バレンタイン・キッス・1 聖と志摩子
どたどたどた・・・
私立リリアン女学園のお嬢様には、およそ似つかわしくない足音が近づいてくる。
ばたばたばた・・・
薔薇の館の階段を、・・・まったく、あの人はなんて音をさせながら昇ってくるのだろう。
「ふぅ・・・」
私は思わず小さなため息をつく。
つい先ほどまで、ここ、薔薇の館の2階の部屋には、祐巳さんと祥子様がいた。
2人はほんの1〜2分前に帰っていったばかりだから、きっとあの人と会ったに違いない。
そして、きっと祐巳さんは、あの人にチョコをせがまれただろう・・・
「ふふ・・・」
あまりに分かりやすい展開。想像して、思わず微笑んでしまう。
でも、きっと、チョコはもらえないの。だって、祐巳さんの隣には祥子様がいるし、
何より、あの人の両腕は、小さなチョコレート1粒でさえ受け取れないくらい、たくさんのチョコの包みであふれているはず・・・
どたばた・・・・・・
扉の前でぴたりと足音が止まった。
「志摩子?いるんなら・・・」
あの人が言い終わらないうちに、私はすっとドアを開けた。
「うわっ・・・」
いきなりドアが開くとは思っていなかったらしい。
お姉さまは驚いて、両腕に抱えていた無数のチョコの包み、かわいらしい装飾を身に纏ったそれらを投げ出してのけぞった。
「志摩子・・・開けるなら開けるって言ってよ・・・思わず全部落としちゃったじゃない・・・」
ぶつぶつ言うお姉さまを無視して、私は、用意して来た紙袋に、散らばったかわいい包みたちをしまっていく。
今年は卒業前ということもあって、チョコの量も質もレベルアップしているような気がする。
「そんなに大切なものでしたら、落とさないような工夫をなさればよろしいですわ・・・はい。」
チョコでいっぱいになった大きな紙袋を手渡すと、お姉さまはいたずらっぽく笑った。
「ありがと・・・ところで、志摩子は?」
この後には「くれないの?」という言葉が省略されている・・・
「・・・さあ」
そっけなく返事をする。
本当は、紙袋の一番下にこっそり入れておいたんだけど、それは・・・悔しいからおしえない。
それに、絶対もらえるって思ってるお姉さまのきれいな顔は、
少しくもったほうが、私は好みだから。
♪私ちょっと最後の手段で・・・♪
「・・・・・・・・・」
不意に、いたずらっぽい気持ちになって、お姉さまの左の頬に、軽く口づける・・・
「えっ・・・?」
突然の行動に、手練れのお姉さまも、珍しく驚いた表情をうかべる。
たまにはお困りになればいいんだわ。
「ふふふふ・・・」
今日はバレンタイン・デイ。1年1度の・・・。
終わり
読む順番によって感想も変わってくるのではないでしょうか・・・
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どぎまぎする聖さんを書きたかった・・・らしい。
なんだか志摩子が、別人・・・。
国生さゆり・・・今の若い娘さんたち分かるんでしょうか?
もっと、書きたいことが、ちゃんと書けるようになりたいです。