Ensamble Amedeo Mandolin Orchestra HOME  

mandolin


  メニューへ戻る


  表紙

  プログラム

  ごあいさつ

  曲目解説

 => 編曲ノート

  メンバー

  ソプラノ


   

アンサンブル・アメデオ 第23回定期演奏会
パンフレットより

Ensemble Amedeo The 23rd Regular Concert

2007年1月13日(土)17時30分開演
於:文京シビックホール 大ホール
 


編曲ノート

 今年は「スペインヘの旅」ということで、スペインに因んだ曲を中心に取り上げています。しかし、すべての曲がスペインの曲ばかりということではありません。たとえば、1部2曲日の「オーベルニュのうた」は南フランスの山岳地帯の民謡を取材した作品です。昨年は「オール・ラヴェル」プログラムでした。その流れで、フランスからスペインに旅をしてみようという趣のプログラムになっています。結局、1部はすペてフランス人の作曲家による作品となりました。とはいうものの、それほど緻密な思考があって選曲というものでもなく、やってみたいものを選んでいるだけのことですから、何を言ってもこじつけにしかなりません。

 シャブリエの「スペイン」は難曲中の難曲ですので、できればもう少しやりやすい曲をと思っていたのですが、これは団員のたっての願いということで、ついにやることになってしまいました。この曲の難しさは、なんといっても、その揺れるような3拍子にあります。そもそも3拍子が難しいうえに、それが揺らいでしまう。これはもう神業に近いことです。マンドリンはトレモロという奏法で音をつなげるのですが、トレモロが乗りやすいテンポにしてしまうと、どうしてもゆったりとしてしまいがちです。それでも風が吹き抜けるように颯爽とした曲想を維持しなければなりません。テンポが遅くなっても、決して失速しない音楽を追求しなければなりません。微妙に揺らぐテンポをいかに一丸となって共有できるか!ここにすペてがかかっています。

 シャブリエの原曲はピアノのための曲で、よく連弾で演奏されます。ピアノの場合、アルペジオを駆使したりクロマティクな音階で色彩感の豊かな音楽をかもし出しています。天真爛漫そのものでどこまでも愉しい音楽です。決して、一所懸命になってはいけません。どこか気楽な感じで、さらりといかなければなりません。8分音符や16分音符が連なっているようなところがたくさん出てきますが、その音符同士の間隔は常に均等であってはなりません。

 揺れていなければならないんです。最近はメンバーが増えて、毎回誰が練習に来るのか、前回は誰が来たのか来なかったのかわからないくらいです。それで、そうした揺らぎを共有しようというのですから、こうなると、あまり厳密に考えないほうがいいのかもしれません。考えて揺らぐのではなく、自然に揺らぐということでなければならないのですから!

 編曲のことを少しだけ記しましょう。ピアノ、ハープがすっかり定着しました。打楽器も今年はマリンバのFly(フライ)のメンバーが手伝ってくれています。ギターはかねてよりそうでしたが、最近はマンドリンやマンドラのメンバーも多いので、それぞれ2パートに分割(または3パートに分割)しています。アメデオの標準編成のスコアの段数を数えてみましょう。上からピッコロ、フルート、オーボエ、クラリネット、バスーン、1stマンドリンが2分割、2ndマンドリンが2分割、マンドラが2分割、チェロ、ギターが2分割、ベース、ピアノ(2段)、ハープ(2段)、ティンパニ、マリンバ、グロッケン(またはシロフォン)、タンバリン(またはカスタネット)、スネアドラム、バスドラム(シンバルも通常同じ段に記します)。ということは、最大で25段。それだけの段をなんとか埋めなければなりません。ほとんど塗り絵のような世界ですね。

 編曲をやる動機は至って単純なものです。「なんとかこの曲をやりたい」それだけのこと。それでやりたい曲が決まって、いつもこの25段の白紙に向かうとき、「できるのだろうか?」というような思いに駆られます。しかし、思っているだけでは進みませんので、とにかく1小節ずつ埋めていくことにしています。前進あるのみ!いつも、たいてい左側に原曲のスコアを置いて、何も書いていないそれぞれの段にひとつひとつ音符を置いていきます。じつに地道な作業です。編曲をやっていて楽しいところは、構想を練る段階。この旋律はどこにアサインしようか、和声はどのように割り付けようか、そのように思いを巡らすときです。

