始皇帝復活!
『ハムナプトラ3』
夢の初競演!
『ドラゴン・キングダム』
完全な別人。
最後のマーシャルアーツ映画。
べッソン・プロデュース第二弾。
『ダニー・ザ・ドッグ』
いやあどうもどうも、このコーナーも久々の更新となりました。いやね、新作が公開されないんだから仕方がないじゃないですか。そう、昨年はとうとう一本の公開作もないまま、この『ダニー・ザ・ドッグ』の小出しになった情報だけを噛み締めていたんですねえ。その間に、かのスマトラ沖地震でジェット一時行方不明なんていう、とんでもないニュースもありました。幸い『HERO』生還となりまして、しかし一つ間違えば、この映画が遺作になっていたのだなあ、と改めて考えれば物凄く怖い事態であったのです。
さて、今作のジェット・リーは幼少の頃から闘うことだけを教え込まれ、犬として育てられた男。これって、口減らしに体育学校に売り飛ばされ武術だけを教えられた彼の幼少期とかぶって見えるんですが……。その男が、盲目のピアニスト、モーガン・フリーマンとの出会いにより、人間性に目覚めて行く、というお話。とりあえずモーガン・フリーマンが出ているのに仰天。ジェットと並んでると……うーむ、何もかもが異質だ。しかし、話が進むにつれてこれが何とも自然に見えて来る。モーガンの横に立つジェット・リーの小さいことと言ったらどうだ! ボブ・ホスキンスと並ぶとちょうどいいのですが。
今作のジェットの演技は、まさに新境地。相手が死ぬまで殴り続ける凶暴な狂犬と、飼い主に怯える飼い犬の表情。そして、徐々に失った物を取り戻して行く少年の眼差し……。うーむ、心に滲みます。ジェットにしか出来ない演技……と言うよりは、40歳になってまだこんなキャラクターやれるのはジェットしかいない、と言う方が正確でありましょうか。監督のルイ・レテリエは『トランスポーター』でも、汚いチンピラ役ばかりだったジェイソン・ステイサムをスマートな運び屋に生まれ変わらせています。新境地請負人とでも呼びましょう。
今作のファイトシーンは、ジェットがカンフーの達人では無く、動物的な我流のファイトスタイルのため、直線的で獣をイメージした動き。華麗さはなく、ただ速さと力で相手を倒す。相手が死ぬまでひたすら狂ったように殴り続けるジェットの姿に、迷作『ファイナルファイター鉄拳英雄』のブチギレ演技も、決して無駄ではなかったんだなあ、と感無量です。
人殺しを教えてくれた「父」ボブ・ホスキンスと、ピアノと料理を教えてくれた「父」モーガン・フリーマン、この二人の父親像の対比の中で成長して行く主人公ダニー。中盤一切のアクションが消失し、人間模様がひたすら描かれ続けた時には、主役がジェットであることを忘れそうになりました。ここらへんのドラマ性が非常にうまく描かれていて、役者ジェットが初めて役になり切ったのだと感動しました。画面を横切るだけで発生するモーガン・フリーマンの絶大なる安心感と、ボブ・ホスキンスの小人物であるはずのキャラクターが時折放つ巨大な包容力が、さらにドラマを盛り上げます。
終盤は凄絶アクションも盛り返し、大激闘。ライバル的キャラクターが出て来ないのはちょっと物足りないですが、これは家族のドラマであってジェット先生のオレ様映画ではないので……。幾度も車の事故に合うのに何度でも甦って来るボブ・ホスキンスの執念と歪んだ愛に飲み込まれそうになるジェット=ダニーは、ついに自らを縛めていた首輪に決別! 怒りの鉄拳がホスキンスを粉砕と思いきや……衝撃! なんと、最後においしいところを持って行ってしまったのは、アカデミー賞俳優モーガン・フリーマンだった……。さしものジェット先生も、大スターのオレ様精神にいささか押されてしまったか……。
えー、時折入るバカ映画らしいギャグともつかぬギャグも含め、映画としてすごく面白かったのですが、ジェット映画を期待すると、いささか釈然としない気分……。特に最後の植木鉢がなあ……あれもギャグなんだなあ……。演技者として新境地、と書きましたが、近年アメリカナイズされた姿や侘び寂び精神の武術家などを見せ、キャラクター的に新境地を見せて来たジェットが、そっち方面ではむしろ後退してしまったように感じられるのも、なんか釈然としない理由なんでありましょう。かつての「きびきびしたハゲ」「人格の未熟な偉人」に、今作のキャラはむしろ近い……。
