。子供はのびのび育てた方がいいのでは、親の勝手で子供の将来を決めていいのか疑問なのだ。それは俊介がアートディレクターという芸術家だからか、それとも息子の章太が妻の連れ子だからかもしれない。そこに並木俊介の忘れ物を届けに高階英里子が現れる。並木俊介の会社の従業員で愛人だ。よくある話。あんまりない話だがなくもないのは俊介の妻の美奈子が英里子を殺してしまう事だ。「別れなければ家庭はめちゃくちゃになって章太君も受験どころじゃなくなる」と言われ逆上してしまったのだ。
感想
関係者一同を集めての異色謎解きは、あの有名作品と同じだったんだ。。。ボーゼン。

読むのは2回目。1回目は重すぎて感想が書けなかった。これは中学受験に翻弄された人が自嘲を込めて書いた作品としか思えない。それもちょっと離れた所から体験したのかもしれない。並木俊介のように。

勉強がよくできる我が子を「国立大学出身の医者」もしくは「国家公務員」にしたいと難関中学受験を決めたならもはや後戻りはできない。公立中学には行けない背水の陣。親は「子供が壊れるんちゃう」という不安を抱えながら未知の領域に踏み出すしかない。子供は親の期待に応えたいと思う。そして狂乱の日々が始まる。親というのはおろかな生き物なのだ。そしておろかになれないのなら、それは親ではないのだと作者は言っているように感じる。
おすすめ度★★★★
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館という名の楽園で

2002年 歌野晶午著 祥伝社文庫 153頁
あらすじ
ミステリファンの冬木統一郎は念願の”館”を建てる。数々のミステリ小説の舞台となったあのれいのいわゆるひとつのだ。それは決してではない。いわんやマンションのでもない。その名は三星館
館完成のお披露目に冬木統一郎と聡美が招待したのはN大学探偵小説同好会の旧友達だった。平塚孝和は4人家族大手電機メーカーの部長。岩井信はコンサルタント会社の経営者。最近は健康面から酒量を控えている。水城比呂志は実家の雑貨屋を継ぎコンビニエンスストアに変えた。家族は妻と娘三人。小田切丈史は2回結婚して2回離婚して今はフリー。仕事もフリー。というみんなを足したら現代日本の40代半ば90%は網羅できまっせという身の上だ。
4人を三星館に招いて冬木夫妻がしたかったのは「謎解き」。被害者役ひとり、加害者役ひとりをランダムに割り付け犯人当てをしようともちかけるのだ。「この夫婦ものは、いまだに謎解きミステリに殉じているんかいっ」と4人は目が(・・)。
感想
当たった!。当たった!(なにかい? ミステリは宝くじかい? 博打かい?)。作者のデビュー作「長い家の殺人」もいきなりばっちしやったし。よっしゃあ! 相性いいかも(ハナイキアラシ)。
現実の垢がつきまくりの中年男達と夢か幻かの”館”を対比させ、「ミステリの面白さって『動機が納得できない』やら『人間が描けてない』やらを越えた非現実を味わう事でしょ?」を言われているんだな。作者が原点に戻ったような作品だ。「世界の終わり、あるいは始まり」を書いたらまたこういうのも書きたくなるんだな。

さぼてんの”館”の原点と言えば、小学生の時に友達に借りて読んだ絵入りの江戸川乱歩氏の双子の館の話。「双子館の怪」だったかとインタネで検索したら「三角館の恐怖」だった。米国の「エンジェル家の殺人」ってのの翻訳作品だったのか。双子が一つの館を対称に割って住んでいる。父親がやたら健康マニアで健と康という字をふたりの名前につけて「長生きした方に全財産を譲る」なんて非論理的めちゃめちゃな遺言を残す。片一方は好き放題生きて、もう1人は健康に気を付けて恐る恐る暮らしていたのに、皮肉な事に健康に人一倍気を付けた方が病に冒され車椅子で余命幾ばくもない。気の弱くなった方が「財産を半分に分けよう」というがもちろん元気な方は片腹痛いわいヘソが茶をわかすと一蹴。もうふたりともいいかげんジジイで、双方の子供達が虎視眈々と財産を狙っている。ところが健康な方が何者かに殺される。という右に左に揺れるどろどろわくわくのお話。密室殺人ありの意外な犯人もありという実に印象深い作品。お薦め。SMAPの稲垣吾郎が明智小五郎役でTVドラマ化されているみたい。
おすすめ度★★★★
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ハリー・ポッターと炎のゴブレット(第四巻) HARRY POTTER AND THE GOBLET OF FIRE

2001年 J.K.ローリング著 松岡祐子訳 静山社
あらすじ
予約してあった本を取りにいったら2冊もあった。「間違えて2冊も予約!」と一瞬焦りましたが上下巻だった。土日は読み終えるのに費した。

