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2003年冬の新作映画メモ

『レッド・ドラゴン』 『フレイルティー』 『ゴジラ×メカゴジラ』

『マイノリティ・リポート』 『スパイダー・パニック!』

『カンパニー・マン』 『ゴーストシップ』 『ストーカー』

『ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔』 『アレックス』

『トランスポーター』 『Mr.ディーズ』 『呪怨』

『ビロウ』 『猟奇的な彼女』


『レッド・ドラゴン』

 監督:ブレット・ラトナー
 出演:エドワード・ノートン アンソニー・ホプキンス レイフ・ファインズ ハーヴェイ・カイテル エミリー・ワトスン

 『羊たちの沈黙』の前日談、再映画化!

 FBIの捜査官であったウィル・グレアム(エドワード・ノートン)は、後に「人喰い(カニバル)ハンニバル」として知られることとなるハンニバル・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)を逮捕した事件により、心と身体に深い傷を負った。が、引退し家族と過ごす彼を、新たな猟奇殺人の手がかりを求めるかつての上司クロフォード(ハーヴェイ・カイテル)が呼び戻しに来る。怪奇を極める事件の解決の糸口をつかむため、グレアムは宿敵レクターと面談するのだが……。

 完成度の高かった『羊たちの沈黙』、作り込まれた映像で豪奢なムードを高めた『ハンニバル』と比較すると、ブレット・ラトナーはいかにも分が悪い。なんせジョナサン・デミとリドリー・スコットと比べられねばいかんわけですから。代表作が『ラッシュアワー』シリーズという若手は、果たしてどのような作品を完成させたのか?

 原作のストーリーがキャラクターに重きを置いた後の二作と比べて、スピーディで先の見えない構成を取っているため、『羊たちの沈黙』を脚色したテッド・タリーを迎えた脚本は、退屈させないテンポをギリギリで保っています。ですが『羊たちの沈黙』以後のサイコ映画乱立の後では、いかにもインパクトが弱い。話自体は面白いんですが、模倣されすぎた不幸が、印象を悪くしている。

 同じく原作を再現した美術も、ダラハイドの家のセットなど素晴らしい出来で、ファンは面白く観られます。ただどうも映像づくりにムードがない。漫然とと言うと言い過ぎでしょうが、ただ撮っただけのような印象が先走ります。やはり監督の差は大きいんでしょうか?

 天才俳優エドワード・ノートン久々の主演作、というところも久々の注目。なのですが、本来サイコ役が似合う不気味な個性の持ち主が、なぜ捜査官役? ミスキャストではないでしょうが、なんかもったいない使い方です。案の定、お得意のやばすぎる怪演は最後までなし……と思いきや、ラストでようやくちょっとだけかましてくれました。来たーっ!と思いましたね。すぐ終わりましたが。

 全体につまらなくはないですが、ファンサービスのために一応リメイクしてみました、ってな感じ。まあヒマなら。

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『フレイルティー』

 監督:ビル・パクストン 
 出演:マシュー・マコノヒー ビル・パクストン

 予告編が超怖そうだったので観に行きました。

 FBI捜査官のもとを訪れた一人の男。男は連続する動機不明の猟奇殺人「神の手」の犯人を知っていると告げる。全ては二十数年前、1979年の夏の、うだるような暑さの下で始まった。まだ少年だった男。その幼い弟。温厚だが頼りがいのある父。だが、貧しいながらも平和な生活は、ある日、父の下に降りてきた「神の啓示」によって一変した……!

 最後まで見れば、冒頭の一見つじつま合わなさそうだったシーンも全て納得な、こまめに伏線づくりのなされた真面目な脚本の映画。色んな映画で地味〜に脇役やってるビル・パクストンにこんな才能があったのか、と感心する事しきりです。そのパクストン、演技の方も出色。優しそうなお父さんが、妄想的なことを口走ってどんどん豹変、泣きながら息子を虐待し、大まじめに「神の意志のもと」殺人を息子二人を手伝わせてやってしまう。やばい! 怖過ぎ!

 神を信じていない長男は嫌がるが、無邪気な次男は溌剌とパパのお手伝い。なるほど、やばすぎ。こっちでもろくに血も出ないのにPG12指定。

 筋は通ってますが、オチはその点、あまり怖くなかった。画面上から読み取れるものの逆を、密かに伏線として滑り込ませるのが、この手のサスペンス映画のセオリーなわけですから、映画的には正しいんです。が、日本人は結局「神」とか言われてもわからないわけで、単に狂ったお父さんとカルトの方が身近で、怖く感じてしまう。

 ただ大ネタはともかく、細かい描写の積み重ねや恐怖演技、地味な役者など見どころも多く、まずまず楽しめました。次も頑張ってね、パクストン!

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『ゴジラ×メカゴジラ』

 監督:手塚昌明 
 出演:釈由美子 宅麻伸

 毎年恒例、ゴジラでございます。正直言って、ここ数年は「オレも付き合い、いいよなあ……好きだけど」てな気分になってるんですが……。さ、今年はどうかな!?

