1999年4月のミステリ

悪魔は夜はばたく The Vision
ディーン・クーンツ著 1977年 創元推理文庫 平井イサク訳
あらすじ
透視能力者メアリーは、その能力を活かして警察の捜査に協力していた。警察に追われ射殺された犯人は、メアリーを見て「メアリー・バーゲンか・・・・」とうめいて息絶える。
何故男はメアリーが捜査に協力している事を知っていたのか? 何故メアリーの名前を言ったのか?
感想
シンプルで素直に楽しめる一冊。
まあ問題と言えばあっさりしていて、展開が読めて、怖くないと言った所でしょうか。
「ベストセラー作家クーンツの原点」と帯に書かれていました。今読んだらモノ足らないかもしれないけれど「これを読まなければクーンツは語れない!」のでしょう。恐らく。
なんか「ハーレークィーンロマンス・ホラー版」みたいだったな。
この邦題、詩的ですね。
おすすめ度★★★
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恐怖への旅
エリック・アンブラー著 1940年 早川ポケットミステリ 村崎敏郎訳
あらすじ
英国人のグレアムは兵器製造会社の技師、トルコ海軍の仕事が終わり明日はイスタンブールからパリを経由して帰国する予定だった。会社のトルコ代理人コペイキンの案内でトルコ最後の夜を過ごした後、夜にホテルに帰り部屋のドアを開けた。その途端、爆音が響き手に痛みが走る。撃たれたのだ。
その夜の内に、グレアムはコペイキンの薦めでトルコ秘密警察長官のハキ大佐に会う。ハキ大佐は、物取りの犯行ではなくトルコの軍備が整う事を恐れるドイツスパイ・ミュラーの仕事であり、グレアムは命を狙われていると告げる。グレアムに人の出入りが激しい鉄道ではなく、イスタンブールからイタリア・ジェノバへ行く船に乗り海路でパリに向うよう要請する。
セストリ・レヴァンテ号に乗り一息ついたグレアムだったが、ギリシャのアテネから乗り込んだ男がハキ大佐から見せられた写真の殺し屋ベーナトであるのに気づく。
感想
第二次世界大戦前夜のヨーロッパの不安さがひしひし伝わってきます。海の上という舞台設定の”逃げ場のない恐怖”を味わう作品。
同じヨーロッパといっても海を隔てた英国の技師には、その一発触発さと自分の身の上に起こった「殺し屋に狙われる」という出来事がなかなか実感できない。その主人公のもどかしさが、そのまま読み手のもどかしさとなり、スパイ物というより不条理物といった感が強い。
地続きのヨーロッパの各地から集まった見知らぬ人々が船の上に集う。英国人、フランス人、トルコ人、ギリシャ人、ルーマニア人、ドイツ人、そして話される言語も様々でそのあたりの描き方がうまい。
この作品って映画化されているんですよねえ。オーソン・ウェルズ制作、脚本、出演作品。見たい
おすすめ度★★★1/2
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大魚の一撃
カール・ハイアセン著 1987年 扶桑社ミステリ 真崎義博訳
あらすじ
私立探偵のR・J・デッカーは、大財閥のデニス・ゴールドから5万ドルで仕事を依頼される。その仕事とは、オオクチバス釣りトーナメントでいかさまをしているディッキー・ロックハートの証拠写真を撮ってくるという内容だった。ディッキー・ロックハートは大物釣り師で自分の釣りのTV番組を持っている男だ。お坊ちゃま釣り師のゴールドは、バス釣り仲間に入れてもらえずその全恨みがロックハートへと向かっていた。
感想
おぞましいエピソードがあります。おぞましくてゾッとして、しかしながら同時に滑稽さに笑えるというハイテクニックを持った書き手ですね。
デッカーがマイアミに乗り込んで雇う釣りガイドのスキンクの造形が超ユニーク。湖のほとりの掘ったて小屋にひとりで住むスキンクは、サングラスをかけ白髪まじりの長髪を三つ編みにした一匹狼の老ヒッピーといった趣の大男。言動はといえば、桁外れの変人、野人
スキンクが愛する巨大オオクチバス「クウィーニー」と釣り師デニス・ゴールドの対決跡を見て言う「ある意味では、おれはこのくそったれに賞賛を贈りたい。」   アメリカ合衆国のルーツ、開拓者魂が感じられる言葉です。
ラストは、愛するフロリダのためにこういう生き方しかできなかったスキンクの幸せと不幸が胸にいたい。
おすすめ度★★★★1/2
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念力密室!
西澤保彦著 1999年 講談社NOVELS
あらすじ
「幻惑教室」「実況中死」に続くチョーモンイン<超能力者問題秘密対策委員会>シリーズ3作品目。3作品目ながら、「念力密室」はミステリ作家・保科匡緒(ほしなまさお)、美貌の警部・能解匡緒(のけまさお)、<超能力者問題秘密対策委員会出張相談員見習い>神麻嗣子(かんおみつぎこ)3人のなれそめを明らかにする嗣子デビュー事件です。
古来からの密室物の謎「密室を作りあげたトリック(ハウダニット)」、本作品では超能者がサイコキネシス(手を触れずに物を動かす能力)を使って作ったため謎ではなく、本作品達の謎はサイキックは何故現場を密室にする必要があったのか?(ホワイダニット)を読者に問う本格推理連作短編集。
感想
ちょっと安楽椅子探偵風です。 5作品とも、よくできている。
中でも「念力密室」は、密室にした理由の意外性が面白い。
能解警部の視点で物語が進んでいく「乳児の告発」、保科匡緒の前妻・聡子のキャラが生きている「鍵の戻る道」は今までとは違うテイストでした。「鍵の戻る道」はこの作家にはめずらしく題名もいい。