とはいえ、なんだかんだ言ってもジェットファンはやはり必見であります。
中国資本の超大作。
『HERO』
何かと情報が先行する中での、ワタクシの2003年最大の注目作であった『HERO』、ついに公開の運びとなりました。思えば初めてこの映画の情報をキャッチしたのは一年以上前。チャン・イーモウ監督で、主演はジェット・リー、他、トニー・レオンやマギー・チャン、ドニー・イェンなど香港のオールスターキャストで贈る……正直言って、単なるガセネタとしか思ってませんでした。ジェット・リーとドニー・イェンが『ワンチャイ 天地大乱』以来の夢の再戦……夢はいつまでも夢に過ぎないから夢なのであって、決してかなうものではない、と無力な凡人らしい発想で、有り得ないと断じてしまったのです。
しかし、この夢の企画を実現させんと、並々ならぬ情熱を燃やしていた人間がいた。無論それはジェット・リーであり、チャン・イーモウであり、多くの中国、香港の映画人であり……。
取りあえず、予告編を初めて観た時のワクワク感はすごかった。秦王を狙う三人の刺客を倒した、と告げる無名の剣士に対し、驚いた彼はこう叫ぶ。
「三千人の兵を以ってしても倒せなかったあの三人を、たった一人でか!」
……さんぜんにんが……え〜……さんにんを……ひとりで……? これですよ。これなんですよ。僕が映画に求めているものとは。つまらない凡人に過ぎない僕に、いつも勇気をくれるもの。凡人の発想では出て来ない、もう強引としか言えないスケール感。
大規模なセットとCGで再現された、始皇帝の宮殿。無数の軍勢、飛び交う矢、その最中で繰り広げられる超人たちの激闘と、交わされる言葉、触れあう魂、全てにおいて充実した作品。中身のつまったいい感じの映画が、日本でも大規模チェーンで堂々の公開。直前に大ヒットを記録した『マトリックス・リローデッド』の冒頭に予告がついていたせいもあってか、想像以上の大ヒット。私も職場にて、予告編の編集を担当しておりますので職権を濫用して、全ての大作にこの予告編をつけてつけてつけまくりました。『ターミネーター3』『パイレーツ・オブ・カリビアン』、これはもう宣伝効果絶大、前売券が飛ぶように売れ、初日は満を持して立ち見! ジェット・リー好きのI課長と、思わずガッツポーズ! 『ロミオ・マスト・ダイ』と『キス・オブ・ザ・ドラゴン』が我が職場で全然ヒットしなかったこともあり、どれだけ宣伝してどれだけ前売りが売れどれだけ評判が良くとも、ドニー・イェンの出てる映画が満員御礼になることなど想像も出来なかったのですが、予想はいい意味で裏切られ、万歳! ちまちまとDVDで観ていたドニー・イェンのポスターが職場に貼ってある……非日常的というか……ありえねえ!
さて開始10分、いきなりジェットVSドニー。贅沢な映画だなあ……普通これがクライマックスですよ。七剣士を一瞬で蹴散らすドニーのあまりの強さに愕然。ここで繰り出す技が、他作品でもお馴染みの空中二段蹴りを含め、まさに必殺技のオンパレード。メインウエポンは槍という事であまり見慣れませんが、速い上に重い凄まじい手練が伝わって来る画面作りが素晴らしい。そしてそのドニーを恐るべきスピードで追い込むジェット先生。ジェットの突きを躱したドニーはその剣の速さに目をみはり、ついに今まで槍の穂先を被っていた鞘を落とす……! ここからの大激闘はなぜか二人の「イメージの世界」で繰り広げられるわけですが、もうここだけ100回繰り返して観られる、まさに神速VS音速。ベストバウトの一つになったことは疑いないでしょう。
『グリーン・デスティニー』以来、アクションづいているチャン・ツィイーが、トニー・レオンの侍女役で登場。侍女だからないかなあ……と思ってたらやっぱりチャンバラ。それも二刀流。役柄としては序盤の性格最悪キャラがもっとも素に近いのではないか……と思ってましたが、メイキング映像のあまりの可愛さに、ついついグラグラきてしまった私でした。
香港映画ではお馴染みのトニー・レオンとマギー・チャン。ジャッキー・チェン映画のファンとしては、『ゴージャス』のゲイと、『ポリス・ストーリー 香港国際警察』で階段から転げ落ちたりその他色々大変な目にあわされる女、というイメージがつい先行してしまうのですが、まあバカな映画のバカな役も平気でこなせる演技力がないと、このような大役はつとまるまいなあ。
