2002年2月のミステリ

悲鳴

2001年 東直己 角川春樹事務所
あらすじ
探偵家業の畝原浩一は気が進まないながらも、「仕事だ」と浮気調査の現場写真を撮るため札幌のある公園で張っていた。その公園には高校生達がたむろしている。母親のグループが幼児を遊ばせている。ホームレスがベンチに座っている。そして自分は疲れた営業マンを演じている。というごく普通の平日の公園の風景だった。ところが事態は一変する。
感想
作者が言いたい事は色々あるだろうけれど一番は、「アブちゃんバスター」の高橋に語らせるこの言葉だと思う。

 「人間は得体の知れないものだし、人間同士は理解できないものです(たとえ親子であっても)。」

作者の信念かもしれぬ。ホームレスにもいい人もいればそうじゃない人もいる。公務員にもいい人もいればそうじゃない人もいる。マスコミも・・・はかなり美化されている。警察にも・・・ほんのちょっとしかいい人はいない。ヤクザにも・・・ヤクザにいい人はいない。真っ黒。投書魔などの「アブちゃん」にも信念をもった人もいれば悪意ばかりを発している恐ろしい人もいる。何事もレッテル貼って十把ひとからげにしてはあかんという事なんかな。この小説では、浮遊民やホームレスの人達が天下国家をまじめに論じている。こういう気持ちってのはさぼてんにはもうないな。しらけてちゃいけないんだけれど。

「アブちゃん(アブノーマルだけどあまり実害のない、ちょっとした変わり者とかアブナイちゃん)バスター」の現代の仙人・高橋陽介をこうつかうのかというのが残念。思い切りがいいんやね。そこに余韻があるんやけれど。

おまけ−作者は映画通なのかな。今回もフランキー堺の「幕末太陽傳」がでてきました。それとスペイン映画の「エル・スール」。マニアック。↓の「探偵は吹雪の果てに」も椿三十郎ではなく桑畑三十郎(「用心棒」)でもなく桑畑四十郎やもんね。出てくる人がみんななにかの専門家なの。まあそういう人しか相手にしないって姿勢なのか。単に話を面白くさせるだけなのか。映画ひとつでこれやもんね。色々なところにこだわりのある人なんだな。そう「シャワー・トイレ」にもこだわっているし。一気読みしてしまう小説ですがこういう所がちょっと鼻につき、「国境」の方がこのみ。
おすすめ度★★★★
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探偵は吹雪の果てに

2001年 東直己(あずまなおみ) 早川書房
あらすじ
札幌ススキノの用心棒&探偵&便利屋の桑畑四十郎(俺)はヤクザにぼこぼこにされてただいま入院中。だけど俺はあいつらに勝ったって思う。殴られても殴られてもゾンビのように立ち上がったんだから。入院して2日目、病院の売店で俺の事を見つめているオバチャンがいた。それがびっくりするような人で。25年前に俺の恋人だった人だ。再会してから思うが、この人は俺にとって永遠の恋人なんだな。付添婦をしている彼女に頼まれて斗己誕(とこたん)って田舎町まで届け物をする事になったんだ。その町は人口3千2百程でCD屋や本屋が店じまいしているような町だった。
感想
よそ者がなんの含むところなくノコノコ田舎の町に来たら、えらく警戒され猜疑心に満ちた人々から好奇心が隠しきれない対応されて、町のボスからは「何しにきたんだコイツ」という手荒い歓迎を受けるといった定番のハードボイルド。届け物をするって所が「日本人の勲章」に似ている。
説教臭いところもありながら、「大人はこうでなくちゃ。男はこうでなくちゃ。かっこ悪くても譲れないところは死守するんだ」といった芯に堅いものをもった男の生き方がかっこいい。ハードボイルドって格好良くて格好悪くてちょっとハズカシイモノなんだ。語り口もいい。

しっかし地方に落ちる公的資金ってのは・・・。事実半分としても都会の会社員はやってられませんな。
おすすめ度★★★★
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国境

2001年 黒川博行 講談社
あらすじ
儲け話にコロッっと騙された二蝶組、イケイケ・ヤクザ桑原は組の代紋しょってターゲットを北朝鮮まで追う。旅の道連れにされたのは”建設コンサルタント”(近隣苦情処理、タカリ・ヤクザ対応係)の二宮だった。

感想
「疫病神」のふたりがスケールがでかくなって帰ってきた! 自称”カタギ”の二宮は未来永劫帰りたくはなかったのだが。。。。顛末はしゅんしゅんしゅんと終息していくんやけど。。。。。
綿密な取材の果てに作者が描く北朝鮮の惨状は、映画「シュリ」が誇張ではなかったのかもと思うほど。21世紀までには崩壊するだろうと米国に予測されていた北朝鮮の国体はいつまで持つんやろ。持ってしまうんかな。人は親も選べなきゃ生まれてくる国も選べない。

「シノギ」やら「カチコミ」やら「ステゴロ」やら、やたら業界用語に強くなりそう。一匹狼のふたりってのが好き。文句無く面白い。

またもや直木賞を逃した作品。無念。ヤクザがあかんのか、大阪弁があかんのか・・・。さぼてんがあげる!
おすすめ度ファンですから★★★★★
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悪いうさぎ

2001年 若竹七海 文藝春秋
あらすじ
アタシは葉村晶。職業はフリーの調査員。わかりやすく言えば探偵さん。アタシを一人前にしてくれた長谷川探偵調査所の長谷川所長に頼まれて家出した女子高生ミチルの身柄を確保する現場に臨場する。若い女の子もごっつい男ばかりじゃおびえるだろう紅一点が必要かというただそれだけの理由で頼まれたんやけど。まあ楽勝の仕事やしと思っていたら私の災難は身内の探偵から投げつけられた! 後は踏んだり蹴ったりの日々・・・。
 「依頼人は死んだ 」の葉村晶シリーズ初長編
感想
「悪いうさぎ」ってどういう意味なんかな? 「うさぎとカメ」のうさぎ? あれはただの自慢しいやし。 真っ白のやわらかくてほわほわしたうさぎと「ワル」の結びつきとはなんぞや?
恐らく密かな反骨のかたまりやねんね、作者は。まあひとつのいわゆる「男社会」「強者の社会」ってのに対して。 今少子化少子化って騒がれていて「結婚して子をなさない女は非国民」みたいな時代錯誤な事が言われているやん。そういう女って、国の世間の意のままにならない「悪いうさぎ」かもしれない。確かにこのままで行くと日本全体「姥捨て山」の様相をていするって危機感はある。が、ひとりで働いて食べてそれのどこが悪いねん? この作品は歯をくいしばって額に汗している人に「がんばれ!」って言っている正統ハードボイルドだと思う。
おすすめ度★★★1/2
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