 1954年以来、二度目のゴジラ襲来。かつてのモスラ戦、ガイラ戦を経て、対怪獣戦を想定して組織された特生自衛隊は、虎の子のメーサー戦車の力も及ばず敗北の憂き目を見る。ゴジラ戦の最中、自らのミスで仲間を失った家城茜(釈由美子)は、二年半の時を経て、対ゴジラ用兵器「三式機龍」のオペレーターとして、再びゴジラに挑む。かつて禁断の兵器「オキシジェン・デストロイヤー」によって葬られた初代ゴジラの骨を使って造られた機龍は、最新鋭の武装を施した生体兵器であり、唯一ゴジラを倒す可能性を秘めた存在であった。三たび上陸するゴジラに挑む機龍。戦いの行方は?

 え〜さて、屈辱のコラボレーションは今年も続く。やっぱり『とっとこハム太郎 ハムハムハムージャ 幻のプリンセス』と二本立てなわけでして。そのせいもありましてか、今年のゴジラはなんと上映時間80分強! 短い! さすがにこれだけ短いと、ダラダラと台詞で設定をしゃべくってるヒマもないようで、そういう意味では説明台詞は少なめです。総じてテンポは悪くない。ですが、これぐらい短いならむしろ詰め込みすぎな印象の作品になるかと思いきや、そうでもない。それこそ作品の背後には、大量の設定があるはずなんですが、それが少しも前面に出て来ないんですね。

 メカゴジラの設定は、初代ゴジラの骨を使って造られた生体兵器ということになってますが、例えばこれの建造の過程など、まったく謎。骨からDNAを取ったということはわかりますが、それがコンピュータの役割を果たしたとして、他のハードウェア的な面はどうなっているのか。また後のシーンにある「暴走」をきっかけに、このDNAコンピュータはあっさりとゴジラから別の生物の物に書き換えられてしまう……。意味不明な設定です。別にゴジラの骨を使う必要なんてなかったんじゃ……?

 自らを「生まれてはいけなかった命」と呼び、自分と機龍を同一視する主人公。この人物の設定も、作中では語られないままです。こういう設定は、語ってしまうと身もふたもないものになってしまう可能性があるので、適当に想像させるにとどめるのがベストだと思うのですが、まったく何も語られないというのも、ちょっと問題ありではないかと思います。釈由美子はかなりの熱演ですが、脚本しだいでもう少しよくなったのでは?

 かつて「オキシジェン・デストロイヤー」でゴジラを倒しつつも、その悪夢の兵器の存在を誰よりも恐れ、自らもろとも海底に葬った芹沢博士。その初代ゴジラを、今作はベースにしています。が、しょっぱなに暴走の危険性を提示した機龍が、作劇の都合上か後半は単なるヒーローロボットになってしまう。でもって開発にゴーサインを出した総理大臣が、「我々はゴジラ以上の戦力を手に入れた!」と喜ぶ。……アホか、と。力を求めることの危険性、科学の発展への警鐘を鳴らした初代のテーマは、いったいどこへ行ったんだ。別にいいんですけど、田中友幸が生きてれば、こんな内容は絶対に許さなかったであろうなあ。

 84年版『ゴジラ』から始まった通称「平成シリーズ」は、『VSモスラ』までで「ゴジラとは何か」を描き(その描写の内容には賛否あるでしょうが)、そののち『VSメカゴジラ』以降、対ゴジラ戦を描く内容にシフトしていきました。しかし今作では、そういう過去作品の下敷きが何もない段階から「対ゴジラ」のストーリーを描いている。それならば、今作だけの独立したゴジラを設定付けねばならないはずなのですが、今回はほとんど出てきただけ、という感じでした。出てきて、帰り、またでてきて、喧嘩して帰って行きました……みたいな……。なんかのんきな性格にさえ感じられましたよ……。この扱いの悪さは、正直言って痛すぎる。

 戦闘シーンや、超攻撃型と銘打たれた新メカゴジラのデザインや戦闘スタイルなど、面白いところもあったんですがね。全身に多数の武器を装備したメカゴジラの、広範囲に展開するミサイルなど、シネスコ画面ならではの迫力。戦闘空間に広がりを出しました。また、バックパック排除後(この方がなんかメカゴジラらしい)の格闘モードへのシフトなど、『VSメカゴジラ』の棒立ちスタイルから、特撮技術が格段の進歩を遂げたのがわかります。でも演出がついていってない感じ……。

 なんにせよ、去年のアレよりは遥かにましだったんですがね! ではまた来年……。

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『マイノリティ・リポート』

 監督:スティーブン・スピルバーグ 
 出演:トム・クルーズ コリン・ファレル マックス・フォン・シドー ジェシカ・ハーパー

 今度は『ブレードランナー』を狙ってみました? スピルバーグ最新作。

 三人の予知能力者「プリコグ」によって、全ての殺人が予知され未然に阻止される未来社会。その元締たる犯罪予防局のジョン・アンダートン(トム・クルーズ)は、完璧と自負するそのシステムで、次々と”犯人”を逮捕していく。かつて失った息子への哀惜を犯罪者への怒りに変え、完璧なる世界を目指すジョン。だが、彼の理想はプリコグによって彼自身が36時間後、会った事もない男を殺すことを予知された瞬間に打ち砕かれた……。

 激しくあほあほしい愚作『AI』がキューブリックへのオマージュなら、今作はディックとリドリー・スコットの『ブレードランナー』への捧げものでありましょうか? なんにせよ、もはや映像だけの監督になりつつあるスピルバーグですが、今作はさすがにガキが主役じゃないだけあって、幼稚臭いメッセージ性のない作品に仕上がっています。