天下国家のことなど考えた事のない利己的な人間としましては、主人公はああいう結末を迎えんでもいいんじゃあないかとは、ちょっと思ってしまいました。まあネタバレになるので詳しくは書きませんが、しかし生きる意味でもあった復讐という行為を、ああいう形で失った者としては、当然の帰結であったのかもしれません。
しかしジェット・リーがこんな映画に出るようになるとはなあ……。ついに彼も大人になってしまったんですかね……。素晴らしかったですが、こちらの路線は継続しつつも、大人げないキャラも忘れないで欲しいなあ、と思う私でした。
次回作は、『トランスポーター』の監督が撮るべッソン・プロデュース第二弾らしいっすよ。これにも超期待! では。
ハリウッド主演第三作。
『ブラック・ダイヤモンド』
さて最新作は『英雄 HERO』になるかと思いきや、その前に公開されたのがこれ。『ロミオ・マスト・ダイ』のスタッフが再結集と宣伝されているので、これはまた『ワンチャイ』ほどではないが、明らかに空を飛んでるあのアクションが観られるのかと思いきや、武術指導はディオン・ラムではなくコーリー・ユエン! 全然再結集してねえじゃねえか! 武術指導が変わればアクションのスタイルも当然変わり、こんなジェットのアクションを見せるための映画だとそれだけで映画の印象自体が大きく変わるだろうが! 別にコーリー・ユエンのスタイルが嫌いとかそういうわけではないのですが、『キスドラ』『ザ・ワン』となんせ二本続いているので、そろそろ違うタイプのアクションが見たかったのが、正直なところ。
今作は悪役にあのマーク・ダカスコスが登場ということで、ジェットとの宿命の対決を期待! 宿命っつっても別にこの二人の間に何ら因縁はないんですが、アクションスター同士、一回対決してほしいと考えるのは、当然のなりゆきであります。ですが今作は、なんとジェットは友情出演! DMXの主演企画に、それだけではイマイチインパクトがないから、『ロミオ』つながりでジェット先生にも出演してもらった……てな程度だそうで……。
一応、作中ではダカスコスとの因縁も語られます……台詞で。なんか盛り上がらんままに始まってしまう頂上決戦! ずーっとポケットに突っ込まれていたジェット先生の右手が、この時初めて火を噴く!のですが、これも別に演出されてないので、気付かなかった人も多いでしょう。ダカスコス、相変わらず足技のキレは凄いんですが、間に他の闘いが挿入されるせいか、やっぱり盛り上がらない。もったいない、もったいない。
というわけで、別に面白くもつまらなくもない作品。では次回こそ、『英雄』鑑賞メモで……。
ハリウッド主演第二作。
『ザ・ワン』
2002年6月2日(日)。その日の午後三時頃、土日に用意された仕事をあらかた終え、例によって茫漠としていたオレの側に、上司のI課長が歩み寄ってきた。この人物は職業によって得た特権を最大限に駆使して年間300本の映画を観る映画好きで、また輸入版DVDやVCDを買い漁る重度の香港映画マニアでもある(こんな穏当な表現は、本来この人物には相応しくないのだが、たまにこのサイトも見ているようなので、この程度にとどめておく)。
「村田君、『ザ・ワン』観た?」
「いえ、まだです。今日、仕事が退けてから見に行こうかと思うんですが」
I課長はオレの斜向いの椅子に座ると、おもむろにメモ用紙とペンを取り出した。
「俺な、昨日観てきたんや」
そういいながら、彼は手元のメモに、1、2、3、と数字を書き付けた。何のつもりかと思っていたら、彼はこう続けた。
1.VSドニー・イェン(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱』)
2.VSビリー・チョウ(『フィスト・オブ・レジェンド』)
3.VSジェット・リー(『ザ・ワン』)
「これはすごい! アクションはほんまにベスト3には入るで! それと詳しくは言わへんけどラストにすごい事が起きるんや。ヨミ宇宙とかゆうとこへ行ってやな……」
