MSD装着

 マルチプルスパークで有名なMSDイグニッションを装着した。選んだのはMSD−6ALという、レブリミッターが内蔵された物だ。本体の脇に差し込むモジュレーターを交換することによって、リミット回転数を変更することが出来る。エンジンがリミット回転数に到達すると、ただ点火を止めるだけではなく、ランダムに各気筒の点火を止めるのでプラグがカブることもない。サミットで$166だった。

MSD−6AL

 ノーマルのHEI(High-Energy-Ignition)は普通のトランジスタイグニッション(以下フルトラ)で、MSDはいわゆるCDI(Capacitive-Discharge-Ignition)である。普通のフルトラはインダクティブイグニッションで、コイルの1次側に流す電流をトランジスタで断続的にスイッチングしているものだ。コイル=インダクターは、コイルに流れている電流を保とうとする作用がある。普通イグニッションコイルの1次側コイルには0V−12Vが断続的に印可されている。コイルにかかる電圧が12V、つまりトランジスタなりポイントなりがONの状態では電流はコイルの抵抗値に応じた電流が流れている。しかし、この状態からスイッチOFFになり電流が遮断されても、コイルはそれまで流れていた電流を保とうとして直ぐに遮断されない。要はコイルにかかる電圧(電流)が変化すると、変化と同等の逆起電力が発生し電流を流し続けようとするのだ。逆にスイッチOFFからONの場合は電流を流すまいとする。この作用はコイルにかかる周波数に比例して大きくなる。
 これはどういう事かといと、スイッチングの周波数、つまりエンジン回転数が上がれば上がる程電流が流れにくくなるということだ。つまり、ただのフルトラではエンジン回転数が上がるにつれ1次コイルに流れる電流が減り、2次側に発生する電圧が降下し点火火花が弱くなるということだ。
 この点、CDIではコンデンサーに蓄えた電荷を放出する方法なので、上記の弊害を相殺する事が出来る。その方法とはコンデンサーにチャージする電圧を昇圧しておくことである。コンデンサーに蓄えられるエネルギー(電荷)は電圧と容量に比例するので、コンデンサーにかかる電圧を数百Vに昇圧してチャージし、それを1次コイルに放電すれば2次側に発生するエネルギーも増加する。
 更に、コンデンサーを充電する時間は十分に短いので、1回のスパークタイミングで複数回スパークさせるなどの芸当も容易に実現できる。

マルチスパーク

 前置きはこの位にして実際の装着の模様を報告しよう。先ずはMSD本体の置き場所を検討しなければならない。普通に考えれば、エンジンルーム内・グローブボックス・助手席足下等の場所が考えられる。また、MSDから出ている配線長によっても配置場所が制限される。コルベットの場合バッテリーはエンジンルームには無い。バッテリーまで配線を延長すればよいが、スマートでないので最後の手段にしよう。エンジンルームにおける手近で強力な電源端子はスターターのB端子になる。それらを総合するとスターターとデスビの両方から半径1m以内のどこかということになる。ここで注意が必要なのは決してオルタネーターから電源を取らないことだ。ノイズが乗ったり電圧が不安定なので誤動作の原因になる。大抵エンジンが止まらなくなるといった症状を誘発する。
 エンジンルーム内に配置した場合、熱害が心配であるが、マニュアルには「ヘダースの近くなど直射熱が当たらない場所ならOK」とある。防水に関しても基板が樹脂でコーティングされており問題ないとしている。但し、裏返しての装着は禁止している。ケースの隙間を水の逃げ道にしているが、ひっくり返すと水が抜けなくなると言うことだ。必ずフタが下になるようにしよう。
 しかし、である。あれだけ熱くなるエンジンルームに置いて、トラブルフリーはあり得ないだろう。少なくとも熱害というトラブルポテンシャルを持っている場所ではある。何をビビっているかというと、コンデンサーの熱損を恐れているのだ。コンデンサーは高熱に弱く、加熱するとセパレーターが融けたり(ショートする)電解液が流出する(パンク)。コンデンサーの温度が10度C上昇すると、寿命は半分になると言われている。コンデンサー有ってのCDIなので、致命的ダメージを負ってしまうのだ。
 と言うことで、熱害がいやな私はグローブボックスへの装着を試みることにした。マニュアルには「こんな場所に取り付ける必要はない−>クローズされた場所・・例えばグローブボックス等」と書かれているが、やはりアメリカ製品である、何事も疑いの目で見ないと痛い思いをする。
 私の条件に見合う場所は、グローブボックス以外無かったのだ。熱害無し・電源デスビへの配線もギリギリ範囲内である。デメリットは、MSD本体が目に見えないのでチューニングエンジンであることを誇示できないと言うことだ。

