サティパッターナ・スッタ (Satipatthana Sutta) 大念住経 又は 大念処経

心の意識

十六段階の洞察智 の中で、サティパッターナ・スッタを英訳された U Jotika 氏は、「心の意識」について次のように述べています。

「眼に関しては、中立的な感覚だけを感じています。それは快でもなく、不快でもありません。あなたがそれを快か不快として解釈すると、それは別のプロセス、つまり精神的プロセスになります。自分が見たものを好む時、それはもはや眼の意識(眼識)ではなくなります。この繋がりは別の意識になります。心が解釈をする時、それはもはや見る意識ではなく、心の意識なのです。

あなたが何かを見る時、純粋に見るのが眼識で、その時には、あなたは自分が何を見ているのかすら知らないのです。ただ純粋に見ることがあるだけなのです。自分が見ているものを確認するのは別の段階で、それからあなたは、自分がそれを好むかどうかを決定するのです。」

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの感覚器官を通して入った外からの情報は、何を見ているのかを認識したり、それが快か不快かを判断したりという心の解釈で、精神的プロセスへと移行するようです。身体の感覚器官の意識から、心の意識へと情報が受け渡されるということでしょう。これは 感覚 知覚となることを意味しています。

私たちは身体の感覚器官からの情報で外の世界を認識していますが、それらの情報は、ほぼすべて、精神的プロセスへと移行し、身体の「感覚」から心の「知覚」へと別の段階へ移ります。知覚は心の記憶の反応です。自然のありようは無常(アニッチャ)であり、感覚器官からの情報は、常に新しく未知なるものですが、心の解釈を経ると、記憶に基づいて快か不快かの判断がなされてしまい、外からの情報のほぼすべてが、精神的プロセスによって、既知なる情報になります。

バーチャル・リアリティとは、利用者の感覚を意図的に刺激することで、実物ではないものを実物と同じように見せる仮想の現実です。その状況下では、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの感覚器官が受け取った情報が、精神的プロセスで記憶の反応をもたらし、受け取った情報に応じて、実物と同じような現実が作り出されています。ただ、その現実とは、実際は現実ではなく、外からの情報に反応して再現された記憶の世界にすぎません。

本の中の物語の世界もこれに当てはまるのではないかと思われます。実際の世界では五感の全てが活動していますが、本の場合、活動する感覚器官は、文字を見る視覚だけです。視覚から得た文字記号の情報によって、心の意識が働き読むことになります。心の意識が働き、読むことが起きている時には、記憶が反応し、その情報に応じて本の物語の世界が再現されることになります。文字記号を見るのは視覚意識ですが、その意味を解釈する読むことは、心の意識です。活字を読んでも頭に入らないというのは、心の意識が働いていないからではないでしょうか。

実際の現実の世界でも、私たちは、バーチャル・リアリティ(仮想現実)や、本の中の物語の世界と同じような接し方をしているところがあります。ありのままの現実をそのままに受け止めず、すぐさま心の意識を働かせ、快か不快か、善か悪か、醜か美かなど、精神的プロセスで現実のありようを解釈しているということです。

記憶の解釈を通して現実を生きるこのような生き方では、実際の現実に生きているのではなく、自分の記憶の世界の中に生きているのと同じです。わたしたちは、現実という実物の世界に生きていると勝手に思い込んでいるだけで、実際は、気づくことなく、記憶という心がつくり出した仮想現実に生きているところがあります。バーチャル・リアリティ(仮想現実)がごく自然に受け入れられるのは、わたしたちが日常的に記憶の世界というバーチャルなリアリティに生きているからかもしれません。

自然のありようは、無常(アニッチャ)であり、未知なるものですが、私たちの日常の風景は、いつもと同じ、何の変化もない既知なるものに見えます。常に変化するはずの風景が、いつも見ている風景と同じにしか見えないのは、心の意識が織り成す記憶の世界には、新しい未知なるものはないからでしょう。

ただ、風景がいつも、日々、違って見えたとしたら、日常生活は相当混乱するでしょう。わたしたちが心の記憶の世界というバーチャル・リアリティに生きるのは、生存のための必然なのかもしれません。

仏教はこの世を夢とみなしています。眠った時の夢は、記憶がさまざまに変容して現れた世界で、純粋な脳内現象ですが、起きている時も記憶の世界という心の世界に生きているのなら、わたしたちは、夢の世界に生きているということになります。

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