ショパン全作品を斬る
1826年(16才)
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- [8] ポロネーズ第15番 変ロ短調(遺作)
1880年出版。
友人ウィルヘルム・コルベルグに献呈。
自身とフォンタナの選に洩れた作品である。
最低音D1♭、最高音F7。
最高音がまたも当時のピアノの限界だが、
注目すべきは最低音がD1♭に至っていることである。
前に紹介したショパンの少年時代のピアノの最低音はF1までしかなかったから、
このピアノの後ショパンにおそらくC1からF7までの76鍵のピアノが与えられ、
それでこの曲が作られたと推測される。
重音を多用し量感のある音楽になっている。
強弱記号が少ないが、
もちろんかなりのfで奏されるべきである。
- [9] マズルカ第52番(ヘンレ版第51番)変ロ長調
作曲年に出版。
しかし作品番号はなく、
かといって遺作でもない。
そういう例外的曲がショパンには8曲ある。
アウフタクトを伴う別稿もパデレフスキー版に収められているが、
ヘンレ版ではこの別稿の方を第51番として収録している。
マズルカの番号は注意が必要である。
ヘンレ番とパデレフスキー版は第41番までは共通しているが、
それ以降の番号付けは異なっている。
またペーター版(旧)、
全音楽譜、
音楽の友社はヘンレ版と第49番まで一致しているが、
それ以降の番号付けは異なっている。
ここではとりあえずパデレフスキー版にしたがうこととする。
有名なマズルカ第5番変ロ長調を予感させる元気のいい曲である。
明らかにマズルと思いきや、
文献[1]にはオベレクとある。
もっともマズル、クヤヴィヤク、オベレクの分類は文献[1]と[6]に矛盾も見られる。
曲によってはどれともつかないものもあり、
この分類は簡単ではない。
筆者にはこの曲はマズルに聞こえる。
中間部は文献[1]の通りクヤヴィヤクであろう。
別稿(ヘンレ版第51版)はわずかな違いしかないが、
そちらの方が多少変化に富む。
- [10] マズルカ第53番(ヘンレ版第50番)ト長調
作曲年に出版。
前曲と同じく作品番号はなく、
遺作でもない。
別稿もパデレフスキー版に収められているが、
ヘンレ版ではこの別稿の方を第50番として収録している。
マズルカの番号については前曲([9] 第52番)の注参照。
これも分類の難しいマズルカである。
少なくともマズルや遅い方のクヤヴィヤクでないことはわかるのだが。
文献[1]には速いクヤヴィヤクとある。
曲の雰囲気は前曲と似ている。
いきなりロ長調になりまたいきなりト長調主和音に戻るところはショパンらしい。
後述の[14]エコセーズにも同様な(ホ短調属和音=ロ長調主和音のパッセージからいきなりト長調に戻る)手法が使われている。
- [11] ロンド ヘ長調 作品5
1828年出版。ABACAのロンド形式。モリオール伯爵令嬢に献呈。
最低音E1、最高音F7。これも最低音はF1より下だ。
最初のロンド(作品1)に比べ、音楽的に格段の進歩が見られる。
リズムとピアニズムは協奏曲第二番第三楽章を先取りするもので、
協奏曲の第三楽章終結部は明るいヘ長調なのでそこと雰囲気が似ている。
もっとも協奏曲第三楽章はオベレク風であったり速いクヤヴィアク風だったりするのに対し、
この曲はマズルであるが。
世に出るため技巧を凝らしたショパンの作品(以後作品1路線と言おう)の中で高い境地にある最初の作品である。
ファのシャープ(ヘ長調だからBナチュラル)を多用し、
リディア旋法の効果が効いている。
ただしマズルカ第15番や第50番(ヘンレ版や日本の出版社では48番)ほど強烈なリディア旋法ではないが。
- [12] ドイツ民謡「スイスの少年」による変奏曲 ホ長調(遺作)
1851年出版。ソヴィンスカ夫人に献呈。
最低音E1、最高音C7♯。作品1路線(前項参照)。
技巧は華やかだが中身は深くない。
主題に含まれるアルプスのヨーデル旋律がショパンのイメージと合わない点が面白い。
第3変奏の左手が後年の「革命のエチュード」や「前奏曲集第3番ト長調」の左手を思わせる。
- [13] 4手のための変奏曲 ニ長調(遺作。ヤン・エキエル補作)
1865年出版。
ショパンには4手のための作品が二つあり、
これはその一つ。
もう一つは同じくワルシャワ時代に作られた[26] ロンドハ長調作品73。
この変奏曲は後でパガニーニ変奏曲にも使われたのと同じ主題に基づく。
この主題は独奏楽器の技巧を見せるための変奏曲によく使われる主題である。
2人の弾き手が楽しく合わせられるように作曲されている。
- [14] 3つのエコセーズ 作品72−3〜5(遺作)
1855年出版。簡単な三部形式の舞曲3つから成る。
エコセーズはスコットランド舞曲ともいわれるが、
実際はイングランドの田園舞曲に属し、
4分の2拍子の速い曲。
ショパンの初期の作曲の中でも非常に躍動感があり、
和声進行も魅力的。
第二曲ト長調でホ短調属和音のパッセージからいきなりト長調主和音の主題に戻るところや、
第三曲変ニ長調のトリオ変ロ短調属和音から始まり次第に変ニ長調主和音に戻るところなど。
後者は子犬のワルツの途中のパッセージの和音進行を思わせる。
装飾音的な繊細な音の動きもいい。
ドビュッシーのアラベスク第2番を思わせる。
小粒で単純ながらも面白さに溢れる逸品である。
後年の作曲とする説もあり、
それがうなずける生き生きした曲。
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