 原作をどの程度改変しているのか知りませんが、本格ミステリと言っても通用しそうな構成はなかなか楽しめます。作中に提示された情報だけで犯人を当てることは不可能でしょうが、フーダニットとしては成立せずともハウダニットとしては見るべきところがあり。予知能力の特性とシステムの盲点を突いた、二つの完全犯罪。タイトルの『少数報告』が全然関係ないのには苦笑いですが。

 緻密な構成と、無駄のない映像作り。この二つが揃ってるんだから、もっと傑作であってもよさそうなものなんですが、出てくる感想はどこまでも「まあまあ」。多少コメディっぽい部分が少しも面白くないところや、寒々とした色調、日常描写に見るべきところがないために現実感のない未来世界などが減点材料か。犯罪予防局のハイテク機器や都市の遠景、車のデザインなどはSF的なのに、スラムや庶民の描写に特徴がゼロ。子供じゃないんだから、メカ見て喜ぶってわけにいかないの!

 昔からジジイのマックス・フォン・シドー、この人でもおばさんになるんですねジェシカ・ハーパーなど、キャストは豪華。コリン・ファレルは『ジャスティス』に続いてまたももうけ役になりそこねましたが……。

 まずまず観られる映画ではありました。一応見てもいいかと。

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『スパイダー・パニック!』

 監督:エロリー・エルカイェム
 出演:デイヴィッド・アークエット カリ・ウーラー 

 何かとお楽しみの多い、モンスターパニック映画(ひさびさ!)。

 アメリカのとあるど田舎。宇宙からの侵略を警告する海賊放送が鳴り響く中、進行するとんでもない事態。産業廃棄物の投棄と、蜘蛛学者のコレクションが結びついて、巨大グモの大群を造り出してしまった……。田舎の皆さんは、果たしてこの絶体絶命の危機を乗り越えられるのか?

 『アナコンダ』のような奇跡の大傑作(笑:そういやこれもカリ・ウーラーが出てましたね)を期待しながら、たいがい裏切られるこのジャンル。でも大好きなんですねえ。今度の怪物たちはどんな活躍を見せてくれるか? こんどの被害者は、いったいどんな死に様を見せてくれるか? 興味は尽きません。

 冒頭、蜘蛛マニアの男が作中に登場する蜘蛛たち(巨大化前)のそれぞれの特性を、懇切丁寧に解説。ここらへんを最初に説明しておくことで、後のシーンは映像で大暴れさえ描写してしまえばそれでよし。また、実在のサイズの蜘蛛のアクションをここで見せておくことで、巨大化後のオーバーな動きも強調できる。基本ですね。

 ただしかしそうすることで、今後の内容全てがある意味冒頭でわかってしまうという欠点もあるわけで……。案の定、それを超える映像はほとんど出てきませんでした。バイク対蜘蛛軍団のチェイスは素晴らしい出来でしたが、あとは想像と冒頭の伏線の範囲内に留まってしまった。惜しいなあ。

 建物ごと吹っ飛ばす、まさしく定番なオチとともに、凡作のそしりを免れえない作品。まあ蜘蛛が好きなら。

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『カンパニー・マン』

 監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ
 出演:ジェレミー・ノーザム ルーシー・リュー

 あの傑作『キューブ』の監督が、ついに新作をひっさげて登場!

 仕事にも夫婦生活にも行き詰まったしがないサラリーマン、モーガン・サリヴァン(ジェレミー・ノーザム)。刺激を求め、彼は勤めている会社の企業スパイとなる。かねてから憧れていたスパイとしての生活。妻にも秘密なまま、ジャック・サースビーという名で立ち回る彼は、しかしある時から奇妙な幻覚に襲われ始める。そして行く先々に現れる謎の女、リタ(ルーシー・リュー)。彼女の正体は? そして彼をスパイに仕立て上げた企業の本当の目的とは? まるで想像のつかぬ巨大な迷宮に自分がいることを、モーガンはいつしか知る。

 たったひと部屋のセットと数名の登場人物で、かつてない恐怖と緊張を描いた『キューブ』の監督が、企業スパイを題材にしたサスペンスに挑戦。タイトルは『会社男』。正直、最初はあまりぴんとこなかったですね。まあとりあえずナタリ監督だし……ということで観に行ったわけですよ。こういう時の心境とは、なんかいわく言いがたいと言うか……。面白ければいいなあ、と思う反面、でも一発屋で終わる奴は多いしなあ、とも思い……。期待はしてるんですが、面白くなくても仕方がないという感じですかね。

 主演のジェレミー・ノーザム、今まで見たのは『ザ・インターネット』『ミミック』……。言われてみれば、ああ、あいつかあ、と思いますが、どうも印象が薄いんですね。正直言いまして、顔の細部まで思い出せない。果たして今作は平凡なサラリーマン役。いやあ、実に地味ですね。眼鏡なんかかけて、うらぶれてます。まるで普通の人。ですがいわゆる映画の中の「普通の男」というのは、現実世界の「普通の男」よりも、実はそこそこ男前を使ってるんですね。顔をよーく見たら、結構きれいなんですよ(が、顔に関してこういう感想を俺は抱いたのだが、これが実は後の展開につながる恐るべき伏線であることに、この時点では気づくよしもなかった……)。

