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 黄龍の全力を宿したままの、右手を奴に向かって振り下ろした。
 袈裟懸けに。
 肩から腹部に向かって、ざっくりと。
 悲鳴はなかった。
 力が強すぎたのだろう。
 村雨の身体は、俺の手の動きにならって、簡単に切れた。
 上半身がずるっと動いて数秒。
 ごとりと床に落ちる。
 血が、噴水のように噴出した。
 強い力の癒し手でも、どこまでの治癒が可能だろう。
 「まぁ、このまま絶命するまで俺が見届けるから、んなの関係ないけどな」
 そんな瀕死の奴を見下ろせば、眼球が何かを探して動いている。
 それが、紅葉を探しているのだと気がついて俺は舌打ちをした。
 目線の先には、紅葉が既に意識を失って横たわっている。
 残念な事に村雨の死の瞬間は、見れなかったようだ。
 『……った』
 奴の最後の声が聞こえた気がしたが、村雨の唇がそんな風に動いて見えただけだった。
 良かった、と。
 村雨は言いたかったようだ。
 俺の八つ当たりとは言え、紅葉が原因で死に至る事になって。
 無様に殺される様を、紅葉に見られなくて良かった、と。
 目を見開いたままの死に顔は、しかし穏やかだった。
 「ったく、どいつもこいつも!」
 蹴り飛ばした下半身からは、夥しい鮮血が新たに流れ出始める。
 死んでしまったというのに、凄まじい話だ。
 俺は、村雨の上半身を引き寄せて、その首を手刀で切り取った。
 こちらからも、まだ大量の血が噴出して、顔面が血だらけになってしまう。
 「さて……シャワーが先か?」
 仁王立ち、ふぅと溜め息をつきながら、意識をなくしても痛みに呻く紅葉を見やる。
 「や。紅葉の治癒が先だな」
 俺は、自分の性器を握り締めて幾度か擦り、すぐに挿入できる状態にして膝をつき、紅葉の
太股を抱えあげた。
 どんな狂気の沙汰だと思われても、これが俺にとって一番確実で反動の少ない治癒方法
なのだ。
 挿入をすれば、まだ間をおいていないせいか紅葉の中は、意識がなくともとろとろに蕩けて
いて、思わず笑みも浮かぶ。
 俺は、紅葉の目が二番目に捕らえるのが、村雨の生首であるように。
位置を丁寧に調節しながら、本格的に腰を降り始めた。

 「龍麻……お願いが、あるんだけど。いいかな?」

 俺に揺さぶられて目を覚ました紅葉は、村雨の今だ血が乾かぬ生首を見て、絶叫を上げた。
 あああああああああああああああああああああ!
 狂ったように叫んで、必死に村雨の生首に指を伸ばして。
 その指先を俺の指に絡め取られて、幾度も首を振って泣きじゃくりながら、村雨の名前を呼
んだ。
 自分以外の名前を呼ぶ唇が許せなくて、舌を絡めるディープキスを重ねて、内蔵を抉るような
突き上げを続けること、三十分強。
 紅葉が、ぽつんと、呟いた。

 「村雨を生き返らせろとか言うんじゃなければ、いいぜ。言ってみろよ」
 顎をねろりと舐め上げれば甘い血の味がする。
 他の奴の血なんて、臭いを嗅いだだけでも吐き気しかしないが、紅葉の血は何時でも舌に
甘い。
 「指輪を、買ってくれないかな?」
 「……指輪? 別に構わないぜ……って、前にもこんな会話したよな」
 「そう、かな。そう、かもしれないね……」
 「おい、紅葉。大丈夫か? もしかして、まだどこか痛むのか?」
 先程の激情はどこにいったのかと思う穏やかな声音。
 簡単に壊れないはずの紅葉の心に、もしかして亀裂が走ったのかと、その瞳を覗き込み
ながら問う。
 「どこも、痛くないよ。君が、治してくれたから、ね」
 俺が愛して止まない真っ黒い瞳は、闇を映して深い。
 どこまでも吸い込まれそうになって、一度大きく首を振る。
 「そっか。ならいいけど。まだ痛むんなら、言えよ」
 自分で傷をつけておきながら、どの口がと我ながら思う。
 繋がりながら足首を軽く握っても、紅葉は微かな笑みを浮かべたままで表情を崩さない。
 どうやら、本当に痛みは消えているらしい。
 「じゃあ、後片付けしたら行くか」
 「うん。早く、欲しいな。指輪……」
 温柔な眼差しに何故か寒気を覚えて、敢えて酷い言葉を口にする。
 「死体の始末は。あー! どうすっかなぁ」
 「僕がしようか? 鳴滝館長に連絡しても構わないよ」
 しかし、返事は想像もしないものだった。
 「いいのか?」
 「構わないよ。館長なら、よくしてくれる。何しろあの人は龍麻至上主義だものねぇ」
 くすくすと声すら立てて笑われる。
 俺は、足元から沸きあがってきた、何やら訳のわからないおぞましさから、紅葉を守ろうと
己を引き抜いて、きつく。
 紅葉の身体を抱き締めた。
 「……もぅ、終わりにするのかい?」
 「ああ」
 「じゃあ。綺麗にしよう」
 ゆっくりと身体を起こした紅葉は、何の躊躇いもなく俺の股間に顔を埋めて、性器をべろ
べろと舐め始める。
 「おい! 紅葉!」
 何をするんだと、思わず髪の毛を掴んでしまった。
 反射的だったから、かなり痛かったはずなのだ。
 なのに。
 紅葉は不思議そうに、龍麻を見上げる。
 「痛かったかな。僕としてはお掃除フェラのつもりだったんだけど……」
 俺が拝み倒して、もしくは無理やりさせたことなら数えきれないくらいにある。
 だが、自分から率先してやってくれたことなど一度も無かったのだ。
 「いや。痛くはないけどさ……どういう風の吹き回しだ」
 「オネダリ、したからね。ご機嫌伺い、かな……」
 「あーそういう事か」
 わざとらしく大きく頷いて、紅葉の背中を撫ぜる。
 紅葉は、それはそれは丁寧に俺の性器を舐め上げた。
 己の流した血で、真っ赤に濡れた性器を。




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