2001年2月のミステリ

転・送・密・室

2000年 西澤保彦著 講談社NOVELS 332頁
あらすじ
超能力者問題秘密対策委員会(チョーモンイン)シリーズ第五作。
それぞれの犯罪で使われる超能力には”しばり”があってそれをどうクリアしているのか、どう逆手にとっているのかってのに作者は頭を搾っていて感心させられます。そのちょっと偏執狂的な所にも。

 「現場有罪証明」 best2 一発目からちょっと意表をついた趣向で作者の頭のよさを納得。
 「転・送・密・室」 なにゆえこの作品が表題なんだろうか。不思議だ。単に四文字だったから?
 「幻視路」 ”はがねの神経”を持つ「おろちの聡子」(ミステリ作家・保科匡緒の前妻)の予知夢+冒険談。読み手に元気が出てくるのがいい。
 「神余響子的憂鬱」 best1 ロリコンなだけでなく、少年のように自分の事を「オレ」と言いツッパッテいるがけなげな美少女も僕は好みなのよという作者の暴露話(違う違う)
 「<擬態>密室」 best3 モモちゃん(百百太郎・ももたろう)の純愛物語
 「神麻嗣子的日常」 暗い・・・。まっ話はさておいて新登場の編集者・阿保梨稀(あぼうリキ)って何者なのよ? 実は猫のアボくんなの?

感想
チョーモンイン出張相談員(三種乙合格済。ちなみに神麻嗣子はいまだ見習の身)の神余響子(かまなりきょうこ)初登場の「神余響子的憂鬱」が一番面白い。が、作者も危惧しているように、レギュラー陣をまたも増やしてちゃんと着地するんでしょうか?  「念力密室!」では、「大丈夫」って請け合っていたけれど。風呂敷広げるだけ広げて辻褄合わせず「これって、SFですねん」って逃げるんちゃうやろなあ。 読者のさぼてんは心配です(笑)。最後の「神麻嗣子的日常」を読んでますます心配(笑)。神麻嗣子(かんおみつぎこ)と神余響子(かまなりきょうこ)は双子なのか? それとも親子なのか? ちょっと楽しみ。
おすすめ度:★★★★1/2
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PINK

2000年 柴田よしき著 双葉社 365頁
あらすじ
結婚して3年。医者の夫のために家事をし幸せな毎日を送っているメイだったが、東京の実家から芦屋のマンションに帰ってから夫・達也に違和感を覚える。たった5日間留守にしただけなのに。食事の仕方が前と違うのだ。お肉は全部切ってから食べていたはずなのに、一切れずつ切っては食べている。 この人は誰? 
感想
「阪神淡路大震災」により負った深い心の傷と再生の物語。当事者ではない人々が記憶の角に置こうとしかけている時に、この作品を出した作者の熱意を買いたい。

でもって、物語の方はどうかってぇと、そう、、、どうかなあ。何しろ盛り沢山でした。新興宗教あり、インターネットのチャットあり、芸能界ありで。あんなに人生の進む道を正しく導いてくれる教祖様がいらっしゃるのなら私も信者になりたい(笑)。
メイは、だんなさんが何度も浮気しているのを知っていながら「いいのそんな事はどうでも。すてきなマンションでお掃除してお料理して夫の世話をしているこの生活が続くのなら。それで幸せ。」と感じている。それを作者は「あんた、それは夢みてるんやで。ふたりで生きているとはいえん。」(まあはっきり言えばそんなのは夫婦ではない)と言っていてそれが物語のテーマのような気がした私ってずれてるかな。
おすすめ度:★★★
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他言は無用 KEEP IT QUIET

1935年作 リチャード・ハル著 創元推理文庫 越前敏弥訳 291頁
あらすじ
英国紳士の社交場、憩いの場所・・・それはクラブ。が、ホワイトホール・クラブの幹事レナード・フォードはいつもいつも些末な事柄に悩まされているような気がしていた。今日は今日とて料理長のベンソンからバニラエッセンスの空き瓶に入れてあった塗り薬の過塩化水銀を間違ってミスター・モリソンの特製スフレにふりかけたかもとうち明けられる。しかも図書室の椅子ではモリソンが動かぬ人となっていた。やはり特別のバニラエッセンスのせいなんだろうか? それともお年のせいなんだろうか? 解剖して死因を明らかにすべきかどうか? そこでフォードの事なかれ主義がむくむく沸き上がり、間違った道へと進んでしまうのであった。
感想
「伯母殺人事件」も面白いながらも、同じ事の繰り返しでいささか退屈だったんですけれど、この作品も同じ事の繰り返し。でもやっぱり良くできていると思う。へそのまがった異色推理ではなかろか。弁護士のカードネルが「図書館の本が紛失する事件」をシャーロック・ホームズばりに大真面目に大外れに推理している内に、別の重大犯罪の犯人に行き着くってのが楽しい。英国の伝統「紳士クラブ」という日本の作家ではなかなか手のでない題材がいい。英国流の皮肉なユーモアがきいている。
おすすめ度:★★★1/2
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スタンド・アローン BUTCHERS HILL
  アンソニー賞、アガサ賞

1998年作 ローラ・リップマン著 早川文庫 吉澤康子訳 418頁
あらすじ
私立探偵として独り立ちしたもののカレンダーには何も書き込まれず、仕事のないテスの所にひとりの黒人男がやってくる。5年間服役して刑務所から出てきたばかりの66才ルーサー・ビールは子供たちを探して欲しいとテスに依頼する。近所のほったらかしにされた里子達に車を壊されたルーサーは威嚇のために銃を撃った所その内のひとりを過って殺してしまい「ブッチャーズ・ヒルのブッチャー(虐殺者)」と異名を付けられ当時評判になった事件を引き起こしていた。その時生き残った4人の子供たちに千ドルずつ援助したいというのだ。なんか、どっか、信じられない話。
仕事が来るときには重なるものだ。もうひとりハイソな黒人女性が行方不明の姉を捜してくれとやってくる。18才の時に家出した姉とは13年間音信不通だという。意外にもこの一見別々に見える事件にはひとつの大きな共通点があったのだ。そしてテス個人にとっても驚愕の真実が明らかにされる。
感想
 「チャーム・シティ」の私立探偵テス・モナハンシリーズ3作目。やはり前作は訳がいまいちだった事が判明。訳者が変わった本作はテンポもなかなかよかったぞ。
子供たちを探すテス・モナハンの前に里子制度という高い壁が行く手をふさぐ。毎日新聞だったかには「この子に愛の手を」かでずっと里親探しのコラムがあり、さまざまな活動がされているようですが、私にはまったく知識がない。同級生にも何人かは実の両親ではないらしいと言われている子がいましたが、親戚からのもらい子がほとんどでしたし。中絶大国なせいか、自分の血にこだわるせいか「不妊治療」の方に重きがおかれているように思う。自分の遺伝子を持った子供さえまっすぐ育てられるか不安な時代になかなか里子を育てるというのは難しいと思う。米国は「子供は宝」と育てようとしてしているにも関わらず、紆余曲折のぐらぐらした所もあり複雑怪奇な制度でもあり人種問題もからみうまくいっているのかいっていないのかわからないですが、それでも努力をしているんだと感じる。

スタンド・アローンというから昔のパソコンの事かと(笑)。
おすすめ度:★★★1/2
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