2001年8月のミステリ

トード島の騒動 SICK PUPPY(ビョーキの生意気な青二才)

1999年 カール・ハイアセン作 扶桑社ミステリ
あらすじ
車の窓からのポイステが許せないスプリー。天に変わって天誅をくだすがなかなか相手には伝わらない。筋金入りのポイステ者はなまじの事ではわかりそうもない。そこにポイステどころか、大事な”ひきがえる”を殲滅するリゾート開発がトード(ひきがえる)島ではじまった。
感想
楽園フロリダの守護天使(えらい天使だ)スキンク(「大魚の一撃」)の後継者ができるまでの顛末記。この韻を踏んだ邦題はとてもいいと思う。
本作品のユニークなキャラクターは、「警察へのSOS電話の録音を聞くのが趣味」の殺し屋と眠れるサイ。殺し屋の話は不気味です。ずーーと昔に米国のサイコキラーの裁判があって。その極悪非道な人非人はハイウェイでヒッチハイクの女性をひろっては、首に巻いた針金をペンチで少しづつ絞めて殺すという残虐な手口だったんです。さらに酷い事にその一部始終を録音していて裁判でそのテープが証拠として再現されたら、傍聴席にいた人々が青い顔して次々出てこられて。。。という映像を思い出してしまった。恐ろしい。でもこの作品の非常時の電話は恐いけれどコミカルなんです。そう感じる自分もいささかコワイ。ああさぼてんもなんて罪深いんでしょう。お二方とも、この作品のみのキャラでシリーズ・キャラクターとなられないのが残念です。

一年おきぐらい夏には「水ガメ危うし!」と毎日ニュースになる日本ですら、カナダと並んで水資源の豊富な希有な国と新聞で読んだ事があります。以前見た映像ではオーストラリアでは水不足で洗剤で洗った食器は水でゆすがず布巾で拭くだけでした。21世紀は水不足で大変な事になるやもしれないそうです。この間NHKで「ウォーターハンター」の放送を見たんですが、水ビジネスっていうのはもうかる商売だそうです。”水”が商品になるとどんな事が起こるかと言うと、”安くて安全な水”が供給されなくなると言う事らしい。10億の民インドでは安全基準が設けられたのは結構な事なんですが、安全基準をクリアしている水は高く売れるという事で、貧しい人々に供給されるべき死活の水が売る方に回されているという話をされていました。
長い話ですが、本題はここから。ペリエ社というのは有名なペット・ウォーターの会社ですが米国の7つの州で訴訟を起こされているそうです。一例としてフロリダの話がでてましたが、12年前にペリエ社が工場をつくってから、契約しているわき水の出る泉の所有者には毎日240万円のお金が入るそうです。さぼてん計算しました。年間ざっと8億円!ですよ!。税金に持って行かれるでしょうが、12年間といえばすごい額ですよね。最近近隣では地盤沈下がすすみ、オレンジも不作で地下水の汲み上げすぎではないかと住民が訴訟を起こされていました。もちろん会社と所有者は真っ向から対決して「根拠がない」といい、行政は「10年間許可を与えていますから、後3年たたないとなんともしがたい」との事。昔は住民が自由に入れる憩いの場所だった泉も柵でかこまれ銭を生む金の玉子状態。環境破壊との因果関係はわかりませんが、「いったいいくら儲けたら気が済むん。スキンクにヤキ入れられるで」と思ったさぼてんでした。
おすすめ度★★★★
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超・殺人事件 −推理作家の苦悩−

2001年 東野圭吾作 新潮エンターティメント倶楽部 241ページ
あらすじ
「推理作家の舞台裏を描く、衝撃作」 日本推理作家協会、除名覚悟!の作者が書いた8作の短編集
作者に切られているのは作家だけではなく、編集者も出版社も書評家も読者もえじきなの。反骨精神健在。
感想
作品にはモデルがあるのかないのか気になる所。ミステリマニアは作者に「誰の事かわかりまっか?」と試されてるねんよ。さぼてんも知っている範囲内で想像をたくましくしてみると。。。。

