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 「……だって、今更だろう?」
 ふううっと、大きく息を吐き出した紅葉は、今だ羞恥に眦を赤く染めたままで、冷ややかに
言い切った。
 「僕にとって、男性を受け入れさせられる行為は全て、レイプだ。質問する方がおかしい
  じゃないか。愛し合った同性同士ならいざ知らず」
 「ちょ! 待てよ、紅葉。何で俺を見るんだよ!」
 村雨に返しているはずの言葉なのに、何故か目線が俺に向けられている。
 何時から紅葉は、こんな風に俺を、冷ややかな眼差しで見詰めるようになったというのか。
 「意味はないよ。それとも、龍麻。何か心あたりでもあるのかい?」
 「っつ!」
 「レイプじゃないんだろう? 何時も僕から、オネダリを引きずり出すもんなぁ、龍麻は。もぉ、
  許して。入れて、お願いっつ、てね」
 何て、あざとい。
 これが、紅葉の最後の抵抗だと知っている。
 もぉ、許して。
 お願い、入れて。
 は。
 村雨の首に腕を回しながら、言ったのだ。
 紅葉の壮絶な色気にあてられた村雨は、生唾を飲み込みながらジッパーを引き摺り下ろし
た。
 「紅葉に、突っ込んでいいのは、俺だけだっつったろ!」
 奴の肩をぐいと引けば、バランスを崩した身体が傾ぐ。
 そのまま蒲団の上に倒れて頭を振っている側から紅葉の側に座り、手早くナニを出しながら
紅葉の中に突っ込んだ。
 村雨が解していたお陰だろう。
 久しぶりにスムーズな挿入だ。
 射精を誘われる壮絶な締め付けと、うねりに喉が鳴る。
 まさしく獣だとしか言いようがない。
 ぶるっと全身に走った快楽を堪えてから、差し抜きに入ろうと思ったのだが。
 「村雨さん! 逃げて下さいっつ!」
 鍛え抜かれた紅葉の足が、がっしりと俺の腰を挟み込む。
 中も、ぎゅうっと締め付けられた。
 「紅葉っつ!」
 「早く! 逃げてっつ。 御門さんが出張中なら裏密さんか、劉君を頼って下さい。事情を
  話せば、絶対あの人等は、貴方を守ってくれる」
 「でも、紅葉がっつ!」
 「僕は大丈夫です。どんなに、いたぶられても、殺される事はありませんからっつ!」
 確かに、そうだ。
 俺は紅葉だけは、殺せない。
 紅葉を殺さなければいけない状況になったら、自分を殺した方がましだ。
 最も紅葉一人をこの世に残して置くなんてできやしないから、心中になるんだろうが。
 「お願いです。逃げてっつ。祇孔ぉっつ!」
 「っつ!」

 村雨さん、とは呼ばずに。
 祇孔と、呼んだな?
 如月さん、とは呼ばずに。
 翡翠と、呼んだ風に。

 「駄目だっつ! 龍麻っつ!」
 紅葉の足を引きはがして、村雨に向き直る。
 必死の懇願が背中に届いた。
 その温もりは、限りなくイトオシイけれど。
 「祇孔を殺さないでぇえええ!」
 他の男を呼ぶお前の、願いは。
 叶えてやれないな?

 即座に村雨を殺そうとして、不図、思い至る。
 紅葉に、お仕置きをしなければならない。
 くるんと振り向けば、紅葉が俺に向かって足を振り上げている所だった。
 殺気が半端ではない。
 どうやら俺は絶妙のタイミングで振り向いたらしい。
 村雨を守る為、紅葉は俺を殺すつもりなのだ。
 俺が、生き返ると。
 生き返らせることが出来ると、承知しているからこその暴挙だろうけれど。
 許せない。
 村雨を生かす為に俺を殺すというその、行為が。
 思考が。
 何よりも、激しい情が。
 俺の脳天ですらかち割ることが容易い紅葉の凶器が、真っ直ぐに落ちてくる。
 踵落とし。
 紅葉が得意とする殺戮方法。
 微塵の躊躇いもなく落ちてくる足を、がっきと掴む。
 瞬間的に集中させた黄龍の力をもってすれば、難しいことでもなかった。
 す、す、と掌を移動させて足首を握り締める。
 一番良い位置に着た所で、そのまま。
 骨を、握り砕いた。
 「……あああああああああっつ!」
 獣の叫びを耳に心地良く聞きながら、砕いた足首を高く持ち上げて、紅葉の身体を逆さ釣り
にしてから、反対側の足首を掴む。
 こちらの骨も粉々に砕いてやった。
 例え紅葉が痛みを我慢できたとしても、これならば立ち上がれまい。
 無造作に紅葉の身体を投げ捨てて、お仕置きは完了。
 後で、SEXしながらゆっくりと、黄龍の力を紅葉の体内に流し込み、完璧に骨を復元させれ
ば良い。
 痛みは多少残るが、生活に支障はないだろう。
 まさか、紅葉にこれほど残酷な手を取るとは思わなかったらしい、村雨は、逃げることもせず
その場に立ち尽くしている。
 俺は、紅葉を自らの手で傷付けた痛みをそのまま、村雨にぶつけるつもりで、一歩を踏み
出した。
 と。
 「む、ら、さめ、さ? にげ、て……」
 腕の力だけで、音もなく這いずってきた紅葉が俺の足首を掴んでいる。
 懇親の力を込めて。
 痛みで意識すら朦朧としているだろう状態で。

 長く、長く、紅葉の前。
 弄りに嬲って殺してやろうと思ったけれど。
 我慢ができなかった。

 


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