 近未来ということで、大した予算はかかってないながらも、お得意の特異な映像センスで見せるため、そう嘘っぽい感じはしません。荒唐無稽なんですが、一つの独特な世界が描かれているということで。ただまあ、テリー・ギリアムやデヴィッド・クローネンバーグと比べると、いささか分が悪いですが……。

 僕もこれを書いてる時点では、サラリーマンのような仕事をしてますが、今作はSFながら、まさに現代サラリーマンの自分探しに真っ向から取り組んだ作品です。平凡な生活を嫌い、企業スパイとなった男。だが、新しい名前、新しい趣味、新しい生活、それら全てが拒絶されます。サラリーマンとしてではなく、スパイとして再び企業の走狗になり、自ら考えたシングルモルトを愛しゴルフを趣味とする華麗なスパイ、という設定は受け入れられず、ただ求められるままにデータを運ぶ……。「モーガン・サリヴァン」「ジャック・サースビー」そのどちらも否定された男の選び取った道とは……?

 ……明かされる驚愕の真実には、まさに大爆笑でした。途中で分かっても良さそうな、最高にオレ好みなオチだったんですが、どうしてこれに思い当たらなかったんだろう? とにかく必見です!(特にサラリーマンは)

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『ゴーストシップ』

 監督:スティーブ・べック
 出演:ガブリエル・バーン ジュリアナ・マグリース

 これもひさびさか? ショッキングホラー!

 40年前に行方不明となったはずの豪華客船アントニオ・グラーザ号。ベーリング海に浮かぶその船を発見したサルベージ屋たちは、莫大な権利金を目当てにその船に乗り込む。そこがかつて恐るべき惨劇の繰り広げられた場所であるとも知らずに……。明かされる衝撃の真実とは? 謎の少女の導きが、新たなる悲劇の扉を開く……。

 冒頭からまず一発、前代未聞の大量惨殺シーン炸裂! 思わず「来たーっ!」と叫んでしまいましたよ(嘘です。心の中で思っただけです)。このシーンはスピード感がたまらなかった。ぜひとも予備知識無しで観て欲しいシーンです。とりあえずはこれで観客のハートはがっちりつかみますが(?)、後半にもきっちりお楽しみは残してありますのでご期待下さい。ムードや映像のショッキングさに加え、スーパーナチュラルな存在や人間そのものの悪意など、色んな怖い物がごった煮になってるところが、アメリカ映画らしく楽しめます。

 途中がちょっと中だるみするのが残念ですが、これは怒濤の後半への状況説明も兼ねているので仕方がない。時々ドキッとさせる演出は、総じて悪くありません。ただ、大カタストロフを予感させるものではないところが惜しいかな? 唐突にやってしまうより、徐々に盛り上げた方が怖く感じるというところはあると思うんですが、そういう手法はとらなかったようです。

 演出と映像の出来がいいので、小粒ながらも楽しめる作品に仕上がってます。相変わらずなんのために出演しているのかわからないガブリエル・バーンがまたいい(笑)。オチもお約束どおり。

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『ストーカー』

 監督:マーク・ロマネク
 出演:ロビン・ウィリアムズ コニー・ニールセン ゲイリー・コール

 ロビン・ウィリアムズ、悪役挑戦第二作!

 郊外の大型スーパーマーケットで働く男、サイ(ロビン・ウィリアムズ)。スピード現像コーナーで働く彼の唯一の楽しみは、近所に住むヨーキン一家が現像に出しに来る写真を眺め、幸せな家族の一員となった空想に耽ることだった。だが、理想の家族と思われた一家の、裏に潜む現実に気づいた時、サイの妄想は暴走を開始する。

 この『ストーカー』という邦題が、必ずしもこちらの日本でイメージされているものとは一致しない、そういった意味で、この映画は意表を突かれる内容でした。家族も友人も恋人もいない、孤独な男の日常。その日常の一面を埋め尽くした、よその家族のスナップ写真。呼び起こされるのは、恐怖? 嫌悪? それとも同情? 他人との交わり、という点での、アメリカと日本の姿勢のギャップがところどころに窺え、またそれに対する感じ方の違いで、この映画に対する見方は大きく変わってくるでしょう。

 ロビン・ウィリアムズは『インソムニア』を凌駕する名演、路線変更は間違いじゃなかった! とはいえ、いままでと同じキャラクターで、ただ嫌われてるか好かれてるか、脚本上の扱いが違うだけ……というようにも感じますが……。監督はMTV出身だそうですが、気取った主張のない映像センスに感心しました。孤独な男の心象を切り取ったような、どこか清潔ながらどこか無機質なスーパーマーケットの風景など、計算された緻密さを感じます。

 スーパーマーケットで、一家の男の子は時々おもちゃを買ったりするのですが……プレステ2! デッド・オア・アライブ2! サンリオのぬいぐるみ! MG(マスターグレード)シャア専用ザク! なぜかメイド・イン・ジャパンのアイテムづくし……。でもって極め付けが、少年が欲しがるも買ってもらえない、量産型エヴァンゲリオン! ロビンが少年に「これはどういうロボットなんだい」と聞くと彼は、「悪い奴を倒す正義の白い巨人だよ」と答える……ち、ちが……量産型エヴァっつったら劇場版の悪役で、主人公たちをいたぶり殺さんとした怪物ですけど……。しかしそのデザインのモチーフは、神への反逆を計るものを滅殺する断罪の天使であり、そういった意味で「正義」と言えるかも。その後ロビンはそれを少年にプレゼントしようとするも、受け取ってもらえず。直後に家族の幸せそうな笑顔の裏に潜む「罪」に気づいたロビンの狂気は頂点に達しますが、その時ふと彼は、しかたなく自分の部屋に飾っておいた量産型エヴァに目をやる。槍を握り巨大な翼を広げたその姿はまさに……って、うわあ〜意味深! ていうか、この監督はオタですか? オタクですか?