 演奏者の顔がちらほら浮かぶということもあります。「このメロディはどうしても弾きたい」などという嘆願書が事前に届いている場合もあります。しかし、妥協は禁物です。そういうときはしばし、演奏者の顔や表情を無情にも打ち消して、最適なアサインに思いを巡らします。編曲とはじつに弧独な世界ですね。内に籠りやすい作業なのです。構想がある程度完成すると、それをひたすら打ち込んでいくという地道な作業が延々と続きます。チャイコフスキーは比較的作業的には楽な方です。なぜ?それは、コピー&ペーストがやりやすいからです。「おっと、ここから20小節はまったく同じ繰り返しではないか!」そうなると、全パートを仕上げておいて一気にコピーして張り付けます!このときの爽快感というのは何物にも代えがたいものです。

 編曲には2通りあります。ほんとうは3通りでしょうか?オーケストラのものをマンドリン合奏にする場合は、当然のことですが、楽器の数が足りません。今回一番大変だったのは、おそらくファリャでしょう。近代管弦楽の技法というものはどんどん発展していますから、それこそスコアの段数もおびただしいものになっています。どうやってそれをコンパクトにするか!ここで肝心なことは本質を逃さないこと。つまり、曲の骨格はどうなっているのかということをしっかり捉えることです。これがなかなか難しいことで、例の「白鳥の湖」の有名なワルツで、肝心なトランペットのメロディをそっくり外してしまったこともあります!一昨年は、慶應義塾マンドリンクラブ(KMC)の依頼でドボルザークの「新世界より」の編曲をしましたが、ほんとうに大変なことで、どうしたってあの有名な旋律をそれ以外の楽器でやるという違和感がなかなか払拭できず、苦労させられました。構想だけで3ヶ月くらい要しましたが、今となっては葛藤そのものも懐かしい思い出です。

 今回のファリャは、KMCのOGのみなさんが結成しているLMC(レディースマンドリンクラブ)の定期演奏会のために編曲したもので、今回はそれをもとに編成を拡大したものです。編曲にあたっては、クライスラーがバイオリンの独奏用に編曲したもの、ギター合奏のCDなど、さまざま参考にしました。しかし、なにより感銘をうけたのは鈴木静一氏の手によるものです。それは、骨格を掴み、マンドリン合奏という編成に見事に焼き直したものでした。大胆な省略、音型の変更(弾きやすいように)などが随所に活かされていました。

 しかし、マンドリン合奏用には、田中常彦氏のまったく独特な編曲もありました。限られた楽器の数でどこを抜き取るか、そして、どの楽器にアサインするかということは編曲に対峙する者の価値観によって異なっているようです。

 今回もっとも参考にさせていただいたのは、まさにこの田中氏の手によるものです。2部2曲目「ゴイエスカスの間奏曲」を編曲された、菅原明朗氏も衝撃的なもので、原曲には見あたらないピアノの採択。旋律を楽器をまたがってリレーする技法。楽器の重複した活用法(これにより音色の幅の可能性が格段に広がっています。)などは、とくに近代音楽の表現にはよく発揮されているものです。(実際、菅原氏はストラビンスキーやドビュッシーなどの色彩に富んだ作品の編曲を意欲的に手掛けています。)弦楽のスコアと比較しても、むしろそちらのほうが見劣りするくらいで、この菅原氏の編曲には独特な味わいがあるようです。

 2つめの編曲のパターンとは原曲がピアノ曲のようなもので、逆に編曲することによって楽器の数が多くなるというものです。今回は終曲の「スペイン組曲」がその典型です。このアレンジはアルボスの手によるものが定番とされていますが、なんといっても素晴らしいのはラファエル・フリューベリック・デ・ブルゴスの華麗なる編曲バージョンでしょう。ブルゴスは日本人にとっても馴染み深い人で、学生の頃よく読響のレギュラー公演でその指揮姿をみることができました。そのときの演目にもこのスペインが取り上げられていました。原曲にはないオブリガードを創作挿入したりして、とくにグラナダなどは、かなリスペクタクルなものに仕上がっていました。凄いと思ったのは、原譜のあいまいな強弱記号も見事に自己流に解釈してしまい、大胆な変更を加えていることです。