ハリー・ポッターは夏休みに従兄弟のダドリー・ダーズリーのダイエットに有無を言わず付き合わされていた。そのハリーを大騒ぎで救い出したのは例のごとくウィズリー一家。ウィズリー一家と共にクィディッチ・ワールドカップの決勝戦を観戦するハリー。夢心地で眠りについた夜、魔法使いで一杯の森で騒動が起こる。純血魔法使い至上主義者達がマグル(人間)をさらし者にしていたのだ。そこへ「例のあの人(ヴォルデモート)」の印「髑髏(ドクロ)」が夜空に打ち上がる。恐れおののく魔法使い達。ヴォルデモートの復活は近いのか。
感想
噂どおりいささか厳しい内容だった。。。今回は大人が多数登場する。これはハリー・ポッターが子供時代から大人の世界へと踏み出した事を現している。そして他の魔法学校生との交流がハリーの世界を広げていく。また第四巻は「父親と息子」もテーマ。ハリーには亡くなった実父ジェームズの魂とともに、名付け親のシリウスとホグワーツ魔法学校の校長ダンブルドアが父親がわりとなりハリーを守っている。母親と娘はある種友達感覚でつきあえるが、父と息子はそうはいかない(らしい)。
そしてシリーズ中のターニングポイントがとうとう訪れる。これからきばらなあかんのに校長ダンブルドア、死んでいる場合やないで!(いや、映画のリチャード・ハリスの事)。
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密室は眠れないパズル

2000年 氷川透作 原書房 281頁
あらすじ
夜10時を過ぎても東都出版ビルは眠らない。
2Fの営業部では岡本次長川上が残業をしている。
4Fのミステリ専門の第二編集部では、これから売り出す作家志望の氷川透と編集者の小宮山が酒盛りしながらミステリ談義を始めている。そこに外回りから帰ってきた大橋常務がちょこっとだけ顔をだす。大橋常務の後にアルバイトの上野がやってきてミステリ談義に参戦する。上野はなかなかのミステリマニアだ。
5Fの第一編集部では、編集者の津田とブックデザイナーの水城が印刷会社から到着する色校正を待っていた。12時になってやっと印刷会社のがやって来たと守衛室の金子から内線で5Fに連絡が入る。
これで10人のメンツがそろった。
ここからは岡本次長大橋常務か刺殺体となってころがり、ビルは外からロックされて出れなくなり、電話は不通、と”嵐の山荘”状態。舞台もそろった。
「読者への挑戦」と作者の「本格推理小説論」も付いているお買い得作品。
感想
「本格推理というのはフェアなフーダニット」、つまり犯人当てだと作者は言い切る。わかりやすい。「フェアプレイにのっとった作者と読者の戦い」って訳で、さぼてんが「追いし者 追われし者」で感じた事もあながち的はずれじゃなかったんだ。いっちょう乗ってやろうじゃないのと参戦する。8日間も本をめくってもどってと繰り返し読み、登場人物と時間のマトリックスも作った。しかも昔上司に「現場での作業工程を決める要はクレーン」と言われたのを思い出して「そうそうEVの動きも追加しなきゃ」ともう大変。そやのに174頁にタイムテーブルが載ってるぅー(涙)。しかしここで、イマイチわからなかった印刷会社のの到着退出時間がはっきりしてさぼてんの中で犯人が決まった。

結果はどうだったかというと7割5分のヒット。結構古典的です。犯人と犯行現場は完勝v。ナイフを外に捨てた理由も順番もオッケv。ペケだったのは後の方の殺人。これってビルが”嵐の山荘”になったり、EVが蓋になって6Fが密室になってしまった理由ヤン。肝心要やん。あかんやん(**)。
映画では「処女作品には監督の全てが入っている」と言われるが小説も同じなんだろう。この作者にとって作品は読者への挑戦なのだ。12頁に「かつては、人間を描けていないという決まり文句で批判された新本格が、いまやキャラという名の擬似人間をけんめいに描くことで、キャラ萌え読者を獲得している。歴史の皮肉です。」これは「俺はそんな軟弱な事にはならん」という宣言なんですね。作者の心意気を買いたい。
ただ、ユーモアセンスがもうちょっと、なんとか。6Fの様子を書いている121頁なんぞ「あとは、ずらずら並んだ各役員の部屋だ。どうやら、役員室とはいっても鍵がかかったりはしないらしい。まあ、しょせんは中小企業だから−氷川は、内心で冗談をつぶやいて自分を落ち着かせようとしたが、あまり効果はなかった。たぶん、冗談のできに問題があったのだろう。」・・・・・あのう、できとかいう以前にどこに冗談があるのか教えて欲しい。

元々パズラーは好きなんだよな。どんでんとかカタルシスが感じられなくても別にかまわない。ミステリ小説に社会派だとかコアな本格だとかのレッテル貼りはまだしも、本格推理こそが山のてっぺんだとか世界の中心だとか論理的に差別化して己の好みを上げよう上げようとするから反撥するんだよな。ああいうのを「贔屓の引き倒し」と言う。
おすすめ度★★★★
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