2002年6月のミステリ

聯愁殺(れんしゅうさつ)

2002年作 西澤保彦 原書房<ミステリー・リーグ>
あらすじ
アパートに帰った途端男に襲われ九死に一生を得た一礼比梢絵(いちろい・こずえ)は、事件から4年たった今もショックから立ち直れていない。犯人はいまだ捕まっていないし。連続した事件は、医者の架谷耕次郎(はさたに・こうじろう)、小学生の矢頭倉美郷(やとくら・ミサト)、リタイアした寸八寸義文(かまつよしふみ)そして、OLの一礼比梢絵(いちろい・こずえ)が狙われ助かったのは梢絵だけ。遺留品から警察は犯人を特定しているようだが明かしてくれない。動機も不明。このままではお宮入りしそう。
「何故私を狙ったのか?」に心当たりがなく犯人の動機を知りたい梢絵に同情した担当刑事の双侶澄樹(なるとも・すみき)は、2001年の大晦日梢絵をある屋敷へ連れていく。そこはミステリ作家・凡河平太(おつかわ・へいた)のお屋敷で、集まった面々は、エッセイスト・ミステリ作家の矢集亜季沙(やつめ・ありさ)、県警OBで私立探偵社を経営している丁部泰典(よぼろべ・やすのり)、犯罪心理学者の泉館弓子(いずみだて・ゆみこ)、ミステリ作家の修多羅厚(しゅたら・あつし)の5人。そして夜を徹しての「恋謎会」謎解き合戦が始まった。被害者4人そして加害者を結びつける輪は何なのだ?
感想
この作品は、アイザック・アシモフの『黒後家蜘蛛の会』を思い出させる。特に『黒後家蜘蛛の会1」に収録されている「明白な要素」を。どこが似ているかっていうと、謎を解いている最中に、謎を提示した側から「そやそや言い忘れてたんですけれど・・」と新たな事実が披露されてしまい、その推理を砕くところ。本格推理物でこういうのはあんまりないわよねえ。と思っていたらもっと大きな言ってない事があったって訳。伏線だったのか。唖然としました。

さぼてんは小説ってのは書いたことないけれど、プログラムを作る時に変数名とかファイル名とかのネーミングって結構大事なんです。自分なりの方式をつくってないとコードを書くのにいらん苦労をする。小説ってのも同じかもしれない。という事を読みながら考えていたもんで、「西澤保彦って方は登場人物にどうしてこんな難解な名前をつけるのか?」についての考察をばひとつ。単に珍名の収集家なんかもしれん。 それとも他の作家との差別化のため? もしかしたら、忘れっぽく安易に付けると他の作品で間違ってまた使ってしまったりする危険を除くためかも。それとも、知り合いの名前を使ってしまったり読者に「私の名前と同じ」という妙なリアルさを出さないためなのかもしれん。しかし、さぼてんが思うに「作者がこれだけ額に汗して書いたんやから、読む方も四苦八苦しなはれ」というイジワルなんではなかろか。それとも気をそらせる煙幕のひとつか。
おすすめ度★★★★
戻る


真っ暗な夜明け

第15回メフィスト賞受賞作
2000年作 氷川透作 講談社ノベルズ
あらすじ
学生時代バンドを組んでいた仲間が3年ぶりに居酒屋で集う。バンド仲間はドラムスの和泉吾郎、ピアノの氷川透、テナーサックスの久我宏介、ベースの池上紳一、ギターの松原俊太郎、ヴォーカルの堀池冴子、シンセサイザーの早野詩緒里の7人。
気持ちよく酔っぱらって終電を待っている間に、改札口で別れたはずの和泉吾郎がトイレで発見される。死体となって。
感想
島田荘氏司の推薦文「文章がこなれて平易になっているほど人間が書けてしまってミステリィは面白くなくなる」っていうのが面白い。人を誉めるのに年期が入ってはります。

第一の殺人は地下鉄構内で12時10分から25分までの15分間に行われているので、ソフィスティケイト・コメディ映画ばりの階段を上がったり下がったりの各自の行動を時系列に並べていくと殺人が可能なのは3人に絞られると思う。どウルトラ級の展開がない限りそこんとこは動かない。そこから2人を排除して1人に絞っていくため、作者にはある物体の移動が必要だった訳なんだ。

さぼてんにとってミステリ小説の犯罪の動機は割と重要。許容量はかなり広いとは思うんですけれど。「そんなんで人殺しする訳?」と白けちゃうともうガタガタってくる。それでも態勢を立て直し優しい気持ちで、サムイ動機をそれなりに(あくまでそれなりにでいい)納得しようとすると登場人物のキャラクタ付けが割と重要になってくる「そんな性格の人がそんなことするかあ?」と思うと心は北極まで飛んでしまう。そんな事する人物ならそれなりに示唆するエピソードなり伏線をちょっとは用意しとけよ。人の心理に長けている訳じゃないんでただ表層的なもんでいいんですけれど。それってちょっとした工夫だと思う。そうすると「ミステリィは面白くなくなる」の?