 「超税金対策殺人事件」
     この作品のモデルはずばり!作者でしょう。実感がこもっていた。
     「積み木崩し」で一躍時の人になった人が、その後家庭が崩壊したのは年開けてから判明した税金の額も
     一因だったと女性週刊誌で読んだ覚えがあります。確定申告って恐ろしいモノなんですね。
 「超理系殺人事件」
     瀬名秀明氏の「パラサイト・イヴ」「BRAIN VALLEY」を「あの学術論文もどきが面白い」と言いはなつ
     ”理系読者”への挑戦状ですかね。「ほんまに面白かったん?」と言う。
     瀬名氏に対してかもしれない。「えー読者つかまえてはりますなあ」と言う。
     作者自身大学の工学部で自分は「似非理系人間」と自覚したというだけあって手厳しい。
     「機微のわからない不調法な人間ですねん。」と口では言いながらも
     「人間は理系と文系に分けられるというが、文系とは『理系になれない人間』」
     とかあ、「俺って微分も積分もベクトルも行列もサインコサインなんでも解けたもんね。論理的思考の持ち主やねん」
     と自称する理系人間に対し、「一握りの”真性理系人間”と”真性文系人間”がいるだけで後は有象無象」といってい
     るのか「理系、文系と二分するおおざっぱさ」を笑っているのか。これ面白い。
 「超犯人当て小説殺人事件」
     綾辻行人氏のあの小説でしょう。綾辻行人氏がモデルって訳ではありませんが。
     「いつまでも書いてみせる」と豪語していた綾辻氏に対し
     「トリックモノが書けなくなってんのとちゃいますか?」と揶揄しているような気も少ししますが。
     それとも「本格推理を、本格推理を」とねだる編集者にケンカを売っているのか。
     「そんなにトリックって作り出せるもんやない。なんやったらあんた、書いてみる?」っていう。
 「超高齢化社会殺人事件」
     これが一番面白かった。モデルは「何を読んでも同じ」と言われるあの先生かこの先生かという気もせんではありませ
     んが、名誉毀損になるといけないのであえて名前は伏します(笑)。
     作者も作者なりに読書離れを憂いているんでしょう、恐らく。
     東野圭吾氏がよぼよぼになったとしても作品は読み続けるからね。同世代だもんね。ともに年とろうね(いらんか)。
 「超予告殺人事件」
     「使い捨てなのね、作家って」という嘆きが聞こえるような。
 「超長編小説殺人事件」
     これは2番目におもしろかった。
     これはモデルがいっぱいいるよね。同じストーリーなら長編の方が作者も出版社も儲かるし読者も満腹するし。
     「でも俺は短編でがんばってるんだよなあ。俺ってえらい。」とニンマリしている作者の顔が見えるような気が。
 「魔風館殺人事件」
     あはは。       ごっつリアルでした。
 「超読書機械殺人事件」
     紙の無駄、時間の無駄、って書評なら機械に任せた方がましっ!
     本を愉しんで読まず、ただ次々読み飛ばしている読者ならいない方がましっ!(ってな訳ないか)
     だいたいあんたなんで本読んでますねん? HPに駄文書いてますねん?って言われているような気がしてツライわあ。
おすすめ度★★★★
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地下室の箱 RIGHT TO LIFE

1998年 ジャック・ケッチャム作 金子浩訳 扶桑社ミステリ 205ページ
あらすじ
グレッグとサラはクリニックに向かっていた。中絶反対者達がピケを張っているクリニックに。
幼い息子を水の事故で亡くしそれが原因で夫と離婚して、ニューヨークで教師をしている孤独なサラの心を捕まえたのがグレッグ。飛行機でお隣さんとして知り合ったふたりは一生の恋に落ちる。ただ、グレッグには妻と息子がいた。子供が生まれても育てる事はできない。最良の選択と考えたふたりだったが。運命はサラを体内の子供もろとも狂った夫婦に渡してしまう。拉致されたサラは地下室に閉じこめられていた。
感想
映画「コード」の原作かなと思うほど似ている。監禁され虐待を続けられると、逃げようという気力が失われて行くといいますね。恐ろしい。
ところがこの小説の主人公サラは正気を失わない。今自分が出来る限りの事をしてちょっとずつ陣地を広げていくタフさを持った女性として描かれている。対し、監禁した夫婦の妻キャスは受け身の人生から抜けられない。やっと結婚できたのにほっとしているせいであり、破滅を予感しながらも子供がいれば幸せになれるという幻想で目をつぶっている。もちろんの事「子供」は男女をくっつける接着剤ではありえない。このふたりを対比させる事で「主体的に生きるとはどういう事か(自分の手で道を切り開く事よ)」 「ひとりで生きられないとすれば、夫でも子供でもペットでもどういう相手を選ぶべきか。どう付き合っていくのか。(現実に目を背けるべきではないのよ)」といったストーリーでもあると思う。エグイ話ながら。
おすすめ度★★★
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三人のゴーストハンター 【国技特殊警備ファイル】

2001年 集英社
あらすじ
これでお金をもらっているとはいえ夜の警備員は、ちょっと恐い仕事。シーンと静まり返った真っ暗な廊下を懐中電灯ひとつ頼りに歩いていたら、コツコツと 靴音が。。。聞こえるような気がしたり、青くぼおぉっとひかる物が。。。。見えるような気がしたり(すると思う、さぼてんなら)。
しかし実際普通の警備員の手に負えない出来事−性格の悪いゴーストとか−に遭遇した場合に保険として掛けてあるのが「国技特殊警備保障(有)」であった。ここには凄腕と自称する3人のゴーストハンターがいた。
感想
田中啓文氏、牧野修氏、我孫子武丸氏がそれぞれの特殊警備員キャラをひっさげて作った連作短編集。前者お二人はホラーでしたが、我孫子氏ひとり本格的推理に挑まれていました。題名はもちろんビル・マーレーの映画「3人のゴースト」とカート・ラッセルのおばか映画「ゴーストハンターズ」に掛けてあるんですね。勝手な思いこみですね。
最終話は3バージョンあり、YES・NOテストで「あなたの読むべき最終話」が決められてしまう。「まあ、なんてお下品な。」と思っていた「洞蛙坊(とうあぼう)」が当たってしまった・・・。読まれていたのね。大きな声では言えないけれど田中啓文氏のゴーストハンター「洞蛙坊(とうあぼう)」が一番好みかも。迷いのない所がいい。

推理で押してきた我孫子氏がこういう結末にするとは意外。本人納得しているんかな。面白かったけど。
おすすめ度★★★★
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