全てを書くと長くなりすぎるので省略するが、要は『ザ・ワン』はすごい、とそういうことであるらしい。前作『キス・オブ・ザ・ドラゴン』はオレ的にはエモーショナルな高まりなどにおいてかなり好みな作品であったのだが、格闘シーンの創意という点では、やはり過去の作品に一歩を譲る面があったように思う。上記でI課長は『ザ・ワン』の格闘アクションを全ジェット・リー作品(この人物は当然のように全作観ているのだ)の中で第三位に挙げている。なんだ、たかが三位か、と思われる方がおられたら、きっと貴方は上位二作を御覧になっていないのであろう。必殺の布棍による変幻自在の攻撃を繰り出すドニー・イェンに、電光石火の無影脚で反撃する黄飛鴻の勇姿を。ジェットに倍する巨体からとてつもない速度と切れ味を持つ連続蹴りを叩きつけてくるビリー・チョウと、それに一歩も引かずに真っ向からぶつかりあった陳眞の怒りの鉄拳を。もはやこの二作はジェット・リーの一連の主演作品の枠にとどまらない、カンフー映画全ての中でもその完成度において群を抜いており、ファンの間では伝説となっている。
その二作に匹敵するファイトとは、一体いかなるものか? 正直オレはあまり本気にせずに劇場に向かったのである。
地元大阪難波、敷島シネポップ。上映二日目だというのに、ガラ空きであった。少々の失望と共に座席に座ったオレ。
さて今作のジェットは、アメリカの刑事という設定です。中国系アメリカ人ということになっているのでしょう……画期的です。毛唐の浅い中国観を浮き彫りにしたような、チャイナ服を着てうろうろするような、そんな歩くカルチャーギャップは画面上にはいませんでした。北京から来たお上りさんはそこにはいませんでした。今作をもってジェット・リーはハリウッド、ひいてはアメリカに認知されたと言っても過言ではないでしょう。
全能の存在「ザ・ワン」になろうとする悪のジェットと、それを阻止しようとする善のジェット。同じ人間の表裏である二人のジェットのパーソナリティの違いは、単に演技だけではなく両者の武術にも表現されています。映画も中盤に差し掛かろうとするころ、二人のジェットはお互いを倒すべく、さらに自らの技を磨きます。人気のないところでそれぞれの武技の演舞を見せる二人。悪のユーロウは直線的で破壊力に優れた刑意拳。善のゲイブは円を描く変幻自在の八卦掌。このシーンはまさに私の度胆を抜きました。『フィスト・オブ・レジェンド』でもわずかな時間見せていましたが、もともとリー・リンチェイと言えば演舞が本領の人。それを今作では二つの違う流派で見せるのです。世界最高峰、本物の凄みがそこにあります。
125人の自分全てを倒せば最強の存在になれる、という設定の下に進行するストーリー。正直、この漫画のような設定が上手く機能しているとは言いがたい。ですが、ジェット以外のキャラも同一人物が登場したりとちょっとしたお遊びもあり、うまくキャラクターは描かれています。脚本にはもう少しひねる余地があったと思いますし、ジェットの演技がもう一つハイレベルだったらば、きっともっと面白くなったことでしょう。ですが、最低限のポイントはきっちり押さえられています。
超スローモーションの中で動き回る悪のジェット、白バイ警官を蹴り飛ばし銃弾をやすやすとかわし、また白バイそのものをつかんで凶器攻撃! そんなCG全開のアクションも満載。また『ハイリスク』以来、久々に拳銃を使ったガンアクションも見せます。正直いってジェットに拳銃を持たせると……強すぎる……。一発撃たれてもよける男が、その一発を撃たれる前に相手を撃ち殺してしまうんですな。反応速度が半端じゃないので。
そしてついに最後の激突の時を迎え……。ショートレンジからのスピードでは悪のジェットがやや勝り、善のジェットに容赦のない攻撃が叩き込まれる! 他作品でもこういった打撃は見せていましたが、今作はスピードと破壊力に全てを集約した線の動きに特化し、すごい迫力です。が、それを封じ込めるべく、ついに善ジェットも本領発揮! 演舞そのままの流麗な手付きから、線の攻撃を流し、反らし、反転して遠心力を利した攻撃を放つ! まさにいつもより余計に回っているとでも言うべき、円の動きに特化した技は、その瞬間どっかの平行宇宙に飛んで行ってしまったようなこの世のものならぬ美しさ。もう僕は座席で涙が止まりません!