 地味なんですが、細かいとこまで気を使った実にいい映画でした。ゲイリー・コールもスーパーの店長役で出てるしな。

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『ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔』

 監督:ピーター・ジャクソン
 出演:イライジャ・ウッド イアン・マッケラン ヴィゴ・モーテンセン オーランド・ブルーム クリストファー・リー

 つうわけで一年が経ちました。待望の続編です。

 地底の死闘をくぐり抜けながらも二名の脱落者を出し、離ればなれになってしまった旅の仲間。三手に別れてしまった一行を待ち受けるさらなる苦難とは? モルドールに向かったフロド(イライジャ・ウッド)たちは、かつて指輪の所持者であった生き物ゴクリと出会う。一方、魔法使いサルマン(クリストファー・リー)は拠点ゴンドールでオークとウルク・ハイの大軍を組織し、隣国ローハンを焼き尽くさんとしていた。ウルク・ハイにさらわれたメリーとピピンを探すアラゴルン(ヴィゴ・モーテンセン)らは、ローハンの騎士たちと出会い、かの国の防衛に力を貸すこととなる。白き魔法使いの帰還とともに、新たな戦いの幕が開く!

 しかし冒頭三時間(笑)を観て、完成度の高さはすでにわかっているわけですから、これほど安心して観られる映画もない。「丁寧さは健在」とかそういう事を書くまでもなし。だって同時に撮ってるんだもんな。出だしから、前作の紹介など一切なく、単に続きとしてスタート。しかしガンダルフVSバルログなどに前作になかったシーンを付け加え、ちょっぴり今までの展開も思い出しつつ、つかみも完璧です。

 前作を観て「まだまだネタを隠しているはず」と感じたのは、間違いではありませんでした。CGで構成された悪鬼の大軍、巨大な生物、そしてエントの群れ……。前作のわりとこじんまりしたクライマックスは一体なんだったのだろう、と思わせる、怒濤の盛り上がり。登場人物も皆、それぞれの思いを背負ってやる気満々、まさに怒濤のテンション。ラストの攻城戦の迫力と来たら、大変なものです。ナイトシーンばかりで構成されたのは、黒澤映画を意識しているとか……。まさに映像的興奮の極致。しかし個々のクリーチャーの細やかなアクションなど、ピーター・ジャクソン最大の長所である細部へのこだわりは、ここに来て花開いた感あり。大作感という意味でも楽しめますが、それ以上に細かいところに注目していただきたい。

 鳥肌を通り越して涙が出たガンダルフ登場シーン、ワイバーンに乗り換えわかりやすくパワーアップしたナズグルなど、見どころ満載。お馴染みキャラの活躍はさらにパワーアップ。なぜかアクションシーンで最も優遇されているエルフのレゴラスなど、かなり最高です。むさくるしいのが多い旅の仲間の中で、一人優男風のこのキャラクター。しかし他のエルフが、戦いを避けて異国へ去ろうとしている中、ただ一人危険だらけの旅の仲間に加わって大暴れしているところを観て、また弓と剣であらゆる敵をなぎ倒すキリングマシーンぶり(はっきり言ってアラゴルンより強い)を観るにつけ、このキャラクターがエルフとしては例外的なまでに血の気の多い、ある意味異端児だということがわかってくる。熱いです。

 前作を観た人は絶対に必見! ぜひ!

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『アレックス』

 監督:ギャスパー・ノエ
 出演:モニカ・ベルッチ ヴァンサン・カッセル

 ちょっとアート系、ですか? この映画。

 ゲイクラブに乱入した二人組の男。ポン引きの男を無残に撲殺し、逮捕された二人は、実はある復讐のためにクラブにやってきたのだった。彼等はいかにしてクラブに行き着いたのか? 彼等を暴力に駆り立てた事件とは? 無惨な殺人は、なぜ起こらなければならなかったのか? 逆行する時間が全てを解明し、時の流れは全てを破壊する。

 観たかった映画が満員だったので、たまたま時間の合っていたこの映画に飛び込んだわけですよ。そしたらもう……なんといいますかね……。

 冒頭、パンツ一丁のおじさんの姿を長回しで延々と見せられ、まず閉口。しかもはなはだ意味のないシーン。で、そのおじさんのいる部屋の下で、一人の男が救急車にかつぎこまれ、もう一人の男が逮捕されている。ああ、なんかあったのかな?と思ってたら、突如手持ちカメラが旋回し、時間が逆行。