 マンドリン用には飯塚幹夫氏によるものがありますが、それは明らかにブルゴスの影響が感じられるものでした。今回はアルペニスの原語にこだわって、オリジナルの素朴な世界を表現してみようという方針で編曲をすすめました。組曲最後の「アラゴン」の中間部で、唯一オブリガードを創作しましたが、チェロでは弾きづらいせいでしょうか、ほとんど聴こえなくなっていて、編曲者としては寂しい思いを密かに抱いていました。実は、このスペインの編曲にも叩き台があります。もう随分前になりますが、クリスタルマンドリンアンサンブルという母体のためにマンドリンの弦楽合奏用に作ったものがそれにあたります。そのときは、このチェロの副旋律をかなり引き立ててみたのですが、どうやら、今回、亨くんも少々不思議に感じていたのかもしれません。しかし、自立たないくらいにかすかに鳴るところが隠し味となって、奥ゆかしく響いてくれることでしょう。ピアノ譜からの編曲は、拡大していく方向なのでこ創造性があって楽しいものです。最近は、管弦楽曲をピアノ独奏や連弾などにアレンジした音源や楽譜も多く入手できるようになりました。それらは、音楽の構造を掴むにはとても参考になるものです。ときには一旦ピアノに置き換えてそこから再出発するというやりかたを経る場合もあります。

 3つめの編曲パターンは、メロディだけしかないというようなアレンジです。これは最も創作性が高くなるもので、最近やったものとしては、「カリタスの会」という教会のクリスマスパーティの余興演奏のためにつくった「幸せなら手をたたこう」でした。もう、旋律しかありませんので、ほとんどすべて作らなければなりません。ほとんど作曲に近い作業になります。大変なことですが、その時間は義務というよりは「ものを作る楽しみ」の時間になりますので、意外にストレスは少ないものです。子どもの合唱との共演のためにつくった「マザーグース」などはその典型的なものです。また、いつの日にかああいうものをやってみたいですね。今度やるなら「フランスの子どものうた」あたりでしょうか。「月の光」とか「フレールジャック」のような、愛らしい童謡がたくさんあります!

 最後に、「カルメン」についてひとこと。いままで「カルメン」はいろいろなところで関わってきました。最初にカルメンを編曲したのは、大学3年生の頃。当時、青山短期大学のマンドリンクラブのコーチに通っていた頃、その定期演奏会のために「前奏曲」と「アラゴネーズ」と「間奏曲」を作りました。いまでも鉛筆で手書きしたスコアを大切に保管しています。随分稚拙なことをやっているようにも見えますが、それなりに大胆なところもあり、手直しはしたものの、基本的なところはほとんど変わっていません。「カルメン」はアンサンブルアメデオでも一度取り上げています。そのときは「ジプシーソング」を加えました。一昨年、KMCの依頼で「行進と合唱」を作りました。これは4幕で子どもの合唱が「闘牛士がやってくる!」と歌うところで、とてもかわいらしい曲です。1幕でも子どもの合唱が入りますが、それが「衛兵の交代」。アメデオでは、どこかで「子ども」がモチーフになっているところがありますので、今回はこの2曲を折り込むことにしました。ところで「カルメン」はオペラです。ですから、おおいに「うたう」オケを目標にしています。「リズムにのってうたう」と考えがちですが、最近は「うたにあわせてリズムを刻む」ということにも取り組んでいます。旋律を弾いていない人も(こころのなかで)全員でうたう!どこまで、伸びやかにうたうことができるか。それは今年のアメデオのテーマとなっています。

2007年1月 小穴雄一
HOME | アメデオについて | 笑顔! | 歩み | 活動 | 演奏会案内 | パンフレット | CD販売 | 試聴室 | 写真館 | 掲示板 | リンク
Copyright(C) 1998-2013, Ensemble Amedeo All rights reserved.