三大ファイトの名にふさわしい(疑ってすいません、課長)、素晴らしい戦いでした。ラストは善ジェットには『タイムコップ』ばりの強引なオチ。そして悪のジェットには……なんじゃこりゃあ! 『マッドマックス』とかのような悪役の大群が……いや、まあこれ以上いいますまい。続きはDVDで確認して下さい。
というわけで、ジェットの武術の奥の深さが見られて大満足の私でした。この八卦掌スタイルは、ぜひまたどこかでやって欲しいですね。できればドニー・イェンのマッハクンフーと対決して欲しい……。
リュック・ベッソンプロデュース作品
『キス・オブ・ザ・ドラゴン』
さて、下記『RMD』評では、私、かなり褒めちぎっておりますが、当時はせっかくのハリウッド進出なんだしということで多分にお祭り気分、けなすのももったいない、というテンション。後にDVDを買ってなめるように観賞してみると、う〜ん、ジェット作品としては多分に物足りない出来です。今や私が指摘するまでもないのでしょうが、香港時代と比べるとまさに激減したアクションの量、その結果無用に長々と余計な展開を続けるストーリー、中国人マフィアと黒人マフィアの対立といったテーマ性、やっぱりちょっと浮いてしまっているリンチェイのキャラなど、不満点は多々あり。しかしあまり期待しすぎてもオレの期待するド熱い作品は、アメリカ野郎どものセンスでは作れんのだろうなあ、と半ば諦め気分で海外進出第二作を待っていたのです。
『マトリックス』シリーズへの出演も断ったようだし、さてさていったい次回作はいつになったら公開されるのか……と思っていたところ、職場のボスが試写状をくれたので、行ってきました『KOD』試写会。会場は大阪梅田三番街シネマ。例によって一時間も前に到着し、行列の10番目ぐらいに並んで会場を待つ気の早い私。予備知識をほとんど持たずに行ったので、ブリジット・フォンダやチェッキー・カリョが共演していることなどもよく知らず、会場前のポスターを見て初めて知る始末。さて、ポスターの絵柄はブリジット・フォンダを横抱きにしたジェット、キャッチコピーは「この闘いに愛などいらない……」……う〜む、かっこいいじゃないか。なんせベッソンプロデュースですから、『ニキータ』より強く『レオン』より切ない、なんて大風呂敷広げた惹き文句なども書いてありまして、微妙に期待が高まります。しかしまあ『RMD』のケースもあったことだし、あまり期待しすぎるとバカを見るぞ……と自分を戒めます。
開場後、やや前列よりのど真ん中の席を確保、上映中に余計な雑念を入れないために小用を二度も足しに行き、準備は万端。文庫本を広げて上映を待つ私。入場時にもらったプレスシートを見ていると、「ワイヤー・アクションやCGの使用を避け、リーが94年に出演した『フィスト・オブ・レジェンド−怒りの鉄拳』で見せたストリート・ファイトに近い、よりリアルなアクションを追求した」などと書いてあるではありませんか。『フィスト・オブ・レジェンド』と言えば、間違いなくジェット最高傑作の一つでしょう。あのワイヤレス・クンフ−がまた観られるのか……とまたも期待が高まる私。
さてさて、とうとう上映開始! 司会の人の前口上はほっといて、さっそく本編行きましょう! 冒頭はフランス警察の悪徳警部チェッキー・カリョ(ぴったしの役だね、これ)によってマフィア殺しの濡れ衣を着せられるジェットから始まります。麻薬取引にも絡んでて大人数でジェットを追い回すフランス警察、いったいどんな悪徳集団やねん、と思いますが、まずはホテルの中を逃げ回るジェット。民間人がいる事など一切お構い無しにマシンガンを乱射する刑事たちを得意のクンフーでなぎ倒す……おお、ほんとにワイヤー使ってませんよ。ちょっと編集で切り過ぎかなあ、と思いましたが、厨房の小道具を使って大暴れするリンチェイやいともあっさりと銃弾を避けるリンチェイなど、なかなか楽しめます。最初の麻薬取引の現場を押さえようとする捜査シーンなどはいかにもMTVっぽい演出でかなり不安になりましたが、格闘シーンはそれほどでもなくまずまずいい感じです。
しかしこの冒頭が終わった時点では不安要素がたっぷり。麻薬問題、売春婦問題、中国とフランスの外交上の問題、悪徳警官など、『RMD』で余計な展開を生む一方だった社会的テーマが大量に盛り込まれてそうな塩梅ではないですか。また同じ愚を繰り返すのか……?