 二人組の男がゲイバーの地下にどんどん潜っていき、何やら「アレックス」なる人物をレイプしたらしい男を捜している。ここらへんの映像、カメラをぶんぶん振り回し、ついでに「ギュオオ〜ギュオオ〜」という効果音が絶えず流れっぱなし。でもって口から泡を吹いてがなるヴァンサン・カッセルと、それを止めようとする連れの男。周囲はオカマだらけ、一時も止まらないカメラを、男たちの裸体がよぎる……気持ちわりいんだよ! やめろ! 酔うだろ! こんな拷問のような映像が10分弱も続いたろうか? ようやく目的のポン引きを見つけたヴァンサンは、殴り掛かるもあえなく腕の骨をへし折られ、失神! さっきまで非暴力主義だったはずの連れの男がぷっつんし、消火器を振り回してポン引きをぶちのめし、動かなくなっても執拗に、顔面に打撃を加え続ける! 徐々に変形していく男の顔面……だから気持ち悪いって! ここでカメラ旋回、時間逆行。

 タクシー(なぜか連れの男が運転)を乗り捨て、ゲイクラブに殴り込もうとする二人、復讐に猛るヴァンサンと、止めようとする連れの男。いきがってる方が後になったらあっさりやられるのがわかってるわけで、そういう皮肉を噛み締めながらも、はて何でタクシーを運転しているのだろう? と新たな興味が湧く。なるほど、時間軸逆回しの構成で、ラストを知っていながらも、そこに到るまでのプロセスをを順に描いていく事で、観客の興味を引き付けているわけです。で、後の展開につながる伏線を滑り込ませ、結末を知る観客に「運命の皮肉」を印象づける、という狙いですな。

 どうやらヴァンサン演ずる男の恋人であるアレックスという女が、レイプされ意識不明の重体らしい、という事が観る内にわかってきます。必然的にこちらの興味は、そのレイプ事件がいかなる状況で起こったか、というところに向かっていきます。ストーリーのいわば発端ですからね。

 宣伝によると、この映画最大の目玉らしい10分間のレイプシーン! 地下道を歩くモニカ・ベルッチ=アレックスが、ポン引きの男に襲われアナルファックされるシーンが延々と! 終わった後はポン引きのぶらぶらしたものも一瞬画面をよぎる。さらには顔面を地面に叩き付けまくる! なるほど、これでは死んでもおかしくない。そんなベルッチは、なぜ恋人と離れて一人で地下道を歩いていたのだろう? 逆行。

 どこかの店でパーティをやってまして、そこで踊るベルッチ。そしてベルッチと一緒に来ていたにも関わらず、べろべろに酔っぱらって他の女に手を出そうとするヴァンサン。友達の制止も聞かず、ついには葉っぱまで楽しみ始める。怒ったベルッチはヴァンサンをほっぽりだして店の外へ……。がなるだけで最後も少しも役に立たなかったヴァンサン、事の起こりはすべてこのバカ男であったか……。

 こうして事件の発端がわかった時点で、こちらの興味の行く先はなくなるんですが、しかしまだ延々と続くんですね。これが痛い。パーティに行く途中の電車、出かける前のベルッチ&ヴァンサンの家、「今日パーティに行こうぜ」という発端の発端までご丁寧にやりつづける。いらねえっつうの。ベルッチが自分の妊娠に気づいて幸せそうなところで、ようやく終わり。

 幸せの絶頂にあった女が、理不尽な暴力によって迎えた悲劇。暴力は暴力を呼びさらに加速、来るべき終局を止めることはできない、というのが描きたいんでしょうかね? 「時は全てを破壊する」というのが、ご丁寧に最後にでっかく文字で出まして、いやまったくあほくさい。地下道に降りてポン引きに遭遇したのが、単に全くの偶然としか取れないので、「運命の皮肉」というのはまったく読み取れません。別にどんな格好してようが、どこを歩いてようが、レイプに限らず悲劇はいつ起きるかわからんもんです。それを必然として描くには、フィクションならではの構成がなくてはなりませんが、別になにもないし……。

 だから、単に幸せだった一人の女が突然の出来事で不幸のどん底に転落しました、という身もふたもない話だと受け取ればいい……のだとは思うのですが……。なんせ恋人のはずのヴァンサンが、ヤク中のバカ、ダメ男だというのが途中で明らかになってるので、こんな野郎のガキ孕んでも、どうせ将来ろくな事にならんかったで……という突っ込みが成立。前提条件の「幸せ」がちっとも成り立っているように見えないので、結局なんの話だったのか、よくわからん。

 「物語」も「現実的恐怖」もまるで描けていない、大袈裟な引き文句だけ、中身一切なしのダメ映画。逆回しの構成なぞ、今じゃ珍しくもないし。ベルッチの尻&乳輪、ヴァンサン・カッセルの尻&ぶらぶらしたものを見たい人にだけオススメ(いささか語気荒く下品な調子になってしまったが、そういう映画なんでね)。

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『トランスポーター』

 監督:ルイ・レテリエ コーリー・ユエン
 出演:ジェイソン・ステイサム スー・チー

 べッソンプロデュース作品。もう何本目なのか、数えるのもあほらしいですが。

 厳正なルールと契約のもと、あらゆる荷物を目的地へ届ける運び屋フランク(ジェイソン・ステイサム)。だが、完璧に依頼をこなし続けて来た彼にも、ある転機が訪れる。トランクに詰めた「荷物」から聴こえるうめき声……ルールを破って開けた中には謎の中国人美女(スー・チー)。さてさて運び屋は職を捨て、人身売買組織との戦いに身を投じる!