おまけの「念力密室F」は、聡子が保科匡緒と能解匡緒の間の子供を育てている様に読める。ここに名前が登場しない警官”彼”は、「乳児の告発」で登場した百百(もも)刑事に読める。Fは「FUTURE」のFなんだろうか。作者あとがきには「このシリーズは完結する」と書かれてあります。主人公3人達は、みごとに着地をし、その関係が明らかにされるそうです。いまさらながらですが、神麻嗣子は現世の人でなくてもOKなんですね。という事は、嗣子はふたりの間の子供だという事もありなわけか。聡子が育てている寿美子=嗣子。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のように父と母をくっつけるキュービッド役として未来からやってきたという事か・・・。まさかねぇ。それはひっかけだな。
おすすめ度★★★★
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ppp


永遠の仔(上・下)
天童荒太著 1999年 幻冬舎
あらすじ
1979年、ひとりの少女が鎖につかまりながら霊峰の頂上をめざして岩盤を登っていた。後を追うふたりの少年たち。頂上まで登り<永遠の救い>を見いだしたいと願っている子供達には、過酷な運命がまちかまえていた。
17年後の1998年、少女は看護婦に少年達は弁護士、警察官となり再会をはたす。が、その直後連続殺人がおこり、少女の家族、少年の恋人をも悲劇の坩堝にほうりこんでいく。何故、こんな事になってしまったのか。
感想
著者入魂の作品。真っ正面から読者に向けて次々に放たれる矢は、痛い、そして重い、重たい。

「罪悪感と恥」という事を感じる。非情な目に合わされた場合、表沙汰にはせずに忘れようなかった事にしようとする。しかし、「過去の事」にするためには、非情な事をした人が非を認め、心から謝りその罪を償ってもらう必要があるんだな。何故真っ正面からぶつかったり、表沙汰にできないのか。それは、「罪悪感>こういう事になったのは自分にも原因があったのではないか。恥>人に知られたくない。」があるからなんだな。これを乗り越えるのは難しい。こういう事態が家族内で起こった場合は、愛憎が混じり合いさらにさらに難しい。しかし、作者は家庭の問題とせず社会が支えるべき問題だというメッセージを発信している。虐待を受けて育った子が親になった時、また虐待する場合があるという鎖を今断ち切らなければならないという強いメッセージをも。

こういう本を読むと、こんな所でわかったような事を書いていて、それでいいのだろうかと不安に思う。
おすすめ度★★★1/2
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