ところがこれは一切杞憂でした。ここらへんが全くと言っていいほど、話に絡んで来ないのです。いや、正確に言うと絡みかける気配はあるのですが、ジェットに協力する外交官がチェッキー一味に殺された瞬間、もう中国とフランスの関係の悪化などを心配するお話は、全て画面上から消え去ります。同じようにブリジット・フォンダが売春婦をやってる事なども話の根幹に絡んでくるのかと思いきや、何かとプッツンしやすいジェット先生がポン引きをどつき倒した瞬間、全て解決! 登場人物が消え去る度に余計なテーマ性は消失し、ストーリー展開はどんどんとスリム化、単純化していきます。
しかしこの映画、どこまでいってもリンチェイが出ずっぱり。これはファンにはたまらんです。気になる彼のキャラクターですが、なかなか斬新です。黒づくめのスタイルで身を包んだ中国人の秘密捜査官、クールかつストイックながらその結果として女を口説けないシャイな人、銃器を一切必要としない武術の達人にしてその結果としてすぐに拳に訴えるキレやすい人……すいません、全然斬新じゃありませんでしたね。いつもと一緒でした。『ターゲット・ブルー』の主人公そのままという感じの役柄ですが、こういう役柄が一番似合うのもまた事実! 原案はリンチェイですから当然かも知れませんが、このキャラクターを過不足なく描き切った脚本家は、わかってますね。やっぱりベッソンは偉いんだろうか。
香港映画特有のベタなギャグがないので、展開がまたやたらと早く、緊迫感もかなり持続します。アクションの量も『RMD』より遥かに多く、意味もなく武術の達人が登場するなど、けっこう無茶な展開が多いとこが笑えます。悪徳警部チェッキー・カリョの下にあんだけ強いのが揃ってたら、そりゃやりたい放題の悪徳組織にもなるわな……。また、リンチェイが「子供は観ないで下さい」と言ってたそうですが、残酷なシーンが多いのも要注目。爆発で上半身が吹っ飛ぶ刑事や、お箸をのど笛に突き刺されて死ぬ刑事など、私好みでした。
なんせ女を口説けない人ですから恋愛ものにもならんし、ストイックっていいなあと思いながら、どんどん映画に引き込まれて行きます。アメリカでは浮いてたジェットも、パリでは意外とはまってる……? これはパリ云々というより、映画の世界観自体にはまってるということなのでしょう。これも演出の勝利か。
ラスト、人質に取られたブリジット・フォンダの娘を救うべく、最後の対決に臨むジェット。チェッキー・カリョは警察署の上階に潜んでいるので、これをどうにかして誘き出すのか、あるいは出てくるのを待つのか……と思いきや、こんな凡人の浅はかな発想を裏切って素手で正面玄関から乗り込んでいくジェット! つ、つええ……強すぎる……。「愛などいらない……」とか言いつつ、やっぱり『ニキータ』も『レオン』も生きる目的を見出せなかった奴が最後は愛のために闘う話だったんですよね。
フィニッシュも綺麗すぎるほど綺麗に決まり、上映時間は1時間38分。今年一番感動してしまいましたね。リー・リンチェイの作品として最高傑作を生み出そう、という観点からは不完全ですが、一本のアクション映画としてここまでまとまった作品も、なかなかないでしょう。ジェットファンもそうでない人も、2001年、必見です。帰りの電車の中で思い出し笑いが止まりませんでしたよ。さ〜て、公開したらもう一回観に行って、DVDも買おうかな。
ハリウッド初主演作品
『ロミオ・マスト・ダイ』
いやいやいや、とうとうやってきましたね、あの雪辱を果たす日が。なんの雪辱って、もちろん『リーサル・ウエポン4』です。リンチェイがハリウッドに初登場した記念すべき作品、チャイナタウンを中国服来てうろうろするベタベタなイメージを背負わされた作品、ホームドラマ化したロートルの元最終兵器メル・ギブソンになぜか敗北してしまった作品。クリス・ロックのお笑い以外、何もかも納得のいかない作品でしたね。
しかしそんな作品でもリンチェイは強かった! カンフーの使い手である部下をいとも容易く瞬殺する本家のテクニック、メル・ギブソン、ダニー・グローバー、ついでにレネ・ルッソを蹴りまくり、素手でメルのベレッタを粉砕する余裕、決まるところではほんとに決まってました(だからこそ最後の敗北は余計に納得がいかんのですが……)。
あれ以来、数々のリー・リンチェイ、ジェット・リー主演作に触れ、その凄さに感動し続けて来た私ですが、あの敗北はずっと胸の奥にしこりとなって残っていました。ですが、それも今や淡雪のように溶けさりました。過去を払拭するべく、完全無欠のヒーロー「ジェット・リー」が全米大ヒット、チョウ・ユンファを超えるギャラと衝撃のXrayバイオレンスを引っさげて、ハリウッドに帰ってきたのですから。
というわけで観て参りましたよ(2000年5月21日)『ロミオ・マスト・ダイ』。いや〜良かったですね。
