2000年6月のミステリ

クリスマスに少女は還る JUDAS CHILD

キャロル・オコンネル 1998年 623頁
あらすじ
聖ウルスラ学園の生徒ふたりが姿を消す。親友同士の10才のサディーとグウェンだ。地元警察に勤めるルージュも15年前に双子の片割れを誘拐され、クリスマスの朝妹は亡骸になって帰ってきたという過去があった。その時の犯人は監獄の中のはずだが。
感想
「やはり、そうだったのか」という衝撃と痛みと共にホワイトクリスマスの朝、小説は終わる。
3つの謎はそれほど深くはないのですが、よく出来ている。少女達の冒険談もどきどき。野球や、犬の調教という楽しみがうまく使われていてね。わからないながらも精神分析という治療にますます不信感がつのってしまう話だった。ものの役にたつんだろうか?という気がするのはよくないね。

時々びっくりするくらい淡泊な方もおられますが、喪失感というのは時間がたってもなかなかうめられないモノなんだな。
ええっとまたまた小説から話がずれるんですけれど、2年ほど前中学校の同窓会にでた時に当時発展家だった子とちょっと立ち話をして、孫が3人いるという近況にのけぞりました。バク転しそうになったの。クラスメートではなかったのですが元々男の子の事しか頭にないような子でそれが目立っていてね。本人はワルではなかったんですけれど中学時代は不良の男の子とつきあっていて、その当時からまるで夫婦みたい・・・で。ところが中学を出たとたん「生活力のない男はいらん」とばかりに10才も年上の人と結婚して16で子供が出来てって所までは噂で聞いていたのですが。今考えると、家庭的な子だったんですね。その後は3人子供が出来たけれどひとり亡くして離婚して、また結婚して子供がひとり出来て、上の女の子2人も19で子供がうまれてとふくよかな体型でニコニコ幸せそうに話してました。繁殖力(失礼!)の旺盛な人達なのだなあと感心いたしました。四国に住んでいるけれど久しぶりなので一家で大阪に遊びに来ていると言ってました。でも「ひとり亡くして」と言った時に一瞬変わった目の色を鮮明に覚えている。哀しみというより苦痛に見えた。子供が何人いようと孫が何人できようとやしゃごの顔が見れようと(彼女ならできる)彼女から一生消えないんだろう。

ホラー狂のサディーからぽんぽん出てくる怪奇映画の数々。勉強不足を痛感いたしました(笑)。註釈を読むとトッド・ブラウニング監督作品が多いらしく、「古城の妖鬼」は監督自身の「真夜中のロンドン」という映画のリメイクだそうです。
おすすめ度:★★★★
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黒い風 The Dark Wind

トニイ・ヒラーマン ミステリアスプレス 1982年 278頁
あらすじ
「ダーク・ウィンド」
感想
この小説を読んで驚いたのは、映画「ダーク・ウィンド」が小説とほとんど同じだった事。映画では砂漠の洪水のシーンがなかったのが残念なだけ。制作者のロバート・レッドフォードが小説によほど惚れ込んだんだな。映画ではよくわからなかったシーンが、小説を読みながら「ああ、チーはそういう事をしていたのか。」と納得する事もしばしば。原作が地味なだけに映像を先に見ていて私はよかった。乾いた大地や、雄大な風景などとは無縁の生活をしている身には文章だけではなかなか掴めないイメージを与えてくれる映画も好きだ。

チーにはナヴァホとホピはりんごとオレンジのようにはっきり見分けがついた。彼はニュー・メキシコ大学で三年間まなんだのちも、スウェーデン人と英国人、ユダヤ人とレバノン人の区別がつかない事実を(伯父の)フランク・サム・ナカイに指摘されたとき、白人には「インディアンはみんな同じように見える」という話が本当なのだと言うことをはじめて悟った。
この一文が印象に残る。人種、民族が違う者同士にはお互い理解しあう事が必要なのだと言っているように見えながらも、「自分たちもまた、白人は同じように見える。」という事をぴしっと指摘している。

この詩的な題には意味があり、ストレートに「黒い風」と邦題をつけた人の良識に感謝。
おすすめ度:★★★1/2
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ハサミ男 第13回メフィスト賞

殊能将之 1999年 講談社NOVELS 364頁
あらすじ
巷を騒がせている女子高生連続殺人事件。首を絞められた死体の喉にハサミがつきたてられているという異様さだ。
感想
しょっぱなからミエミエで「まさかこれだけちゃうやろなあ」と思いながらなんとか最後まで読み通す。「それだけ」ではなかったのですが読後感もイマイチ。最初から主人公ハサミ男の独白での比喩に違和感があり、もうそこから文体に反撥がフツフツと湧く。自殺未遂を繰り返すハサミ男に「死にたいんやったら、飛び降りたら一発やん」という反撥も。ほんとは死にたくないって事なのか? 映画「地下鉄のザジ」を登場させる理由もわからん。理由はないのか? それとも解答の伏線なのか?。
「あー読むのがしんどい」「つまらない」「違和感ありまくり」と少し読んではぶつぶつ、少し読んではぶつぶつ言ってると「もう読むのやめたら。そないに文句言われてまで作者も読んでほしないと思うで。」との声。「意地でも読み通すの。」とがんばりましたが、がんばった甲斐がなかったかというとそうでもない。一発物としては良くできている(ちゃんと評価してるでしょ)。パズラーじゃなかっただけ。
「人を殺すのに理由はない」っていうのも、ありがちな説明くっつけてハイシャンシャンと終わらないのはいいけれども逃げているようにも見える。
おすすめ度:★★★
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