 グローブボックスに配置する場合、配線を通す穴を2カ所空ける必要がある。1カ所はグローブボックス本体。1カ所は助手席フロアーの足下だ。幸い2カ所ともプラスチック又はFRPでできており、穴開けは容易だ。

グローブボックス2
グローブボックスを取り出し・・

グローブボックス1
箱の左端に穴を開けてハーネスを通す
これでMSDがぴったり収まる

グローブボックス3
それを元に戻すとジャストフィット

 MSD本体はグローブボックスにジャストフィットする。また、デスビまでの配線長もドンピシャでレイアウトできる。電源はスターターのB端子から取るが、足下に開けた穴から一直線の位置にあるので都合がよい。

ハーネス長さ
ハーネスの長さもバッチリ

 問題は本体から出ているグランド配線が短いので、しっかりしたグランドにアースするには配線を延長しなければならない。MSDの電源グランドとコイルのグランドは1点に集中させるようにする。また、極力エンジンブロックにグランドし、発生したノイズはエンジンとMSDのループ内で閉じるようにする。
 この電源配線を適当に処理すると、強烈なノイズが電源(グランド)に乗り、その他の電装品に悪影響を及ぼすことになる。一番影響を受けるのはラジオだろう。MSDを付けたらノイズが出るようになったと言う場合、間違いなく電源の取り方に問題がある。もう一度配線を見直そう。「シャーシグランドだから何処でも同じだろう」と言って手近なところにアースしたりすると、グランド間のインピーダンスが見えて、ノイズを発生させたり回り込んだり誤動作の原因になる。必ず電気抵抗の低そうな場所に1点でアースしなければならない。この時、他の電装品のアースもまとめて1点で取れれば言うことはない。電気配線の常識である。

 さて、配置が出来たところで一見難しそうな配線の接続であるが、いたって簡単である。今までHEIのデスビに繋がっていた電源と、1次コイルの配線をMSDに繋ぎMSDから出てくる配線をコイルに繋ぎ換えるだけだ。よって、コンピュータ及びモジューレーターを通した信号がMSDに入るため、進角情報などに変化は無く、コンピューターのモディファイ等も不要だ。図面はデスビ内部のモジュレーターが5ピン(80年の305)及び7ピン(81年)の場合の接続だ。80年式の350やコンピューターが殺してあって4ピンモジュールのデスビに換えてあったり、社外品に交換している場合は配線が図面と異なる。この場合4ピンのモジュールは使用せず、付属のバイパス配線でピックアップコイルとMSDを接続する。

配線
結線図

 装着後は、明らかにアイドリング時の振動が減少した。これについては、MSDを介しての点火のためディレイが生じて、点火時期が遅れたということも考えられる。また、マルチスパークの為、イニシャル点火時期の設定に非常に幅が出る。つまり、デスビを回して調整する場合に、以前は動かした量に敏感にエンジンが反応していたが、MSDにしてからはオーバーに点火時期を進めたり遅らせたりしてもエンジンは回り続けるのだ。アイドリング時のスパーク時間は約5ミリ秒で、その間に6回火花が飛んでいる。クランク角にして約15度の間に6回スパークしている。つまりデスビでは7.5度のマージンがあることになる。言い換えればタイミングが7.5度ずれていても、ある程度回転は安定すると言うことだ。また、キャブセッティングが変わり、A/Fメーターの値も若干リーン側を示すようになった。マルチスパークのお陰で完全燃焼するようになったのでは?と考えている。
 プラグのギャップも1.6mm取ってある。一般では考えられない広さで、通常の2倍近いギャップだが、高回転でも全く問題なく火が飛ぶ。勿論コイルも強化してあるからなのだが、コイルの1次側電圧が高いため2次側発生電圧も高いのだ。プラグギャップを広げることで火炎核を大きくでき、着火性が高まり、最終的には燃費向上、パワーアップという結果になる。

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