マフィアの中国人組織と黒人組織の対立するアメリカで、中国人組織の跡取り息子が何者かに惨殺される。犯人は黒人組織の構成員か? 殺された跡取り息子の兄であり、家族の罪を被って香港で服役していた元刑事ハン(ジェット・リー)の下にも、弟の死の知らせが届く。
さて、弟の死を聞かされたジェット・リー、いきなり脱獄します。わざと食堂で騒ぎを起こして懲罰房につれていかれ、看守が大勢集まって天井から吊るされ、いざ折檻……というところで大反撃開始! ぶら下がったままあっと言う間に看守を全滅! 警備員の服を剥いで、正面入り口から堂々と脱走! 5分ぐらいでしたね。本当にいとも容易く脱獄するので、まず驚き。看守の弱さ、警備の甘さは我が『シャトー・ディフ』に匹敵しますが(こらこら)、取りあえず弟を失ったショックで怒りに燃えるリンチェイを観られただけで、もう完全につかみはオッケーなんです。
出だしのジェットは、なんとなく香港時代によくやってたストイックなキャラクターを想起させるのですが、アメリカにやってきてヒロインのアリーヤと出会った途端、やけにノリが軽くなります。英語をペラペラとしゃべるジェット! タクシーを盗みアイスクリームを食いダンスも踊り、もうノリノリです。
その合間にも、黒人のチンピラ相手にカンフーを披露。無影脚、ベルト殺法などどっかで観たような(笑)必殺技の数々をちょこちょこと見せてくれました。相手が弱いのでここまで「技」出さんでもええやんとも思いますが、ま、この映画はアメリカの人たちに向けたリー・リンチェイ入門映画なんですから、よしとしましょう。
黒人組織のボスの娘であるアリーヤとともに、徐々に弟の死の隠された真相に近付いていくジェット。二人を襲う女殺し屋が登場……ってフランソワーズ・イップやないですか! 『ブラック・マスク』を観てる人は思わず「教官……!」とアフレコしてしまう事間違いなしですね。驚きました。出番は少なかったですが、イップさん、次回作では活躍してください。
ところどころに、例のXrayバイオレンスが入ります……がこれ、なんか意味あるの? まるでX線写真のような蹴りの衝撃で破壊される体内の骨格の映像が映し出されるのですが、折れた骨が飛び出るとかそういう描写を直接やったほうが迫力あるのでは……。しかし、その事を前日に観た私の母上に言ったところ、「いや、あれは『必殺仕置人』やろ」。そうかそうか、あれは「念仏の鉄」だったのですね。必殺レントゲン写真頚椎折りだったのか。
そうこう言ってる内に最後の対決に突入! カンフーの使い手を相手にして、ジェット先生苦戦! やはりカンフー同士の戦いだと、画面も締まりスピードもアップ! 好い事ずくめですね。悪役の蹴り飛ばした鉄板を素手で受けざるをえなくなり、ジェット大火傷! 焼けただれた両手を踏み付けられ、ピーンチ! 吹っ飛ばされて柵を突き破って画面外へ……ああ〜どうなるんだリンチェイ……!
しかし弟の復讐に燃えるアジア最強の人間兵器は、そうそう屈したりはしません。ついにキレたジェット、さっきまでとは明らかに違う鬼気を立ち上らせながら復活……! 小柄な身体と地味なお顔から、溢れんばかりのヒロイズムが放射されます! 僕もスクリーンに向けて雄叫びをあげてます! 予告編でもありましたが、空中で一回転して拳を繰り出すシーンを観た時、「南派少林十字拳!」と叫んだのは、決して私だけではないはずです!
1時間55分に及ぶ戦いを終えて、ホッと一息。全体の印象としては、ジャッキー・チェンのハリウッドデビュー作『ラッシュ・アワー』を観た時と同じ物足りなさが残りました。ちゃんとリンチェイの過去の作品を観て好きな人が作ってるらしいのは好感が持てましたが、まだまだもっと凄いことが出来るはず。
アクションシーンを短かめにして、ストーリーを練りこんでモチベーションを高めようというのは、別に方向性の一つとして間違ってはいないと思いますが、殺される弟のキャラクターがいまいち同情を誘わなかったのがもったいなかったですね。ほんとはいい奴だったんだけど兄ちゃんと引き離されてぐれてしまった、というのがきっちり描かれてたらもっと盛り上がったんですが。あとはフットボールがちょいと余計……かな……アメ公のスポーツをやんないとアメリカ人には受け入れられないのか……次回作では白人もしばき倒してほしいですね。
とはいえ相変わらず笑顔の可愛いリンチェイを観られただけで、もう大満足。銃を使わずに通したのもよかったですね。消火ホースを使ったアクションも、それなりに楽しみました。本場香港の作品にはやはり迫力で及びませんが、とりあえずハリウッド主演デビューということで、合格点をあげたいと思います。御覧になった皆様はいかがでしたか?
所長のお気に入り♪
『ブラック・マスク(黒侠)』
さて、『ブラック・マスク』です。近所の映画館で『ワンチャイアメリカ』と立て続けに公開されたこの映画、なんとなくリー・リンチェイに興味を持ち始めていた頃に観に行ったのですが……凄すぎましたね!
