バレンタイン・キッス・4  (聖と)蓉子後編

 今にもあふれてきそうな涙をこらえて、二月の寒空の下、聖と別れてたあと、蓉子はマリア様の像の前まで歩いてきた。マリア様の優しい微笑みは、蓉子の心を少しづつ癒してくれる。
(もうすこし・・・)
 もう少しだけここにいれば、気持ちが落ち着くような気がして、マリア様の前に一人たたずむ。

 どれくらいたっただろう?10分?20分?いや、5分とたってはいないのかもしれない。蓉子は、薔薇の館の方から楽しげに並んで歩いてくる2人の少女たちに気がついた。
 蓉子の妹である祥子と、その妹の祐巳ちゃん・・・か。
「ごきげんよう。お熱いお2人さん。」
(・・・!)
 あまりに自然にひやかしの言葉を発している自分に驚く。
(大丈夫。いつもの私に戻れる)
「ごっ・・・ごきげんよう、紅薔薇様っ・・・」
「おっお姉さま、ごきげんよう・・・」
 2人は真っ赤になって、それでも、よりそって答える。
「・・・、お姉さまどうかなさったのですか?今日は薔薇の館にもいらっしゃらなかったですし、こんなところに立っていたら風邪をひいてしまいますわ。」
 心配そうに問いかける祥子。
「人を・・・、そう、人を待っているのよ。」
 マリア様の前なのに、びっくりするくらいスラスラと嘘がつけた。
「それなら仕方ないですけれど、今日は冷えますからお気をけてください。」
 祥子の優しい言葉に、ちくちくと良心が痛む。
「あと、これを・・・お口にあえばよろしいんですけど・・・」
 祥子は、きっと手作りであろうチョコレートのつつみ、上品なえんじのラッピングでまとめられた小さなつつみを容子に手渡した。
「お姉さまの待ち人が、早くいらっしゃいますように・・・」
 そう言うと、祐巳を伴い、軽く会釈をして、校門の方へ消えていった。
 一人、見送る。

「人を・・・待っている?」
 そうか、私は待っていたんだ。
 決して戻ってくることのない・・・あの人を。

 もう少し、寒いけどもう少し。
 マリア様のそばにいたかった。

終わり


読む順番によって感想も変わるのではないでしょうか・・・
聖と志摩子   祥子と祐巳  (聖と)蓉子前編


あとがき

やっと、「紫姫的バレンタイン4部作」(うち1個はもらいものですが)が完結いたしました。
(完結っていうほどすごい話でもないけど・・・)
これでやっと、人様のバレンタインSSが読めまするー(喜)
紅薔薇様、この話の前後編が1番気合い入れて書きました。今私の力量だとこれが精一杯です。
でも、自分で書いてて、ちょっと胸が熱くなりました。紅薔薇様・・・かわいそう・・・(いや、書いたの私なんですが)
なんて言うか、つぼなんです。なんていうか、「作家は自分の感動・体験を切り売りする商売」ですよね。
私にもこんな話が書けるんだーという発見の1作となりました。
感想いただけたら幸いです。


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