2002年10月のミステリ
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闇の楽園

1999年 戸梶圭太作 新潮文庫 704頁
あらすじ
「真道学院」は学園長「天海原満流(あまみはらみちる)」の生誕地、長野県坂巻町にネスト(巣)建立を密かに計画していた。「真道学院」が目指しているのは脳内の「エンシータ領域」とやらを覚醒する事で自己変革をなしとげ、得られた「超理性」を全人類に行き渡らせる事であった。「エンシータ領域」を覚醒すると「エヘ・ボルハーノ」と呼ばれる物質が分泌される。その物質は肉体のあらゆる器官の老化を抑制し五感を飛躍的に活性化させるのだそうな。分解しやすく外気に触れるとなんの効果も無くなる「エヘ・ボルハーノ」を選ばれた者に受け渡す手段がひとつあった。学園ナンバー2の大始祖・丸尾が19才のプレントランス(新人)臼田に今日も施しているのがそれだ。ただ、「エヘ・ボルハーノ」を受け渡す手段は「ゴイサム(汚れた人間の世界)」のいわゆるSEXに似ている。
一方、そんな計画が着々と進んでいることなど天から知らない長野県坂巻町では、藤咲町長の音頭取りで「町おこし」の企画を広く募集していた。そこにひっかかったのが東京に住んでいる失職青年・青柳敏郎が応募した「お化け屋敷のテーマパーク」だった。その名も「坂巻ダークランド(仮)」。
真道学院側は総本山の隣にお化け屋敷ができるとの情報をキャッチするやいなや「げにいまいましきは”お化け屋敷”」と用意周到な妨害運動を始める。
感想
まずは地方の過疎化問題、そして産業廃棄物処理問題、青少年及び大人の不純異性同性交遊、日本国の倫理観の崩壊、極めつけはカルトの存在という種々雑多な現代日本の抱える問題を材料にした社会派小説・・・なわきゃないか。著者のデビュー作であり新潮ミステリー倶楽部賞受賞作。カルトに洗脳された臼田清美の父親の出現なんぞは唐突な感じがしますが(娘が高校を中退して2年間もプータローしていた間あんたは何してたんや?)、パワーで乗り切っている。

割と単純な集団なんだなと思っていたのですが、カルトの最後のたたみかけるような問題処理能力は不気味だ。しぶとい。根が深い。ラストに自立のためひとり東京に向かうあゆみに対し、もしかしたら教団のひとりだったかもしれない渡瀬の影をちらつかせるなんぞ、ごく日常的に伸びているカルトの触手の存在を暗示している。
おすすめ度★★★★
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追いし者 追われし者

2002年 氷川透 原書房ミステリー・リーグ 245頁
あらすじ
印刷会社に勤める”俺”は女に一目惚れ。同じ会社に勤めているんやから彼女に近づくチャンス多し!とは思わないんだな、これが。”もてない俺”は彼女の全てを知りたいとストーカーを始めた。彼女の部屋に盗聴器をしかけるまで”俺”の病は膏肓に入る。
感想
追いし者 追われし者」という題は、「ミステリ読み ミステリ書き」の事みたい。

ここで話はいつものごとくずれます。以前に某掲示板に書きましたが、さぼてんの卒業した高校の体育祭にちょっと変わった競技がありまして。10クラスあったので10人の女子がクラスのハチマキをして走る。その15mほど後ろから10人の男子がスタートする。それで何をするかと言うと、追い抜くなんてかわいいもんじゃなく女子のハチマキを次々奪っていくんですね。取ったハチマキの数が点数になる。取られなかったハチマキも点数になる。さして速くもないさぼてんですが2番でゴールしたので黒のハチマキを守りぎりぎりセーフでした(そこ、取ってもらえなかったんとちゃう?なんて言わない)。逃げる作者が置いていく手がかりを読者が追いかけるってのが似ているっていうだけの連想。年寄りの繰り言と思ってくださいませ。それともミステリの楽しみってそこかしこに落とし穴が掘ってあったり、わかりにくい標識や地図のオリエンテーリングに近いのかな。

「追いし者」は楽しんで追ってりゃいいけれど「追われし者」はいやもう大変。編集者の気にいるか不安ですし読者はすれっからしでバレないか不安だと作者は言っている。それでも作者は余裕でやりかえしている。しょぼいけど。ラストの「追う」ストーカーの鬼気迫るシーンはミステリ読みの鏡だ。この作品の続編が出たら笑うな。

面白かったんやけど・・・・。「折原一」作品に似ていて好み。でもやね。1つのビルに百人程度の規模の会社で「2年間もピチピチの女子社員(22才ですよ)を知らなかったなんて事」が現実にあるのか? いかに制服がダサかろうが。会社に興味がなかろうが。経理のおばさんじゃないんですよ。信じられん。これはきっと伏線なんや、彼女はストーカーの妄想の産物かも。いやそうなると作者はウソつきになるもんな。じゃ全然別の2つのストーリーがパラレルなのかもと最初は思っていた。ところがぜんぜん関係なかった。。。就職して2年にしなきゃいけない作者の事情はあったのであるが。それで曲がっちゃって上のような感想になった訳。ふんだ。
おすすめ度★★★
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放浪探偵と七つの殺人

1999年 歌野晶午 講談社NOVELS 320頁
あらすじ
真冬でもタンクトップにビーチサンダルの放浪探偵・信濃譲二(しなのじょうじ)が大学一年生だった1983年から1989年29才までにかかわった七つの事件を解く。解答編は袋とじになっており、読者は著者からの挑戦をうけてたたなければならない。いざ、勝負っ。
感想
成績は5勝2敗。いい線いっているようですが、肝心な話を落としているしょぼい実力(**)。

負けたのは「有罪としての不在」「阿蘭梨天空死譯(あじゃりてんくうしたん)」。特に「有罪としての不在」は難解。正解だった5作品は読者へのサービスだと思わせるほど力の入った出来。

ここからねたばれの領域に踏み込んでいきますよって。
さぼてんが「有罪としての不在」の犯人と思たんは下柳宏(しもやなぎひろし)。被害者の深山に冷蔵庫を譲った人ね。この方、実は深山の恋人やったん。寮の食堂で深山の心変わりを知って「俺という者がありながらっ」と逆上した結果の犯行。寮を出る理由も「寮にいるとふたりの関係がばれるから」だったんですワ。8時52分に被害者の時計を合わせるのは9時までロビーで電話していてアリバイが成り立つから。運んだ冷蔵庫を扉の前に置くという不自然さは実はドアに鍵が掛かっていないのを隠すため。「ドアには鍵が掛かっていた」と主張して密室を作り捜査を撹乱したかったん。それに少しでも発覚が遅くなるし。
結構説得力ある論理・・・なわきゃないか。完敗でしたワ。

もうひとつの「阿蘭梨天空死譯」は、白い煙りに対し地上からホログラムしたのかと思いやした。いや科学苦手なもんで。
おすすめ度★★★★
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