2002年7月のミステリ

ゲッベルスの贈り物 The Present from Goebbels

1993年 藤岡真作 創元推理文庫 323頁
あらすじ
広告製作会社のプロデューサー藤岡真は、社長から「謎のアイドル<ドミノ>」を大至急捕まえてくれと泣きつかれる。クライアントから<ドミノ>をCMに出演させろとの依頼で10億円の仕事になるらしい。アイドル<ドミノ>とは、半年前からテレビ局へ送られてくるビデオの中で歌っている女の子の事。アイドルスターの道をばく進中なのに、正体は誰にも知られていない。雲を掴むような話だが、そこをなんとかするのがプロデューサー。知り合いに電話を掛けまくりガセネタに振り回されている内に、なぜだか陰謀に巻き込まれていたのだった。
感想
半ば過ぎてもまだ、どこに行き着くのかはおろか、いったい今どこにいるのかさえ見当がつかない。最後は、力技で、太平洋戦争末期日本海軍が独逸から密かに運んでいた秘密兵器「ゲッベルスの贈り物」とは何か?、さぼてんは浜崎あゆみをイメージした謎のアイドルの正体は? 自殺者を作りだしている殺し屋の黒幕は誰か?という3つの謎を結びつけ大団円へと読者を引きずっていく。ラストにはおまけもつけて。

はちゃめちゃでシュールな味わいもあり面白い。が、そこここに漂う”おやじの香り(願望と言い換えてもいいか)”がなんというか、ちょっとあわないというか。1992年に小説新潮新人賞を受賞した「笑歩(しょうほ)」は、選考委員の井上ひさし氏と筒井康隆氏に「その異能の才筆」を絶賛されたという話らしい。お二方に絶賛されたのか・・・。やはりあわないのだと思う。

さぼてんが最も興味を惹かれたのは、文中で作者の分身のプロデューサー藤岡真が「マイケル・J・ポラード」に似ていると言われる所かな。映画『俺たちに明日はない』の5人のバローギャングの1人、元自動車整備工のC.W.モスを演じた人みたい。小柄でジェームズ・ギャグニーやジャック・ワイルド系の丸い鼻の頭の方ですね。文句ひとつ言わずひたすらウォーレン・ベイティ(クライド)についていく若者だった人。俳優マイケル・J・フォックスはミドルネームの「J」をポラードへの憧れから付けたとか。この方「青年」っていう映画が代表作みたいですが、他に「脱走山脈」ってのに出演されています。昨年かWOWOWで放映されていました。オリバー・リード主演のハンニバルみたく象が出てくる異色の戦争映画。見逃してしまった(くちょ)。もう一本はあのれいの「マーダー・ロック」のルチオ・フルチのウエスタン映画「荒野の処刑」ってのに出てはるみたい。
なお、広告制作会社の社長と、「島田法律事務所」の島田カメラマンが似ているといわれるピータ・ローレとシドニー・グリーンストリートはエリック・アンブラー原作の映画「仮面の男」の方達です。
おすすめ度★★★★
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名探偵Z−不可能推理

2002年 芦辺拓作 ハルキノベルス 250頁 サムシング吉松・イラスト
あらすじ&感想
乙名探偵(おとな・とるただ)またの名を「名探偵Z」の、彼にしか不可能推理という「他の誰にこんな推理を思いつきますねんっ」という悶絶本格ミステリ。「不可能推理」は局所的に論理的なような総括的にナンセンスのような妙な説得力があります。「車の窓から顔を出していると事故に遭う事がある」と「車の窓から顔を出していると必ず事故に遭う」の違いというか(説得力のない例えですねぇ)。第三話、四話、八話の犯人も乙名探偵と類似の思考の持ち主達で個性的。乙名探偵の決めゼリフは陰々滅々とした声の「これは他殺です」と「Q・E・D(証明終わり)」。乙名探偵に捜査を依頼する人は皆無、ゼロで、彼はチロリアンハットと口ひげの仙波警部(せんばけいぶ)、長身の円田刑事、獅子の様な白髪の甫根川博士(ほねかわはかせ)が集まった事件現場に突如おじゃま虫するのです。

第一話 一番風呂殺人事件
 アガサ・クリスティが晩年「ポワロのような名探偵を登場させるのが難しい時代になった」と
 言われていたそうですが、かくも名探偵を自然に登場させる舞台ってのは難しい。そこを強引
 にクリアしました。作者は。恥ずかしげもなく。
 「まちがった推理をした時ですら、真犯人を挙げてしまう」名探偵Zの登場。

第ニ話 呪いの北枕
 助教授の名前が斑井(まだらい)からも本作はホームズの二作品のパロディですね。

第三話 26人消失す
 アパートの管理人と自分以外の25人の住民が消失した謎をなんとかして欲しいという依頼者が芹捨
 真理(せれすてまり)というアパート版マリー・セレステ号事件をちょいちょいと解く乙名探偵。
 ホラーのような薄ら寒い余韻の残る秀作。

第四話 ご当地の殺人
 15年前に行方不明になった男の死体が忽然と生まれ故郷に置かれていた。当時とまったく変わり
 ない姿で。
 旅情ミステリのとてもよく出来た話だと思う。ほんと、マジで。三番目に好き。

第五話 おしゃべりな指
 好感度NO1女優の奥ひな子は、仙波警部には天敵のようなオバタリアンのひとりであり、今まで見
 せられていたのは厚化粧どころか特殊メーキャップだったと判明。これが事件とはまったく関係なか
 ったのではなく伏線だったのですよ。

第六話 右左田氏(そうだし)の悲劇
 ブラック。
 作品のヒントとなるような多重人格の話がコナン・ドイルのホラー物にありましたね。

第七話 怪物質オバハニウム
 この日本には老若男女とオバタリアンが生息しているというドクター・モロー(諸宇)のはた迷惑な研究話。
 小説の舞台となるQ市はまずウルトラスーパーエキストラオーディーナリー・モンスターに壊滅させられる。
 (注:老若男と若女とオバタリアンとしていないのは、「八千草薫さんを今も昔も誰もオバタリアンとは思わ
    へんやんなあ」という理由から。)

第八話 殺意は線路を駆ける
 二番目に好み。
 事が起こってから「やあやあ」と出てきて偉そうに謎を解くより、事件を未然に防ぐってのが真の名探偵では
 なかろか。地球の平和のために常に目配りを忘れないってのがいい。
 (あんたは、地球防衛軍かってな気はするが)

第九話 天邪鬼の墜落
 「墜落」ってお題がいいと思う。

第十話 カムバック女優
 女優がカムバックする時には何をするかっていう論理のしょっぱなに説得力があった。

第十一話 鰓井教授の情熱
 本作品中一番。手塚治虫氏の「テング」↓(よろめき動物記)を思い出した。超お気に入りの漫画です。






























第十二話 史上最強の暗号
 ハガードの「ソロモン王の洞窟」かなあ。場所が蘇呂門渓谷(そろもんけいこく)やし、
 調査員が阿蘭桑為(アランくわため)やし。

第十三話 少女怪盗プシー登場
 ブシー・・・ねぇ。おバカ度全開の第十七話「黄金宮殿の大密室」のための怪盗登場ですかねぇ。

第十六話 人にして獣なる物の殺戮
 バラバラ事件の手足と頭があわないという映画「カル」のような話。
 なんとなく気持ちはよくないが、良くできていると認めるのにやぶさかではない。

第十八話 とても社会的な犯罪
 「名探偵がいるから謎が次々と編み出される」という逆説的な論理が披露される。
 逆(ギャグ)もまた真なり(サブッ)。

おすすめ度★★★★
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