しかし、犯人を1人に絞る論理的な解決のためにはこの人にこういう行動をしてもらわないと困るんですワ。その行動の理由はなんでもえーんですけど一応こういう理由にしてます。3年ぶりにあうバンド仲間をあやめる理由なんておいそれと浮かびません。それをもっともらしい動機にしたらよけい嘘っぽいし、そもそも動機にこだわったら「本格推理」の名に恥じる事になるしぃ、それで「人の気持ちというのは理解不能」で説明終わりにしてます。という苦しいお家の事情があるなら許してやろうじゃないのと思う。という理由でこのミステリは割と好きです。鍵を握る人物の描写が最も詳しく作者の努力の跡がうかがえるし(つまり本人が言うほど動機を軽視していない訳ね)。

「人魚とミノタウロス」といい、氷川透って探偵さんは意外に友達多いよね。こういう「意外」というようなレッテル張りが作者にとってはうざいのかもしれん。
おすすめ度未読の方は、さあチャレンジしよう。さぼてんは読み終えるのに2週間もかかった★★★1/2
戻る


第四の扉  <ツイスト博士シリーズ> la quatrieme porte(the fourth door)

1987年作 ポール・アンテ作 平岡透訳 ハヤカワポケットミステリ 204頁
あらすじ
10年前、ダーンリー屋敷の屋根裏部屋で主人の妻エレノアが血まみれの死体で見つかる。たぶん自殺だろう。しかし自殺の原因はわからない。それ以来、夫のヴィクターは抜け殻になってしまい夜な夜な徘徊するのもあいまってダーンリー屋敷の屋根裏部屋には幽霊が出ると噂がたつ。ヴィクター・ダーンリーの息子ジョンにはヘンリーとジェイムズというふたりの幼なじみがいた。著名な作家アーサー・ホワイトの息子ヘンリーは手品に魅せられ子供の頃から休み中は家出をして、サーカス団とともに放浪している変わり種。ジェイムズはオックスフォードの普通の大学生。ジョンは勤勉な自動車修理工と3人はそれぞれの道を歩んでいる。
ヘンリーとジェイムズが飲んだくれてた夜、アーサーの夫人ルイーズは事故で死ぬ。ヘンリーは母親を亡くしそれは村ではふたつめの不吉な事件だった。そんなある日ダーンリーの幽霊屋敷にラティマー夫妻が間借りしてくる。夫人のアリスは霊感の持ち主だという。

フランス人の作家が英国を舞台に書いた謎解きミステリ。ジョン・ディクスン・カーの信奉者・後継者というのがポケミスの売り言葉です。登場人物のひとり作家のアーサー・ホワイトは、妻の名がルイーズであり息子がいなくなって降霊会にはまる所がアーサー・コナン・ドイルを模しているとか。
感想
ジョン・ディクスン・カーの密室物というより構成が「「プレード街の殺人」を連想させる。 歌野晶午氏ばりのトリックよりも、解答など考えもせず作家ジョン・カーターが書き散らかした謎を、ツイスト博士が看破できたのは何故か? に納得。逃げているとは言え理屈にあった答えやん。「好きなように作った謎」を論理的に解決できるのか? そういう疑問を持っているもんで。解けた理由(でたらめな事件ではない)がなかったら「むちゃくちゃ作ったとはいえ、そりゃ作者が作った謎やねんから作者の名探偵には解けるやろ」としらける所やのに。だいたいそれはむちゃくちゃ作ったとは言わない。 この話、面白いやん。途中危惧された「夢オチもどき」にもしていないし。ポワロ物にもあったよね、素人作家が「みんなに鉄壁のアリバイがあって、謎は出来たんですけれど犯人がわからなくて」と名探偵ポワロに解決を頼むというエピソードが。名探偵ポワロはあきれ果ててはりましたが。でも最後には犯人を突き止めたんだよね。ツイスト博士には解けるのでしょうか? という訳でツイスト博士が本人が言うほどの謎解き名人かどうかは保留中です。

しかし、大胆な題名ですな。
おすすめ度★★★1/2
戻る