 ジェイソン・ステイサムと言えば『ザ・ワン』のメイキング。これを観てたら、ジェット・リーの超絶テクニックに感動し、「オレにもやらせろ!」と監督に要求した結果、格闘シーンを増やしてもらったという過去がもれなく語られています。ガイ・リッチー映画とか『ミーン・マシーン』とかに出てる頃から、なんかバカっぽい人だと思ってましたが、ついに『ザ・ワン』でその血が目覚め、今作で堂々のカンフー映画主演! ありえねえ……まじでありえねえ……。べッソンもそうですが、なんでこの世はこんなにもカンフー好きが増えてしまったのだろう……。

 退職金で生活する元軍人、という設定の主人公。しかしあのむさくるしかったステイサムの、今作でのスタイリッシュさはどうだ。男を化けさせるという点において、フランス人の右に出るものはいません。ポロシャツマッチョ姿に上品さが漂うなど、アメリカ映画ではありえない。素材の隠された味を最大限に引き出すというか……。スーツで決め決めの男は愛車もかっこよく、カーチェイスシーンも『タクシー』より百倍出来がいい(なぜだ?)。だがスタイリッシュ運び屋『トランスポーター』の活躍は前半のみ、愛車が爆破された後半からは映画は素手バトル全開の『キス・オブ・ザ・ドラゴン』に変貌! 盛り沢山でいい事です。

 相変わらずうるさい女であるスー・チーも含め、ファンもそうでない人もそこそこ楽しめる作品。べッソンプロデュースの中では出来のいい方です。

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『Mr.ディーズ』

 監督:スティーブン・ブリル
 出演:アダム・サンドラー ウィノナ・ライダー ジョン・タトゥーロ

 日本ではまるであたらない、アダム・サンドラー主演作。

 田舎でピザ屋を経営するディーズ(アダム・サンドラー)に、突如降って湧いた幸運。それは、遠い親戚である、世界有数の企業ブレイク社の社長の突然の死による、400億ドルの遺産相続であった。田舎での静かな暮らしを愛するディーズは困惑する。その彼に、ゴシップ番組のレポーターであるベイブ(ウィノナ・ライダー)は、看護婦と職を偽って近付く。目的は400億ドル相続人への密着取材。だが、彼女はやがて自らの過剰な報道に疑問を持ち始める……。

 本当にヒットしないサンドラー作品ですが、『ウェディング・シンガー』などは涙ものの傑作。なぜうけないんだろうかと考えると……やっぱり顔ですかねえ……。ですがチラシの写真を見ただけではわからないカリスマ性が、確かにこの男にはあるのですよ。冒頭、ピザ屋の奥から何気なく出てくるだけで、その画面は全て彼にさらわれます。でもって共演は、人気女優ウィノナ・ライダーですよ? もう少しヒットしてもいいような気がするんですがね。

 ウィノナ・ライダーは、しかしかつての文芸映画志向はどこへ行ったのか、ややオーバーなくらいの演技で楽しげにコメディをやってます。妙に胸も強調してるし、終盤にはドロップキックも炸裂……これではなんのことやらわからんか。万引きで逮捕された彼女、なんかヤケクソになってやしないかと心配ですね。こっちの方が面白いんですけど。

 過剰に「面白い」キャラでないサンドラーと、わりと教訓的なオチ、古風な内容だと思ったら、実は戦前の名作『オペラ・ハット』のリメイクだそうで。十年やそこら前の映画の、安易な焼き直しが横行する中では、なかなか良心的な内容と言えそうです……とこんな文句が、果たしてあのスティーブ・ブシェミを観ても信じてもらえるか微妙ですが……。

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『呪怨』

 監督:清水崇
 出演:奥菜恵

 日本最恐と謳われたビデオムービーが、劇場映画化。

 かつて、無数の死が生み出された家があった。その家に住んだ者、訪れた者、関わった者、皆、死んだ。天井を何かが這いずる音。どこからともなく聴こえる猫の鳴き声。狂気に取り憑かれた男の幻影。ある日越してきた家族と、その家族の中の老人の世話のために訪れたホームヘルパーの女。「それ」は誰も逃さない。死んでいく。皆、死んでいく。

 超手抜き更新。以下が某掲示板にオレが投稿した、『呪怨』鑑賞直後の感想だ!

 というわけで、『呪怨』行って来ましたよ。いやあ〜やってますね! 相変わらず……。劇場版ならではの新機軸は、別になにもありません! 強いて言えば、時間軸が前後する構成かな?ビデオ版をきっちり観ていれば、楽しめる仕掛けも施されてはいますが、もちろん初見のインパクトはなくなってるわけですから、映画版から入る人の方が面白いかも。

 しかしやはりシリーズを重ねるにつれ、マンネリ化している点は否めません! 恐怖の母子の大活躍を出し惜しみしないのは、モンスター好きには歓迎ですが、後半はほとんどそれがお約束と化し、なんと場内からは笑いが漏れていました。前半はうけてたのはオレだけだったんですがね。とうとう僕の感性に時代が追い付いたか、と感慨もひとしお……じゃなくって! 「繰り返しはギャグの基本」という、ホラー映画のシリーズ化にありがちな罠に、ついに『呪怨』さえもはまってしまったか……。