中国軍が最強の特殊部隊として、密かに育成していた「701部隊」。神経手術によって全ての痛覚を排除された彼等の戦闘能力はまさに常識を超え、無敵の超人部隊として完成されつつあった。だが、あまりに突出しすぎたその能力を恐れた軍上層部は、彼等の廃棄処分を決定する。
「隊長」「将軍」と並んで部隊のリーダー格の一人だった「教官」(ジェット・リー)は、仲間を守るために単身おとりとなり、軍隊に挑む。重火器と特殊兵器で武装した軍の包囲網を撃ち破り、脱出に成功する「教官」。しかし、本当の闘いはここから始まる。
数年後……香港中の麻薬組織が、謎の集団によって次々と壊滅させられる。その残酷無比な手口と、悪魔のごとき正確さに、図書館員に身をやつしていたリンチェイは、離ればなれとなっていた同胞「701部隊」の存在を感じ取る。友人となっていた香港警察の腕利き刑事(ラウ・チンワン)から情報を得た彼は、漆黒の仮面の戦士「ブラックマスク(黒侠)」となり、かつての仲間の愚行を止めるために、麻薬組織の取り引き現場に乗り込む。だが、「701部隊」は世界制覇をもくろむ地上最強の暗殺集団と化していた……人の誇りと尊厳をかけた、超人戦。その果てにあるものは……。
さて、『ワンチャイ』シリーズ以降に確立された、リー・リンチェイの溢れんばかりのヒロイズムが、この作品でもいかんなく発揮されています。ブラック・マスクにならない時の彼は、ごくごく平凡な図書館職員。趣味は読書、ギャンブルは一切やらず、たまにする遊びといえば刑事ラウ・チンワンとさす将棋のみ。ついた渾名はマジメ君……。この人、お顔が地味なので、ニコニコしてるとほんとにそんな人に見えます。
トイレに入っていた図書館員ジェット、チンピラに絡まれます。人にあげてしまって金を全然持っていないジェット、隅っこにつれていかれピンチ! 用を足し終わって出て来た腕自慢のラウ・チンワンに助けられて事なきをえますが、それまでまったく無抵抗。ええんかいな、これで……。そう思った時、ポケベルが鳴り、チンワン刑事、お仕事のために出て行ってしまいます。それを見て立ち上がり背後から襲いかかるチンピラ! やばい! 図書館員またもピンチ! だがその時振り返った男は、まったくの別人と化していました。瞬殺……。わずか二発の拳と蹴りで便所の床に這いつくばるチンピラ。
いや〜、いいですねえ。能ある鷹はなんとやらと申しますが、隠された実力を発揮する瞬間というのも、ブラック・マスクの仮面以上に、私の変身願望を刺激するのです。
しかしこの映画、見どころが多すぎます。痛覚を排除した最強戦士同士の対決ということで、普通に殴っただけじゃ決着がつかんことを表現するために、骨を叩きおり身体を串刺しにし、挙げ句の果てに爆破という、問答無用のセメントバトルが展開されます。得意のワイヤー・ワークで宙を駆けるブラック・マスク。強すぎます「教官」。
ブラック・マスクの難敵として立ちはだかるのが、「701部隊」時代の教え子、ユーラン(フランソワーズ・イップ)。最初は娼婦役かと思いきや、ジェットとは違った意味でアジア最凶の人間兵器と呼ばれているアンソニー・ウォンをSMプレイ中に惨殺! 駆け付けたブラック・マスクと対決します。お互い気付かぬままに、全く同じ形の技を応酬しあう二人。目と目が合い……「教官!?」。ああ、悲しき師弟対決!
そして警察官として図書館員ジェットを疑いつつも、独自に犯人グループを追う刑事ラウ・チンワンとも、対決を余儀無くされます。教え子への情を捨てきれず、ユーランを逃がすリンチェイ。仲間を殉職させたチンワンは、正体を明かした彼に漢の誇りを賭けて勝負を挑みます。人気のない墓地でぶつかり合う魂の拳! 無意味とわかっていながらも決着をつけずにはいられない二人の姿に、胸が熱くなります。これは、愛だね。どうでもいいのですが、THE BOOMというバンドのボーカルやってる宮沢和史という人がこのラウ・チンワンに似ていると思うのですが、こんな事言ってるのは私だけなんでしょうか?
麻薬組織を乗っ取る事に成功した「701部隊」のリーダー「隊長」。長髪でメガネで全然強そうに見えないちょっと武田鉄矢を連想させる、この悪の権化。ついに最後の対決の時がおとずれます。
「教官よ、おまえは愚かな豚に成り下がりおった」
「人の命を虫けら同然に……。貴様に生きている資格はない」
仮面を脱ぎ捨てたジェット、高圧電線、ガス室、時限爆弾、そして16cmと8cmのCD……。いや、必見の対決ですよ。
まあ他にもカレン・モクとか出てますし、どんぶり飯を食うブラック・マスクなど、ヒロイズム以外のとこも楽しめます。
DVDにもなっている本作、私がリンチェイにはまった一本です。未見の方はぜひ御覧になって下さいませ。