 しかしあれですね。たしかビデオ版が出たのは二年前でしたかね。まずいことに、俊雄くんが成長しちゃってるんですね。彼も昔は可愛かったんですがね。体育ずわりが、大きくなっちゃったせいか、なんかぎこちないんですよね。あのベイビーフェイスが好きだったあたくしは、もう……もう……。ほとんど彼のために観ているようなものだったのに……(涙)。

 まあそういうわけで、別にひどくつまらなくはなかったんですが、見なれた人はちっとも驚かないだろうなあ、という内容ですね。どうでもいいですが、劇場前でとある女性が連れに言ってた台詞(実話)。

「これってホラーなん!? あんた『ジュゴン』言うたやん! 動物映画か思てたわ!」

 漢字にすると『呪言』でしょうね。いやあ〜ありそうなタイトルです。

 以上。もう何もないです。期待外れ。まあこんなものかな。

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『ビロウ』

 監督:デヴィッド・トゥーヒー
 出演:マシュー・デイヴィス ブルース・グリーンウッド オリヴィア・ウィリアムズ

 潜水艦映画ですね。『U−571』以来かな? あ、『Kー19』観てねえや。

 第二次大戦中の大西洋海域。米国潜水艦タイガーシャークは、撃沈された英国病院船の生き残り三人を救助する。だが、その一人は潜水艦にとって不吉とされる「女性」だった……。闇の海底で起きる、説明のつかない謎の出来事。ドイツ軍Uボートが迫る中、タイガーシャークの乗組員は、自らの罪ゆえに死者の審判にさらされる……。

 デヴィッド・トゥーヒー と言えば大傑作『ピッチブラック』の監督。でもって予告編を観たら、緊迫感あふれる潜水艦内のサスペンスとホラー要素、でもって魚雷の撃ち合いを始めとする潜水艦バトルなど、実に盛り沢山。これはかなり期待しました。

 しかし出てる役者が地味な上に、実は題材もかなり地味……。正統派のゴーストストーリーの趣さえ漂うひねりのない内容になってしまってます。謎が明らかになるどんでん返しや強烈なスプラッタを期待する人には、いささか物足りない。いや、謎の解明もスプラッタもあるにはあるんですがね。いかんせんインパクトに欠けるのは、新鮮味がないせいか?

 演出も手堅く、役者陣もまずまず好演。セットなどの美術による映像のリアリティも充分。やはり脚本が問題なのかなあ……。先だっての『ゴーストシップ』と比較しても分が悪い、残念な映画でした。

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『猟奇的な彼女』

 監督:クァク・ジェヨン
 出演:チャン・ジヒョン チャ・テヒョン

 大ヒットしました韓国映画。

 平凡な大学生のキョヌ(チャ・テヒョン)が、出会った彼女。初めて会った時、泥酔して電車でゲロを吐いた彼女。過激で凶暴で突拍子もない行動ばかり、そのくせ無謀なまでに正義感の強い彼女。そして時々寂しげな彼女。振り回されながらも、キョヌは彼女の隠された心の傷を癒そうとする。だが、癒されつつあると思われた彼女は、ある日別れと二年後の再会を彼に求める。彼女の真意は? そして、キョヌの想いの行方は……?

 あらかじめ告白しますと、僕はこういう話に弱いのです。別に暴力的である必要はないのですが、わけのわからん女に振り回されるのが好きなのです。どんなひどい目に会おうが報われぬ献身を続けるのってサイコー! しかしまあそういうわけで、もっと泣けるかと思ったんですが、そうでもなかった。残念。

 ヒロインの女優チャン・ジヒョンはめちゃめちゃかわいいのですが、どうも相手役の男は顔がいけてないです。ヤクルトスワローズの池山のような顔をしたハン・ソッキュですとか、そういう他の韓国映画の主役に比べると、ずいぶんいいと思いますけど。まあこれはお国柄の違いと、なおかつ同じアジア系人種の基準で判断せねばならぬという不幸がなせるわざでしょう。

 韓国映画のドラマ性というのは、どうしても妙にクサいものを感じて、好きになれませんでいました。幼児的な友情ですとか、盲目的にもほどがあるであろう純愛ですとか、どうしてそこまでするのかわからん過剰な正義感とか。作中にそこに到るまでのそれなりの描写があるわけでもないのに、最初から当然のごとくクサいエモーションがぶちあげられると、思わず鼻をつまんでしまうのですな。しかし今作からはそういった無理がほとんど感じられなかった。韓国では上記のごとくクサいものが肯定されるのが当たり前なのでしょうが、今作のような少女漫画みたいな設定と強烈なヒロインのキャラクターには、そういった「当たり前のことだから」では片付けられないインパクトと新鮮さがあったのでしょう。結果、当然のものとして描写しないという手抜きは許されず、登場人物の心情の変化などをつぶさに描写する必要に迫られることになった。そして、監督も出演者も見事にそれに成功した。それが、この映画に僕が違和感を覚えなかった理由であり、他の凡百の韓国映画と一線を画する快作となったわけではないでしょうか。

 というわけで、それにしても電車のシーンとか泣けたなあ〜。二年も会っちゃいけないって、どんな気分でしょうね。苦労しますけど、でも「オレも頑張ろう!」という気にさせてくれる映画。二年や三年がなんだチキショー!

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